ひととなり 後編
優が光を奥まで送るとトロッコに乗った銃を持つ男がすごい勢いでこちらに向かってきた。
男は銃を持つ手が震えているが、いつ撃ってもおかしくない。
俺は周りを見るが避けられるような場所はない。急いで戻るにしてもトロッコが速すぎる。
「あー、そっちか」
「私の勝ちですね」
「仕方ない」
「おい、早く避けないと」
轢かれる、という言葉を飲み込んだ。避けたとて轢かれるのは目に見えている。ならどうすればいいのだろう。
優は「大丈夫。焦んないで」と言いながら腰から銃を取り出した。
「さぁて、転んでもらおうか」
そう言い、銃でトロッコの前輪を2つとも破壊した。男は驚き、銃で撃とうとするが、その前に俺が銃を優の方向に蹴り飛ばし、気絶させてから優がやっていたように手錠をかける。手錠はその手に合うようにサイズが勝手に変わった。
「すげぇ…」
俺が驚いているのを見ながら2人は笑っていた。
「まさかこんなに上手だとは思ってなかったよ」
「気配の消し方、教えたらすごいことになるかもね」
男が気絶しているのを見てホッとしたのも束の間、今度は俺たちが歩いて来た方向から足音がした。
シスターは気絶している人たちをトロッコに乗せた。
「車輪壊しちゃったけど?」
「いいのよ。ここで直しちゃえばいいんだから」
「えー…器具ないよ」
「ネジとドライバーぐらいあるでしょ?」
「…わかんないけど探してみる」
優はバッグの中を漁り、ドライバーを取り出した。
「あったわ」
「それ、なに入ってんだよ…」
俺は驚きながら優に聞くが、優は「わかんない」と言って笑うだけだった。
シスターが車輪を直していると、背後から声がしたが、聞き取れない。
「車輪を直してるの」
優がなんともないように返事をする。背後を見ると女性がいた。服装を見ると天界警察の人らしい。胸元にはよく分からない地図が書いてある。星形に似ているが、1つの対角線上の角が小さい。他の角は大きすぎるように見える。
その人は「そんなにジロジロ見て何か面白いのか」と不思議に思っているようだった。それから面倒だという意識もある。
「日向、ここ周辺を探知して」
優が星形のブローチをつけた人に話しかける。日向はまた何か話しているが、全く聞き取れない。
「だから、それが知りたいんだってば。指名手配犯が逮捕されたって爆弾があったら大変でしょ」
優には伝わっているらしい。やはり、シスターの言う通り日向という人は言語を操り、会話することができるのだろう。
「それで?だからやらないって?上になんて言われてるか分かってる?」
頑張れば日向の考えが読めるし、何を話しているか分かるかも知れない。俺は日向の心の内を見てみることにした。
『そんなに私の情報が間違っているとでも?』
「間違っているか以前の問題でしょ!?非があったら謝る必要があるはずだよね?」
聞こえる。優との会話もおかしくないし、日向は心も行動も素直なのだろう。俺はたくさんの言語を習得せずとも理解できることにホッとした。
ちらりとシスターを見ると、まだトロッコは直っていないらしい。優たちの会話が聞こえていないのか、反応がない。
―読者には『』を日向の心の中の声として表記する。―
『そう?元はと言えば貴方の確認不足じゃない?』
「いや、最初はこんな事書いてなかった。そう記憶してる。だから僕は赤ずきんに戦闘向けの動きを教えたのに。爆弾があるなら先に爆弾処理を教える」
『そうだっけ?』
俺は急いで2人の間に入って優の表情を見た。怒っているようだったが、相変わらず優の表情からも動きからも思考は読めなかった。
「優、落ち着け」
「あ、ごめん」
途中からだが、日向の考えを読んで喧嘩の理由がわかった。この洞窟内は優が言ったように発掘場であり、指名手配犯が何かあった場合、爆弾を爆発して逃げるようにしていたらしい。その情報の他に、指名手配犯が爆弾に詳しいことは事前情報でわかっていたらしく、俺たちがこの世界に行った後、通達したらしい。
それに優のような天才は最初に全てを記憶し、再度見返すことはない。ほとんど情報の追加は口頭で行われるらしい。俺は違うが、ここで働いている人はそんな人も多々いるのだろう。
それと同時に優からの説明も聞くがどうやら向こうに非はあるらしい。
俺ももう少し早く伝えるか、できれば何かで教えて欲しかったと思う。
『…ふーん…君が優の奴隷か』
日向がこちらに顔を近づけながら言う。
「奴隷じゃない!」
俺と優の声が重なる。
『…じゃあ下僕?』
「違う!部下だよ!」
「…なんなんだよ、こいつ」
俺も相手するのが面倒になってきた。
「こういう奴なんだよ、日向は」
日向と呼ばれた人は明らかに素でやっている。わざと怒らせるためではないことが読み取れ、俺はため息をついた。
『私の言葉、わかるの?』
