表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の守り方  作者:
6/12

不条理と人と 前編

 2人がカフェで仲良さそうに話をしている。1人は肩ぐらいまでの金髪を1つにまとめ、動きやすそうな格好をしている男性。もう1人は黒髪の短髪、清潔感が漂う男性だった。

「ヒロトはどうして私と仲良くしてくれるの?」

黒髪の男性が金髪の男性に聞く。金髪の男性が間髪入れずに返答をした。

「ジンは俺と仲良くする理由が必要か?」

「んー、いらない!」

黒髪の男性は嬉しそうに笑った。

「ならそういうことだ」

「なるほど!」

「にしても、神さんっているんかね」

「かみさん?」

「神様だよ」

金髪の男性が何気ない会話のように言い、コーヒーを飲む。

「いるよ」

「だよなぁ」

「でもどうして?」

「他の友達がさ、神様なんかいない。いたら助けてくれるはずだーって言ってなんか暴れてんだよ…」

「え…」

黒髪の男性は言葉を失った。

「他の奴らも神様なんかいないって言っててさ。しまいには神様は苦しんでるのを見て楽しんでるクズだ、なんていうんだぜ?かわいそうだろ」

「そ、うだね。でも、なんでそんなこと言うの?」

「知らねぇ。俺は神様、信じるけどな」

「…そっか」

 その後、2人は何ともないような会話を続け、店を出ていった。

「指名手配犯予備軍?」

 俺はきょとんとした顔で復唱する。

「うん。このまま死んだら指名手配犯になる人たちのこと。だから予備軍」

 俺は資料を読みながら優の話を聞く。

「なるほど。んで、それが何だって?」

「僕の管轄に出たんだよね」

「あんまりいねぇのか?」

「いや、10年に1度のペースでうまれるから珍しくはないんだけど」

「へー」

 俺は携帯で『指名手配犯予備軍』と入力し、検索をかける。

 報連箱という名前だと教えてもらったが、優はからかう目的でそう言っただけで本当は携帯だったらしい。

 前回の時に講師をしてもらった人に教えてもらった。講師は笑いながら「そういうところが優らしい」と言っていたが、いい迷惑だ。ここの1年弱、俺は報連箱という名前だと思っていた。とまあ、そんな話は置いておいて、今は予備軍についてだ。

「お、調べてるね」

 優は携帯を覗き込み、書いてある字を読み通す。

「というわけだから、早速向かおうか」

「資料まだ読んでる途中だ」

「えー、じゃあ早くして」

「今やってるよ」

 優は拗ねているのか口を尖らせて椅子に座った。

 携帯に表示された予備軍の情報を読み、資料を読む。大体わかった。予備軍は優の言った通り、指名手配犯になりそうな行為をした人であり、生者、又は中神国にいるものだ。生者の場合は死、死者の場合は犯罪を少しでも起こせば地獄行きだ。

 それから1時後、神についてざっくりと書かれた資料も読み終わると、俺は優に声をかけた。

「行ける」

「お、それじゃあ行こっか」

 優は書いていたレポートをしまい、大樹へ向かう。


 案内人のいる大樹へ向かうといつも通り帽子と胸元にクローバーをつけた案内人が資料を確認し、扉を開ける。

「いってらっしゃいませ。世界が平和でありますように」

 案内人は一人一人扉の前で言う言葉が違う。俺らは慣れたように返事をして扉の中に入る。

 羽根を使って飛ぶのも慣れた。落ちそうになってたいたのが昔のように感じる。でも、前を飛んでいる優にはどれだけ頑張っても追いつけなさそうだった。


 現世に着き、周りを見回っていると急に音楽が消えた。全体が虚しく感じる。

「なぁ、おかしくねぇか」

「うん。音楽がなくなったね」

「んなことできんのかよ」

「さあ?」

 優の返答は要領を得ない。お昼を適当に済ませ、無計画に歩く。

 そしてその地区の見回りが終わったのか、バスに乗り、少し遠くまで足を伸ばそうと優が提案した。バスの中は空いており、優は席に座り、俺は邪魔にならないようにつり革をつかんで隣に立つ。

「あれ、前に座んないの?終点まで行くけど」

「俺はいい」

「あっそ」

 すると優は自分で聞いたのにつまらなさそうに窓の外を見た。終点まで乗ると言っていたが、どこに行くつもりなのだろう。

 いくつかバス停に止まり、赤ん坊を抱いた人が乗ってくる。ずっと窓の外を見ていたから気付かなかったが、周りを見ると席は結構埋まっていた。赤ん坊を抱いた人は優の前の席に座り、ほっと一息ついていた。

 すると俺たちは唐突にバスの中で子どもの泣く声を聞いた。

 その人は焦っているようで周りに謝りながら赤ん坊をあやしている。申し訳ない、早く静かにさせないと、その人はそう思っていた。

 優はあくびをし、眠たそうに目をこすった。

「眠いのか?」

「赤ちゃんの泣き声、眠くなるんだよね」

「…普通起きるだろ」

 すると優は恥ずかしそうにはにかんだ。

「ねー、うるさくない?」

 文句を言った高校生ぐらいの男は笑いながらその人を馬鹿にするように言った。いや、馬鹿にしている。心の内でもさっさと静かにさせろと思っている。そういう輩がいるからいつまでも住みにくいんだろうなと俺は思った。

