ひととなり 前編
【指名手配犯】
基礎情報
ランク D
世界 30番
氏名 垣崎龍
性別 男
年齢 20歳(1570年5月28日交通事故で死亡)
身長 160cm前後
住所 杉谷通り105-7
我々について勘付いているかも知れないので注意すること。
優に武術を教えてもらい、ヘトヘトになった後に天国に連れてかれ、天界警察として働く意識をきちんと持てたのはよかったと思う。その後優に指名手配犯を捕まえると言われるまでは、もしかしたら指名手配犯はそんなに多くないのかも知れない、なんて考えていたが、そんなに甘くなかったらしい。
優の後をついていくと『刑事課』と書かれた扉がある。
その扉を開け、中に入っていくとすぐに上下に階段があった。その隣にはエレベーターもある。俺はその大きさに驚きつつ、優の後をついてその階段を降り、部屋に入る。
部屋の中はガランとしていた。数人ほど机に向かって座り、何かしているが、ほとんど人がいない。会社のオフィスのようではあるが、あまり人がいないからかなんだか寂しそうだった。
扉を開ける音で気づいた人が俺たちに手を振って挨拶した。
優はその挨拶を流し、何も置かれていない新品の机に手を置く。
「ここが赤ずきんの机ね。隣は僕だからよろしく」
「あぁ」
「んじゃ、これね」
優が引き出しから取り出して俺に渡す。優は資料を渡すと自分の席の椅子を引き、足を組んで座った。渡された資料の表紙には『指名手配犯 485』と書かれ、その下には『責任者 優』と書かれていた。
「それ今回の指名手配犯だから読み込んどいて」
俺はその言葉に返事をし、椅子を引き、座って資料を読む。その資料は捕まえる指名手配犯の情報が事細かに書かれていた。だが、全くといってわからない。ランク?世界?まず指名手配犯の捕まえ方すら教わってないのに初日から実戦に行くなんて事があるのかよ。そう悪態をつきたくなる。
「とりあえずランクとか世界とかは気にしないでおいて。それから、そこに書かれてないことなら質問に答える」
優が同じ資料をめくりながら隣で読みながら言う。
「じゃあ、なんで指名手配犯がいるんだ?」
「悪いことをしても反省していないから」
優は間髪入れずに返答する。優の資料がめくられる。
「なら死んでからじゃなくて生きてるやつを捕まえられないのか?」
「そんなことしたら現世の警察はお役御免になる。僕たちの管轄は死亡しているか否か。余計な手出しをして堕ちなくていい人を堕としたら意味がない」
「それじゃあこいつは人を今でも殺してるのか?」
「17ページに書いてある」
俺は読んでいたページをめくって20枚綴りの資料の中から指定されたページを見る。優は読み終わったのか、資料を机に置き、パソコンでなにか文字を打っていた。
資料には読むことすら、躊躇われる惨たらしい殺し方で一人ひとり事件発生から死亡に至るまで書かれていた。
「わかっている時点で生きている間に10人、死んでから5人。そしてその殺し方はまるで医者だ。腸や心臓、眼球を取り出しながら皮膚等を剥がす行為。その人たちの共通点はない可能性が高いから無差別的犯行であると考えてる。それにそれらが終わると子どもが古いおもちゃを捨てるように簡単に捨てる。これのどこが反省してるって?」
優は淡々とそのページの資料をまとめながら覚えているように話した。
俺はパソコンを操作している優に視線を向けた。なぜ思っていることが俺と同じように読めるのだろう。
もしかしたら、そいつも車に轢かれて死んでから反省したんじゃないかと思ったことを読まれたのはなぜだか、恥ずかしかった。
「綺麗事で反吐が出る」
優にそう言われ、羞恥さで資料を強く握った。
「なんて言ってほしかった?」
「は…?」
「僕はそんなこと言わないよ。ここには色んな人がいるけど、少なくとも君の意見を否定しない。ただ、指名手配犯は反省をしない。しないから僕らに回ってきてることを自覚しな。悪い人は判断能力があるにも関わらず、反省もせずにその行為を正当化している」