「いや、心の中を読み取ってるだけでわかってるわけじゃねぇ」
『なるほど…、それならこっちのほうが話しやすいかな』
そう言って、日向は言語を合わせた。
「優の召使い、初めまして。私は警部の日向。情報係の目。優の愚痴なら何時でも聞いて上げる」
「召使いじゃない」
「いや、間に合ってるからいらね」
優が召使いを否定し、俺は適当にあしらうが、優の部下だと言うことで優の弱みを見つけるという目標を日向に作らせてしまったらしい。
「うん。優が召使いになったほうがいいんじゃない?」
「だから、召使いじゃないってば…!ったく…何度言えばわかんだよ…」
優が疲れてきているようで、大きなため息をついた。
シスターは満足のいく出来になったのか、楽しそうに転がしている。できれば指名手配犯と銃を持っていた男を乗せて乗り回すのは辞めていただきたい。
「さて、爆弾はどうするの?」
「ここから一つ一つ取るのは面倒だから、爆発させる」
「被害とかは?」
「大丈夫なように配慮する。日向、1つの爆弾ってどれぐらいの威力かわかる?」
「ここ掘って」
「…赤ずきん、頼んだ」
そう言ってバッグから小さいスコップを取り出した。
「わかった」
俺は日向の指した場所を掘り進めると何か当たった。周りを掘り、取り出すと四角い箱だった。
「開けて」
日向の指示通りに俺はゆっくり蓋を開ける。中は何ともなさそうだ。ただの物体のようだった。
「赤ずきん、貸して」
そう言いながら優が位置を変わる。そして、素早く解体していった。
「すげぇな」
「いやいや、赤ずきんもすごいね。爆弾に怯えないなんて」
「え、あれ爆弾なのか!?」
「あれ?知らなかったの?」
「いや、爆弾ってもっと線とか時間とかがあるものだと…」
「それもある。威力はこっちのほうが小さいけど解体するのが面倒なんだよね」
シスターは優が解体した材料を見せながら俺に説明した。
数分で説明が終わると優が2つ目を解体し終わっていた。そして、確信したような言い方で優は日向に言う。
「日向、そんなに難しいものでもないし、全部解体できるよね?」
「…後15個。10分以内にできるの?時限装置作動してるけど」
「無理か…」
優は悔しそうに俺たちに指示を出した。
「今から地上に戻って避難誘導。半径50mでいいから」
「とりあえず規制線張ってもらうようにする」
「いや、規制線よりお祭りっていう体でやったほうがいい。予定は3日後にして」
「別にいいけど…」
「んじゃ、赤ずきんとシスターはそいつら担いで梯子で戻ってて」
「優は?」
「奥見てから向かう。ここまで死体が1つもなかったのに臭った理由が知りたい」
「…わかった」
「私は戻ってる。とりあえずやってもらえるから」
「助かるよ」
「優からの感謝とか気持ち悪い」
「酷いなぁ」
優は軽く笑いながら返答した。
俺たちはシスターを先頭にトロッコに乗っている気絶した人を運びながら梯子を登り、階段を上がる。そして、先に出て待っていた花のブローチを付けた人とカンナが運ぶのを手伝ってくれ、地上に出ることができた。
「それじゃあ、赤ずきんはここで優を待ってたら?これは私が送ってくるよ」
「ありがとう」
「いーえ」
シスターは1人を警察署に、指名手配犯を地獄に送りに行った。
日向は周りを見たがいなくなっていた。シスター曰く、気まぐれらしい。
数分後、優が数人を担ぎながら地下から出てきた。
「優、大丈夫か?」
「平気。早く離れないと巻き込まれるよ」
そう言い、2人は走る。ちょうど50mほど過ぎた途端、爆発が起きた。
後ろを見ると、ほとんど地上の被害はなかった。しかし、爆発が収まった後、地下に入ろうとしたが、入口が塞がっており、入ることができなかった。
「予想はしてたけど、いろんなところに配置されてたんだね」
「それで、その人たちは?」
その場で優が担いでいた生気のない人たちを降ろし、優は座って、赤ずきんは立ちながら手を合わせる。
「奥で亡くなっていた人たちだよ。他の人は骨だった」
優がバッグから何袋にかまとめた骨を取り出す。
「被害は15人だけじゃなかったってことか?」
「うん」
「でも逃げることとか、できそうな地形だったよな?」
「無理だね。地下の入口は外しかないから」
「内側にないのか?」
優が目を開けて立ち上がりながら言う。
「ないよ。あの梯子のところも開けっ放しだったからよかったけど、一度閉めたら外から開けられるまで開かない設定だった」
「は…?」
「あそこは昔の監獄のような役割をしていたってわけだよ。それを見つけた人たちがあそこを改造して隠れ家としたんだ」
「それなら入ることなんてしないんじゃ…」
「おそらく、全員が地下に潜ることがなかったからだろうね。それと、公民館の館長がいたから」
「え…?」
「そうじゃないと誘拐した人とか入れられないでしょ」
「…確かに…?」