「わかる。公共機関なんだからそれぐらいわきまえてほしいわ」

 隣に座っていた男の友人も文句を言い始めた。空気が重い。赤ん坊はさらに大きな声で泣く。優は赤ん坊の泣き声を子守り歌かのようにすやすやと眠っていた。優の顔は寝ているといつもより幼く見える。

 その間も赤ん坊は泣きやまず、男たちは文句を言う。

「すみません…」

 赤ん坊を抱いた人はなぜ自分だけこんな仕打ちを受けなければならないのか、そう思っていた。

 俺はポケットからハンカチを取り出す。そして、前に座っている泣いている赤ん坊と必死に泣きやませようとしている人に声を掛ける。

「すんません」

 声を掛けるとその人はビクリと肩を震わせ、こちらを向いた。

「ごめんなさい、すぐに泣きやませますから」

「いや、大丈夫だ。ほら、見てろ」

 俺はハンカチを見せ、赤ん坊に簡単なマジックを見せた。ハンカチが消えるマジックだ。2人は驚いたように目を丸くした。

 家族がマジックをしたいと言って教えるために覚えたが、保育園でも好評だったものだ。

 俺は赤ん坊に視線を合わせるためにかがむ。

「見てろ」

 俺は拳を閉じたままワン、ツー、スリー、と唱える。そして、手を開けると中には長い紐がついた大きな10cmほどの鈴が出てくる。

「すごい…」

 周りの人はざわつくが、俺には関係がない。赤ん坊が少しでも笑えばいい。

「使うか?」

「え…」

「俺が持ってても使わねぇし、君もほしいだろ?」

 俺が紐を持って鈴を鳴らすと赤ん坊が手を出す。

「本当は鈴よりおもちゃとして作られた新聞紙みたいな方が子どもに人気があるし、比較的安全なんだけどな。あいにく、俺は持ってねぇんだ。これで勘弁してくれ」

「ありがとうございます」

「礼はいい。ここに結んでいいか?誤飲を防ぎたい」

「は、はい。お願いします」

 俺は許可が出ると抱っこ紐に結びつける。

「よし、これなら飲み込む可能性も少なくなると思うから。でもよく見ておけよ。何でも口にいれるから」

「はい。ありがとうございます」

 赤ん坊は鈴を触り、嬉しそうにしていた。

「よく頑張ってるな。ちゃんと赤ん坊はお前の愛情に気づいてるよ」

 俺はそう言い、文句を言っていた男の方を向く。男たちは静かに言葉をつぐんでいた。恐怖心もあるらしい。

 俺は両手を見せてマジックをする。男たちは少しワクワクしているらしい。

「ほらよ」

 俺は拳の中から飴を出し、2人に渡す。

「これ食ってろ。それからお前らは少し子どもについてちゃんと学び直せ。そこまで生きてこれたのは周りのおかげだ」

 そう言うと男たちは恥ずかしそうに下を向いたが、心の中ではなんで説教みたいなことを言われないといけないのか分からないらしい。こういう奴は何を言っても意味がない。俺はため息をついて優の近くに戻る。優は眠そうな目を開けて、あくびを噛み殺していた。

「起きたか」

「寝てた」

 優はまたあくびをして外を見た。

 それから、バスに揺られること20分。終点に着いた。赤ん坊を抱いた人には途中、降りていくときに何度もお礼を言われた。優は外を見ながら横目で俺等のことを見ていた。

「にしても赤ずきん、結構いいことしたんだね」

「何もしてねぇよ」

「嘘だね。じゃなきゃお礼なんか言われないでしょ」

「赤ん坊に鈴を渡しただけだ」

「へぇ…」

優はバスから降り、周りを見ながら相槌を打つ。もう3時を過ぎていた。

「で、何してんだよ」

「音楽が聞こえない距離を調べてる」

「…全国じゃねぇのか」

「情報からするとここの県だけだね」

 すると優は人々に向かって口調を変えながら声をかけていた。

「やあ、音楽が聞けなくなったんだけど、そっちも?」

とフレンドリーに話したり、

「すみません。音楽が聴けないくなったんですが、どうすればいいですか?」

とオドオドしたように話しかけたりしていた。時には俺のような口調で話しかけているところも見た。

「となると…フェスか…」

「フェス?」

「聞き込みの中でフェスが始まる寸前で声が出なくなった人が多く、中止になって帰ってきてる人が多い」

「フェスってどこでやってんだよ」

「ここだよ」

 そう言いながら優が指差したのは公園だった。ただ広い原っぱと脇に丁寧に手入れされた青々とした木々があるだけだった。

「こんなところでやってたのか?」

「やってたんだよ」

 優が悲しそうに下を向き、顔が髪で隠れた。

「優」

「あそこがステージの置かれていた場所。そしてここが観客席だった。今日の9時からフェスが始まる予定だった。しかし、歌が歌えず、やむを得ず中止。15時までに撤退完了ってところかな」

