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世界の守り方  作者:
5/12

訓練

「よし!赤ずきんに講義を受けさせよう」

 僕は前回の反省点から赤ずきんに基礎をすべて教えてしまったほうが効率がいいだろうと考えた。そのために一番赤ずきんに適した講義を受けてもらわなければ意味がない。

 初めての部下だ。先輩らしく頑張りたい。中には部下を持たずに強制退職を強いられる人もいる。そのほとんどが自由に動き、成果を出す人であり、人と群れることを苦手とする人たちだった。僕の逮捕や行動はそれに準ずると思っていた。だから部下ができることを僕はとても楽しみしていたのだ。それはもう、よく会話する人たちが驚くほどに。

「となれば…」

 僕が受けた講義や実績、評判で赤ずきんに合いそうな講義をピックアップする。1種類の同じ講義でも講師が数人いる。その中でその人に適したものを受ける。まあ、僕が選んじゃうんだけど。

 天警に必要な基礎の講義を書き出し、赤ずきんに渡すための資料ができた。どれだけの収穫をしてくるかは赤ずきん次第だが、前回の行動からしても期待しかない。

僕が半月と少しで終わったから多めにとって1ヶ月半ほどで終わると予想を立てる。

 それからアポイントメントをとろうと思ったが、対象の講師のほとんどは閑古鳥が鳴いている。おそらく暇してるだろうし連絡はしなくていいだろうと考える。僕が連絡を取ることを億劫だと感じているという理由もある。

 それが終われば資料の整頓や雑務を終わらせる。キリがいいところで時計を見るとそろそろ時間だった。

「さてと…そろそろ赤ずきんが来るころかな」

 今日はどんな事を吸収し、今後に活かしてくれるのか楽しみだった。

 僕は報告書と申請書を提出するため、一度刑事課を出る。

 指名手配犯を逮捕した翌日、優が紙の束を持ちながら刑事課に入ってきた。

「今日は講義を受けてもらうから仕事はあとね」

「講義?」

「そ。今月から1か月半、これ全部習得してきて」

 そう言って紙の束を渡された。パラパラとめくると『指名手配犯』『ランク』『爆弾』などの文字が目に付く。

「それ全部終わったら仕事再開して。早く終わるに越したことはないけど、ちゃんとやってきて。その間の仕事は僕がやるから心配しないで」

 そう言いながら優は隣の自分の引き出しから資料を取り出す。

「僕は仕事があるから行かないけど、なんかあったら連絡して。じゃ、頑張ってね」

 そう言い、優は刑事課を出る。

「は…?」

 俺は紙の束を持ちながらその場に立ち尽くした。

「あれ?君は確か…優の部下じゃなかった?」

「あぁ」

 声をかけた人は白い兎耳であごに手を当てて見上げてきた。

「やっぱり!優に部下ができるって聞いて心配してたんだ。そんなところで立ち尽くしてどうしたの?」

「あ…えっと…」

 その兎人は俺より小さかった。ピンと立っている耳を入れて俺と同じくらい。

「私は刑事課、警部補のリヌ。よろしくね」

「あ、あぁ」

 リヌは背伸びをして資料を見ようとした。俺は少ししゃがみ、資料を見せる。

「あ、ありがと。…ふんふん。なるほど…、講義を受けたいんだね」

リヌはパラパラと見ると紙の束から数枚取り出し、歩いていく。

「ついてきて。案内してあげる」

「ありがとうございます」

 リヌの隣を歩き、案内してもらう。


 エレベーターに乗り、長い廊下を歩いていくと大きな扉の前で足を止めた。

「けいちゃーん、いるー?」

 リヌが叫びながら部屋に入っていく。部屋の中を見ると高校の体育館ほどの広さがある部屋だった。

「でか…」

 驚いていると後ろから声が聞こえた。

「いるよ」

「あ、こんな所にいたんだ。この子、講習してあげて。これ資料」

 男性は資料を受け取り、じっくりと読んでいた。丸刈りのいかにも運動部に所属しているような格好だったが、雰囲気はじめじめしてる。

資料を読み終わった男性は俺のことを数秒見ると「…わかった」と頷き、銃を渡された。

「ここは銃の扱いを教える」

「それじゃ、よろしくねー」

 リヌは軽く手を振りながら部屋を出た。

「君は銃を触ったことない?」

「ないな」

「…そっか。なら、基礎から教えないとね」

 そこから地獄が始まった。

 まず、ランニングや体づくり、体力づくりから始まり、銃の手入れを行い、柔軟をした。運動は得意だったため、何とかなった。しかし、銃の手入れの際、暴発したらどうなったとか、誤って銃弾を受けそうになったらどうするとか、実際にあったように具体的に話していたから想像してしまって精神的にきつかった。

