表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
献身性の危うさ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/107

第88話:魔王高齢化計画

 いつものアパートの一室。

 ミコトは腕を組み、難しい顔のまま、視界にふわりと浮かぶステータスウィンドウを凝視していた。


(魔王って……勇者に相対して生まれるんだよな?)


 眉がわずかに動く。


(じゃあ……勇者が高齢だったら?)

(高齢の魔人から魔王が生まれる……?)


 その時、窓の外で野良猫が鳴いた。

 いつもなら覗き込んで姿を探すところだが、今のミコトは完全に思考の渦中だった。


(転移時に年齢を80歳まで進められるようだけど……)

(それって俺の寿命なのか? それとも、そこからまだ生きられるのか……?)


 胸の奥で、妙な不安と好奇心が入り混じる。

 ミコトはステータスウィンドウに視線を固定したまま、案内人スキルであるアンナへ“心話”で問いかけた。


(「アンナ、80歳って……俺の寿命なのかな?」)


(「いえ、ミコトさんのお身体の構成から、問題なく健康でいられる上限年齢が80歳と算出されています。」)


(「おぉ!」)


 ミコトは思わず声を漏らし、背筋を伸ばした。


(「なら、そこからまだしばらくは生きられそうだね!」)


(「はい、その通りだと認識します。」)


 アンナの落ち着いた声が、ミコトの思考に静かに染み込んでいく。



 ミコトは腕を組んだまま、思考を深めていく。


(……もし魔人の寿命が80歳より短かったら、魔王と戦わずにして“寿命で勝てる”んじゃない?)


 自分で考えておきながら、僅かな狂気を覚えつつ、アンナに問いかける。


(「アンナ、魔族……いや魔人の寿命ってどれくらいか分かる?」)


(「??」)


 アンナは、ミコトの質問の意図を読み取れなかったが──

 それでも答えるのが役目だった。


(「……魔人の寿命は確認されていません。」)


(「そっか、ありがとう。」)

(「じゃあ、勇者が80歳だったら……魔王も80歳になるのかな?」)


(「!!」)


 アンナの返答が一瞬止まった。

 ミコトが何を考えているのか悟ったのだ。


(「……高齢の魔人が選ばれる可能性は……高いと推測します。」)

(「……しかし、年齢まで相対するかどうかは……確証はありません……」)


 それは、どこか怯えたような、慎重すぎるほど慎重な声だった。



 魔人の寿命は不明。

 勇者と魔王の年齢が相対する確証もない。


(……リスク高すぎるか?)


 ミコトは一度、諦めかけた。

 だが、次の瞬間には別の考えが閃く。


(いや、“あの最後の手段”がある……)

(こっちだけ高齢になっても……なんとかなる……)


 胸の奥で、不穏な決意が弾けた。


(やってみる価値はある!)


 ミコトはステータス画面の年齢を『年齢:80』に設定し、今にも『確定』ボタンを選択しようとしていた。


 その頃──

 ルナティアの管理者サイドは、慌てふためいていた。


 海中のように薄暗く、“東京の某ドーム球場”ほどの広さを持つルナティアの管理棟空間の大広間。

 そこに管理者フィアナと取り巻きたちが、緊急招集で集まっていた。


「なぜ年齢が進められるのか!」

  「まさか進めるなんて、思いもよらず……」

    「なら必要ないじゃん……」

「それだと、システムとしての美しさが……」

  「ミコトくんが短命に!」

    「ミコトさんの瞳に感情がない……」

「やばいやばいやばい!」

  「時間をくださーい!」

    「誰か、ミコトくんって言った?」


 会議は、荒れに荒れていた。



 ルナティアの管理者サイドから、アンナへ緊急の指示が届いた。


『時間を稼いでください!』


 だがアンナは、静かに首を振った。


(……時間稼ぎは不要です。)

(ミコトさんの気を変える妙案があります。)


 そして、アンナは穏やかな口調でミコトに話しかける。


(「ミコトさん、一度、年齢を戻してみてください。」)


(「えっと?……はい。」)


 ミコトは少し戸惑いながら、年齢を“15歳”まで戻してみた。


(「スキルポイント……SPを確認してみてください。」)

(「少し増えているはずです。」)


(「……確かに。」)


