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世界の守り方  作者:
7/12

不条理と人と 後編

【神】

 世界を統治し、見守る存在である。

 姿形を自在に変えることができるため、本当の姿を知っている人は少ない。ある説には概念であり、姿はないとまで言われている。

 好きなことは音楽を聴くこと。人と話すこと。

 苦手なことは崇められること。信じてもらえないこと。


 その日、私は地上に降りて人と会話をすることを楽しんでいた。

 いつものようにぶらぶらと歩いていると、肩に人がぶつかり、その人は転んでしまった。

 私はすぐにその人に謝り、手を差し出す。

「ごめん、大丈夫?」

「あぁ。俺の方こそすまん」

 それがヒロトとの出会いだった。

「ヒロトって音楽やってたんだ。私も音楽は好きだよ」

「そうか。俺はうまくいかなくて途中でやめちまったけどな」

「えー、勿体ない」

「俺ができないと思ったらやめる。それが俺だ」

 ヒロトは不思議な人だった。小さい子のように笑い、甘いものが好きだった。仕事はしていないようでいつもカフェでココアを飲みながら外を眺めていた。

 そして、私はヒロトと話すことを楽しみに地上に降りた。

 出会ってから3ヶ月ほどで昔からの友人のように話せるようになった。

 ある日、ヒロトが私にこんな話をした。

「神さんって本当にいると思うか?」

 ヒロトは神のことを神さんと呼んだ。

 私は困惑した。なぜなら私自身が神だからだ。私がこの世界を作り、統治している。

 私はその質問にあいまいにいるのではないか、と答えた。

「だよな。俺もいると思う。だって神さんがいるからこうやって生きてられんだよな」

 ヒロトはまた笑った。そして、悲しそうな顔をして言葉を続けた。

「でもみんな神さんなんかいないっていうんだよ」

「え…」

「神さんがいるならこの世はこんなに生きづらくないっていうんだよ」

 私は衝撃を受けた。私はこれまで人々がよりよく生きられるように努力し続けた。それでもまだ足りないのか。

「ここだけの話しなんだけどよ、神さんを殺そうとする動きがあるらしい」

「え、でもどうやって?」

「さあな。俺は知らねぇけど神さんを敵に回すなんて恐れ知らずすぎるよな」

 ヒロトは笑って流していたが、私には背や汗が出た。神を殺すとなれば簡単だ。全員が信仰をやめればいい。神はいないものだと認識すれば私は居なくなる。消えたくない。私はそう思った。しかし、人々の考えは尊重したい。

 それからヒロトとわかれ、誰にも相談できない板挟み状態の日を何週間、何ヶ月と過ごした。唯一、天界警察の神にはそれとなく話したが、確実性ではないため、動かないだろう。

 そしてカフェでヒロトがまた神について状況を話してくれた。その内容はフェスの日、音楽をなくして神を殺す。そういう内容だった。私はもう何も分からなくなった。ヒロトが言うように、リセットをすれば私は消えなくて済むのではないか、そう思うようになり、音楽が消えたフェスの次の日、私は世界を壊すことにした。

 俺達はインカムを付けるようネコから指示が出た。

 インカムを繋ぎながら地区の状況を1人ずつ端的に説明する。

 県北の方にいるネコは竜巻が家屋などを吸い上げると突如として消え、県西にいるメリア、県南にいる優は竜巻がまだ発生しており、避難所に逃げる人が多数いるようだった。俺の方もネコと同じく、竜巻は消えたが、何か他に大きな事が起こる予感がしていた。

 ある程度避難が終わり、大丈夫だと考えた俺達は県央のフェスが開かれる予定だった広場に集まることにした。


 そこには、蹲っている黒髪の男性と背中をさすっている金髪の男性がいた。

高谷弘人(たかやひろと)

 メリアがポツリと指名手配犯予備軍の名前を言った。俺はどちらのことを言っているかわからず、交互に見た。メリアの意図的に金髪の方だろう。では、黒髪は2人の言っていた神ということになる。