「…」

「銃の扱い方を教えるから。それと、筋はいい」

「…そうっすか…」

 そして男性が銃を俺に手渡した。警察官が使うような拳銃で、優も使っていた。

「これが一番スタンダード。で、これが威力強め。こっちが麻酔銃」

 そう言って懐からどんどん銃を出してくる。終いには組み立て式のアサルトライフルまで出てきたときは肝を抜かれた。

「とりあえず撃って。そこの的に」

 男性の取り出した銃の説明が終わるとそういった。的は男性の指差す方向にあるが、なんかおかしい気がする。

「あれって…」

「人質。後ろでナイフ構えてんのが犯人。ナイフを狙ってそれだけ撃ち落として」

「撃ち方も交えて教えたからできるはずだよ」

 おかしいだろ、と声を出さずに反論する。

 俺はため息をつき、言われた事を思い出し、拳銃を構える。構える前に銃弾は入っていることを確認したし、的も捉えた。ナイフを撃てばいい。人質には被害がないように、犯人を狙い、撃つ。

 銃弾は犯人の持っていたナイフの少し下、手首に掠った。

「チッ…」

外した。俺は舌打ちをし、拳銃を下ろす。

「えー、外したの…?」

 男性は外したことを驚き、疑っている声色で言った。男性は百発百中で外したことがないらしい。男性は好条件であり、動きもないただの人形で外しているのなら実戦では使えないなと考えていた。

「なんでできないんだ…?話ちゃんと聞いてた?」

 むかつく。拳銃すら持ったことがない男がすぐに撃てると思うな。掠りはしたんだから上出来じゃないかと思うが、前回の指名手配犯を捕まえたとき、優が車輪を的確に壊し、トロッコを止めた事を思い出す。

「ま、次は当たるよ。とりあえず頑張って」

 男性はそう言いながら銃を構えるよう促す。

「は?」

「適当に練習してれば何とかなるよ。基礎教えたし」

「ならお得意の銃を見せろよ。『とりあえず撃て』でできるわけねぇだろ」

「そう言われても…」

「2度はねぇんだ。次は、なんて言ってっと指名手配犯たち(あいつら)逃がすぞ」

 俺は男性の言った『次はできる』という言葉が嫌いだった。昔から『次はできる』といいながらも、次が来なかった奴らを何人か見た。理由は飽きたり、病気だったり、寿命だったりでバラバラだった。でも飽きた奴らは皆『次はできる』と言って練習すらしなかった。

 他の奴らが頑張っているのに対して、何もしなかった。

「あっ…と…地雷踏んだ?ごめん…、銃、撃ってわかるの?」

「わかるかわかんねぇかの問題じゃねぇ。感覚が掴めりゃそれでいいんだよ」

「…わかった」

男性は目を見開いてから楽しそうに笑った。そして銃を取り出すと的に向けた。

「君も優と同じ感覚派、かな?」

 そう言い、男性が銃を撃った。銃弾はまっすぐ犯人のナイフに吸い付くように当たり、犯人の手からナイフが落ちた。男性は銃をしまいながら聞く。

「どう?なにかわかった?」

「…もう一回見せてくれ」

「いいけど…」

男性は銃をもう一度構える。

 俺は男性の腕の角度、勢いの殺し方、その他の動きを1つずつ理解しようとする。

 男性がもう一度撃つ。

「…こうだ…」

 俺はなんとなくわかった。前傾姿勢にして、腕をブレないように固定し過ぎない。

 俺はもう一度銃を構え、的を犯人の脳天にする。

「へぇ…」

 男性は驚いた。銃の構えが男性と同じだった。そして立ち方や狙い方が前回と比べて良くなっていたらしい。

 俺はただ引き金を引いた。

「うわ…」

 銃弾が犯人の脳天を貫いた。俺は銃を降ろし、男性の方を見る。

「どうだ」

「かんっぺき!優とおんなじだ!」

「優と?お前とじゃなくて?」

「うん。優と」

 男性は俺から銃を受け取り、片付けながら話す。

「優も俺の指導に文句言ってた。それから、1回見ただけでその動きをした。すごく懐かしい」

「…元から天才だったんだな」

「そうだね。吸収し、自分のものにするのがすごく上手い。さて、次の講義はどこ?」

 俺は紙の束を全て渡す。

「なるほど。それなら、次は気配系がいいかな」

「気配…」

「君は薄いからきっと使える」

 男性はにやりと笑った。

 なんか馬鹿にされたように聞こえるが、褒めていたのだろうか。


 それから、様々な場所を転々とし、優が提示した紙の束も残り1枚になった。ここまで長かった。時に殺されそうになり、時に別の意味で恐怖を感じた。たまにどこで使うのか気になるものもあった。しかし、どこでも『優は天才』という言葉を聞いた。たまに優とは二度と会いたくないという意見も聞いた。