「…」
優は怒っているような、どこか淡々としているような、そんな感じで話した。
それから俺と優の間には1時間ほどの沈黙があった。その間に俺は必要だと思うところは覚えられた。引き出しを漁ってみたらメモ帳も見つけ、優から使用許可をもらい、ある程度のことはメモできた。
「さて、頭には入った?」
「…あぁ、一応」
「なら行こっか」
優が立ち上がり、机の下からバッグを取り出して肩にかける。俺は今回の指名手配犯は特に嫌いだ。力の差で逃げられないように子供や女性を多く選んでいる。その中でも子供は恐怖を煽りながら殺していく。絶対にこれ以上の被害を出してはいけない。
2人は案内人のもとへ向かう。
案内人は俺を勧誘した人ではなかったが、前にあった案内人同様、真っ白な服装で帽子や洋服にはワンポイントでクローバーのバッチが堂々と付いていた。
「おや、優。部下がいるなんて珍しいね」
「まぁね、それより早くして」
「はいはーい」
案内人は俺たちから資料を受け取ると、その資料に目を通す。
「承知しました。では、忘れ物はありませんか?」
「ないよ。2人とも大丈夫。赤ずきん、僕から離れないでね」
「あ、あぁ」
俺は不思議に思いながら返事をする。
「では、いってらっしゃい。扉はこちらに」
そう言って案内人は扉を開けた。扉の中は光が強く、何も見えなかった。その扉に優は臆せず、案内人に一瞥もせずに扉の中に入っていったため、俺も優のあとに続く。
「ご武運を」
案内人のその声を境に声が聞こえなくなった。
目の前に優が羽根で器用に飛んでいる姿しかない。周りは真っ白だ。俺は後ろを見ようと振り返った途端、バランスを崩したのか、フラフラした。
何が起きたのか分からない俺を優が哀れみながらこちらに向かってきた。なんなんだ。意味が分からない。
そこで俺の意識は消えた。
次に目を覚ましたのは優が俺の頬を軽く叩いている時だった。
青空が見える。俺は頭に手を当てながら起き上がる。
「大丈夫?」
「あ…?」
「全く…飛べないんだったら飛べないって言ってくれないとわかんないじゃん」
飛ぶってなんだよ。俺は人だ。人が飛ぶわけねぇだろ。
「うわ…そこから?」
「なんだよ」
優はなんともないように俺の思考を読み、返答した。
「僕たちはいわゆる天使と似たような部類。羽根があって、それを使って世界を行き来したり、指名手配犯を捕まえたりする。世界の中では、翼を使って飛ぶところもあるし、そんなに気にしなかったけど…」
「…そんなのねぇよ」
「…ま、僕も最初は驚いたけど、そんなに下手だと思わなかったよ」
悪気がなさそうなのが、余計イラッとくる。
「ほら、早く行くよ」
「待てよ!」
優の後をついていくと、そこは指名手配犯がいるとされた世界と酷似していた。というか、瓜二つだ。
「指名手配犯の場所、覚えてる?」
「あ、あぁ。杉谷通りの105-7、520号室だろ」
「正解。じゃ、案内して」
「…え」
地形は所々しか頭に入ってない。近くの店を探していると優が
「ついてきて」
というので俺は優の後ろをついていく。
優は地図も見ずにスタスタと迷いなく歩いていく。12階建てのマンションの前で止まったかと思うとその中に何ともない顔で入っていく。
「うわ…オートロックになってる…めんど…」
マンションの入り口が自動ドアのオートロック式となっていた。しかもご丁寧に顔認証システムまで搭載してる。俺はどうしようかと考え込むが、優はめんどくさそうに報連箱を取り出した。
「仕方ないなぁ…」
そういうと優はどこかに電話をかけた。
「もしもし?僕だけど…そう。そのマンションの鍵開けて。僕がやったら怒るでしょ?んじゃ、よろしく」
そして、電話を切ると同時にマンションの自動ドアが開いた。