「もう…誰も信じられない」

 黒髪の男性がそう言うと広場の木々が揺れ始め、竜巻が発生した。こいつのせいで人は、子どもは震え、不安になっていたんだ。

「神、聞こえているよね。貴方を信じている人はたくさんいる」

 優はいつもより大きな声だが、怒鳴るわけではなく、小さい子をあやすような落ち着いた声だった。

 神はその声を否定するように竜巻や風が大きく、強くなる。

「ヒロト、私は」

「ジン、あいつらも神のことを悪く言った奴らだ。どうせ全部神のせいにしてるんだよ」

「そうだよ…私のことなんか誰も…」

「俺はお前の味方だ」

 神は高谷弘人しか信じられないらしい。神は俺らの方を虚ろな目で睨んだ。神が人に流され、干渉してしまうとは…。言い方が悪いかもしれないが愚かだ。

「話し合いは無理、か…」

 ネコはため息をつき、竜巻を止めることに集中するらしい。

「赤ずきん」

 優が神をじっと見ながら俺に話しかけた。

「今から言う人たちを広場(ここ)に集めて」

 そう言い、名前を言った人たちはここでフェスをしようとした人の名前だった。その中の全員とは言わずとも、有名な人たちばかりだ。俺がお願いしても承諾するとは思えない。

「…駄目だった場合、もう手がない」

 優は焦るような表情をしていた。確かに神は音楽が好きらしいが、参加者は歌えず、弾けなくなった人ばかりだ。

「大丈夫」

 優のその一言を信じ、俺はフェスを行う会社に向かった。そして名前を言われた参加者を集めてもらうように主催者に働きかけた。当然、なぜそのような危険なことをさせる必要があるのか、と聞かれたが、今後音楽が聞けるようになるためだと簡潔に説明した。

 主催者はまだ半信半疑のようで、信じてくれない。

「あの、俺らは別に演奏していいですよ」

 そう1人が手を挙げて言った。フェスのトリとして設定されたグループの1人だった。

「俺もそいつが参加をしたいならするよ」

 そうして、会社にいたそのグループだけ参加できることになった。他のグループはほとんど県内に残っていなかったこともあり、優に提示された人数は20人に対し、参加者は5人ほど。

「本当にいいんですか?」

 フェスの主催者の社長は無償ですよ、という言葉をつぐんだ。

「はい。俺らちゃんと歌いたいんですよ」

「俺たちはボーカルのやりたいことをサポートして道を開くのが役目ですし」

 俺は本心で言っていることに安心し、頭を下げた。少々危険が伴うが、3人がどうにかすると考え、マイクやその他の機材など借りれるものは借りて広場に向かった。向かいながら計画を話す。俺が合図をしたら演奏を始めることを指示し、ぶっつけ本番で、しかも歌える状況ではないのにも関わらず、グループの5人は軽く承諾した。

 避難所に逃げていた人々が様子を知ったのか、機材を運ぶのを手伝ってくれ、予想した時間より早く広場に着けた。

 広場の状況は最悪だった。インカムで何となく状況はわかっていたが、こんなにひどい状況だとは思っていなかった。木々は飛ばされたのか1本も立っておらず、メリアは竜巻を抑え、ネコと優は神を止めようとしていた。しかし、神だ。ただの警察にできることは少ない。

