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世界の守り方  作者:
8/12

休暇の過ごし方

 私は警視総監として、天界警察を束ねるためにいる2人目の代表であり、上は天界警察をお作りになった神です。しかし、私の業務といえば普通の刑事課にいる方々と何ら変わりはありません。時には直接世界に向かい、現地で指名手配犯を捕まえ、自分の管轄は200年に1度、監察を行います。

 特に重要な仕事は上への資料提出の催促と部下たちの仕事の割り振りでしょうか。警視監もいますが、警視監は警視監で任されている仕事もあるため、ずっと1つの仕事に集中することはできません。

 一番大変なのは戦争が行われている時でしょう。戦争時は多くの死者がこちら側に流れ込むため、多くの天界警察は一時的に業務を中断させなければならないことが多々あります。

 そんなことをしていますが、きちんと休暇は取れるようになっています。なにしろ、自宅でも仕事ができるので。


 警視総監は資料に目を通し、ランクを割り振り、天界警察で働く司書や画家、写真家などの状況を把握する。休暇をきちんと取っているか、そして指名手配犯や悪魔に通じているものはいないか、調査をする。主に休暇をきちんと取っているか、を調べる。なぜだか、天界警察は休暇を取る人が少ない。その催促も警視総監の仕事となる。

 その日、警視総監は上に資料を渡すついでに期限の近い資料を受け取りに来た。

「ねー、ニロ」

「なんですか?」

 警視総監は上の資料を提出し、上がどこかに置き、隠れた資料を探す。

「今年、優だけ休暇を一度も取ってないんだけど、大丈夫?」

「は?」

 迂闊でした。そういえばあいつは休むということが苦手で無理やり取らせても年に数回しか休んでいません。

「どうにかできる?」

「しますよ」

「んじゃ、頼むよ」

 そう言いながら上は資料を読み、手を動かしている。

 警視総監は資料を探し、やっと見つけたのか、紙をまとめている。

「他の人もそんなに休まないし、そんなにみんな仕事が好きなの?」

「…事件が終わらないからじゃないですか」

「そうだけど」

「上は休暇をお取りになっているんですか?」

「まあ、年に1ヶ月ぐらいは」

 上は少し目を逸らしながら言う。

 嘘ですね。おそらく1週間程度でしょう。上の仕事はたまる一方で減ることはありませんし、仕方ないと言えば仕方ありません。

 ただ、人が滅亡すれば神は仕事がなくなるでしょうね。神々ならもう一度、世界を作るかも知れませんが。

「そうですか。それではこちらを」

 警視総監はポケットから上の好きなキャラメルを取り出す。

「いいの!?」

「どうぞ」

 上は目をキラキラさせながらキャラメルを受け取り、口に入れる。

「んー!あまーい!」

 私はキャラメル1つでこんなにはしゃげる神がここ以外にどこにいるのか知りませんし、生き物を守るために一喜一憂する神々は本当に不思議な存在と言えるのではないかと思っています。

