表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/267

10-14 下賜

ラシェットは腕を組んで突撃大隊の訓練を見ていた。

「素晴らしい。しかし・・・それ故に危険だ」

「とはいえ、突撃大隊が“特別”であるうちは問題にはならぬでしょう」と、傍らのランクス。

「そうだ。彼らは標準スタンダードではない。あくまで特別スペシャルなのだ」

「それにしてもここまでのものを作り上げるとは」

「不思議な方でしたね」

「私も“待つ者”として精進せねばならん」


≪時は1ヶ月ほど遡る≫


半年ほど前に行われた極秘会議と場所・メンバーを同じくして再度会議が行われた。


会議室にティエラの澄んだ声が流れる。

「バイカルノ・ソルザン、ジュノ・ガクレイ、クラト・・・クラト・ナルミ。汝らのバルカ軍脱退を認める。またこれまでの貢献を評価し、削力刑は免じる」「明日よりバルカへの忠誠と義務はない。またバルカからの庇護もない。心して生きていくが良い」

ティエラは型通りの言葉を口にした。

通常、バルカ市民権の返上を伴った軍からの脱退に対しては削力刑が付随する。ただし、それは昔の話で現在は刑が実施される事はない。

ティエラは凛として落ち着いた振る舞いを見せた。

彼女はもう姫ではない。女王なのだ。


ラシェットが続ける。

「バイカルノ、機密事項の他言無用なり。それをここで誓え」

「は、私バイカルノ・ソルザンは機密保守を誓います」

「ジュノ、クラトも同じく、ここに誓え」

『は、機密を漏らさぬ事をここに誓います』

ヴェルーノ卿。

「よし、さすれば只今よりあらゆる役職より解任し、一市民とする。そして明日よりバルカの市民でもない。以上だ」

こちらも型通りの言葉をやり取りし、あっけないくらい簡単に会議は終了した。

そしてこの事実が国内外に正式に公表されない。去る者を語る事はないのだ。

その代わり新体制が人事を含めて発表さえるだろう。

その内容はバイカルノとラシェットが起案したものとほぼ同じだった。

ただ、突撃大隊は赤騎隊隷下として、完全にティエラ直属となった。ルシルヴァが隊長代行。

女王となったティエラに出陣の機会はほとんど無い。赤騎隊は僅か36名まで削減され、隊長はイオリア。護紅隊も24名となり、実質は赤騎隊に含まれている。

各隊の弱体化はいうまでもないが、現状ではこれが精一杯だ。


会議が終るとそのまま送別の会となる。会と言っても別れの言葉を交わすだけだ。

何しろ、今日の内でなければ挨拶すら許されない。

しかも機密保持のため、ここに出席した者以外とは挨拶すらできないのだ。

今日の夜半に3人は出発する予定だ。


突然ヴェルーノ卿が声を上げた。

「クラト大隊長、いやクラト、お前はバルカに戻ってくるのだろうな?」

「ここに居る皆に言おう、俺は戻るよ。受け入れてもらえるなら」

ここでピサノ大臣が立ち上がる。

「戻って来ると約束しろ」

「たった今言いましたが」

「私に約束しろ、このピサノに」

皆が驚きの目をピサノに向けた。どうしたというのだピサノ大臣は。

「さぁ、約束するんだ。本当だろうな、戻るというのは」

「ピサノ大臣、俺はこの世界で戦しかしてこなかった。だから戦場に身を置いた人間を信用している。ましてや戦士にいい加減な事は言わない」

「この私を戦士と言ってくれるのか・・・」


バルカでは大臣に就任する条件として軍団長の経験が必要だ。

勿論、大臣となる為の形として軍団長を経験させる事もある。その場合、常設軍団の軍団長が副軍団長となり、そこへ軍団長として着任する。

最低でも1年間の軍務を経験させるのだが、バルカは形だけでは終らせない。

1年間の間に戦闘が発生しない事はあり得ない。戦闘に投入されるし、指揮は自ら執らねばならない。副軍団長が口を出すのは“全滅を回避する場合のみ”に限られているのだ。

招聘された者の中には、これによって大臣の地位を諦める者も多かった。

バルカでは戦士である事が最高の栄誉なのだ。


ヴェルーノ卿は3人に感謝の言葉を述べた。

元々はヴェルーノ卿が引き込んだ3人だ。そして想像を絶する働きをしてくれた。

「バルカ軍に身を投じた者は、バルカを去ったとしても必ず戻るだろう」「無事を祈るぞ、また会おう、必ず会おう」


レガーノはいつもの笑顔を3人に向けた。

「俺は遠い未来の約束など、ましてや待つしかない約束などするつもりはない。まぁ、行ってこい」「お前達がいなくてもと言いたいところだが、お前達が創り、育て、残したものは余りに大きい。忘れるなよ、お前達の死ぬ場所はバルカだ」


視線がティエラに向いた。

ティエラの感情は限界に近かった。大きな声と涙でなければとても表せない感情だった。

「その方らの尽力にバルカ女王として感謝する。自愛し達者で過ごすがよい」

これがティエラにとって限界だった。

「以上だ、会を閉じる。さらばだ」

ティエラはほとんど逃げるように会議室を出た。

廊下を走った。

通路を抜け中庭に出た。

そこにはファトマが唯1人立っていた。

ティエラはよろめくように近づき、その胸で泣いた。

ファトマは我が子に言い聞かせるように言った。

「ティエラ様、旅に護身の武具は必要でございます。軍務を離れていたクラト様にはその準備が無いでしょう。以前クラト様のために鍛えた剣を下賜なさいませ。なに、少々重いでしょうがクラト様なら大丈夫です。1時間後(地球の2時間)に執務室で受け取るよう伝えておきます故、何卒直接お授け下さいませ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