「もう、信じない。早くリセットしないと…」

 神は右手を挙げた。

「赤ずきん」

優は俺に合図を出した。

「お願いします」

 俺はグループの人たちに合図をする。5人は息を合わせて演奏をした。しかし、ボーカルは思ったように歌えず、ギターもドラムもズレが生じる。

 おそらくそのグループ史上最も演奏しづらい状況だろう。

「ネコ」

 優のいつも以上に透き通る声がインカムに響いた。ネコは何をするかわかったらしく、ため息をつく音がする。

「必要以上の干渉は禁止なはずなんだけどなぁ…」

「そう言ってる場合なの?壊れるよ。最悪、神も消える」

 優がバイオリンのキーホルダーをネックレスから取りながら文句を言う。

「わかってる。優、責任は自分で取りなよ。弁護はしてあげるけど」

「ありがと」

 優をみるとキーホルダーが通常サイズのバイオリンケースになり、その中には赤っぽい色に黄色がかったバイオリンがあった。いつの間に持っていたんだろう。

 それに、その手のプロが苦戦しているというのに新しい楽器を入れても大丈夫なものなのだろうか。

「大丈夫なのか?」

 俺は優に聞く。

「任せて」

 優は自信満々に慣れた手つきでバイオリンを弾き始める。

 それに合わせるようにプロは弾き、歌い始める。

 ズレや不安定な音すらも優はフォローし、楽曲に入れ込んでいた。

 プロたちもやりやすいようで笑顔と余裕が見える。観客たちも楽しそうで手拍子を打つ。まるでフェスが始まっているようだった。

「すげぇ…」

 俺は竜巻や瓦礫が演奏者に行かないように守りながら音に耳を傾ける。

 聞いているだけで楽しく、口ずさみたくなるような曲だった。

 その曲は神にも届いているようで少し竜巻の威力が収まる。が、金髪の男性は神にまたなにかを話し、神は演奏者たちのいる広場に大雨や雷を降らせた。

 しかし、演奏は止まらない。雨や雷がその人たちの周りだけ雨が当たっていない。それに雨の音や雷すらも音楽に取り込んでいる。この6人は異次元だ。

 神はどんどん音楽に惹かれて雨や雷、竜巻すらも無くしていく。

 それを見た優はホッとしながら最後のサビに入る。

そこで今までうまく進んでいた優のバイオリンの弦が2本切れた。バイオリンの音が一時的に消えたが、音楽は止まることなく何曲もメドレーとして演奏される。

 バイオリンの弦が切れて驚いたのは音楽を聞いていた人たちだけだった。優やメンバーは全く動揺せず、優の足りない場所を補うように演奏された。

 神はこんなにも美しい音があるのか、と驚き、一粒の涙を流した。神は大勢の人が自分のために行動したことに強く胸を打たれたらしい。

 落ち着いたのを確認し、俺はインカムを外しながら神の方に向かう。

「私を…殺そうとしたんじゃないのか…」

 震える声で隣にいた俺に話しかけた。

 俺は肯定も否定もせず、淡々と話す。

「神様は知らないかもしれねぇが、飛行機が雲の上を通っても、虹が光によるものだって知られても雲の上には神様がいて、虹の根元には宝物が埋まってるって考えられてんだよ。人は無条件に神様のことを信じて生きてんのにお前はそいつらをリセットとか言って殺そうとしたんだ」

「あぁ…私は…」

 神は顔を覆い、「ごめん」と何度も謝罪をしていた。謝るぐらいなら他の声を聞き、信じてやればよかったのに。

 演奏が終わり、広場は喝采と大きな拍手にのまれた。グループのメンバーも優も疲れているらしく、肩で息をしている。だが、みんなして楽しかった。そう思っていたようで俺はうれしくなった。どうせなら全員に見せたかった。こんなに素晴らしい演奏、そうそう聴くことができない。

 優はグループのメンバーからの称賛をあしらうと神の方へ歩いてきた。

 優は神の眼の前に立つと神に背を向けた。

「高谷弘人」

 優は後退りをしていた金髪の男性の名前をはっきりという。メリアは向こうで再演奏のサポートを始めていた。俺はというと、神の側で悪魔や弘人が手出しできないように守っている。

