2話 因習村の少女
追放されたクロノスですが、新しい仲間を見つけたようです。
結局のところ野宿は回避することはできた。できたといっても泊まったところは山奥にあるハテダワ村というとこで、だいぶ街から外れたとこにあったけれど。古宿だから安く泊まれてありがたかった。
以前に勇者パーティとして訪れたことはあったが、その時はダンジョン攻略の道中で立ち寄っただけで、村を見て回ったりしたわけじゃない。
しかし、この村も冒険者向けに依頼を出しているはずだ。村の規模の依頼だったら、一人でもやれないことはないだろう。というかどんな依頼だろうとこなさないと冒険者として生計を立てられない。
「そこの若い冒険者の方、今日は良い日でございますな」
なんかこの村の偉い爺さんが話しかけてきた。村長ではないが村長並みに偉いとかなんとか昨夜に言っていたような気がする。村長は留守なんだって。
村の宿に泊まった時にそんな感じで会話はしたけれど(ほとんど一方的に話しかけられたようなものだが)、一体なんの用だろう。
「は、はぁ……良い日なんじゃないですかね」
「今日は祭りの日でして、是非とも冒険者の貴方にも参加してもらいたく存じます」
なんか流れでボクも参加することになったが、正直言って祭りは好きだ。街のイベントには心踊るものがあったし、何よりボクの故郷の村じゃ人も金もないし祭りなんてやってなかったからな。
「この村ってどんな祭りするんです?」
「村が魔物に襲われないように、神様にお祈りするんです。神様にこの村の少女を捧げるんですよ」
「へぇ、それはそれは……待って今捧げるって」
捧げる? 生贄ってこと? この村やばくないか、そんな風習が未だにあるなんて信じられないぞ。冒険者が増えてからは、そういう文化は廃れたはずだろ。
「その少女は何かしたんですか」
「そりゃあ忌み子ですからな、この村の穢れを一身に引き受ける娘です。神様は人というより魔物に近いとこの村では言い伝えられていまして、生贄として魔に近い呪われた人間を好むのだとか」
理屈はそうなんだろうけど、感情がそれを許そうとしない。少女って言うぐらいだしボクと年齢が近いんだろう、余計に他人事じゃない気がしてくる。
「あの、ボク勇者エルドのパーティの一員なんですが(もう辞めさせられたけど)その儀式、勇者の権限で止めてもらうことってできないですかねぇ? ははは……」
自分でも横暴だし無茶苦茶言ってるのは自覚してるが、流石にその少女とやらを見殺しにはできなかった。依頼より先に人助けだ。
「はぁ…………勇者の使い走りですか貴方。しかし、祭りを盛り上げる大事な儀式でして、もう始めちまってるんですよ」
「ちょっと案内してもらっていいですか」
まずい少女が死んでしまう。ヒエラみたいな高位の僧侶だったら死んだ後に蘇生できたりするんだろうけど、生憎そんなスキルは持ち合わせていない。
だから少女が死ぬ前になんとか儀式を滅茶苦茶にして終わらせる。
今にも死にそうな顔をした、縛り付けられて池の中に沈められようとしている少女の姿が見えた。
ボロボロの服が太い荒縄で締め上がってる。とっても怯えている目だ。そりゃそうだ、誰だって死ぬのは怖い。
ボクは儀式の真っ只中に飛び込んで、殺傷能力のない黒魔法を乱発した。黒魔法はこういう時便利だ。
「黒魔法『緊縛の触手』!」
「黒魔法『怠惰なる煙』!」
「黒魔法『大地の引力』!」
ぬらりと怪しげに光る悍ましい触手が生贄の儀式を執行する者達を捕らえて動きを封じる。
紫色の煙が充満して、見物人はみな呆けたような顔をしだす。甘ったるい煙が思考を妨げるのだ。
少女を沈めようと手をかけた男は、大地の重力を叩きつけられたかのように急に身体が重くなって動けなくなった。
黒魔法の呪いは強力だけど対象を選べない。つまるところ少女にも呪いが飛んでいくということで……触手に絡まれ、煙を吸わされ、そんで体を重くさせられ……まずい普通に死ぬかもしれない。