俺が呆けているのをよそに優はどんどん中には入っていく。マンションのエレベーターに乗り、番号を押す。指名手配犯が住んでいる場所は5階の一番右端の部屋だ。俺たちは5階に到着し、大きなスーツケースを持った花柄の服、麦わら帽子をかぶった女性とすれ違う。
右端の部屋へ行き、チャイムを鳴らすが返事はない。優はエレベーターに戻ると屋上のボタンを押す。
「おい、屋上に行ってどうすんだよ」
「怖がらせる」
「は?」
「見てなよ。これが僕のやり方だから」
優はにやりと笑って屋上へ向かう。
「ここらへんかな…」
そう言って、屋上から優が体を外に出して笑いながら飛び降りた。
俺は困惑し、ほんの数秒だけ動けなくなった。
「え…」
その間にも優の体は下に落下していく。俺は急いで飛び降りた場所を見たが、優が重力に逆らわずに落ちていくだけだった。
周りから驚きの声と悲鳴が上がる。
「あの馬鹿っ!」
優が指名手配犯の住んでいるとされる5階に辿り着く前に羽根を開き、その場で止まる。
下からは先ほどとは違う驚きの声が上がる。
「…さて、中にはいるかな」
優はカーテンが掛かっていない部屋の中を見るが、人の気配はない。それにある程度整頓されている。
「ふむ…逃げられたか…」
その場であごに手を置き、考えると赤ずきんの声がした。
「優っ!」
焦っているような声色が聞こえ、優は上を向く。
「どうしたの?」
そう聞くが向こうには声が届いてないらしい。
「おい!何やってんだ!馬鹿!」
「…聞こえないなら戻るか」
優は屋上に羽根を羽ばたかせ、戻る。
優が羽根を開いた時、まず安堵が来た。そして、怒りや困惑が湧いた。
優がこちらに何ともないような顔で戻ってきた。
「…どうかした?」
優はきょとんとして聞いてきた。ふざけてる。
「先にやること言っておけよ!」
「…あぁ、それはごめんね。驚かせた?」
「あぁ」
「なら、僕のやり方わかったね。それじゃあ行くよ」
「は?行くってどこに…」
「僕が動いたら向こうも動かざるを得ない。そこを捕まえるよ」
優はここに来る時より軽い足取りで屋上から出ていく。俺も急いで優の後をついていく。
「ここからは時間と勝負だから」
「時間と…?」
エレベーターに乗って1階に向かっている優と話す。
「現世の裏と天警は因縁でね。指名手配犯が裏と繋がっていたら行く場所は限られる。あ、天警ってバレちゃだめだから」
「…もっと先に言え!」
「ごめんごめん。忘れてた」
俺は諦めてため息をつきながら聞く。
「…で、どこなんだ?」
「人混みと隠れ家」
「人混み?」
隠れ家はわかるが、人混みに指名手配犯がいるのか?そういう人って誰も信じられなくなって1人でじっとしているイメージだったから驚いた。
優はエレベーターの下がっていく数字を見ながら話す。
「人混みは向こうもある程度は動けないけどこっちも動けない。他の人を巻き込んじゃうからね。で、ついでにこっちがちょっとだけ不利なんだよね。だから指名手配犯は人混みを通るからそこを重点的に見る。まぁ、路地裏とかも使うかもしれないけど。それから姿形を変えているかも知れない。ここら辺は頭に入れといて」
「姿形を?」
「うん。身長が160前後だから女性に化けても不思議には思わない。僕たちと通り過ぎてもね」
「…それって…」
「僕たちがエレベーターから降りた時、下に向かった人がいたよね。あの人少し歩き方が男の人っぽかったんだよね。その人がもし指名手配犯でスーツケースの中には死体や凶器とかがあったとしたら?」
俺は優に言われてから初めてその可能性を知った。でも、その可能性があったとして、もうマンション付近には居ないだろう。そんな人をどうやって捕まえるのだろう。
「できれば男のまま逮捕したかったんだけどね。ま、アジトも壊滅したいし、いいや」
優は報連箱を操作し、無邪気そうに笑いながら言った。
「それじゃ、居場所わかるし試しに行ってみよっか」
「どうやって?」
「そりゃ、GPSで。人とすれ違ったときにつけといたんだよね。これも警察の道具の1つだよ」
