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5話 トカゲと首無し女騎士

どうやらワケありの難易度の依頼みたいです。

 

 この世界には魔王と呼ばれる存在がいる。

 魔物を従える王。最も邪悪で強大な魔力を持つ魔物から成るとされている全ての魔物の頂点。

 そいつは『魔王軍』と称した大軍を率いており、幾つもの国を滅ぼしてきた。ボクら冒険者が魔物を討伐する理由の一つでもある。軍とはいっても基本的には魔物に好き放題やらしていると冒険者の噂では聞くけどね。

 対して人間の軍隊は、基本的には国を守るために軍を動かしている(これは建前みたいなもんで、タナミデロナ王国のような大国は軍隊を増強したりしてるけど)から、特に理由もなしに侵攻したりはしない。

 戦争にはどんな小さな理由であっても、大義名分が必要なんだ。

 でも魔王軍にはそんなものはない。ただ本能のままに人を襲う。意味もなく虫の手足をもぐ幼子のような邪悪さがそこにはある。

 喰うか殺すか、人間を蹂躙するのに躊躇いはない。

 そんな奴等を束ねる幹部、エルダーオーク討伐の依頼。


「難易度はAランクだって。上から数えて三番目だよ。ナーコ、ボク死にたくないしやめとこうか」

「えっ……そんなに難しいの?」

「難易度のランクは、上からSS、S、A、B、C、D、Eになってるねぇ。初心者は勿論Eから。そんでAランクはベテランの冒険者数人で挑む難易度で〜す」


 ボクは確かに勇者パーティに所属してた。だけどそれを踏まえても初心者と二人でやるのは無茶通り越して無謀な依頼だろう。リィダさん、寝過ぎておかしくなっちゃったんじゃないの。


「なーんか失礼なこと考えてるぅ?」

「ははは、そんなまさか」


 ナーコはそれでもやってくれるって目線を、リィダさんはニヤついた目線をこちらに向けた。

 やるしかないのだろう。そもそも他の人がやりたがらないから、ボクに押し付けられてるんだ。

 割に合わない依頼は承知の上だ。

 

「……魔王軍の幹部って単独で討伐できたら勇者の称号貰えるんでしたっけ」

「あーそれね、大幹部とかだったと思うよ、確か。国を滅ぼす強さの魔物を討伐した冒険者に与えられちゃう、すっごい称号だからね、勇者は」

 

 勇者とは魔王に挑める資格があるもの。冒険者の中でも最強クラスの人たち。勇者エルドもその内の一人だ。

 リィダさんは「この依頼ならイケるよ」だなんて言うが、魔王軍幹部が強者であるのは事実。ボクに勇者になれるほどの実力はまだないと思う。


「まぁ普通に考えたらクロノスくんが勝てるわけないんだけど、今回はちょっと事情があるんだよ」

「事情?」

「なんか、魔王軍から抜けたデュラハンがその討伐対象と揉めてるらしいよ。だからエルダーオークの群れの戦力、Aランクってほどじゃないんじゃないかな」


 良い意味でランク詐欺なら、他の冒険者だってやりたがるはずだ。

 しかし実際は誰もやりたがらなくて、ボクに依頼は押し付けられた。何故なのか。

 現地で魔物の群れを実際に見てみたら、その理由をボクとナーコはハッキリ理解することになるのだった。


 ***


 タナミデロナ王国の『ハーキダ要塞』は、難攻不落で知られていた。鉄壁の守りを生み出したのは、川に挟まれた丘の上という立地的に優れていた所と、ダンジョンを参考に作られた内部の罠の仕掛けの数々だ。

 とはいえそれは昔の話。今では打ち捨てられて、魔物が住み着くダンジョンへと変貌してしまった。

 大気中の魔力の中にある澱みが土地レベルで溜まり続けるとダンジョンに変貌するらしいが(ヒエラがそう言ってた)人が使ってた所でもダンジョンになるんだな。じゃあ澱みまくってんのかこの王国。 


