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第11話 七つの大陸、還らぬ力


「……待って」


 最初に動いたのは、リディアだった。


 叫びも混乱もひと呼吸で飲み込み、

 白銀の少女――シロを、食い入るように見つめる。


「人化……?」


 眼鏡をずらし、ぐっと距離を詰める。


「いや、待て。落ち着け私。

 これは……偶然じゃない」


「ち、近い近い!?」


 コットが一歩引く。


 シロはというと、よく分からないまま、また首を傾げた。


「……ピュ?」


「……あぁ、やっぱり」


 リディアは、確信めいた声で頷いた。


「この反応。魔力の密度。

 アオラント大陸のモンスターじゃない」


「え?」


 カイが思わず声を出す。


「どういうことだ?」


 リディアは、工房の壁に刻まれた地図を指した。


「この大陸――

 私たちがいる《アオラント大陸》はね」



「七つある大陸の“中心”だ。

 人が住みやすく、争いも比較的少ない。

 その代わり……世界としては、いちばん小さい」


「へぇ……」


 コットが素直に感心する。


「アオラントを囲むように、六つの大陸がある。

 それぞれ、環境も文化も、生き物もまるで違う」


 リディアの視線が、再びシロへ戻る。


「そして――

 この子は、おそらくその中でも」


 一拍。


「《魔獣大陸ガルダーム》の存在だ」


 空気が、少しだけ重くなる。


「ま、魔獣大陸……?」


 コットがごくりと喉を鳴らす。


「聞いたことある……

 モンスターが支配してるって噂の……?」


「うん。噂じゃなく、事実に近い」


 リディアは苦笑した。


「人間の国がない。

 強いモンスターが、強いままに生きている大陸」


「神器を喰らったモンスターがいる、って話もある」


「神器を食べたってこと!?」

 大きく丸いコットの目がさらに大きくなる。


「噂レベルの話だけどね。ちなみに――」


 考え込むように顎に手を当てたリディアが、さらりと言った。


「魔獣大陸や他の大陸へはね、

 精鋭のギルドが定期的に向かっているよ」


「え、行けるんだ?」


 カイが身を乗り出す。


「うん、向こうでしか採れない素材や、

 その大陸でしか作れない道具があるからね。

 危険でも、挑む価値はある」


「それで――」 


「アオラント大陸は中心にある。

 だからこそ、大陸間貿易の中継地として機能してる」


「なるほど……」


 カイはゆっくり頷く。


「各大陸の素材が、ここに集まるんだな」


「そう。

 表に出回るのは一部だけどね」


 リディアは、ちらりと意味深な視線を向ける。


「“本物”は、だいたい裏で動く」


 その言葉に、カイの胸が少しだけ高鳴った。


(……行ってみたい)


 まだ見ぬ大陸。

 知らない素材。

 癒しの形も、きっと一つじゃない。


 ――もっと、知りたい。


 そんな気持ちが芽生えた、その時。


 コットが無意識に、シロの方を見る。


 白銀の少女は、悪びれもなく手を振った。


「ピュイ」


「……怖く見えないんだけどなぁ」


「見た目と中身が一致するとは限らないよ?」


 そう言いながらも、

 リディアの声に警戒よりも好奇心が勝っているのが分かる。


「でも、問題はそこじゃない」


 リディアは、顎に手を当てる。


「大陸間の移動は、限られたルートしか存在しない。

 それも、国や組織が管理しているものばかりだ」


「つまり……」


 カイが言葉を継ぐ。


「どうやって、ガルダームからここへ来たのかが分からない?」


「正解」


 リディアは、少し楽しそうに頷いた。


「偶然?

 事故?

 それとも――誰かの意図?」


 沈黙。


 カイは、無意識に布丸を握っていた。


「……なぁ」


 ふと、口を開く。


「この世界、思ってたより……広いんだな…」


 コットが、ぽんと手を叩いた。


「つまりさ!」


 二人を見る。


「世界には、まだまだ知らない“癒せる可能性”も、

 “美味しい素材”も、いっぱいあるってことだよね?」


「……君は本当にブレないね」


 リディアが吹き出した。


 カイは、小さく笑って、シロを見る。


「なぁ……

 お前、どこから来たんだ?」


 少女は、少しだけ考えるように首を傾げ――


「……ピュ」


 それだけ言って、

 カイの袖を、きゅっと掴んだ。


 答えは、まだ先。


 けれど――


 世界は、確実に広がり始めていた。


 ひとしきり話が落ち着いたあと、

 リディアはふと、当然のように口にした。


「それで――

 ソルテミアへは、キャラバンで行くんだろう?」


「うん! さすがリディア!」


 コットが即答する。


「……え?」


 そこで、カイだけが固まった。


「……キャラバン?」


「ほらね、やっぱり」


 リディアは肩をすくめて、くすっと笑う。


「ソルテミア行きなら、

 巡回キャラバンを使うのが一番安全だよ。


 コットが一歩前に出て、にやっと笑った。


「行ってからのお楽しみだよ、カイ」


「……お楽しみ?」


「うん。

 びっくりすると思う!」


「嫌な予感しかしないんだけど……」



 リディアはその様子を見て、楽しそうに目を細める。



「ソルテミアは、首都というだけあって情報も人も集まる場所だ。君たちの夢にとっても、悪くない」


「ありがとう、リディアさん」


 カイが頭を下げると、

 彼女は慌てて手を振った。


「いやいや!

