第6話 ウィンディア族の少女
東方街道を抜けた先に現れたのは――
赤・黄・橙。
彩度の高い暖色で塗られた家々が並ぶ、温かな光に満ちた街。
ここが、中都市セレンティア。
料理の香ばしい匂い。
商人たちの威勢のいい声。
露店の湯気と、甘い果物の香り。
“人が生きている”熱がそのまま街に溢れていた。
「おお……今までで一番にぎやかだな」
感嘆するカイの頭の上で、ちび白獅子がころりと寝返りを打つ。
その瞬間――
「そこのお兄さーん! ストップーーッ!!」
軽い風切り音。
赤い影が、横から弾丸のように飛び込んできた。
「わっ!? うわああっ!?」
カイは少女に押し飛ばされ、屋台の裏へ転がり込む。
ドガァン!!
直後、頭上に巨大な荷物が落下した。
危うく直撃だった。
「ふぅ〜、間に合った! よかったぁ!」
カイが見上げると、
赤髪を高めのポニーテールに束ねた少女が笑っていた。
風色の光をまとった、小さな半透明の羽が肩でふわふわ浮いている。
「い、今の……ありがとう。助かった」
少女は胸を張って名乗った。
「私はコット! ウィンディア族!」
「俺はカイだけど……その羽、もしかして神器?」
「ああ、これ?これは《ウィンドリン》!
風の“流れ”を読むのが得意で、ウィンディア族の象徴なの!」
確かに、落下物を察知した速度は異常だった。
そして、コットの視線がふと止まる。
「……ねぇ、その布……神器でしょ!!」
「は!? なんで分かるんだよ!」
「匂い! ウィンディア族は“気の流れの匂い”で神器を判別できるの!」
「匂いで神器を見抜く能力!? そんなのあるの!?」
コットは布丸を覗き込み、テンションが爆上がりした。
「すっご……!これ、めちゃくちゃ“癒しの気”出してるよ!
こんなの久しぶりに嗅いだ!」
「じゃあ、私も見せるね!」
ポーチから取り出したのは――銀色のスプーン。
スプーンの皿の部分には微細な魔法陣が刻まれている。
「《香泉の匙》っていう下位神器!」
スプーンの先端が光り、柔らかな花の香りが広がる。
「能力はね!
料理の香りを最大化!
素材の“気”を読み取る!
おまけに軽い浄化もできる!」
……っていう、最強の万能スプーンだよ!!」
「いや説明しっかりしすぎだろ!?
しかも便利すぎる!!」
「下位でも使い方次第だよ! 誇れる神器なの!」
コットは鼻をならしてニコッと笑う。
その純粋な自信が、なんとも眩しい。
――と、そこへ怒声が響いた。
「あーあ……また始まった。
ギルドの調査班と、街の用心棒を担うベリオスのケンカだよ」
見れば、ギルド調査員たちは腐敗霧の調査で苛立ち、
周囲の商人に“情報を出せ”と横暴に迫っていた。
一方で、用心棒のベリオスは寡黙な大男。
ひと目で“いい人”とわかるほどの真っ直ぐな眼をしている。
「ベリオスは街を守りたいだけなんだけど……
ギルドが横柄すぎて、毎回衝突するんだよね」
カイが「どうする?」と聞く前に――
「よし! 止めに行こっ!」
「いや早いって!!」
「困ってる人は放っておけない! これがウィンディア流!」
言うが早いか、コットは風のような速度で飛び出した。
赤いポニーテールが弾み、
半透明のウィンドリンがきらりと光る。
ちび白獅子がカイの頭でぐらりと揺れながら鳴いた。
「……ああもう! 行くなら俺も行く!」
カイも走り出す。
人混みをかき分けながら、コットの後を追った。
ーーその頃、とある一室。
黒い水面のような床が静かに波紋を広げる薄闇の部屋。
ガラクは指を弾き、唇の端を吊り上げた。
「随分と機嫌が良さそうだな、ガラク」
壁にもたれる男が、笑いを含んだ声で言う。
獣のような目をした男――ガラクは、わざとらしく肩をすくめた。
「最近な。“新しいペット”を仕込んだんだよ」
「また妙なものに手を出したのか」
ガラクの声が愉快そうに低く震える。
「……“俺の力”を少し与えてやったのさ」
「今じゃ――もともとの能力に加えて腐敗霧を生み、操る“上等の怪物”に化けた」
「……相変わらず趣味が悪い」
「そういう変化を見るのが何より楽しいんだよ。
自分の手で世界を腐らせる“道具”を育てるのはな」
「で? そいつをどこに放った」
ガラクはゆっくりと笑みを深めた。
「――セレンティアの近くだ」
部屋の空気がひやりと沈む。
「最初に何を腐らせるか……楽しみでしょうがねぇ」
黒い影が床の水面に滲み、世界が静かに歪んだ。
《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》
《スキル:変幻自在/布界収納(小)/水纏状態》
《限定スキル:雫裂》
《特殊スキル:黒喰/転換布癒Ⅰ/微癒の湯化》