「いいか、ナーコ。命大事の精神だからな。勝てないと分かったら即逃亡。命に勝るものはないからね」

「クロノス、逃げていいの?」


 良いはずない。討伐しなきゃ報酬は貰えない。

 ダンジョンと化した要塞になんとかやってきたはいいものの、未だに魔物と遭遇できずにいる。

 リィダさんが言ってたデュラハンとの内輪揉めの結果、見張りの魔物すらいなくなってしまったのだろうか。

 それならさっさとエルダーオークのツラを拝みたいものだ。要塞の大広間へ続く通路を進んでいく。


「なんか……嫌な、気配がする」


 ナーコが反応したってことは呪いのトラップか。

 砦の仕掛けはとっくに錆びて機能していないはずだ、だからこれはダンジョン自体が生み出した、侵入者を阻む死の罠。

 突風と共に禍々しい瘴気の霧が満ちた。……ボクら二人は平気だけど、呪いへの耐性がなければ危なかった。


「ナーコはボクの後ろで援護を頼む」


 ナーコには盗賊用のナイフを数本渡してある。自衛のためでもあるが、ないよりはマシだろう。

 霧により視界が悪くなった。眼に頼ってちゃダメだ。感覚を研ぎ澄まし、周囲の気配を探る。

 瘴気に反応したのか魔物の群れが這い出てきた。

 呪いで弱らせて呼び寄せた魔物で仕留める二段構えのトラップか、ダンジョンの殺意を感じるな。

  頭に王冠を思わせる金色の刺々しい鱗に、鶏の羽のような毛を生やした、巨大なトカゲの群れ。大量のバジリスクが通路に放たれた。


「クロノス、いっぱい集まってきたよ⁉︎」


 ……なるほど、誰もやりたがらない理由はこれか。バジリスクは邪眼のスキルを有している。端的に言ったら呪われた瞳だ。視界に入ったものを問答無用で呪殺する。抗う暇すら与えずに即死だ。

 何より恐ろしいのは呪いへの耐性がなければ防ぐ手段が全くないってことだね。


「すごい数のバジリスクだよ、ホント」


 熟練のパーティすら全滅させるほどの厄介な敵ではあるが、呪いの効かないボクたちの前では単なるトカゲに等しい…………いや普通に硬いし倒すの時間がかかるぞこれ。

 殴る蹴るじゃびくともしないし、そもそも数が多すぎる。バジリスクの爪や噛みつきをなんとか避けてるものの、いずれは食らってしまいそうだ。


「ひぃっ、あっちいけこの!」


 ナーコも頑張ってナイフで戦おうとしてくれているが、決定打にはならなかった。盗賊用のナイフがいくら鋭利な刃物だからって、か細い腕で硬く鋭い鱗まで貫通できるかは別だもんな。

 強力な呪いを持っている者は、当然ながら呪いに耐性がある。毒を持つ生物が自分の毒で死なないのと理屈は同じだ。だから黒魔法はコイツらに効かない。

 奥の手の魔法はまだ温存しときたいし、ここは直接攻撃して倒すしかない。時間さえかければヒットアンドアウェイでどうにかやれるはずだ。

 ボクの故郷には『黒魔道士互いに喧嘩せず』という言葉がある。

 この言葉には二つの意味があって、そもそも喧嘩できるほど黒魔道士はこの世にいないという意味と、黒魔道士がお互いに呪いを掛け合っても不毛なのでやめましょう、という意味だ。

 ボクとバジリスクはまさにこの状態で、こんな時だけあの用心棒の男の怪力が羨ましく思ってしまう。

 強化魔法なんて使えないし、やっぱり非力なのは辛いよ。せめて盾役になってくれる人がいたらなぁ。


 トカゲ退治に手間取ってしまい、エルダーオークが従えてる魔物達がダンジョン内を徘徊していることを一瞬だけ忘れていた。身を潜めている魔物がいた。

 そこに不意打ちとばかりに、疲れてたナーコを狙って頭上から棍棒が振り下ろされる。


「危ない!」


 ナーコを庇わなければ。襲いかかる群れの中から既に倒したバジリスクの身体を掴み盾にして棍棒の一撃を防ぐ。

 ボロボロの鎧を着たオークが姿を現した。人間の頭蓋骨を纏めて魔力の込められてる縄で通した、恐らく簡易的な呪い避けを首に下げてる。

 呪い耐性の装備や鎧を身につける魔物。

 オーク自身にそんな知性はないからエルダーオークの入れ知恵か、小賢しいな。

 奥の手を使うべきか? エルダーオーク戦で使いたかったが、ここを切り抜けられなきゃボクらに命はない。


「黒魔法、呪怨──」


 しかし黒魔法を発動するより早く、乱入者の斬撃がオークを屠った。結果として詠唱は中断され、その乱入者の姿に思わず見入ってしまった。

 ボロいとはいえ鎧ごと力任せに真っ二つにする圧倒的な破壊力。

 それだけじゃない、棍棒で反撃されたのにも関わらず、それを無視してそのままオークを斬り殺してしまうだけのタフネスを有していた。

 血みたいな色の鎧を纏っており、漆黒の大剣を構えてこちらの様子を窺っているようだ。

 ──首無しだった。体型からして女性、女騎士か。女騎士のデュラハンだ。エルダーオークと内輪揉めしたらしいデュラハン。


「あらあらあら〜こんなとこに可愛らしい子供たちが来ちゃったわね、もしかして迷子かな、お家の場所分かる?」


 魔物が喋った。どっから喋ってんだ。いや、そもそもフレンドリー過ぎるだろ。これも罠だってのか。


「魔物にも優しい人、いるんだね」

「首無い人を人間にカウントしていいのか」


 人型の魔物、つまりは魔人ってことになるのか。

 じゃあ強いに決まってるじゃないか。


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