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11-2 街道

超空の山脈タガンザクの東、ギルモアとバルカの国境を形成するジャドフ山脈。その麓の丘陵地であるネメグト丘陵地にはジャドフ山脈を迂回するネメグト街道が南北に走っている。

ネメグト街道を北に進むと、ギルモア北部をクエーシトからエルトアまで東西に抜けるジレイト街道にぶつかる。ジレイトとは復讐者の意味で、ある国の王子が父の仇を追ってこの街道を西から東へ通過したという神話から名付けられている。

ヴェルハントとフィアレスがギルモアの首都を急襲する時に使用する予定だったのもこの街道である。

大陸の主要な街道は以下の通りだ。

東西に抜ける街道はこのジレイト街道と、トレヴェントからバルカ南部を通ってグリファに至るレジーナ街道(神話の女神の名)、サンプリオス・インゲニアを抜けるレスフォール街道(南海の意味)がある。

その他に北の回廊から蛮族の勢力下を東の海まで抜けるバルロス街道(蛮族の意味、蛮族はジルオン街道と呼ぶ)があるが、もちろん蛮族以外はほとんど使用しない。

南北の街道は、クラトとジュノがグリファから脱出した際に北上したタルキア街道、エルトアを通るエルトア街道、ギルモアからサイカニアの難所を抜け、ローヴェに至るペテスロイ街道(串刺しの意味)がある。

大陸の街道はその重要度と規模によって1級から4級に分けられており、これらは全て1級街道だ。ネメグト街道は3級街道にあたる。


バイカルノ達はネメグト街道を北上しジレイト街道に至った。

ここからジレイト街道を西進してペテスロイ街道を北上、ブレシアに入る予定だ。

サバール隊から入った情報ではブレシアは混乱しているという。

ブレシアはその昔、全蛮族を糾合した“ジルオン連合”の中心として栄えた部族だ。しかし、連合内の有力国家であるバルナウルの台頭と離脱、ギルモアの勢力拡大などによって、その勢力は次第に衰えていった。


ブレシアがジルオン連合の盟主であり得たのは、蛮族の伝説で神々の生まれたのがブレシアにある丘陵地とされていた為に蛮族宗教の司祭がブレシア王の務めであった事と、何代にも亘って優れた王が出た事による。

歴代のブレシア王は神々の言葉を聞き、各国の王や領主にその意向を伝える立場にあった。つまり前時代の蛮族は祭政一致の政治であったのだ。

ブレシア王の言葉は神々の言葉として伝えられた。ブレシアが絶大な権力を持った理由はそこにある。ただ、神々が住まう地とされたブレシアの中心部は“神に遠慮して”開発は殆ど行われず、城と最低限の施設が置かれた。次第に中心部が教会のような機能を持ち、周辺地から隔離していった。

中心部以外の周辺地は辺郷とも呼ばれる6つの行政区に分けられ中心部とは区別されていた。ブレシアの中心地にあるジルオン城(現ブレシア城)から周辺地の行政官へ神託の内容が伝えられ、行政官はその内容を担当する国や部族に神言として命じるのだ。

その体制は非常に不安定ながら、優れたブレシア王と独特の世界観を持つ蛮族宗教によって、むしろ有効に機能していた。


それを破壊したのは南に存在する国々だった。

東大陸の北部に位置する蛮族は自分達以外の国々をレストルニア(南方の国)と呼ぶ。その当時、蛮族に武力で対抗できる国家はレストルニアには無かった。

しかし蛮族は統治能力に劣っており、またそれを自覚していた。

彼らの統治はあくまで蛮族宗教があって初めて成り立つものであったのだ。それでも優勢な武力を背景に各国からは朝貢という形で折り合いをつけていた。

ジルオン連合の本当の敵は大陸西側の北部に存在する勢力だったからだ。その勢力をゼリアニア(西方の国)と呼び、かつてジルオン最強と謳われたバルナウル国を置いて激しく対立。この対立によって“北の回廊”は遮断されていたといえる。そしてその分“海の回廊”が活性化し、サンプリオスという強大な国家を誕生させることになる。その後、サンプリオスはギルモアとの覇権戦争“大陸の炎上”で敗北、レストルニアでの覇権を握ったギルモアが北の蛮族を圧迫するに至る。

しかしそれは武力ではなく経済力と技術力によって行われた。いや、行われたというのは正確ではない。ブレシアは自壊したのだから。


ジルオン連合の市民、特にブレシアの市民は教えを守り、この世界、自然、生物の一部として、ある意味節度を持った生活を営んできた。しかし、その傍で技術力と経済力によって豊かな生活を享受する人々が存在したのだ。それがエルトアであり、ギルモアであった。