 最後の講義に向かうため、先ほどまで講義してくれた(なつめ)に案内してもらう。

「爆弾処理講義はここがおすすめ。人気はないけど。ま、これにもここって書かれてるし、ここでいいよね」

 そう言いながら厚い扉を開けた。中は寂れた部屋と爆弾、女性が1人。部屋には大きすぎるテーブルとソファ、そして寝具と爆弾、解体器具や爆弾を作るための道具が置いてあった。女性は長い白髪をクリップで留めていた。

「それじゃあ、明里(あかり)ちゃん、よろしく」

 そう言いながら棗は部屋を出る。

「おー、任せといて」

「よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

 明里と呼ばれた女性は俺が渡した紙を見るとにやりと笑い、爆弾を出した。

「どこまで解体できる?」

「…蓋を開けるぐらい」

「なるほどなるほど…」

 そう言い、あごに手を当てながらソファの近くをぐるぐる回っていた。

「なにやってんだ?」

「よし、これにしよう」

 別の部屋から箱を取り出した。

「問題に答えてくと解体できるよ。時間オーバーは爆発するから、頑張れー」

 明里はなんともないように時間を10分に設定し、起動した。すると、ディスプレイに問題が出てきた。


「第1問、人質がいた場合の銃を撃つときの心構えは?

1 人を殺さない

2 指名手配犯や悪魔などを優先

3 最低限の発砲

4 人質の救出」

「4」

「正解」


音声も流れるらしい。俺は間髪入れずに答える。時間制限があるとは言え、簡単だ。


「第2問、悪魔は主に何から生まれる?