「歌が歌えないってマイクが使えなくなったとかか?」

 俺は質問をする。

「そんな生温いものだったら開催者やプロは行うはずだよ。もっと重大なものが使えなくなった」

「楽器か?」

「うん、そうだね。楽器が使えなくなった。声という、とても大切な楽器が」

「は…?」

「歌うことができなくなったんだ。フェスに参加した人たちは」

「歌が歌えなくなった…」

 俺は驚いた。声が使えなくなったのか?それとも人が急に怖くなったとか。

いや、急に人が怖くなるなんて可能性はほとんどない。開催者もその場所のプロだ。何かあればそれ相応の対処を行って開催するはず。

「ここに来るまで何人かはフェスの服を着ていた。そして、人だかりもあった。おそらくそこには」

 そこまで言うと、優の腰に何かが抱きついた。

「君、どうしたの?」

「お兄ちゃんもフェスを見に来たの?」

 子どもだ。小学生くらいの子どもがキラキラと目を輝かせている。子どもはフェスが中止になったのは悲しいけど、両親と一緒にいれて嬉しいと思っていた。

「そうだね。見てみたかったな」

「うん!私も観たかったの。でもね、お歌が歌えなくなっちゃったんだって…だから、中止なの」

 子どもは悲しそうに言った。どうして歌が歌えなくなったんだ。急に全員が歌えなくなることなんてあり得ない。なにかが働いたのだろう。でもなにが?

「そっか」

 優は子どもを離し、子どもと同じ目線にするため、しゃがんだ。

「何が楽しみだったの?」

「私はね、演奏!」

「演奏?」

「うん!楽器がね、ブワーって!ブワーってなるところが見たかったの!」

 子どもが大きく手を広げて身ぶり手ぶりでその楽しさを伝えている。こういうのが見たい、親と、他の人と楽しさを分かち合いたい。そう思っているようだった。

 優は一言、「そっか」とだけ言い、笑った。

「優!」

「お母さん!」

「もう、勝手にどこか行っちゃだめでしょ」

 母親がこちらに駆け寄り、子どもを叱った。

「ごめんなさい」

「心配したんだからね」

「はーい」

「すみません」

 そう言い、子どもと手を繋いで奥から走ってくる男の人の方へ向かった。

「優と同じ名前だったな」

「そうだね」

 優は目を細めた。

「ねぇ、赤ずきん。お願いしたいことがあるんだけど、いい?」

「なんだ?」

 優は不思議なことを言った。ただ一言、「フェスの出演者の情報を集めろ」と。

「じゃ、頼んだよ」

そう言って優は広場の真ん中に進んだ。優は優なりにやりたいことがあるらしい。

 俺は天界警察だとバレないように参加予定だった出演者の情報を集めるために現地の警察と偽り、情報を集める。優はハッキングをして情報を集めるだろうが、俺はリスクが高いからやめた。


 僕は赤ずきんに頼んだ後、広場の中心に立つ。そして深呼吸をした。人がいない場で人を集める事ができるか不安だった。誰一人見向きもしないかも知れない。人を集めて歌ってもらうことが目標だ。そこで抗えられるのか、否かを確かめる。そのために服の下に隠れているネックレスから小さいバイオリンケースを取る。

「もとに戻れ」

 そう言うとバイオリンケースはもとのサイズに戻る。天界の鍛冶師に作ってもらった特別製のバイオリンケースだ。

 ケースを開け、赤っぽい色に黄色がかったバイオリンを取り出す。生前のバイオリンは置いてきたから死んでから新しく買い替えた僕の新しい相棒だった。

「さてと…」

 僕は何度も弾いた、懐かしい曲を引き始める。

 すると、弾いて数分で弦の1本が切れた。僕はそのまま曲が終わるまで切れた弦の音をカバーしながら弾き終わる。

 僕が周りを見ると、周りには数人ほど集まっていた。始まりは順調だ。換えの弦もあと5本はある。大丈夫。調べることはできる。

 少し早いが、一緒に歌ってもらうことにした。

「一緒に歌いましょう。きっと楽しいですよ」

 そう言い、みんなが歌える曲を弾く。

聞いていた人は楽しそうに歌おうとするが、声がつっかえているのか、音程が外れたり、声が出なかったりしていた。それに弦も数分に1本のペースで切れていく。

 僕は何らかの力が働いていることを確信した。

2曲目が終わると、周りの人は疲れたような顔をしている。話したいのに話せないのと同じで体力を持っていかれるのだろう。僕もどこが切れるかわからない弦を注意しながら弾くのは手が折れる。

 それから僕はすべての弦が切れるまで、弾き続けた。せっかくの機会だし、1本の弦でどこまでできるのかやってみたかった。


 優からお願いされた情報を得ることはできた。だが、これをどう使うのかわからないし、おそらく使わないと思う。

「無駄足、ってことならいいけどな…」

 俺はついでに歌が歌えなくなった人たちと会話した。その人たちのほとんどが「急に喉から声が出なくなった」、「発声練習では異常はなく、ステージに立ったら急にかすれた音しか出なくなった」と言っていた。しかもこのフェスの参加者は初めて人前で歌う人ではない。何度も大きなステージで歌い、その場でアレンジもできるようなプロだ。そんな人たちが急に声が出せないようなものになるとは考えにくい。