「では、私は優に休暇を取らせてきます」

「んー、頼んだよ」

 上はキャラメルを堪能するように口をモゴモゴさせながら言った。

「承知しました。ですが、口に物を入れながら話すのは辞めてください」

 上は適当に返事をして美味しそうにキャラメルを食べている。

 警視総監は資料を持ち、上の部屋を出る。

 少しでも疲れが取れればいいのですが、と考えながら警視総監の部屋へ戻り、資料を置く。そして、問題児のところへ向かった。

 刑事課の扉が開き、誰かが大股で刑事課に入ってきた

「優」

 20代に見えるその男性は花のバッチをつけていた。 

 後で調べると真実と愛に関する花言葉で警視総監らしいと思った。

「なんですか?警視総監」

 優は資料を見ながら天国に見回りに行ったときにもらった飴をなめ始める。子どもから落とし物を見つけてくれたお礼だと言って俺ら2人に棒付きの飴を1本ずつ渡してくれた。

「今年何回休みました?」

「5回ほど」

 優は簡単に嘘をつき、警視総監は顔をしかめた。警視総監は心の底から面倒臭いと思っているようだった。

「嘘を付かないでください。上から一度も休んでいないと私に連絡がありました」

「余計なことを」

 優はめんどくさそうに顔をゆがませる。

「普通は年に1ヶ月は休まないとだめです。上も1ヶ月はお休みしているそうですよ」

「いやいや、それ絶対嘘ですよ。それに休んでもやることないですし。赤ずきんだって同じですよ。まず僕より先に言う人がいるんじゃありませんか?」

「は?」

 優から俺の名前が呼ばれ、肩を震わす。

 確かに最近は刑事課で仕事をしていたが、ちゃんと家に帰って睡眠はとっている。なんならここに来てから9時間以上寝ているからか体の調子がいい。休んでいるかと聞かれれば何も言わない。休んでもやることないし。

 警視総監はゆっくりとこちらを向き、俺の方に歩いてきた。それはホラー映像とかによく出てきそうだった。めっちゃ怖い。

「君も、優と同じですか?」

「いや、違いますけど…」

 警視総監は敬語で話しているのに威圧感がすごい。

「では、今年はもう終わりになりますが、何日お休みに?」

「そりゃあ…3日?」

「有給はお使いになっていますか?年に30回ほど取れるようにしてありますが」

「いや…、俺は…1日ぐらい…?」

 有給をお願いしたのは働いてすぐの1回だけだった。その時もやることがなくて天国と中神国を適当に回っただけだった。

「…2人とも」

 警視総監が何か言おうとしたのを優が遮った。

「ロウニン先輩、僕はね、別に有給なんかいらないと思うんですよ。ここは期限内に仕事が終わるんだったら好きなときに休めるホワイト企業じゃないですか。しかも30日も有給が使えるわけないでしょう?」

 警視総監も30日の有給は使いきらないと思っているようだったが、それと休まないことは別だと考えているらしい。

「優、そのロウニン先輩はやめてください。私の名前がニロだからと言って浪人していたわけではありません」

「牢人の間違いでしょ?ね、ロウニン先輩」

「優」

 警視総監はため息をつき、優の顔に向けて何かを投げた。優はそれを左手で受け取り、見た。

「なにこれ…?」

「ボールペンです。前回、よく働いてくれましたので。オリバーにもどうぞ」

 そう言って俺にも優に投げたものと同じような箱を手渡した。

「どうぞ開けてみてください。気に入らなければ返品可能です」

 俺は箱を開ける。

 中には高そうな4色ボールペンが入っていた。赤、青、紫、そして水色。

「なんで青系が2色も?」

 優のボールペンも同じようで、ボールペンを観察しながら聞いた。

「私がいいと思ったので」

 優は適当に返事をした。

「それから、シャーペンも入っているので資料作りに活かしてください」

「へぇ…これ以上働かせようって魂胆?」

「そんなわけないでしょう?今から2日、休んでいなさい」

「やだね」

 優はペンの使い勝手を確かめるように机にしまってあるメモ帳でくるくると円を描いている。楽しそうだ。

「うん。流石先輩。使いやすいよ」

「当たり前です。私が選んだんですから」

「仕事もしやすい」

 そう言って優は資料に書き込みを始めた。

「今日から休みなさい。警視総監命令です」

 警視総監はそう言うと俺たちを刑事課から追い出した。さすが警視総監、というところか、気が付いたら一瞬で刑事課から追い出されていた。

「乱暴すぎでしょ…」

 優はポケットに両手を入れながら刑事課を背にして歩く。俺は優の後ろをついて行きながら聞く。

「どこに行くんだ?」

「監察」

「仕事はしたらだめなんだろ?」

「監察はほとんど仕事じゃないよ。内容は全部頭に入ってるし。赤ずきんもさっきまで読んでたでしょ」

「そうだけどよ…メモがねぇとやっぱり不安だ」

 いくらか覚える時間が早くなったとは言え、まだ完璧には覚えきれていない。

「ん」

 そう言って左ポケットから俺のメモを出した。

「追い出される前に取ってきた」

 こいつどれだけ仕事バカなんだよ。俺は笑いながらメモを受け取る。

「仕事バカがいると上は大変だな。警視総監も疲れているようだった」

「赤ずきんもでしょ?」

「そうか?」

 俺は好きな時に休めると聞いてホッとしていたし、出勤時間も9時30分前後だ。期限内に仕事が終わればそれ以外は好きに動いてもいいと言われているし、仕事の量が多いだけで結構なホワイト企業だと思う。少なくとも、俺が働いていた場所の保育士よりはホワイトだと思う。