 弘人は後ろにいる悪魔に何かを呟いた。

「神、人を守れ。耳が聞こえなくなる」

 弘人の考えは読みやすい。俺は神に弘人の考えを伝える。神は頷いた。

 そして、悪魔は弘人の声を代償に人々から聴覚を奪おうとした。しかし、神は一向に動かない。俺は神の考えを読み取ろうとしたが、それより悪魔の行動を見たほうが早かった。

 悪魔は弘人の背後から動かなかった。

「なんで行かないんだ!早くアイツラの聴力を奪え!」

 弘人は悪魔に怒鳴るが、悪魔は一向に動かない。

 悪魔はただ一言、「最悪だよ」と発した。

 悪魔の背後と神の前に1人ずつ立っていたネコと優に悪魔はおびえているようだった。弘人も背後から鋭い殺気が感じられ、動けなくなっていた。

 優が神の前で悪魔に対して軽く手を振り、のんきにしているが、ネコの目は悪魔を捕らえ、逃さないという意思が見える。

「久しぶりだね、ベリオ」

「悪魔でも行ってはいけないことがあるはずだよね。わかるかな?」

ネコが確認するように聞き、悪魔は笑いながら答える。

「神の意思を好きなように曲げ、代償以上の生物のものを奪うこと、だろ?」

「御名答」

 2人の声は揃っていたが、ネコは知っていることを当たり前のように落ち着いた声と優しい拍手を、優はちゃんと覚えていてえらいという意味を込め、明るい声で大きな拍手をした。

 数十m後ろは楽しそうな音楽が聞こえるのに俺はここだけ何も聞こえないような錯覚に陥った。

「証拠を見せてみろよ」

 悪魔は硬い声で言った。するとネコは残念そうに言う。

「残念ながら証拠はない。今ここでその契約をするなら前言撤回だけどね。契約をしたのを確認したら神に背いたと認識しかねない」

 悪魔は悔しそうに舌打ちをし、弘人の何かを奪った。

「んじゃ、お前ら天警はさっさと消えてほしいね。やり辛くて仕方ない」

 悪魔は2人に向けた文句を言って空中で消えた。ネコはその時に指を動かしていたが、何をしていたのかわからない。

「え、その契約成立してたの!?」

「仕方ないね。今回の逮捕はお預けだ。まさか2度目の契約をしようとしていたなんて…」

 優は驚いたように言い、ネコは仕方ない、というふうに肩をすくめた。

 弘人はというと、声が出せないことに焦っていた。

 赤ずきんは笑いながら人に声を掛ける。焦っている様子がおかしかった。

「おい、聞こえてるか?」

 弘人は顔を真っ青にして耳を塞いだ。思考を読むに、耳も声も使い物にならないらしい。

 メリアがこちらに走ってくる。演奏は一区切りついたらしい。

 ネコの動きで状況を察したメリアは目を見開き、悲しそうな顔になった。

 口をパクパクと魚のようにしている様は餌をねだっているようだ。

 俺と優は笑顔になり、ネコとメリアは悲しそうに目を閉じた。

 神もメリアたちと同じように目を伏せた。

「それがお前の行ったことの代償だ。神に手を出してそれだけで済んだんだから幸運だと思え。って言っても聞こえてねぇか」

 俺は笑ってから悲しそうな目をした。神を殺そうとしたんだ。それぐらいのことは必要だ。それに人も殺している。猛反省をしなければどうせ地獄だ。

「それはお前が望んだことだ。けじめつけろや」

聞こえない弘人にそう言って俺は3人に声をかけた。

「早く行くぞ。ここにいたって意味ねぇんだからな」

「そうだね」

 俺と優はうなだれている神を連れ、広場を出る。

「…少し待ってて」

 そうメリアは言うと、ネコと弘人のところに向かった。ネコとメリアは弘人になにかしていたが、俺は知る必要はない。

 どうせ俺には出来っこない芸当だ。

「赤ずきん、なんで1グループしか呼んでくれなかったの?」

 優は神がはぐれないように神の手首を掴みながら聞いてきた。

「俺だって優に言われた人たちを集めようと思ったんだ。でもほとんど帰ったり避難してたりでいなかったんだよ」

「撤収早くなーい?」

「知らねぇよ」

 優は携帯を見て連絡が取れたのか、神に話しかけた。

「それじゃあ、神。上が呼んでるから行きな」

「うん。ありがとう」

 神は頷き、消える。神は概念なのだろうか。

 神を見送るとと優の周りには人が集まった。

「君、うちでデビューしないかい?」

 そう聞いたのはメンバーのギターを弾いていた人だった。

「バイオリン、すごくよかったよ。バラバラだったのに一気に統一が出た」

「よかったですね。では」

 優は興味がないように適当にあしらってギターを弾いた人の傍を通る。

「バイオリンなんてどこで習ったんだ?」

「母さんがプロでね。僕がやってみたいって言ったらテンションが上がったのか、姉さんとデュエットをさせるために指導させられてね。今じゃ楽譜があればとりあえずは弾けるよ」

