第1話 黒きオーラの獣、現る。
――逃げろ、逃げろ、逃げろ!!
転生一分でモンスターに遭遇し、そのまま全力疾走していた。
しかも相手は狼型のモンスター。牙むき出しで、明らかに殺る気満々だ。
「ちょ、待っ……異世界初心者に優しくねぇ!」
木の根に足を取られそうになりながら隙を見て身を隠す。
息を整える暇もなく、《ステータス画面》を呼び出した。
《神器“布丸” ランク:Stage 0》
《スキル:形態変化》
「……Stage 0!? 下位神器どころか、最下位中の最下位ってことか!!?」
だが文句を言っても始まらない。
モンスターはもうすぐそこだ。
「……やるしかねぇ!」
「せめて武器になってくれよ、布丸!」
意を決して布丸を剣の形へ変形させる。
形だけは、それっぽい。
振ると……一応、振れる。
「木の枝はダメだったけど、モンスターになら……!」
俺は覚悟を決め、飛びかかってきた狼モンスターに斬りかかった。
「いけぇぇっ!」
――次の瞬間。
グニャッ。
「やっぱり柔らけぇぇぇぇ!!ただの叩きタオルだコレ!!」
手応えゼロ。切れ味ゼロ。
剣の形をした“ただの布”では、皮膚一枚傷つかない。
「くそっ……! どうすりゃいいんだ!」
息が荒い。
狼は低く唸り、じりじりと距離を詰めてくる。
地面の草が、爪先でざくざくと削れる。
焦げるような緊張。
「……形は変わる。でも柔らかい。なら……“中身”を使う!」
視線の先、小川の脇に転がる岩。
俺は駆けだし、タオルを岩にかぶせる。
「頼む……変われッ!」
タオルが淡く光り、岩を包み込むように形を変える。
ずっしりと腕に重みが乗る。
「ハンマーっぽい……のか!?」
振り返れば、狼が飛びかかってくる。
時間が止まったような一瞬。
岩を包んだ布を全力で振り抜く。
ドゴッ!!
地面が震え、衝撃が腕を突き抜ける。
狼の体が弧を描き、数メートル先に叩きつけられた。
動かない。
「……倒した……? 本当に倒した……!」
手が震えている。けど、勝てた。
「……よしっ……布丸、お前……やればできるじゃん」
その時、機械的な通知音が響いた。
《観測:モンスター初討伐を確認》
《新スキル【伸縮自在】【布界収納(極小)】解放》
《能力:伸縮自在=ある一定の範囲まで長さを調節できる。布界収納=対象物を布内部空間へ収納する》
「おおぉ!? やっぱ成長するんだな……!おまけに収納スキルまで……」
「念のため岩、もらっとくか」
試しに岩を収納してみると、一瞬で布の中に吸い込まれた。
なんだこの便利さ。
さっきまで最下位だと思ってたけど、一気に夢が広がるじゃないか。
森を抜け、歩くこと小一時間。
小さな村にたどり着いた俺は、事情を話し、村人に迎え入れてもらった。
「最近、モンスターが異常に凶暴化していてな……とくに一番恐ろしいのは――」
村長が険しい顔で告げようとした、そのとき。
――ズズ……ズゥゥ……。
地面を這う、不吉な音。
空気が一気に冷え、村人全員の顔が青ざめる。
「ま、まずい……あれが来た……!」
「え? さっきのやつと同じ……?」
外をのぞいた瞬間、俺は凍りついた。
「な……なんだよあれ……」
先ほどの狼型モンスター。
だが大きさも気配も、まったく別物だった。
黒い霧のようなオーラが全身からぼうっと立ち昇り、
その瞳には“獲物”の光しかない。
――本能で分かる。さっきのとは、格が違う。
「……まじか。布丸でどうにか……なるのか?」
俺は布丸を握る手に力を込める。
黒い狼がゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。
その視線は、冷たい処刑台そのものだった。
―――第2話へ続く。
《神器“布丸” ランク:Stage 0》
《スキル:形態変化/伸縮自在/布界収納(極小)》