「それに仕事バカは僕たちだけじゃないよ」

「どんだけいんだよ」

「さあね。でも僕たちだけじゃないのは確実」

 優はボールペンを胸ポケットに仕舞い、楽しそうにスキップをしながら向かった。

 俺も警視総監から貰ったボールペンを内側のポケットにしまい、優の後を追う。これじゃあ、警視総監が言った意味がねぇなと思ったけれど、これが俺のやり方ってことで。

 そう思いながら監察に向かった。

 監察は問題がなければ何もしない。ほとんど観光みたいなものだった。

 今回も何もなく、無事監察が終わったはずだった。


 刑事課に戻り、警視総監に呼び出されるまでは。


 優が監察は仕事じゃないと言ったから行けると思った。そんな言い訳をしながら俺らは警視総監の部屋で正座をしていた。

「ねー、足痛いんだけど。ってか暇」

 優が本当に暇そうに正座をしながら警視総監に悪態をつく。

「そのなぞなぞでもやってたらどうですか?」

「解き終わった。簡単すぎてつまんない」

「では、数学でもやっていなさい」

「数学好きじゃない」

「…本でも読んでいなさい」

 警視総監は疲弊していたが、楽しそうだった。

「で、なんでここで正座させられてるわけ?」

「あなた方が私の命令を聞かずに監察に行くからでしょう?優、貴方は何回目だと思っているんですか」

「んなの覚えてないね」

 優は正座を崩し、あぐらをかきながら笑う。反省はしていなさそうだ。

「…覚えていないほど行っているということですか?」

「さあね」

 俺は逃げたい、今すぐに。

 俺に火の粉が降りかかりそうで怖い。

「では、地獄の門番と情報共有。それから地獄からの脱出可能性を調べてきてください。よかったですね。やることがあって」

 警視総監は脱出の可能性を調べるために人数が欲しかったらしい。優も俺も技術、能力ともに問題ないと判断された。

 さらに心を読むと囚人のように地獄から脱出しなければならないらしい。脱出ができれば地獄の管理を見直し、脱出不可能にしなければならない。脱出ができなければ改善点を聞き、協議する、ということらしい。

「…やだね」

 優は少し考えてから答えた。

「僕だって仕事があるんだ。僕の仕事をさせてもらうよ」

「おや、そうですか。では、こちらをオリバーに見せてもいいですね」

 優は何を言っているか分からない、というように首を傾げた。が、すぐに顔を赤くして反論した。

 警視総監は優の弱みである写真をいくつか持っているようで、その一番恥ずかしい写真の1つを俺に見せようと企んでいた。

 俺を巻き込まないでほしい。俺は仕事がしたいだけだ。地獄にはできるだけ行きたくない。

「オリバー、貴方も優と一緒に地獄で仕事をお願いできますか?」

 終わった。

 警視総監は優をあしらいながら俺に言った。警視総監からのお願いだ。拒否するより承諾したほうが今後もいいだろう。仕方ない。

「承知しました」

 俺はこれも経験だと思うようにして承諾した。警視総監は承諾され、嬉しいらしく、ニコニコと笑っていた。

 優も諦めたのか、地獄に向かうことにしたらしい。

「では、頑張ってきてくださいね」

 警視総監は俺らにそう声をかけて資料に目を落とした。もう話すことがないらしい。

「仕方ない。行くよ、赤ずきん」

「あぁ」

 仕事のしすぎで休みを取らされたはずなのに仕事の一環で地獄に向かった。これじゃあ休みじゃねぇな、なんて思ったけれど、気にしないことにした。どうせ休んだところで何もしないのだから動いていたほうがいい。

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