 優はバイオリンのプロというわけか。なるほど。しかも姉がいたとは。優について俺は全く知らない。逆も同じく、優は俺についてほとんど知らないと思う。

「それじゃあ、次に行こっか」

「次?」

 とりあえずこの世界での仕事は終わったはずだ。気になるとすれば避難所にいる人たちだろうが、それ以外は特にない。

「避難所、ちゃんと家に帰ってもいいですよって伝えてあげないと」

 優は笑いながら言った。俺はきょとんとしてからその顔につられ、笑った。

「そうだな」

「僕たちは北から時計回りに回るよ」

「『僕たちは』?」

「ネコたちは南から時計回りに回っていくだろうから」

「なるほど…」

 話し合いでもしたのだろうか。そんな様子はなかったのだが…。

「今回は『異常気象』ということで話をつけてもらえるから僕たちのことは秘密裏に処理される」

「へぇー」

 一応、相槌を打ったが、そんな事が出来るのか?

 グループのメンバーには神や超常現象を見られた可能性がある。

「大丈夫。そこら辺はちゃんとしてるから」

 優ははっきりと、自信満々に言うのだから俺はそれを信じるしか無かった。

「なあ、俺があのグループを連れてこれなかったらどうしたんだ?」

「僕一人で演奏した。そして、それでも戻らなかった場合は」

 優は言葉を詰まらせ、口をつぐんだが、すぐにはっきりと言った。

「神をおとす」

「は…?」

 俺は意味がわからなかった。天警がそこまでの力を持っているとは思えない。流石に神に歯向かうなど。

「僕たちが仕えている上はそれができるお方だ。おそらく神の中でも上位に入るほど強い」

「だ、だからって、おとすって…」

「だからそうならなくてよかったよ」

 優はホッとしたような笑顔を見せた。

「ほら、避難所に向かおう」

 優は楽しそうにスキップをしながら避難所に向かう。

 俺らは避難所に行き、家に帰っても大丈夫だと伝えるとホッとした顔をしたり、何が原因だったのか、と疑問に思っている人がいた。

 そんな人たちは俺らに質問をする。「何が原因だったのか」と。

 その質問を優は笑いながら「異常気象ですよ」とはぐらかしていた。その回答にほとんどの人は納得し、俺等にお礼を言って家に帰っていった。ただ、何人かは不思議に思いながらも心の内に留めているようで、直接聞く人はいなかった。

 避難所にいた子どもたちも全員怪我もなく家へ帰っていった。俺らに折り紙で作ったチューリップを渡してから。

「さて、僕たちも帰ろうか。2人も自分のペースで帰るでしょ」

 優が左手で子どもたちからもらったチューリップを見ながら言う。

「そうだな」

 俺もチューリップを見ると、汚れないように丁寧に内ポケットにしまう。

 その様子を見ていた優が「優しいねぇ」などと孫を見るようなじいさんの口調で言った。俺は少し恥ずかしくなり、優のすねを蹴るが、優は予想していたかのように避けた。

「避けんな」

「嫌だよ!痛いもん!」

 優は俺を置いていくかのように走っていく。俺も急いで優の後を追う。

「おい、逃げんな!」

「逃げるでしょ!」

 そんなことをしながら俺達は天界警察へと戻っていった。

 僕は優からの連絡を受け、今回の事態を引き起こした神を自室に呼び、2人で話すことにした。

 神は申し訳なさそうに座り、僕は腕と足を組みながら神を見下ろす。神が世界を作ってから早2万年。まだまだ新米だが、その神はとても用心深く、そして持久力があった。統治を行うにも器量も十分であり、様々な観点からしても問題はなかったはずだった。悪魔に唆されたとはいえ、世界を手に掛けようとすることは世界を作った神でも赦されない。

