表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

第2話 ギルド参謀、初任務で王都を救う

 戦場が静まり返った。風が焦げた鉄の匂いを運ぶ。

 その中心に立つ神谷蓮の姿を、兵士たちは呆然と見つめていた。

 「……おい、本当にあの男が指示を出したのか?」

 「うそだろ。あんな戦略、百戦錬磨の隊長でも思いつかねえ」

 蓮は肩で息をしていた。だが、心の奥底では――妙な高揚感が渦巻いていた。

 “仕事の会議より、ずっとやりがいがあるな”


 その夜、彼は辺境ギルド〈蒼の鷹〉に正式に招かれた。

 ギルドマスター・リュシアは鋭い瞳を持つ女性だった。

 「あなた、神谷蓮と言ったかしら。戦場での采配、見事だったわ。王都でも噂になってる」

 「いや、あれは……たまたま運が良かっただけで」

 「運だけで敵軍を壊滅させる人間なんていないわ」

 リュシアは微笑む。その笑顔には、獲物を見定める策士の色があった。

 「ギルド〈蒼の鷹〉は今、王都からの緊急依頼を受けているの。参謀として、あなたを推薦したわ」

 「さん……ぼう?」

 「ええ、“戦を導く頭脳”よ」


 社畜ゲーマーの頭に、警鐘が鳴る。

 「すみません、俺、頭脳職は得意ですけど、人前で責任取るのは……」

 「大丈夫。責任は私が取る。あなたは、指示を出すだけでいい」


 ――こうして、神谷蓮の“初任務”が始まった。


◆ ◆ ◆


 王都ローデリアは、夜でも光が絶えなかった。

 白い城壁と尖塔の並ぶ美しい都。しかしその美しさは、いまや焦げついている。

 「反乱軍が下町を制圧。民兵が逃げ遅れてる!」

 「市門が閉じられた、補給線が断たれたぞ!」

 ギルドが到着したとき、城壁の内外で戦火が上がっていた。

 蓮は地図を広げ、無意識に机上のペンを“ポインター”のように動かした。

 「敵勢力は三千。城門を占拠してるのは五百。だが――これはおかしい」

 「なにが?」リュシアが問いかける。

 「反乱軍の指揮系統がバラバラだ。……多分、陽動だ。狙いは、王都の中央通信塔」


 リュシアの目が鋭く光る。

 「通信塔を落とされたら、王国軍全体の指揮が取れなくなる」

 「だから、反乱は囮。主力は西門の地下道から回り込む」

 蓮は指を鳴らした。

 「第五班、北門を捨てて西門へ。第二班は屋上伝令線の確保。第三班、逃げ遅れた市民を避難誘導」

 「お、おい! そんな勝手に指示出して――」

 「現場判断は一分遅れれば百人死にます!」

 声に、迷いはなかった。

 “クライアントの無茶な要望を三分で捌く”

 それを十年続けた社畜脳の反射が、戦場で生きる。


 兵たちは動いた。

 蓮が示した通り、西門下の地下道から反乱軍の主力が現れた。

 「やはり……!」

 リュシアが剣を抜き、笑う。

 「いい読みね、神谷参謀!」

 「だから参謀はやめてください。俺、ただのゲーム脳ですから」


◆ ◆ ◆


 戦いが終わったのは夜明け前だった。

 西門の瓦礫の上、蓮は膝をつく。

 「……疲れた。会議三本分の体力使った気がする」

 「ふふ。あなた、本当に変わってるわね」

 リュシアが笑う。その笑みには、確かな信頼の色があった。

 「王国軍が正式にあなたを“参謀”として登録したわ。もう逃げられない」

 「……うそだろ」

 彼は頭を抱えた。

 だが、心の奥底では――確かな熱が灯っていた。

 “この世界、意外と悪くないかもな”


 その日、王都を救った“社畜出身の参謀”の名は、全土に広まった。

 だがそれは、後に訪れる“大陸戦争”の幕開けにすぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