そう言ってバッグを軽く上げた。そしてエレベーターが1階についたので、エレベーターから降り、優の後をついていく。指名手配犯じゃなかったらどうするのだろう。俺はその女性に訴えられないか不安になりながら進む。
ただ、ついていくのはいいのだが、優は路地裏は通るわ、人混みの中をかき分けて通るわで一貫性がない。
優が足を止めた場所は公民館だった。公民館の敷地内に1本の木と犬がいない犬小屋がある。人気はないので、隠れ家があるかも知れないが、公民館があるため、作る場所はない。
「へぇ…随分と自信家みたいだね」
そう言い、優は公民館の周りを一周する。
「何してんだよ」
「地下があるか調べてるの」
「地下?」
「うん。多分向こうにはなかったからここらへんに…」
優は木の下の砂を払うと、目を見開いてからまたにやりと笑った。
「…GPSもここらへんだし、可能性はあるね」
そして、地面を扉をたたくようにノックを3回し、何かを探す。砂を触ったり、木をノックしたり、不自然な行動ばかりだった。そして、優は時々周りを見渡してあごに手を当てて考えるポーズをする。次は腕をまくり、バッグから取り出した小さいスコップで砂を掘り始めた。俺はギョッとして優を止めようとしたが、にこにこしながら子供のように掘っていた優をなぜだか、止められなかった。
優は探し物が見つかったのか、砂で汚れた腕を掘った穴から出しながら俺に声をかけた。優の肘のあたりまで砂が付いている。よほど深く掘ったらしい。
「赤ずきん、手伝って」
「おう」
優が俺に場所を変わり、指示をする。
「そこの下。少し引っ掛かりがあるでしょ?それ引っ張って」
優は砂で汚れた腕を払いながらまくった服をもとに戻していた。
俺は腕をまくって優が掘った穴に手を入れる。そして、手で周りの砂を触る。なんか湿っぽい。俺は少しだけ嫌な顔をしながら探る。
「これか…?」
確かに優が掘った穴の中になにかある。俺は言われた通りにそれを掴み、引っ張った。
すると、地面から音がした。
俺は驚いて引っ張るのをやめて後退ろうとしたが、優がそれを許さなかった。
「絶対に離すな」
そう声を低くして言い、地面が割れていくのを見ていた。
「…よし、離していいよ」
許可がもらえたため、引っ張るのをやめて手を離す。そして、優の隣に並ぶ。中は階段が奥につながっていた。中が暗いのか、下は全くといって見えない。
「さて、ご対面といこうか」
優が躊躇なく割れた地面の中に入っていく。
後ろの地面が閉じていくのを知らずに下へ潜っていった。
「こんなの誰が作んだよ…」
俺も隣で歩きながら見渡すが、中はコンクリート作りになっていた。
「…この奥だよ」
着いたのはコンクリート作りに似ても似つかない木の家だった。
「…」
優は戸惑うことも、躊躇することもなく、淡々と扉を開けた。
中には男が数十人と笑っている女が数人いる。広さは学校の教室ぐらいだろう。猿轡をされている女性が2人と涙を流している女性3人の計5人が拘束され、順番待ちのように手術台付近に並べられていた。目隠しもされているからか、震えている。そして手術台に乗せられ、気絶したように眠りこけている子供もいる。しかもその子供の近くにメスを持った男と女が立っている。
「さて、まだ殺される前で助かったよ。君たちの罪が余計重くなるからね」
優はこの扉を開ける前の通路で俺にいくつか指示を出していた。
「僕が指示を出すことは必ず行って。いいね?」
「あぁ」
優は人差し指を立てて言う。
「1つ目、人質がいた場合、赤ずきんは人質を守ることに徹して。特にこれから殺されそうな人から」
「わかった」
「2つ目、僕が危機になったとしても口や表情に出さないで。僕の名前も喋るな。3つ目、殺すな」
そうして人差し指、中指、薬指が立った。
「…わかった」
その返事を聞くと、ホッとしたように笑った。
俺はすぐに優の指示通りに人質、子供を男女から奪い、抱っこしながら拘束されている女性たちの近くに向かった。
