表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/15

第8話 「間に合った。……それだけで十分だ」

 旅人用の簡易宿で目を覚ましたカイは、天井をぼんやり見つめながら、

 昨日レヨンに言われた言葉を思い返していた。


『Stage? 下位神器にそんなシステムねーだろ』


 あの時の、ギルドの冷たい笑い声。

 表面上は気にしていないふりをしたが――

 布丸を握る手だけは、今も小さく震えていた。


(……他の神器とは違うのか?。俺の“布丸”だけが)



 そんな時、外から妙なざわめきが聞こえた。


「……? なんか騒がしいな」


 外へ出ると、通りの向こうで人々が空を指さしていた。


「見たか!? さっきの霧――!」

「昼間に出るなんて聞いたことねぇぞ!」


 白い霧がゆっくり街に迫っている。

 昼のはずなのに、影が薄く揺れるような不穏さがあった。


(まさか……腐敗霧?)


 胸が、きゅ、と強く締めつけられる。


(コット……今日は店に来て、って……)


 嫌な予感が、息を吸うより速く体を突き動かした。

 カイは駆け出した。



 コットの店は、従業員が慌ただしく店じまいをしていた。

 焦った顔ばかりで、ただ事ではないのが一瞬で分かる。


「あの……コットは!?」


「コットちゃんなら……森に薬草を取りに行ったまま、戻ってないの」


「……え?」


 胸の奥が、冷たい霧に触れたみたいにすっと冷えた。


(腐敗霧が出た。

 そのタイミングで……森?)


 最悪の組み合わせだった。


 その時――


「シロ……?」


 普段、ぽやぽやしている白い身体が、小刻みに震えている。


 ――キュウッ!


 どこか“遠くの一点”を睨みつけているようだった。


 空気が、ひどく重く沈んだ。


(森の奥で――“霧の源”が動いてる?)


 とっさに胸へ答えが落ちてくる。


「……っ、シロ! 行くぞ!」


 言葉より先に身体が動いていた。

 布丸を握り直し、全速力で森へ向かう。


 人影がなくなった瞬間、

 シロは一気に“本来の姿”へと変わった。


 白雷を抱く獣のような、白獅子の姿。


「頼む、走ってくれ!」


 シロは力強く地を蹴り、森へ向けて駆け出す。

 カイはその背にまたがり、風を切るように飛ぶ。


 霧は、確実に濃くなっていた。




 ーーーその頃、森では。


 風さえ通らない濃霧の森。

 木々の陰で、〝なにか〟が走り抜けたような音だけが静寂を裂いた。


「……位置が分からない……っ」


 レヨンは魔力で気配を探るが、霧が濃すぎて、輪郭すら掴めない。


 ――ザシュッ!


 横合いから伸びた黒い線が、コットの頬をかすめた。


「ひ……っ!」


「下がれ、コット!」


 ベリオスが前へ飛び出す。

 《陽炎のカゲロウシールド》がゆらりと揺れ、周囲の空気を波打たせた。


 霧の刃が盾に触れた瞬間、

 歪む熱気によって、斬撃の形がそのまま“はじけ飛ぶ”。


「……やっぱりだ。“霧そのもの”を操ってる。普通の魔物の領域じゃない」


 濃霧の冷気が首筋を撫でる。


「このまま隠れてる敵を相手にしても埒が明かん……」


 ベリオスは低く息を吸い込む。


「……押し切るぞ。視界を無理やり開ける!」


「行くのか、ベリオス!?」


「ああ!大きく弾く!」


 炎の渦が盾の前に収束し、熱が森を染める。


「《陽炎断層(カゲロウ・ブレイク)》ッ!」


 轟ッ!!


 盾から放たれた炎と爆風が、一帯を薙ぎ払った。


 同時に――

 霧の奥で“何か”が渦を巻き、圧縮され、

 濃霧の塊が弾丸のように放たれる。


 ――ゴァァァァァ!!


 大技同士の衝突。

 衝撃で木々がしなり、白霧が一気に吹き飛んだ。


 ――ゆらり。


 白い霧の帳が開く。

 そこに、ずっと揺れていた“影”が輪郭を得た。


 赤く光る瞳。

 青く凍る瞳。

 そして――

 霧のような白光を宿した、《第三の頭》。


「炎氷魔蛇デラパイゾン……? でも頭が三つ……?」

 レヨンが息を呑む。


「デラパイゾンの頭って、本来“炎”と“氷”の二つだけだろ……?」

 ニムの声が震える。


 炎と氷の二頭を持つ魔蛇――それが常識。


 だが現れたのは、


 ・炎の瞳

 ・氷の瞳

 ・霧の瞳


 三つの首を持つ異形。


 さらに体表は黒く硬質化し、胸部には脈動する黒紋が走る。

 尾は左右に二つへ裂け、地面を叩くたび土が跳ねた。


「嘘……なんなの、あれ……!」

 コットが息を呑む。


「……変質してる……? いくら黒紋化しているとはいえ……あんな姿、記録にもないぞ……」


 ベリオスの額に汗が滲む。



 その瞬間ーー


「ッッ!?」


 デラパイゾンの第三の頭が吐いたのは、

 炎でも氷でもなく——霧の爆弾。


「来るぞ!!」

 ベリオスが叫ぶ。

 霧の攻撃を盾で防ぐベリオス。


 その直後——


 ズバァァッ!!!