「何かが関わってる、って考えたほうが辻褄が合うか…」

 俺は情報係に情報を提示し、俺等が得られないような情報を見つけてもらうことにした。連絡を済ませると優から一通のメールが届いた。

「ネコとメリアと合流!路地裏で待ってて。位置情報送って」

そう書かれていた。俺は位置情報を送り、路地裏で待つ。

 優が俺を見つけ、手を挙げた。俺は何も言わずに優の隣を歩く。ネコとメリアか後ろを歩いているのでそうせざるを得なかったとも言う。そして優はそのまま慣れたように路地裏を通り、ある店の前で止まった。

 それは古ぼけた店のようで、一軒家の戸建てように見えるが、不気味だ。

 優が重そうな扉を引き、中に入る。扉には鈴が取り付けてあるのだろう。鈴の音が何度か鳴る。少し心地良い。

 それに続くように俺と2人が入る。中に入るとオレンジに似た色の電球と洒落た音楽をかけていたのか、レコードもある。それからバーカウンターのみ置いてあった。意外と広い。

 バーのようだが、店員の姿が見えない。しかし、奥から何かを研ぐような音がするので店員はいるのだろう。

 優とネコはその音をものともせずにカウンターの椅子に腰掛ける。俺たちも背の高い席に座る。

「マスター、珈琲を2杯。でいいよね?」

「うん。メリアと赤ずきんには緑茶を」

 優とネコが注文をし、承諾する低い声が店の中に響いた。

「それでそっちはどんな仕事なの?」

 『仕事』と聞いて俺とメリアは焦ってカウンターの中をみるが、聞こえていないのか音は続いている。流石に見えない人の考えは読めない。

「悪魔関連、とだけ伝えておくよ」

 優は淡々と言った。

「ふーん…」

「優の方は?」

 ネコは言うに話を振る。

「指名手配犯予備軍の偵察と神」

「神?」

「うん。どうやら最近神がおかしいらしいんだよね」

 マスターと呼ばれた人が出てきた。

 マスターは黒いエプロンをつけている。落ち着いた長い黒髪のようで髪をまとめていた。そしてそれと正反対の白色の瞳。顔は探せばどこにでもいそうな優しい顔のおじさんのようだったが、瞳が異色のようで、不思議な雰囲気だ。

 2人はマスターに驚くこともせずに淡々と話をしようとしている。

「珈琲と緑茶です。それからこんにゃくを作ってみたんです。味見にどうぞ」

 更に乗ったこんにゃくを俺と優の間、ネコとメリアの間に置く。こんにゃくは普通の見た目だ。初めてバーに入ったのでこんにゃくが定番なのか分からない。

「ありがとう」

「いつもありがとうございます」

 優とネコはお礼を言ってのんびり珈琲を飲む。俺たちもお礼を言うが、意味がわからない。なぜ普通にできるんだ?

「で、どういうこと?」

 珈琲を少し飲んだネコは話を促した。

「ちょ、待てよ!」

 俺はマスターに聞かせていいのか不安になって止める。天界警察だとバレてはいけないと言われてるのになんで普通にできるんだよ。優は読めないのでネコを読むとここは大丈夫だと言っているが、信用はできない。

「どうしたの?」

 ネコは俺たちを見て、疑問を理解したらしく、ごめんねと謝ってきた。

「そういや、メリアにはここのこと話してなかったね」

「赤ずきんには1回話したことあるけど…」

 優は珈琲をゆっくりと飲んでいた。俺は記憶を辿ったが、全く記憶がない。

「んなの聞いてねぇ!」

「えー」

 優は面倒そうな顔をして珈琲をゆっくりと飲む。説明をネコに放り投げたらしい。

 ネコは眉を下げ、仕方ないと思っている。優を甘やかしているのか、わからない。

「とりあえず、端的に言うと俺たち天警の御用達の店」

「…それでなんで『いつも』なんて言ってんだよ。ネコは管轄じゃないんじゃなかったのかよ」

「色んなところに出てくるんだよ。例えば地獄とか、天国とか、もちろん現世にも」

 ネコが説明しているのを聞きながら優はマスターが作ったというこんにゃくを箸でつまみ、美味しそうに食べていた。意外と美味そう。

「御用達だって言っても他のやつが入ってくんだろ」  

 俺はネコに質問や疑問をぶつける。

「ここはバッチがないと入れないし見つけられない様になってるから大丈夫。バッチを持ってない人でも天警の許可があれば飲み食いできる仕組みらしいよ。どんな仕組みだ!って感じだけど、深く考えると泥沼にはまるよ。俺みたいに」

