第5話 新しい仲間
カイはタオルを掴み、勢いよく外へ飛び出した。
夜風が肌を刺す。
昨夜の戦闘の余韻が、まだ街の空気に重く残っていた。
「どこだ!?」
剣士が指差した先――
そこにいたのは、
ちょこん、と座る白い影。
「……あれ?」
あれほど暴れ狂っていた黒獅子が、
黒紋を吸い取られた結果――元の“白獅子”へ。
その巨大な身体は嘘のように落ち着き、
まるでカイを待っていたかのように静かに尾を揺らしていた。
「おまえ……待ってたのか?」
白獅子はふわりと立ち上がり、
犬のように柔らかい目をして、カイへ歩み寄る。
そして――そっと頭を擦りつけてきた。
(黒紋が消えたことで正気に戻った……?
いや、それだけじゃない。意思が……通じてる?)
胸の奥がじんと熱くなる。
「……感謝、してるってことか?」
白獅子は小さく鳴き、頷くように見えた。
周囲で武器を構えていた剣士たちも、ため息をつく。
「す……すげえ、あの怪物と同じ生き物とは思えない……!」
「でも黒紋……あの黒いオーラはいったい……」
カイの疑問に、剣士のひとりが答えた。
「〝闇の神器〟が生み出す波動です。あれを受け続けたモンスターはアビス化し、さらに深く侵されると黒紋が刻まれます。黒紋持ちは……アビスよりも一段階上の危険種と言われています」
「闇の神器……そんなものが……」
「はい……特に元が凶暴なモンスターは、影響が強く出る傾向がありまして――」
その時。
「カイさん!」
ノクタニアの人々が駆けつけてきた。
昨夜の戦闘で負傷した仲間を抱えている。
「黒獅子を倒してくださったおかげで命は助かりました。でも……まだ治療が必要で……!」
カイの脳裏に浮かぶ。
――微癒の湯化。
湯に触れるだけで、軽度の傷を回復させる力。
「……この宿の風呂、使わせてください。みんなを連れてきて!」
浴場へ人々を案内し、布丸を湯へ浸す。
《特殊スキル【微癒の湯化】》
淡い桜色の光がふわりと湯の表面を染めた。
湯に入った人々が、一斉に息をのむ。
「……あれ? 痛みが……薄い……」
「体が軽い……! 疲れが消えていく……」
「すげぇ、本当に……癒やされてる……」
「それにしてもカイさん、そのバスタオル……やっぱり神器ですよね!?」
「いや、やっぱりってなんだよ。見た目ただのタオルだろ」
「黒獅子を倒し、回復の湯まで作るタオルなんて前代未聞ですよ!」
「もうタオル界のトップです!!」
「タオル界ってどんな界隈だよ!」
浴場に温かな笑いが広がった。
――けれど。
湯気の奥で、カイは静かに思考する。
(もし……この湯をもっと大きな場所で使えたら……)
癒せる人の数は、もっと多くなる。
剣士の一人が言う。
「黒獅子は倒れましたが、ほかの地域では黒紋・アビス化の被害が続いています。昨夜も話したんです……カイさんの湯が大都市にあれば、状況が変わるかもしれないって」
さらに続けた。
「北には中都市セレンティア、その先には大陸最大の都市――首都ソルテミアがあります。そこなら……あなたの力がもっと多くの人を救うはずです」
カイは拳を握る。
「……行くよ。ソルテミアへ。
俺の温泉で……助けられる人がいるなら…。たくさんの人を笑顔にできるなら。」
翌朝。
街は少しだけ明るさを取り戻し、
人々はカイに深々と頭を下げていく。
旅支度を整えたカイの横に――白獅子がついてきた。
「いや、お前はデカすぎて街で大騒ぎになるって……」
白獅子は数歩下がり、
静かに目を閉じる。
そして――白い光に包まれた。
光が晴れる。
その場にいたのは、
手で抱えられそうなサイズの――
白い猫のような、小さな獅子。
青く澄んだ瞳。
ふわふわの白毛。
尾の先には小さな太陽のような飾り。
「……かわ……反則級にかわいいんだけど!?!?」
ちび獅子は当然のようにカイの頭へぴょんと飛び乗る。
「人の頭を“住処”にするな!!」
しかし周りの住民は微笑み、
不思議な温かさが街に満ちた。
「まずはセレンティアで情報収集だな……」
「カイさんならきっとできます。
セレンティアは神器を持つ人もいる街ですから」
「神器持ち……」
心が静かにざわつく。
(……忘れてた。俺以外にも、この世界には……)
カイは歩き出す。
頭の上で、ちび白獅子の尾が揺れた。
「そういえば……名前つけなきゃな。白……シロ……?」
ちび獅子「………(無言の首傾げ)」
「いや、そんな“諦めたような目”するな!」
そうしてカイは、新たな仲間とともに――
北の街、セレンティアへと向かった。
《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》
《スキル:変幻自在/布界収納(小)/水纏状態》
《限定スキル:雫裂》
《特殊スキル:黒喰/転換布癒Ⅰ/微癒の湯化》