 ドゴッ!!


 三方向から影が同時に襲う。


「分身……!? 霧の中に同じ形が複数……!」


 レヨンは三刃を肩で回し、

「《火裂き三刃ファルク・トライサー》、燃やせッ!」

 刃の隙間に赤い炎が走り、うねりながら勢いを増す。


「燃えろォッ!!」


 炎纏う三連斬が霧を裂いた。

 影の一体が溶けるように散るが、それは本物ではない。


「くそッ、分身かよ!」


 ニムは動く影に向かって踏み込み、

 《風切りナイフ》を弾丸のように振った。


「《風斬(ウィンド・スプレット)》!」


 風が線になって走り、

 本体らしき影の首をかすめる。


 だが、すぐさま霧が補充され、元に戻る。


「速ぇし、やっかいな能力だ!……マジでなんなんだコイツ!」



 テンが大ヘラを地面に叩き込む。


「おりゃァッ!!」


 どん! と強烈な振動が走り、

 土が波のように隆起して衝撃波となって走る。


 一体の分身が霧散するが——


「まだいる……!」

 テンの頬に冷気が走り、氷の頭が間近に迫る。


「うおおおっ!? 冷たッ!」


 コットが香りの流れで敵の“質”を読む。


(本物は――焦げの匂いと氷の匂いが、わずかに混ざって……)


「レヨンさん、左下っ! 本物はそこ!」


「助かった!! ……って、礼なんか言っちまった!」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」


 だが、息つく間もなく攻撃の波が押し寄せてくる。


 炎頭が吐く灼熱の炎。

 氷頭が放つ凍てつく冷気。


「まとめて受ける……!」


 ベリオスは《陽炎の盾》を前に突き出した。


 炎と氷がぶつかる中、

 盾の揺らぎが吸収し、熱量と冷気が盾の中心へ集まっていく。


「まだ……だ……! 吸え……!」


 盾が赤と青の光を蓄え、縁が激しく震えた。


「《反陽衝(リバース・フレア)》——ッ!!」


 溜め込んだ熱と氷を衝撃波に変換し、

 デラパイゾン本体へ叩きつけた。 

 だが、鎧のような鱗に覆われた体には多少の傷が入る程度だった。


 三つの頭が咆哮を上げ、

 炎・氷・霧の三方向からの同時攻撃が襲いかかる。


 炎が森を燃やし、

 氷が空気を凍らせ、

 霧が視界を奪い、分身、爆撃を生み出す。


「くっ……!!」

「攻撃が読めねぇ!!」

「このままじゃ……!」


 霧で呼吸が重くなり始め、足元がふらついてくる。

 ベリオスの盾が揺らぎ、ひびのような光が走る。


(耐えきれない……!?)


 コットが叫ぶ。


「ベリオスさん、下がって!!」


 デラパイゾンの三つの頭が同時に膨らんだ。

 炎、氷、霧——三属性の大技が結集しようとしている。


 息が重くなる。

 霧が肺に入り込み、体力がじわじわ奪われていく。


 炎。

 氷。

 霧。


 三属性の極大破壊波。


「まずい――っ!!」


 ドオオオオオオッ!!




 その瞬間。


 パァンッ!!


 横から白雷が突き刺さり、

 三属性の破壊波の軌道を“ねじ切った”。


 土が跳ね、霧がざわめき、木々が揺れる。


「な、なに……今の……?」


 コットが振り返る。


 そこに立っていた白い影は――

 雷をまとった白い獣。


 いつものぽやぽやした瞳ではなく、

 “守護”の光を宿した鋭い瞳。


「シロちゃん……? 本当に、シロちゃん……?」


 白雷の獣は、コットの前に立ち、低く鳴いた。


 ――キュイ……ッ!



 霧の奥で、異形の影が再びうねる。

 三つ首の進化魔蛇――デラパイゾン・黒紋体。



 ドンッ。


 その前に降り立つ影。


 シロの背から飛び降りた――カイ。


「……大丈夫か、コット。助けにきた。」


 その静かな声に、

 コットの目がまん丸に開く。


「カ、カイ……!?」


「お前……!」

 レヨンが叫ぶ。


「バカ言うな! あんな怪物、お前でどうにか……!」


「カイ、撤退だ! お前まで巻き込まれるぞ!」

 ベリオスの声が震える。


 だが――


 カイは、布丸を握りしめたまま、一歩前に出た。


 霧の中。

 雷を纏う白獣の前。


 その姿勢は、不思議と揺らがない。


「どうにかなるかなんて……あとでいいだろ」


 森の奥で、三つの頭が雄叫びを上げる。


「間に合った。……それだけで十分だ」


 空気が研ぎ澄まされる。


 カイは布丸を構え、まっすぐ前を見た。


「さあ……ここからが“本番”だ」


 《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》

 《スキル:変幻自在/布界収納(小)/水纏状態》

 《限定スキル:雫裂》

 《特殊スキル:黒喰/転換布癒Ⅰ/微癒の湯化》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