「で、わかったの?」

「全く」

 ネコは肩をすくめた。

 俺はバッチはそんなことにも使えるのかと驚く。ただの目印ではないらしい。

「なるほど」

「また質問があったらいつでも聞いて。答えられるところは答えるよ」

「わかった」

 俺はここは天警としていて大丈夫だと知り、ホッとしたのか喉の渇きを感じた。マスターの出した緑茶を飲み、目を丸くした。今まで飲んだ中で上位の美味しさだった。1位はもちろん、保育園の子どもたちが頑張って入れてくれたお茶だ。それから弟が入れてくれたお茶も美味い。

 優がネコの説明が終わったのを見計らって話を再開した。

「で、続きだけど、神々って、数ヶ月に一度会議をしてるらしい。んで、その会議にここの世界の神がでなくなり、上は神に接触。接触中、幾度か『人間が信じられなくなった』と似ている言葉を発したらしい。それに」

「ここには指名手配犯予備軍がいる」

 ネコが言葉をつなぎ、優は頷く。

「だから偵察ついでに調べてたってわけ。といってもまだ亡くなってないし、捕まって反省すれば地獄に落ちる可能性はない」

 優はほとんど飲み干し、ほとんど無くなった珈琲のコップをくるくる回しながら説明する。

「それで、悪魔の番号は?」

「6-Gの中のNo.205」

 ネコが優の質問に間髪入れずに答え、優の指が止まった。そして、コップを置くと優は額に手を当て、ため息をだす。

 俺はなぜその行動をしたのかわからない。

「どうしたんだ?優」

「ちょっと、嫌な予感を考えちゃった」

「俺とメリアも最悪の事態を考えてる。おそらく、優と同じ考えだろう」

「え、じゃあ、俺だけ知らねぇの?」

 悪魔の番号を言われたとて、どの種類がわからない。それに悪魔と何が関係しているのだろう。

「悪魔の番号覚えていないんですか?」

 メリアが聞いてきた。心の中で悪魔の番号を覚えていれば分かるはずだと考えているようだ。

「覚えられるわけねぇだろ。メモしてるけどG類はまだ書き終わってねぇ」

 メモはE類までしか書けていない。種類が多すぎて覚える暇がないんだ。

「なるほど…」

「…お前覚えてんのかよ」

俺は皮肉を込めて言うが、メリアは皮肉が分からないらしい。面倒な奴だ。

「はい。何度か読めば資料が頭に入ります」

「ははっ、天才だね」

「だろう?」

「ネコもだけど」

「それを言うなら優もね」

 ネコが自慢気に言うが、それをきょとんとした顔で優が言い返す。

 優がそういうのならネコも優秀で天才の部類なんだろう。なんで俺の周りは天才が多いんだよ。

「…普通は覚えられねぇだろ」

「そうなんですか?」

 俺とメリアの会話は要領を得ない。話ができないのか、噛み合わないのか分からないが、面倒だ。これを素でやっているのだからイライラする。

「じゃあ試しに言ってみろよ。今回の悪魔の次の悪魔は?」

 メリアは該当した番号について資料に書かれていたランク、名前、特徴、行い、作られ方など様々なことを羅列していく。俺は怖くなって引いた。

 ネコがメリアに声をかけ、止めた。

「驚いたよ。どれぐらい見せたの?」

「丸一日。メリアは丸一日で全部覚えた」

「はー…今まで会ってきた天才と同じぐらいすごいや」

 優は感心したように珈琲を飲みながら世間話をするように凄いことを言った。

「例えば?」

「8歳で定理を完成させたり、5桁以上の暗算ができたりする子」

「それはすごい」

「ま、死んでるんだけど」

「それは勿体ない」

 ネコの感心したような声が落胆した声に変わる。話している内容は重いはずなのにとても軽く話している。なんだか、別世界のような話だった。

「最近転生したんだって。案内係経由で教えてもらった」

「へぇ、粋だね」

「僕がその子のこと気にしてたからね」

「幸せに暮らせればいいね」

「そうだね。その世の中に生まれ落ちることを心の底から願うよ」

 優から心の底から願うと聞いた時驚いた。優は何でも自分本位に仕事を終わらせる。他人などどうでもいいようだった。

 それでいて必要なことは俺にも分かるように説明してくる。俺は絶対に真似ができないし、俺はしない。

「おやおや」

「どうかした?」

「優がそんな事を言うなんてね。しかも心から。ね、マスターさん」

「そうですね。それぐらい大切な方だったのでしょうね」

 マスターを頷きながら俺の飲み干した緑茶と珈琲のおかわりを作っていた。マスターは会話を聞くのが好きなようでニコニコと笑いながら飲み物を作っている。

「言っちゃだめだった?」

 優は笑いながら馬鹿にする様に言った。

「いや、とてもいいよ」

「なんだか上から目線」

 優は拗ねたように言い、ネコはそれをあしらう。

「一応、先輩だからね」

「そうだった。忘れてたよ」

「おや、それは複雑だね」

 マスターは俺たちにおかわりを出し、お礼を言う。俺は見られている感じがしてメリアを見ると目が合う。ちょうどいい。聞きたいことを聞こう。

「お前、何考えてんだよ」

「なんだと思いますか?」

「お前、少し優と似てるな」

「優さんと、ですか?」

「あぁ。心の内が全く見えない。深淵にいるみたいだ」