女性はその足音で犯人が来たのだと思い、震えて抵抗しようと体を動かしている。その様子からみると誘拐されて数時間から数日ほどだと想像がつく。
「大丈夫だ。少し待ってろ」
そう言いながら猿轡と拘束を取る。目隠しを取るのは迷ったが、やめておいた。女性たちにこの状況を見せるのは戸惑わせた。
女性の猿轡と拘束を外しながら質問に答える。
「貴方は誰ですか?」
「俺は警察です」
「子供は、子供は大丈夫ですか?」
「はい。子供も無事です」
一つ一つ丁寧に答えていくが、ただ1つだけ、正直に答えるのを躊躇われた。
「貴方の方向から凄い音がするのですが、どうしたんですか?」
そう聞かれて、俺は言葉を濁すことしかできなかった。というのも、俺はすぐに子供を助けに向かったが、それを止めに入る連中たちがいるわけで。その連中を一瞬で手錠をかけ、しかも何十人もいる男を誰一人こちらに近づけないようにするというスゴ技を披露している人がいる。
「ほら、そんなんじゃ人一人殺せないよ。よく殺せてこれたね。おばかさん」
なんて煽りながら返り血1つつかない優は異次元だ。目で動きが追えないし、気がついたら気絶している人の山が出来上がっている。
「さて、最後の1人っと…」
優が最後の1人に手錠をかけるとこちらを向いて目隠しを外すように動きで指示を出した。
俺は一人ひとり目隠しを外していく。
「大丈夫ですか?」
優が軽く汗を拭きながらこちらに来る。女性たちは優の顔にしか目がいっていない。美男子は自分の顔の良さを分かっているのだろう。
「それじゃあ、出口に向かいましょうか」
そう言って優は女性たちを誘導しながら、電話をかける。
俺は子供を抱いて起きた際になるべくトラウマにならないように配慮をする。
電話を切ると、女性たちを俺に任せて優は地下に残った。
俺は優に対しての質問に返答しながら誘拐された時の状況、状態などを聞き出す。
そうして地上につくと砂の扉が閉まっていた。地上からの開け方は知っているが、中からの開け方は知らない。どうしようかと考えていると扉が開いて、上から見知った服を着た人たちが数人いた。それぞれ胸元に月、カメラ、花のブローチが付いている。
「優に呼ばれてきたよー」
「にしてもこいつはすごいな…」
「この中だよね?」
「そう…ですけど…」
「現地の警察は呼んであるから引き渡してある程度事情話してから戻ってきて」
そう言って見知った服装の人は地下に進んでいった。
地上に出ると警察が近くで待ってくれていたので、女性や子供を預け、事情を話す。警察はメモを取りながら話を聞き、一礼をして女性らについて行った。
俺は警察署に行かなくても大丈夫だったことに安堵し、地下へ潜る。
扉の外からでも会話が聞こえた。
「えー、じゃあ優、飛び降りで驚かせちゃったの?」
「まさか驚くなんて知らなかったし…」
「まぁ…優の破天荒さはほとんどの人が知ってるからな」
「そんな破天荒じゃないし」
「にしても生死分けんの大変なんだけど…」
「それよりこの人数を1人で捌いたことを褒めようよ」
「そうだよ。褒めてくれてもいいと思うけど?」
「そうは言ってもなぁ…」
「ってか、そろそろ気づいてあげて。赤ずきんが入りにくそう」
そう聞こえたと同時に扉が開いた。
俺は驚いて一歩後ろに下がる。
優はこちらを見て優しく笑うと他の天界警察を見ながら言った。
「ね、この子すごいでしょ?」
「気配がなかったな…」
「反応から見るに自分でも分からないのか…」
他の人が頷いたり、感心したりしているのを他所に優は俺を部屋の中へ案内する。
「ちゃんと警察に引き渡せた?」
「あぁ」
「それはよかった。んじゃ、手伝って」
「えっと…何を?」
「生死を分けないと。僕全部気絶させちゃって尋問できないからさー」
そう言いながら恥ずかしそうに笑い、左手で左側のこめかみをかく。
「モノクルを渡すからそれつけて試しにこの人覗いてみなよ」