いくら殺傷能力がなくったってパニクった少女が水の中にドボンしたら終わりだ。馬鹿かボクは、勢いまかせにやりすぎじゃないか。
しかし、少女には呪いの効果がない。彼女はただ周囲で起こったことに対して困惑するのみだ。
「黒魔法が効かないのか、君は」
「黒……魔法? あ、あなた、魔法が使えるの」
少女から羨望の眼差しを向けられる。ボクはとりあえず案内してくれた偉いらしい爺さんに儀式中止の説明を任せて、少女を縛っている縄を切ろうとする。
「そう、ボクは黒魔道士のクロノス。黒魔法で呪いを使えるんだ。君を助けに来たんだよ」
盗賊用のナイフが役に立つ日が来るなんてなぁ、普通のナイフより切れ味は良いから丈夫な縄だろうと問題なく切れるね。
「わ……わたし、助かるの? 死ななくても良いの」
「君は助かる。大丈夫」
涙目の少女は、安堵したのかボクに抱きついた。背が低く痩せ細ってる、ボクより歳下だろうか。そりゃ生贄にされて怖かったろうな、村での扱いだって酷かっただろう。
少女を落ち着かせていたら、説明を終えた爺さんが戻って来た。こちらを軽蔑するかのような、魔物の死体を見る時の表情をしている。
呪いが解かれて元に戻った客は騒ぎ立て、ヤジを飛ばす。せっかく賭けた金が中止でどうだとか、人が死ぬとこを見たかったとかの雑音が聞こえてきたので、俯く少女の耳をそっと塞いだ。
「冒険者の、あーなんだ、クロソスさんでしたっけ? エルドさんに言っといてください。商売の邪魔しないでもらえると助かりますって」
「クロノスです。急に中止にしてもらってすみませんでした」
別に頭ぐらい下げるさ。それで人の命が助かるなら今は余計なプライドなんて捨てる。
「あーあと、この村に二度と来るな、というのも付け加えましょうかねぇ」
冷静になって見渡せば、それなりに裕福そうな、この村に似つかわしくない格好の客がいる。というか村人より明らかに外部から来たであろう人のが多い。いくら祭りだからって山奥の辺鄙な村にこんなに集まるのか。
人混みをかきわけ、明らかに好戦的な目つきと戦い慣れていそうな装備をしている男が爺さんの側に立つ。同業の冒険者か? いや……この村の用心棒の類いだろうな、勇者パーティという実力者の中にいたおかげか、相手の実力がなんとなく分かるようになった。
明らかに魔物ではなく、人と戦うのを想定した装備だ。
「でも貴方使い走りでしょ? 軽く痛めつけておかないと、我々のメッセージは伝わらんでしょうなぁ」
「ボクが勇者様に泣きつくとか考えないの?」
「貴方一人を寄越してきた時点で、貴方が死のうが生きようが勇者は動かない、ワシはそう思いますがね」
うん、だめだ。これ以上嘘ついてもどうしようもない。とりあえずあの少女だけは逃してやりたいとこではある。ボクと違って、戦えるわけじゃない。
「えー皆様方、代わりと言っちゃあなんですが、この冒険者の少年と、我らが村の力自慢を戦わせ、どちらが勝つか賭けるとしませんか」
「んだよ、少女が死ぬのに賭けたのによ」
「まぁまぁ、同じ二択の賭博でしょ? 私は断然あの力自慢の人に賭けるわ、筋肉凄そうだし」
なるほど、生贄の儀式という見せ物が潰れたので、用心棒の男とボクを戦わせることで代わりにしようって魂胆だな。生贄の儀式は村のためなんかじゃなく、このジジイの利益のためか。いや、村の繁栄という意味じゃ同じか?
ボクの村は見捨てられたってのに、この村はどうしてこうも……
「お願い……助けて」
少女がそう潤んだ瞳で言った。それは故郷にいた時に叫びたかったボク自身の言葉なんだ。
「クロノス、勝って……わたしを助けて」
そうだ、そうだよな。だったら、やってやるさ。
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