「まぁ、心の内を明かしてしまえば、弱みに漬け込まれますから」

 一気に心が読めなくなった。なんだ?表情に陰りが見える。

「…何があったんだよ」

「教えませんよ」

 メリアは唇に人差し指を当て、ウィンクをする。俺には内容を悟られないように隠しているように見える。

「…お前」

「メリアです。赤ずきん」

「……メリアは、なんでここにいんだ?」

「罪滅ぼしです」

「は?どういうことだ?説明しろ」

 心が読めないからわからない。完全に隠された。もともと読みづらいのに全く読めない。優と同じ状況だ。声のかけ方を間違えたらしい。

「…僕のせいで生きるはずだった人を、笑顔でいてほしい方々を泣かせてしまった、殺してしまった。だから、僕はここで罪滅ぼしをするために働かせて頂いてます」

 それを聞いた時、俺の中のどこかが切れた。堪忍袋の緒かも知れないし、別の場所かも知れない。でも、どこかが切れた。

「…なんだよそれ」

 おかしいだろ。そんな言葉が発せられずに喉の奥で消えた。

「これが僕です」

 そうメリアは淡々と言うが、内容がおかしい。なんで人の人生をメリアが決めてるんだよ。

 俺はメリアと同じように淡々と言う。

「お前がなんでそう思ってんのかしらねぇけど、それは死んだやつにも、悲しんだやつにも無礼だろ。なんで人の人生決めてんだよ」

「…決めていません」

 少し間をとってからメリアは返答をした。

「大体、そうやって上から決めつけてんのもムカつく」

「上からなんて」

「俺だって言えることじゃねぇが、そいつの人生はそいつだけのもんだ。お前が悔やんでいいもんじゃねぇ」

 俺はメリアの言葉をかぶせて言った。もう何も聞きたくない。

「…そうですね」

「それに罪滅ぼしのために使われる奴らからすればお前は不純だ。それに最低でもある」

「そのとおりです」

 俺は自分でもわかるぐらい顔をしかめた。

 心が読めなくてもメリアはそう素で思っている。そう思うしかない環境にいたんだ。

「お前それがわかっててそう言ったのか?」

「…はい。僕には人を守る理由付けがない。もしかしたら赤ずきんが言ったように僕は下に見ているかも知れないし、相手の人生を自分自身で定めているのかも知れない。だからといって、僕の罪の意識は消えないし、薄れたりもしない」

 これは闇が深そうだ。俺にはどうにもできない。子どもはのびのびと暮らし、笑顔でいる必要がある。それが仕事だ。なのにメリアはその時間がなかったのか、作り笑いで、しかも自分を責めている。

 俺はため息をついて淡々と言う。

「あー、そうかよ」

「赤ずきん、そろそろ落ち着いて」

 ネコに言われ、俺はメリアの心を読むのを諦めることにした。でも、これだけは言いたかった。

「…お前は嫌いだ」

「僕も赤ずきんは苦手かも知れない。心の中に遠慮なく入って来る」

「それが俺だ」

 優はのんびりと何事もないように俺に声をかけた。

「2人して喧嘩?元気だねぇ」

「んな優しいもんじゃねぇよ」

「あ、そうなの?」

 優がメリアを見て聞いた。メリアはあいまいに頷き、笑った。また完璧な作り笑いだ。気味が悪い。

「僕は喧嘩しているとは思っておらず…」

「…そろそろ調査に入るよ」

 ネコは立ち上がり、財布を胸元から取り出す。

「奢ってくれるの?先輩はやっぱり優しいね」

 優は嬉しそうにネコをおだてていた。一応俺の教育係なんだから優らしいが、威厳を示してみてほしい。

「その分の働きを期待してるよ」

「だってよ、赤ずきん」

「は?なんで俺…」

 ネコは優に奢る代わりに言ったはずだ。

「だって僕、それ以上の働きできるもん」

 優は当たり前かのように言う。

「それじゃ、マスターさん、お会計お願いできますか?」

「はい」

「4人分、俺が払います」

「承知いたしました。4人で2000円になります」

「はーい」

 ネコは財布から2000円を取り出し、トレーにのせる。1杯500円。安いな。しかもおかわりまでしていたし、優に至ってはネコとメリアの間にあるこんにゃくも食べていた。少し俺も気になったのに食べる間もなく、気づいたらなくなっていた。

「…はい、確かに。ありがとうございました」

 マスターはお金をレジにしまっている。

「また来るよ」

「楽しみにしております」

「またね」

 優がドアノブに手をかけながら手を振り、その後ろをついていくように俺は一礼し、外へ出た。

「ありがとうございました」

「またのご来店、楽しみにしています」

 後ろからマスターの声が聞こえる。

 マスターは4人の出ていった扉に軽くお辞儀をし、奥へと戻っていった。


 路地裏を出ると、優が後ろを見た。

「さてと、それじゃあ赤ずきん、メリア。君たちにお願いしたいことがあるんだけど、頼んでもいい?」

「なんですか?」

 メリアが聞いた。おそらく合同で動くことになったのだろうが、あまりメリアとは関わりたくない。

「僕はちょっと買いたい物があるからそれを買ってから仕事に入る。ネコは自分がやりたいことをやってもらったほうがいい。で、君たちには指名手配犯予備軍を見つけてほしい。できる?」

