第3話 黒獅子、襲来
北へ続く街道を歩くカイの後ろで、草がカサリと揺れた。
「……つけられてるよな、これ」
振り返った瞬間、息が止まった。
最初に戦った狼型モンスター――その“群れ”が、森の影からぞろぞろと姿を現していた。
十、二十……数えるだけ無駄だ。
(黒いオーラは無い。でも、この数は普通じゃねぇ!)
カイは布丸を構え、収納から岩を引き出して振り払う。
だが、飛びかかる狼の牙と爪が、じりじり防御を突破してくる。
「っ……危な……!」
肩、腕、脇腹。
裂ける痛みにカイは木陰へ転がり込んだ。
「やば……普通に死ぬだろこれ……!」
そのとき、脳裏に浮かぶ一つの可能性。
(……《転換布癒》!)
布丸を傷口に当てる。
じわり、と温かい光が広がり――裂けた皮膚がゆっくり閉じていく。
「よかった……これ、ちゃんと回復するんだ……!」
しかし、光の匂いを嗅ぎつけたのか、狼の群れが一斉に飛び込んできた。
「うわ待っ――!」
――ガキィン!
鋭い金属音。
カイの目の前を剣閃が横切り、狼を薙ぎ払った。
「大丈夫か!」
「街道で戦うな! ノクタニアへ急げ!」
胸にノクタニアの紋章を刻んだ兵士たちが雪崩れ込む。
彼らは手際よく狼を散らし、カイを囲んで街道を駆けた。
──ただし、この時のカイは気づいていない。
狼の群れが後退したのは、
“何か”から逃げるためであり――
その“上位捕食者”が、静かに彼らを追ってきていることを。
◆
ノクタニアの街に入るや否や、カイは治療所へ運ばれ、応急処置を受けた。
「最近、モンスターの動きが異様でな……おそらく闇の神器の――」
兵士の説明が続く、その時だった。
空気が、凍る。
「……感じるか? この、異質な気配……」
街の広場で人々がざわめく。
兵士たちは剣へそろそろと手を伸ばす。
そして現れたのは――
影そのものの獅子。
全身は墨より黒く、黒い霧のようなオーラがゆらゆらと揺れる。
胸に刻まれた黒紋が、脈打つように光った。
黒獅子。
ドォンッ!!
一歩踏み込んだだけで街石が割れ、
雷がバチバチと走り、前衛の兵士が数人吹き飛ぶ。
「雷まで使うのかよっ!? 反則だろ!」
カイも布丸を握る。
だが――
「……水がねぇと《雫裂》が使えねぇ……!」
焦る視界の中で、倒れ込む母親と、その足元で震える小さな子どもが見えた。
黒獅子がゆっくりと、しかし確実に親子へ向かう。
(間に合わない……
また、俺は……見てるだけなのか)
脳裏に浮かぶのは、現実世界で諦め続けていた自分。
感情を殺し、望みもなく、ただ流されて生きていた日々。
(……もう、やめだ)
カイは歯を食いしばり――叫んだ。
「俺は――もう逃げたくない!!」
その瞬間。
胸の奥で何かが爆ぜ、布丸が熱を帯びた。
《観測:黒紋体との遭遇。逃避傾向の消失を感知。
立ち向かう闘志を確認。Stage昇格条件達成》
《 Stage1 ―流布― 到達 》
黒獅子の咆哮が響き、街が震える。
―――カイと布丸の力が、ついに“覚醒”を始める。
◆
ーーー第4話へ続くーーー