俺はモノクルを受け取り、男性を指差した。言われた通りに男性を見る。すると、白い靄がその人を囲むように見える。
「その靄が白かったら生者、黒だったら死者。たまに変な色もあるけどそれは要相談って感じ」
「へぇ…」
俺は覗いた人が生者でよかったと安堵しつつ、少しだけ面白かった。俺は少しだけ気になって優のことを見ようとした。
「赤ずきん」
見ようとしていたのがバレたらしく、優が俺の名前を呼んだ。
「それ以上は見ないことをお勧めするよ」
そう言って判別に戻った。俺が見ようとしたとき、優の周りは白でも黒でもなく、緑のような色をみた気がしたが、気の所為だったのだろう。頭を振って仕事に集中する。
他の人も話すのをやめて真剣に一人ひとり判別している。
俺が1人判別するうちに他の人達は慣れたように2人、3人と判別していく。そして、全員の判別が終わった。
生者は男性がほとんどで、死者は男性も数人いるが、女性が多かった。
「で、指名手配犯はこれ」
そう言いながら死者の山から引っ張り出したのは明らかに女性だった。
「よくこんな変装をしてるなぁ…」
「捕まったら地獄行きで間違いないのにね」
「手間がかかる」
他の人たちはそう言いながら気絶している女性を見てため息を吐いている。
「隠れ家は見つかったし、あとはあいつに確認をお願いすれば僕たちの任務は終わり」
そう言いながら女装をした指名手配犯を俺に投げる。見た目は女性なのだから、少しは優しく扱わないと行けないような気がして床に落ちるのを横抱きで支える。
「っぶね…」
「別に指名手配犯だから無理して丁寧に扱わなくていいよ。どうせ原型なくなるだろうし」
月のブローチをした天界警察が他の死者を両手に2人ずつ持ちながら言う。
「げ、原型がなくなる?」
「あ、俺、地獄で働いてるんだけど、反省しないで死後も人を殺すと原型なくなるまでドロドロに溶かされてたりするんだよね…。普通に怖いよ」
俺はそんなことをなにもないただの世間話のように語るその人のほうがよほど怖かった。
「カンナ、そんな簡単に内部情報を開けちゃだめなんじゃないの?」
「あー、そっか。ごめんごめん」
優に諭され、月のブローチをしたカンナは地獄についての話を止め、部屋から出ようとする。
「カンナ」
今度は花のブローチをした人が呼び止めた。
「もー、今度は何?」
「その下、匂いがひどい。多分…」
そう言って言葉をやめた。カンナを見ると真っ青な顔をしてこちらへゆっくりと戻ってきた。
「そういうのは先に話してって前に言ったよね?」
怒っているが、顔が真っ青だし、心の中も怖いで埋め尽くされている。地獄で指名手配犯がドロドロに溶かされているのは大丈夫だと言うのになぜ死体がだめなのだろう。広義的にはどちらも変わりはしないと思うが…。
「わー、ほんとだ。まだ地下室があるよ」
カメラのブローチをつけた人が下から声を張り上げていた。動きが早い。
「ほんとに自由気ままだね…」
優がため息をつきながら楽しそうに地下に降りる。一瞬で消えたから落ちたのかと心配になったが、ただ単に飛び降りただけだった。
「それじゃ、こっちは送ってくるよ」
「お、俺も行く!」
そう言ってカンナと花のブローチをした人は気絶している人を持って上へと上がっていった。
「こりゃ、4往復ぐらいしないと終わらないな」
花のブローチをした人がポツリと呟くのを聞いて、俺も手伝おうか聞こうとした時、下から優の声が聞こえた。
「赤ずきんはこっちー!早く来ないとおいてくよー。指名手配犯こっちに投げてー」
「…まじかよ…」
俺は色んな意味で引きながら下にいる優に指名手配犯を投げる。優は軽々と受け止めるのかと思いきや、避けて地面に落とした。
「おい!」
俺が抗議しようと声を荒らげた瞬間、指名手配犯が動き出した。
「いってぇな…くそが」
女性とは思えない声色だ。話したら普通にバレるような低音だった。指名手配犯は特に痛そうな頭をさすりながら周りを見た。