「まぁ…、住所はわかるし、虱潰しに分担すれば何とかなるはずだけどよ」

 俺はメリアと行動するのは好きではない。それから、罪悪感はほんの少し、ほんの少しだけある。闇を覗かれるのは誰も好きではないだろう。無粋だった。

「そっちは話し合って別行動でもいいから見つけ出しておいて。メリアには通信機器を通して資料を渡した」

 メリアは携帯を見た。おそらく資料を確認しているんだろう。

「赤ずきん、メリアと仲良くね」

「嫌だね」

俺は即答した。

「ま、いいや。指名手配犯予備軍と神についてちゃんと調べといて。あと音楽」

「わかった」

「頼んだよ」

 優はそう言うと右側へ向かった。ネコは左側へ歩いていく。

「んじゃ、行くか」

 俺はメリアに声を掛ける。苦手、嫌いだからといって関わらないのはだめだ。

「はい」

「それと、敬語使うな」

「…どうしてですか?」

「俺だけ敬語使ってんのもおかしいからだろ」

 俺は顔を下げて言った。下に何か気配がした気がしたが、気のせいのようだった。

「それに、敬語は敬う相手に使うもんだ。俺を敬ってどうすんだよ」

 メリアは頷きながら返事をする。

「…わかった」

「んじゃ、資料読むか?」

「うん。15分だけ頂戴」

「いいけど、それだけでいいのか?」

 俺は早くても30分は必要だ。でも2人に天才だと言われるメリアだからそういうものなのだろう。

「うん。その間、地図を買ってきて」

「…俺は使いっ走りかよ」

「お願いね」

 メリアはそう言い、資料を読み始めた。俺はため息をつきながらも地図を買いに行く。

 地図を買い、メリアが読み終わるのを待っていると、電話がかかってきた。情報係からの電話だ。

 俺は地図を片手に話を聞く。

「もしもし」

「赤ずきん、君の教えてくれた情報から詳しく調べてみたけど、めぼしいものは見つからなかった」

「そうか」

 ある程度予想はしていたが、残念だ。音楽が消えたことについても指名手配犯予備軍についても情報が少ない。しかも悪魔が入ってきた。最悪のオンパレードすぎる。

「ただ、音楽が消えたことについて、少しだけ情報が見つかった」

「なんだ?」

「2点。1点目は音は出せるが、ノイズがかかること。2点目は歌うこと、演奏することを今は半径50km以内の範囲に禁止されていること」

「…50km?」

「うん。おそらく、これからもっと拡大すると思う」

「そうか…」

 それから情報係の持っている情報を照らし合わせている時、俺の肩をメリアが叩いた。俺はメリアの目を見て思考を読もうとすると、すぐに読み取れた。メリアがそう意識したからだろう。俺は地図をメリアに差し出す。

 電話を切るとメリアに渡した地図をのぞき込む。そこには住所と轢き逃げが起きた場所にマークを付けられていた。

「…ここから…20km範囲…」

 そう独り言を呟きながらペンでなにかを記している。

「何やってんだ?」

高谷(たかや)さんがいそうな場所をあげた。おそらくこの周辺にいると思う」

「へぇ…」

 俺は感心した。そんな技術、1年で得られるものか?これも生前に得たものなのか。

「んじゃ、俺はこっちから回る。メリアはそっちから回れ」

 俺は右側の印を指差した。分担したほうが効率がいい。メリアもそう思ったからか、頷く。

「わかった」

「んじゃ、なんかあったら連絡しろ」

「そっちもね」

「あぁ」

 メリアと連絡先を交換し、半分に切った地図を渡され、別行動をする。


 俺は右側の印のついた路地裏や住所を確認することにした。俺が担当する場所は計10ヶ所。どれもいそうな場所だ。それと俺が思ういそうな場所もいくつか回る。

 しかし、すべて回ったがいない。音楽がなくなっただけなのに人の気持ちはどんどん怒りや恨みに変わっている。気持ちが悪い。人の気持ちに呑み込まれないようにしないとこっちが辛くなる。

 悪魔の契約解除は当人たちにしかできないし、もし音楽が消えたことに関わっていたりしたら面倒だ。

 そう考えているとメリアから連絡が入った。


 優は大通りに出ると楽器屋に行く。切れた弦を買い直すためだ。

 店に入り、いつも使っている弦を買う。もし切れた場合を考えて多めに買っておくことにした。

 優はそれから音楽が消えたことと悪魔、指名手配犯予備軍の関係性を考える。情報はほとんど集まっているはずだ。何か見落としがあるのか、肝心な狙いは分からない。

「うーん…」

 考えながら歩き、調べているが特にない。

 ネコの方はどうなのだろうかと考えている時、ネコからメリアが指名手配犯予備軍を見つけたと連絡が入った。

僕は急いで赤ずきんと連絡を取る。

 

