表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/267

11-6 補償

「こんな年寄りをつかまえてどうしようってんだい!」

聞き覚えのある声だ。

声がする方向へ走る。

やはりあの婆さんだ。この前と同じく、お供は犬だけだ。

またはぐれたのか?

しかし、男4人に囲まれても、怯んだ様子は全く感じられない。

年寄りに乱暴はするまいと高を括っているのか、それとも恐れるまでもない理由があるのか。

足元ではあの時の犬、ネーベルが姿勢を低くして男達を威嚇している。


俺は違和感を持ちながらも男達に近づいた。

「待て待て、その婆さんは俺の知り合いだ、お前ら何も言わずに帰りな」

ガタイの良いリーダーらしき男の鋭い声が響く。

「何だお前は、首を突っ込むんじゃない」

婆さんは俺を見るとニヤリと笑って言った。

「全くだよ。この男はお節介過ぎるんだ、あまりしつこいと女にもてないよ」

2人の男はこちらに向き直った。今にも剣を抜きそうな勢いだ。

婆さんは腕を組んで笑っているし、ネーベルも威嚇を止めて行儀良く座っている。


「お前、この婆さんの知り合いか?」

「昨日、酒場でちょっとな。だから知らないって訳じゃない」

ガタイのいい男は小さな溜息と共に吐き捨てた。

「お前な、格好つけようっていうならやめとけ」

俺は笑ったまま奥歯を噛んだ。

「聞こえねぇのか?俺は帰れって言ったんだぜ?」

こんなヤツ等なら今の俺でも十分にやれる。


鼻先であしらっていた男が目を細めた。

「何だお前、不敵なヤツだ、気に入らんな」

なにを言ってやがる。

何があったか知らないが、こんな婆さんを大の男が4人で囲んでどうしようってんだ。

俺は苛々していた。

「もう面倒だからいいや」

俺の体は重心を少し前に移動し、腰が下がって右足から前に出る。男の懐に飛び込んだ瞬間、鞘に納まったままの剣の柄が男の腹にめり込む。剣は抜かないまま鞘の先で右の男の腹を突き、体を半回転させて左にいる男を蹴る。残った1人は呆然として反撃もできない。

1人は残しておかないとノビた3人の運び手が無くなるからな。


楽勝だ。

俺の体が頭に描いたように動き出して、息が止まった。

突き出された剣の鞘が俺の腹にめり込んだのだ。

息が出来ねぇ。思わず膝を着くと胃袋の中身がせり出してきた。

「うげぇ、げはっ」

「だからやめとけって言ったのに」

「そっちのイイ男はコイツよりは出来そうだが退いた方がいい。このゲロ男を連れて行け」

「うぐぐ・・・ゲロ男だと・・・ふ、ふざけやがって」

「うるさいぞ」

男が俺を蹴り上げ、俺の体は裏返るように転がった。

「10リグノ剣なんぞ持ってやがるが、剣は大きけりゃイイってもんじゃない」

「くそぉっ」

俺はふらつきながらも立ち上がった。

「てめぇら、ぶっとばして、やる、ぜ」

「ほぉ、根性だけは1人前だな。いや、なかなか大したもんだ」

俺は剣を杖のようにしてもう一度吐くと、男に向かって構えた。

「止めとけ、やるというなら今度は腕一本もらう」

「そうかい、じゃ、今度は俺が手加減してやるよ」

「馬鹿め」

目を細めた男が動く。

俺は両手持ちで左下へ振り下ろした。

男は俺の打ち込みを受けて弾くと、横殴りの剣が俺の左から迫る。

「やっぱりな」

俺は10リグノ剣を左手一本で支えた。男の打ち込みを受けつつ、右手は刀の柄を握って男の腹を突いていた。

「ぐぅっ」

男は堪らず膝を折った。

「これであいこだぜ・・・って、あららぁ~、立ってられねぇ」

俺はその場にへたり込むように倒れた。

「無理しすぎですよ。さて、残りの3人は私が相手をしましょう」

「ふざけろ!」

3人の男がジュノに掛かっていくが、逆にジュノが信じられないスピードで前に出るや、すれ違いざまに3人は倒れた。

「お、お前は何者だ」男は腹に手を添えつつも立ち上がった。

「名乗る程の者じゃねぇよ」

「お前じゃない!っていうか寝たまま偉そうに喋るな!」

「私達は旅の浪人です。傭兵をしていましたが、戦が終わって仕事が無くなりましてね」

「戦?北の戦乱か!・・・なるほど、只者じゃないって訳か」

その時、呻いていた男達の1人が叫んだ。

「あの年寄りが消えてる!」

「なにっ!?」

『えっ!?』

見ると婆さんとネーベルが消えていた。

「くそっ、逃げられたか」

「おい、何であの婆さんに絡んでたんだよ」

「寝たまま言うな!お前達のせいだからな!」「あの婆さんと若い男が2人、俺達が運んでる馬を盗んだんだ」

『え゛ぇっ!?』

さすがのジュノも慌てた。

「お前らのせいで見失った。どうしてくれるんだ」

「こ、これは申し訳ありません」

ジュノが小さくなって謝った。

「あの婆さんにしてやられたな、俺からも謝るよ」

「だから、お前は寝たまま謝るな!」

「あの、何頭盗まれたんですか?」

「5頭だ」

「分かりました。私達がお支払いしましょう」

「え?何故・・・まぁいいか。しかし、金はあるのか?50万パスクが相場だが」

「いいえ、私達が払うのは2頭分の20万だけです」

リーダーらしき男は少し考える風だったが、納得したようだ。

「おい、お前」

「・・・」

「お前だよ、このゲロ男!」

「何だっつの!ゲロゲロ言うな!」

「いつまで寝てるんだ、10リグノ剣を左手一本でさばくくせに」

「俺は体調が悪いの!」

「くそっ、こんなヤツに負けるなんて」

「お前が正直すぎるからだろ」

「なにを言ってる?」

「お前言っただろ、腕を1本もらうって。つまり殺さないって事だ。剣筋は限られる」

「ちっ、立ってもいられないくせに偉そうに言いやがって」「おい、行くぞ、あのババァ共を探すんだ」

3人の男達はのろのろと動き始めた。

「ひとつだけよろしいでしょうか」

ジュノの声に男が振り返った。

「あの老婦人を捕らえたとしたらどうしますか?5頭の馬は」

男は一瞬、ポカンとしてから笑顔を見せた。

「あぁ、俺たちの取り分は馬3頭か、30万パスクだ。もし5頭とも取り返せたらどうする?2頭はお前らの馬だぜ?」

「それはあなた達の骨折り賃です。とっておいて下さい」

「お前ら変わったヤツだな」

「そりゃ、そっちもそうだろ」

「ふん」

男達は別れも告げずに去っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