「しっくり来ない?」
「あぁ」
「なら、君が知らない情報教えて上げる」
「俺が知らない情報?」
「うん。指名手配犯は霊体的な存在であることは知ってるよね?」
「あぁ。死んでるからな」
「霊体ってことは乗っ取ることもできるんだよ」
何でもありなのかよ。
優は面倒そうに「何でもありなのだよ」と言う。
「指名手配犯は霊体であり、実態である。ほとんどの場合、実態で活動することが多いけど、霊体で活動する指名手配犯も少なくない」
「ということは地上と地下を行き来できるから出入りできたのか?」
「そうだろうね。ま、想像の域を出ないけど」
優は5人の遺体と骨が入った袋を持った。
「ほら、警察に行こ。ご遺族を見つけてくれるよ」
「…あぁ」
俺も優から袋と2人の遺体を受け取り、担ぐ。
「でもこれ、不審者に見られないか?」
「ならお忙しい警察官をここまで呼ぶ?」
「…それは気が乗らないな」
「でしょ」
優はそう言いながら、屋根の上を軽々と登り、通る。俺もバランスを崩して落とさないように気をつけながら屋根の上を通る。天界警察の服のおかげか、生前より体が軽く、身体能力も向上している気がする。
警察署につくと、優が警察官と話し、遺体と遺骨を引き取ってもらう。
「それじゃ、よろしくね」
「はい。お任せください」
俺と優は軽く手を振り、警察署を出る。
「さて、今回の仕事は終わり。どうだった?」
俺は今回の事件を振り返る。死んですらも生きている人を殺している人の考えは分からないし、それに協力する人も意味が分からない。ただ、言うことがあるとすれば、
「こんなに悲惨な事件があるなんて知らなかったし、生きてる時の俺は知りたくなかったと思う」
「今は?」
「少しでも、生きている人を守りたい」
「人だけなの?動物は?」
「…動物も殺されるのか?」
「勿論。死んでからの必要以上の殺傷は動物も人も変わらない」
「なら、生きている『もの』を守りたい」
「もの、ね」
「これでもだめか?」
「いや、いいと思うよ」
「そうか」
次はできれば平和な仕事がいいと思うが、そうはいかないだろうなと静寂な青空を見て思った。
刑事課に戻ると、優は報告書を書くために数時間前までのあらすじを思い出す。
優は赤ずきんたちが先に地上に出したときのことを思い出す。
優が1人残り、急いで奥に向かった。
奥に行くにつれ、どんどん匂いが強くなっていく。一番奥にたどり着くとそこは地獄絵図と呼べるような惨状だった。
人の皮は剥げ、力なく横たわっている骸骨、数ヶ月前まで生きていたかも知れない人や出ようと足掻き、爪が剥がれている者もいる。
「酷いな…」
骸骨は申し訳ないが袋に詰めさせてもらう。
遺族に渡すためでもあるが、供養されないと現世を彷徨う形になる恐れがある。現世を彷徨う時間が長いほど悪霊になり、人々を思いもしない形で襲う可能性がある。その進化が悪魔であると他の世界では思われていることもある。まあ、そんなことはないけど。
「さてと…」
とりあえず骸骨は袋に入れ終わった。問題は体は残っているが、触れば崩れてしまうものだ。これには少しだけ体を固めないと持っていけないので魔法で固める。
上からの振動が強くなったから3人とも出たのだろう。僕も早く出ないと、なんて考えながら袋をバッグに詰めていく。
「やっぱりこのバッグ持ってきてよかった」
普通のバッグより値段は少し高かったが、中が四次元空間かと思うほど入る。めっちゃ入る。なんなら机もバラせば入りそう。なのに軽量で、縦15cm、横30cm、幅10cm。このバッグを天界で見つけた時は舌を巻いた。
バッグに袋を詰め終わると、まだ骸骨になっていない5人を担いで周りを確認する。
他に見逃しはないか、隠し扉はないかなど、取り残される人が出ないよう配慮する。その確認が終わればあとは洞窟を走り、梯子を何往復かして全員運ぶ。それからまた担ぎ、階段を上がり、開いている地上への扉を通り、脱出する。
「ふぅ…」
僕はとりあえず息を整え、赤ずきんに近づく。そして、急いで離れるよう指示し、逃げる。周りには日向が僕の言った通りにしてくれたからか、人はいない。公民館内にも日向が確認してくれたから人も動物もいない。
ある程度離れると後ろから爆発音がした。
地下は想像通り、もう入れなくなっていたし、爆弾が様々な場所に埋もれていたのだろう。
あと20分あれば全て解体できた。僕は次は絶対に爆発させないよう誓う。
【報告書】
指名手配犯、その他確保
被害 地面の陥没の可能性がある
数日間の祭り騒ぎ
公民館館長の犯人疑惑
失態 爆弾についての認識が甘かった
また、情報係との情報交換が浅かった
赤ずきんの成長
爆弾の構造を理解
気配の薄いことの自覚、使い方がわかった
今度、体の使い方など細やかなことを教えていく
責任者 優