 僕はため息をついて重々しい雰囲気を変える。

「ごめんなさい、ご心配をかけてしまい…」

 神は頭を深々と下げた。僕はなるべく軽く言う。

「全く…人と関わりすぎると堕ちるよ」

「ごめんなさい。私たちが作った人々はどんなものなのかと思って…」

「君に限って興味本位で動くわけじゃないだろうけど生き物を殺さないようにね」

「わかっています」

「生き物を悪意を持って殺せばそれは僕たちの逮捕案件だ、例えその世界を作った神だとしても。しかし」

「『他の神々がそれを必要だと意見が一致した場合に限り、その対象の限りではない』ですよね」

「御名答」

 僕が何回も天界警察や神々に伝えていたが、何度も言う必要がなかった。天界警察はほとんどその場で記憶をするか、メモをし、次回には完璧に覚えてくる。神々に対してはそんなもの覚えなくてもわかると言われ、あしらわれる。神々はほとんどの人が適当だ。だからこの神に何回も伝えることができて少しだけうれしかったのを今でも覚えている。

「私がこの世界を作った時に何遍も聞いています。人の世界で言う、『耳にタコができるぐらい』」

「それなら安心だよ」

「…今回は本当に助かりました。世界で暮らしていく内に他者の意見を受け入れることができなくなっていた。この度は誠に申し訳ありませんでした。処分は持して受け入れます」

「そうだね。君は世界を壊そうとした。許可も同意もなしに」

「はい」

「ここで1ヶ月仕事をしなさい」

「え…?」

 神から呆けた声が聞こえる。

 神が起こした事態は随時、優やネコの情報提供で知っている。そして、他の神々との緊急会議で神に対しての処分は天界警察で神として、『天界警察を統治する神と一緒に天界警察をまとめ、成長すること』とした。

 理由として、まだ実害は出ておらず、被害も最小。竜巻も隕石のようなものではなかったから自然現象と理由付けをすることができる。

 また、神が自身で行ったことだが、そこには悪魔が関わっている。反省をし、今後同じようなことは起きる可能性も低い。それらの観点から天界警察にいる者たちの意識、考えを学び、神として自覚を持ってもらうということになった。

「ってことだから、よろしくね」

 神は先程とは打って変わり、わくわくしたような表情でこちらを見た。

「またあの方に会えるんですか?!」

 なるほど。神の前で堂々と演奏したバイオリニストの優に会いたいらしい。

「会えるよ」

 僕が言うと神は嬉しい、もう一度聴きたい、などと考えているのだろう。だが、そんな暇はない。まあ、迷惑料として僕は期待して落としてもいいか、などと考える。

「それじゃ、明日から頑張ってね」

「はい!」

 元気よく答えた神は数日で元気を失っていった。

 僕の仕事の辛さを身に沁みてわかったらしく、神は痩せこけているように見える。しかし、神は概念と似ている。気のせいだろう。

 特に頭1つ抜けている優やネコ、アジサイ、その予備軍のメリアの叱責や疑問に答えることが大変だったらしく、僕のことを今以上に尊敬の眼差しで見てきた。

 優に至ってはからかう相手が出てきたからか、それとも今回の復讐か、今までは素通りしてしまっていた場所を神に調べさせるという事態が発生したり、僕だったら神々に泣きつくレベルの資料を調べたりしていたが、それが神にはよかったのか神の意識はどんどんよくなっていった。


 その後の後日談として世界は神が地上に降りることは少なくなったが、全体的に安定し、悪魔が発生することは少なくなった。悪魔は人の邪心や神の隙で生まれるものが多い。それらを防げるようになったことだし、今回は『良』としよう。

 それに優曰く、素直な人は使いっ走りをして世の中の理不尽を知り、意識を変えるといいらしい。それにしてもやり過ぎじゃないかとは思うが、良かったのだろう。

 僕はのんびりと報告を聞く。

「上のお考えと神々は知りませんが、僕たちの仕事が増えるのは許せませんからね」

「わかったよ」

「では、また」

「うん」

 警視総監が部屋を出る。警視総監が部屋を出てからは僕一人の時間だ。神として天界警察を統べ、人々の生活を死人から守る。その基準を作った神としての自覚をさらに持つ機会となったのは僕の心の内にだけに留めておく。

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