“貢物を納める下位の国が我々より豊かに暮らしている”

徐々にブレシアの市民は豊かな生活を望むようになった。この時のブレシア王はそれを認めてギルモアとの交易を拡大するが、大きな失敗を犯す。

輸入品は国王が買い取り、利益を乗せて連合内の国家に販売し、連合からの輸出に関税をかけたのだ。これでは交易の利益は常に連合内から支出される事になる。しかも利益を得るのは国王のみだ。

元々の交易が国王名義での輸入のみであり、次に輸入品の連合内での販売、続いて連合からの輸出と拡大していった経緯があるとはいえ、その理不尽とも言える内容に批判が高まっていった。


そんな不満がくすぶる中、バルナウル国はゼリアニアの東端、つまりこれまで長年にわたって戦火を交えてきたゼレンティの混乱に乗じて一部を吸収、隣国アジェロンを誘って、ジルオン連合からの離脱を宣言、4つの近隣部族を従えてバルナウル連合を名乗る。

バルナウル連合はさらにゼレンティを攻めて北の回廊を制圧、その一帯を整備して商業路として物品のみの通行を認めた。

人の通過は認めないが、物品の通過を認めるという事はバルナウル領内で交易が行われるという事だ。つまり交易ルートだけではなく、交易地としても利益を得る事になる。

バルナウルが指定した交易地は強力な軍隊に守られた城壁の中にあり、一切の国家勢力を排除していた。人の通過が認められない分、情報の交換が盛んに行われ、これもバルナウルの国力増大に寄与している。

高い武力と経済力の融合は覇権の条件だ。ジルオン連合のみならず、レストルニアの国々も警戒を強めたが、商人は北の回廊へ殺到した。

海の回廊は海洋性オルグの出没によって安全性が低下しつつあったし、北方の国々にとって海の回廊は時間があまりにもかかり過ぎる上、経費も高くつくルートだったのだ。

ジルオン連合で唯一の交易権を持っていたブレシアはその利得の喪失とバルナウル離脱によって、ジルオン連合内での求心力を失っていった。

ブレシアは明らかに転換期を迎えていたが、国王を始め中心部にいた為政者はそれに気付かなかった。それだけブレシア中心部だけが全ての恩恵を享受し、世界の変化から目を背けていたといえる。

西大陸-バルナウル-エルトア・ギルモアという交易ルートの確立により大陸北東部は物・金・人・情報の主流から外れ、経済力は大幅に低下した。当然非難はブレシア国王に集中、ついにジルオン連合は瓦解する。一歩間違えば、蛮族の大戦乱が発生していただろう。そして、もしそうなればバルナウルとギルモアによってその多くの領土を失っていたに違いない。

通常、政治形態を変えるには大きな損害を覚悟しなければならない。それが革命だ。しかし、ブレシアのそれは驚くほど穏便に行われた。


混乱と困窮のきわみにあったブレシア国王を救ったのはブレシア国内で差別を受けていた辺郷の行政区だった。

第5行政区長官のライゼン・キルジェの献策により、ブレシア国王ジェノン・ブレシアはジルオン連合の盟主を退き、司祭の地位も返上する事を決断。

ここにジルオン連合は崩壊、新たに北東部首長連合が発足した。

ブレシアはその一構成国となる事で存続を得たのだ。しかし、もともと開発が行われず、経済は他国からの奉納と辺郷の税で成り立っていた国だ。再出発は困難を極めた。

ブレシアはジルオンの盟主というプライドと根底に流れる賢者の系譜を持ちながらも、丘陵地の草原が続く農業と酪農が主な産業の田舎臭い郷となってしまった。

ブレシア国内では国王ジェノンと、献策したライゼンへの非難の声が強く、北東部首長連合において4番目の席と決められた直後、ライゼンは何度も暗殺されかけた。

4番目というのは連合を構成する4国8部族(元々は6国、12部族であったが、バルナウル・アジェロンの2国と他4部族が離脱している)の国家として最下位である。

元々プライドが高い国民性であり、一部の過激な者達はその怒りをライゼン・キルジェに向けた。しかし、全ての暗殺者は返り討ちにされる。

そう、彼は優秀なエナルダだった。彼の家系はエナルダの発現率が非常に高く、優秀な戦士を輩出してきた血筋なのだ。


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