俺はとりあえず、梯子を伝って降りる。幅は大人2人がギリギリ通れるほど狭く、高さも2mと少しあるぐらいだった。全体的に狭い。
「お、やっと来た」
優が能天気な声色で俺に話しかけてきたが、指名手配犯はいつ逃げようか考えているようだった。
「案内して」
カメラのブローチをつけた人が指名手配犯に脅すように声を掛ける。
「は?んなこと誰がすっかよ」
「あっそ」
そういうと瞬く間に指名手配犯がまた気絶した。
「あいかわらず交渉下手だね。シスターは」
「仕方ないよ。1回で言うこと聞いてくれれば楽なんだけどね」
カメラのブローチをつけた人はシスターと言う名前らしい。シスターは軽々と指名手配犯を担ぎ、足早に奥へ進む。
地下は一言で言えば気味が悪かった。それに匂いもきつく、優たちが照らしてくれなければ足元はおろか、手元すら見えないだろう。
「懐中電灯も持ってきたのか?」
「何言ってんの?魔法でしょ?」
優は指元で光の玉を浮かべながらこちらに見せた。
「…魔法?」
初めてみた。こんなに簡単にできるものなのかと感心する。
「赤ずきんも練習すれば簡単に使えるよ」
「は…?」
「あははっ、君の世界では魔法がなかったのかな?」
「ないな。魔法なんてものは想像でしかなかった」
「そっかぁ…それだったら仕方ないね」
そんな適当な会話をしながら奥に進んでいく。途中で指名手配犯を持つのを変わろうかと思い、声をかけたが、大丈夫だと断られてしまった。
「昔の発掘場を改造した感じだね」
優が感心したように話す。
「そうだね。気になる反応が所々にはあるけど」
「気になる反応?」
「熱っぽいような、それでいて冷たいような…。そんな感じ」
「それは爆弾だね」
「あー…そっちか…」
優は悔しそうに言っているが、普通わからないだろ。
「昔埋めた地雷か核爆弾、もしくは僕たちにバレた時に証拠隠滅しようとした爆弾だった可能性もあるね」
「後者だった場合は緊急性はないけど、やっぱり呼んだほうがいいか…」
「渋ってないで呼びなよ。唯一と言ってもいいほど会話ができるんだからさ」
「嫌いなんだよなぁ、あいつ」
「まぁまぁ」
シスターが優を落ち着かせながら電話を促していた。優が渋々電話をかけると雰囲気がピリピリし始めた。
「だから早く来て。いいね?んなのはいいから。ふざけてんの?爆弾だって言ってるじゃん」
そんな怒っている会話が聞こえ、少し怯えていた俺にシスターは笑いながら話しかけた。
「優と日向は太陽と北風並に相性が悪くてね。いつもあーやって喧嘩してるんだ。日向は言語が全くと言ってわからないし、人に合わせる気がないからあまり人とは会話しないんだ。それでいて、観察眼はいいからとっても頼りになるんだけどねぇ…」
「じゃあ、他のやつが話したらいいんじゃないんすか?」
「日向の言語がわかるのは天才ぐらいなんだよね」
「どういう意味なんですか?」
「日向は多言語を混ぜて使ってるんだ。しかも不定期でその言語は変わるし…だから、わかる人も10人弱ぐらいかな」
「え…」
「一応私たちの言語も話してくれるんだけど素っ気なくて…仲良くなりたいのに…」
シスターは口を尖らせて言うのと同時に優の電話が終わったらしい。
「あー…疲れた」
「来てくれる?」
「なんとかね」
「よかった…」
2人はホッとしたらしく、表情が柔らかくなった。
「あとは…」
優が何か言おうとした際、奥から何かが走ってくるような音がゴトンゴトンとこちらに向かってくる。
「トロッコに一票」
「そのトロッコに時限爆弾がのってる」
シスターが予想を言い始め、優が最悪な予想をする。
「嘘だろ…」
「じゃあ、私のが当たってたら2人で何とかしてね」
「僕が当たってたらその場で爆発させて水かけるから」
「いいよ」
「んじゃ、ということで僕が止めるからなんかあったら赤ずきんバレないようになんとかしてね」
「なんかってなんだよ」
3人は一歩後ろに引きながら音の正体が見える範囲まで待つ。