 優からバーに入る路地裏の入り口に集合と言われ、俺は急いで向かった。何かを見つけたのかと思ったが、優も特に何も見つけられなかったらしい。

 それから少し経つとメリアとネコが戻ってきた。優は肩をすくめながら空振りだったことを言い、2人に尋ねる。

「神がいた」

「は…?」

「神?」

 俺とメリアはきょとんとしたが、優は舌打ちをし、小声で独り言を話していた。

「神が1枚かんでる可能性が出た」

「少し探りたい。派遣課に情報をもらってくる」

「頼んだ」

 なんだかわからない。ネコを見るとなぜ神と出会えたのか、なぜ指名手配犯予備軍と一緒に会話をしているのか、という疑問が浮かんでいた。

「うん。情報係の通達とかはそっちに任せる」

「任せな」

 優が路地裏へと消え、ネコは電話をかけていた。

 俺たちは何もわからず、置いていかれたような気がしたが、わからなければ調べ、考えればいい。

 メリアも考え始めた。俺はというと、なんとなく察し始めた。嫌な考えが頭に浮かぶ。指名手配犯予備軍と悪魔、そして神が手を合わせてしまえばどうなるか。神が取り込まれてしまえば人は人として生きられなくなるかも知れない。そして、音楽を消したいと思えば消えてしまうかも知れない。だから、音楽が消えた。そう考えれば辻褄が合う。

 メリアを見ると、表情に焦りが見えた。

 それなら俺は何をすればいいか。神が神として、世界と離れるしかない。だが、姿格好が分からない。

 急に瓦礫が当たる音がし、俺は音がした方を見る。

 目の前には大きな竜巻があった。

 もし、これまでもが神の指示したものだったら?

そんな考えが浮かび、俺は頭を振る。今は被害の確認と生者の救助だ。神の仕業ならそれを止めるのが天界警察の役目。絶対に死者を出してはいけない。神を人殺しにさせてはいけない。

 俺は急いで人が逃げている場所へ走る。どうせ俺は死んでいるんだ。今更死にそうになったとしても関係ない。

「大丈夫か」

 俺は逃げ遅れた人を担ぎ、避難所まで行く。近くの避難所は小学校だ。小学校なら建物も頑丈だし、被害は出ないはずだと考え、急ぐ。

 後ろでメリアも人を助けているようで、会話する時間はない。

 避難所まで行くと幼稚園児が沢山いた。状況を見るに運動会のようだったが、避難所が作成され、運動会どころじゃなくなったのだろう。子どもたちが困惑し、不安がっている。保育士も体育館が飛ばされないか、子どもたちを守れるか不安になっているようだった。

 俺は不安がっている子どもたちに1つ、おまじないをかけることにした。と言っても子供騙しだが、少しでも不安がなくなればいい。

 俺は準備をし、声を張り上げた。

「今から絵本を読みたいと思います!読み聞かせ始まるぜー!」

 子どもたちは読み聞かせ、絵本と聞いて俺の周りに集まってきた。

「よし!それじゃあ、読み聞かせの始まりー」

 俺は久しぶりに保育士として、子どもと接した。保育士もきょとんとしながらもちゃんと座るよう促している。流石、現役だ。

「始まり始まりー」

 俺は図書室から持ってきた絵本を見せ、読み聞かせる。図書室に幼児向けの絵本がおいてあってよかった。子どもたちは見たことのない絵本に注目が集まった。

 俺は口調を変えつつ、声色は変えすぎないようにする。所々に声かけを入れ、飽きさせないようにする。子どもたちはそれに応えるように声を張り上げ、いろんな意見を教えてくれる。

 そうしながら最後のページまで読み終わり、表紙と裏表紙を見せた。

「おしまい。さて、今日は何をやったんだ?」

「運動会!」

 俺が聞くと、子どもたちが一人一人教えてくれる。どんな事をやったか、そして、それを行ってどう思ったか。

 子どもたちの不安が減ったと感じ、ホッとしたのも束の間、電話が来る。俺は現役の保育士たちに任せると電話を受ける。どうやら逃げ遅れた人がまだいるらしい。俺はネコの指示通り、インカムをつけ、外に出る。子どもたちは他のことに夢中のようで、不安も消えている。これで安心してまた外にいる人たちに避難を促せる。

「もう誰も信じられない…」

 黒髪の男性が頭を抱え、金髪の男性に相談する。

「それなら、消せば?」

「消す?」

「そう。信じられなくなった原因を消せばよくない?ほら、リセットすればいい」

 金髪の男性は軽々と笑いながら言う。苦しそうな顔をしている黒髪の男性とは真逆だ。

「でも、リセットしたら…」

「なぁ」

 金髪の男性は話を遮る。

「俺とお前の関係ってリセットしたぐらいで消えるのか?」

「…そうだね。消えない」

「なら大丈夫だろ」

「うん」

「全部壊してリセットしちまえよ」

 悪魔の囁きのように金髪の男性は黒髪の男性に促す。人を信じられなくなった黒髪の男性はもう誰の話も聞き入れなかった。

 そして、すべてをリセットしてみることにした。

「きっと、許してくれる」

 誰かがそう言った。ただ、誰が言ったのかは定かではないようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