1 怨念

2 思念

3 恐怖心

4 羞恥心」

「1」

「正解」


 45問目ぐらいで飽きてきた。全部で何問あるのかわからないが、時間制限がそろそろ5分を切る。

 俺は少し罪悪感を湧きながらも、明里が用意していたドライバーで蓋を開ける。

「ほぉ…」

 明里はそうするのか、と驚きつつ、楽しんでいた。

「…解体、教えてくれ」

「いいよ」

 明里は1つずつ説明した。その間にも質問が出ているので一応答えながら教わる。

「で、終わり。できる?」

「…間違ったら言ってくれ」

「わかった」

 俺は一つひとつ解体していくが、質問がうるさい。

「2、6、7」

 質問も解体もどんどん複雑になっている。どちらかが間違っても不思議はない。

 解体が終わり、ディスプレイを見ると残り1分で止まっている。俺はほっとし、ソファに倒れる。

「よくできました」

「あれなんだよ。終わんねぇだけど」

「うん。1000問だからね」

「あー、じゃあ、終わんねぇな」

1000問を10分で解こうとしていたなんてバカバカしい。

「…1000問?」

「うわ…君すごいね。60問も解いてる」

 1分で6問か。最初の方は音声を飛ばしていたからもしかしたら解体に入らなければ100問は解けたかも知れないな。

「いや、多すぎんだろ!」

「あ、やっぱりそう思う?」

 明里は俺が解体した爆弾を組み立てながら笑っていた。

「…全問解答させる気ねぇだろ」

「ないよ。解体と効率性、学べたでしょ?」

「…そうだな」

 何も考えない。講義をする人がみんな楽観的で実力者なのか、優が故意として選んだ人たちなのかわからないが、俺にとって有意義な2ヶ月だった。

「帰る?」

「爆弾は?」

「さっき解体したでしょ?あれに全部のパターン含んであるから」

「…なら仕事に戻る」

「おけー。またね」

「あぁ」

 俺は早く終わったな、なんて考えながら刑事課に戻る。優が提示した紙の束の長くて2日、早くて15分で終わる講義をすべて終わらせた。

「あ、おかえり」

 刑事課に戻るとリヌが資料を見ながら声をかけてくれた。

「た、だいま…?」

 俺は不思議に思いながら返事をする。

「優ならアジサイのところに行ってるよ」

 リヌが書いたレポートを指差しながら優を呼び戻すついでにと聞く。

「…それ、俺がアジサイに出してこようか?」

「え、いいの!?」

リヌが嬉しそうに確認する。

「あぁ、世話になったしな」

「ありがとう!このあと予定が立て込んでて…、それじゃ、お願い」

「おう」

 俺はレポートを受け取り、情報係へ向かう。アジサイとは講義の際でしか会話をしていないが、基本的に表面は優しい女性だった。

 情報係にいるアジサイにレポートを提出し、優について聞く。

「優ならさっき帰ったわよ?すれ違いになっちゃったのね」

「そうか。助かった」

「どういたしまして」

 俺は来た道を戻る。

 戻っていると、刑事課とは反対側の方向から優のような声が聞こえる。

 俺は声の方向に足を向けた。

「そう言えば優も相棒を任されたんだって?」

「うん。ちょっとクセが強いけど」

 後ろ姿が見える。話し方といい、動き方といい、明らかに優だ。『クセが強い』と聞こえた。俺はそんなにクセは強くない。なんだかイライラしてきた。

「ま、そんなもんだね」

「どこ行ってんだよ。講義、全部終わった」

「あ…ごめーん!講義終わったの?すごいねぇ」

 俺は面倒になってため息をついた。

 優の前には男性と女性がいた。

 男性は銀髪でタレ目より。物腰が柔らかく、おじいちゃんっぽいけど底が見えない。心の内は読めるが、あまり当てに出来ないだろうと予想する。

 次に女性に目を向ける。綺麗に伸ばした長い青と紺の間の色をした髪に青色の瞳。それから胸元には青色の薔薇。心の内ではいつも恐怖し、不安がっているように感じる。

「あ?お前…」

 急に心の内が読みづらくなった。女性が読まれないように外面をかぶったのだろう。

「僕はメリアと申します」

 メリアは頭を下げ、挨拶をする。俺はメリアと話すことも自己紹介をすることも面倒だと思いながらも挨拶をする。

「俺はジャック・リ・オリバー。こいつからは赤ずきんって言われてる」

 優を指差す。その自己紹介を見て面白そうに銀色の髪の男性が笑う。優は言い訳をするみたいにその人に身ぶり手ぶりで説明をしていた。

 一通り笑い終わった男性が「それじゃ、またね」といったのを境に二人は別々の方向へ歩き出す。

 俺は優にあの男性の名前を聞く。

「あの人はネコさんだよ」

「ネコ…猫?」

「あだ名。赤ずきんと同じだよ」

「へぇ…」

「にしても少し時間かかったね」

「…話が通じないやつがいたり、苦手だったのか上手くできなかったりしたやつがあった」

「そうなんだ」

 優は俺が講義について報告する度に笑いながら一言の感想とその結果を聞いた。

「楽しかった?」

「あぁ」

「それはよかった」

【報告書】

天警の基礎は全て習得済み

講師からの評価は平均して10点満点の内7点

ある程度の関わりが出来たため、何かあった際の協力関係は築ける。


反省点

 赤ずきん(ジャック)の習得時間(特に魔法に関する項目)

 相互の名前を知る機会であったはずだが、あまり信用関係を築けなかった。


責任者 優


 1ヶ月を過ぎたとき、僕は期待をしすぎたと思った。

 僕は少し残念だと考えながら資料を読む。赤ずきんなら1ヶ月で終わると期待し、考えていた。

 半月は休暇として赤ずきんにのんびりしてもらう予定だった。だが、苦手な分野について僕は知らず、その配慮を行わなかった。

 それが優の仕事をいつも以上に倍にする原因になった。

「あー…もっと多めに取っておいたほうがよかった…」

 僕が提出した期間のみ対象者(赤ずきん)の行う専門的仕事の停止が許され、その対象者は講義に集中できる。ただ、その期間を過ぎてしまえば仕事をしなければならない。

 それを僕は赤ずきんの出来を読み違え、赤ずきんがやるはずだった雑務や業務、見回りが増えた。

「僕もやることあるのに…」

「そう言いながら完璧に終わらせるのが貴方でしょう?優」

 リヌが笑いながら通りかかる。

「そうだけど…」

 リヌが言う通り、一応仕事が倍に増えたとしても終わりはする。ただ、疲労感がとてつもない。

 僕はため息をつきながら淡々と仕事を行い、終わらせる。

 こんなことなら1ヶ月半じゃなくて平均の3ヶ月とかにしとけばよかったなどと後悔しながら毎日、赤ずきんが戻ってくるまで完璧に仕事を終わらせた。

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