 わたしはただ、好奇心で動いてるだけだから!」


 そう言ってから、ふと背後を振り返る。


「……あ」


「?」


「……あれ?」


 工房の奥。


 さきほど途中まで組んでいた装置が、

 不穏な音を立てていた。


 キィィ……

 ボンッ……

 じわじわと、赤い光。


「……リディア?」


「えーっと……」


 額に汗を浮かべ、目を泳がせる。


「おかしいな……

 出力、ちゃんと抑えたはずなんだけど……」


 カイが嫌な予感に後ずさる。


「それ、爆発するやつじゃ……」


「だ、大丈夫!

 たぶん、まだ――」


 バチンッ!!


 青白い火花が散った。


「危ない!!」


「うわぁぁぁ!?」


 コットが即座にカイの腕を引く。


「外! 外出よ!」


 三人が工房を飛び出した瞬間――


 ――ドンッ!


 中から、軽めだが確かな爆発音。


 煙が、もくもくと窓から漏れ出す。


「…………」


 しばしの沈黙。


 工房の中から、

 リディアが顔を出した。


「……あはは」


 前髪が、ちりっと焦げている。


「失敗、失敗」


「リディア!!」


「だ、大丈夫だから!

 ほら、建物は無事だし!」


 親指を立てるリディア。



 そうして、カイたちは工房を後にする。


 明日から始まる旅。


 キャラバン。


 ソルテミア。



 翌朝。


 キャラバン乗り場へ向かう道の途中で、

 一人の男が待っていた。


「――カイ」


 ベリオスだった。


「わざわざ……?」


「改めて、礼を言いに来た」


 深く、頭を下げる。


「セレンティアを救ってくれた。

 街を代表して――感謝する」


「そんな……」


 カイは慌てて手を振る。


「俺は、やれることをやっただけだ」


「それでもだ」


 ベリオスは顔を上げ、真っ直ぐに言った。


「お前は、この街の英雄だ」


 少しだけ照れくさそうに、

 それでも誇りを込めて。


「……行くんだな。ソルテミアへ」


「はい」


「なら――」


 拳を軽く胸に当てる。



 カイ、コット、シロ、三人の背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。


 その様子を、ベリオスは静かに見送っていた。


 ふと――


 視線が、シロに留まる。


(……あんな子、街にいたか?)


 白銀の髪が、朝日にきらりと光る。


(いや……)


 胸の奥に、微かな引っかかり。


(――あの色)


 一瞬、脳裏をよぎった噂。


 白いモンスター。

 腐敗霧の奥で目撃された、異質な存在。


(……まさかな)


 ベリオスは、小さく首を振った。


「考えすぎだな」


 英雄と、その仲間。


 それだけの話だ。


 そう思いながら――

 ベリオスもその場をあとにした。 




 一方その頃。


 とある一室にて、闇が軋んだ。


 湿った空気の奥で、黒い魔力が脈動する。


「……消えた?」


 低く、苛立ちを含んだ声。


 ガラクの眼前には、

 外周に不規則な棘を備えた黒鉄の輪が浮かんでいた。


 完全な円ではないその輪の内側――

 影そのもののような第二の輪が、静かに回転している。

 そして、その中心空間には、黒紋が刻まれていた。


 その異様な輪に、ガラクは指先で触れる。


「……おかしい」


 指が、空を掴む。


 本来、そこにあるはずの“感触”が、ない。


 デラパイゾンに施した鎖の契約。

 それは自らの力の一部であり、

 鎖を伝う信号によって――

 デラパイゾンが倒されたことは、すでに分かっていた。


 にもかかわらず。


「戻ってくるはずの俺の力が……なぜ?」


 信号が途絶えた、その直後。

 鎖そのものが――消失している。


 あり得ない。


 倒されれば、力は必ず還る。

 そのはずだった。


 次の瞬間。


 闇が、爆ぜた。


 ゴッ――と鈍い音を立て、床が沈む。

 輪の中央で、黒紋が狂ったように脈打った。


「消された……!? 奪われた……!?」


 怒号が、闇を裂く。


「この俺の力を……誰が……!」


 歯を食いしばり、

 抑えきれぬ殺気が、室内に溢れ出す。


 その時。


「――無様だな、ガラク」


 静かな声が、背後から響いた。


 振り返る。


 そこに立っていたのは、

 黒衣を纏った男――フェルド。


 その魔力は、

 ガラクと同等、あるいはそれ以上。


「……フェルド」


「お前の力が途切れた件、把握している」


 そして、淡々と告げる。


「玉座から、集合の合図が出た」


 その言葉に――

 闇が、一瞬だけ凍りついた。


「……玉座から?」


「ああ。」


 フェルドの視線が、遥か彼方を射抜く。


「俺たちの知らないところで“想定外”の何かが動き始めている」


 ガラクは、ゆっくりと拳を握った。


「……なら、行くしかないな」


 低く、獣のように笑う。


「俺の力を奪った“何か”

 必ず、引きずり出してやる」


 闇が、静かに閉じていく。




 第12話へ続く。



 《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

 《スキル:変幻自在/布界収納(小)/水纏状態/魔力吸収》

 《限定スキル:雫裂・二式》

 《特殊スキル:黒喰/転換布癒Ⅰ/微癒の湯化》

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