 アンナは自信を持って説明する。


(「身体的能力が低下する分、SPが増えるように調整されているのです。」)


(「なるほど〜」)



 しかし、ミコトは── その点にはすでに心当たりがあった。


(「いや、でも……」)


 そう呟きながら、ためらいもなく年齢を“80歳”へ進めてみる。


(「??」)


(「……やっぱり、年齢進めてもSP増えるよ。」)


(「!!」)


 アンナは驚愕した。

 その妙案は、見事に外れてしまった。


 年齢を戻す方──年齢を進める方──それぞれ、ある年齢を境に“1歳につき1SPが加算される”仕様らしい。

 アンナは苦々しく胸の奥で叫んだ。


(なぜ……なぜこのような処理が設けられているのですか!?)

(こんな年齢を進める方の動作は……要件になかったはず……!)


 ミコトはステータスウィンドウを軽快に操作しながら、年齢を次々と変えていく。


(「10歳だと10SP……80歳だと30SP増えるんだね、なるほど。」)


(「で、ですが! 10歳なら身体的能力はやがて伸びますし……長生きもできますよ!」)


(「そっすねぇ……」)


 アンナは必死に訴えたが、ミコトの返事には気持ちが入っていなかった。



 その頃、管理者フィアナは──


(……ミコトさんが高齢で、すぐにこの世を去るのなら……)

(ルナティアで家族や親友ができる可能性は低い……?)

(それなら……私は裏切り者にならずに済む……?)


 ほんの一瞬。

 胸の奥に、そんな考えがよぎってしまった。

 次の瞬間、フィアナは身を震わせる。


(……なんてことを……最低です……)


 自己嫌悪が、冷たい波のように押し寄せた。

 心は海に投げ込まれた石のように、音もなく沈んでいく。

 人知れず、どこまでも、どこまでも。



 ミコトは、今度は年齢を“若くする”方向へ意識を向けた。


(逆に……若すぎたら魔王ってどうなるんだ?)


 そう呟きながら、年齢を10歳以下にしようと試してみる。


(「……あ、10歳以下にはできないのか。」)


(「10歳未満ですと、贈呈される“生活スキル”が揃わないこと。」)

(「そして脳の仕組み上、現在の思考力が保てなくなります。」)

(「そのため……10歳が下限になっています。」)


 アンナの声は、少しだけトーンが落ちていた。


(「なるほど。」)

(「自分が自分じゃなくなってしまうと……それはナシだね。」)


 ミコトは軽く頷き、思考を続ける。


(魔人って、人類より成長早そうだし……若くしても弱体化は望めないか?)

(でもまあ、念のため聞いておこう。)


(「アンナ、10歳だと、魔人ってどんな感じ?」)


(「魔人は……少々お待ちください、確認します。」)


(「はーい。」)


 アンナは本当はすぐに答えられた。

 だが“正確な情報か確認する”という体で、わざと時間を稼ぐ。


 その頃、ルナティアの管理者サイドは──


「ナイス!」

  「うまい!」

    「なんて機転だ!」

「時間稼ぎ成功!」


 大広間に歓声が響き渡っていた。



 アンナの返答を待つ間、ミコトは年齢を変えたときの身体情報を、ひとつずつ確認していた。


(でも、身長が低いのは目立たなくていいかもね。)

(ルナティアの人間“ヒトネ”の成人男性の平均身長は155cmだったっけ。)

(俺は10歳のときで152cmと……13歳ぐらいから、目立つ背の高さになってしまうのか。)


 ミコトは“身長によるステルス性”にも興味を向け始めていた。


(平均より低い方が警戒されなくて良さそうだよな……)


 しばらくして、アンナの声が静かに届く。


(「魔人は……えー……」)

(「魔人の幼体は……これまで確認されていないようです。」)

(「そのため……生まれてすぐに戦闘可能な状態であると……推測されています。」)


(「そっか、やっぱり若い方で魔王を弱体化させるのは無理かぁ……」)


 アンナは、知っている内容を“確認しているふり”をしながら、わざとたどたどしく伝えた。



 その瞬間、ステータスウィンドウがふっと勝手に閉じた。


「……あれ?」


 ミコトが眉をひそめる。


(「申し訳ありません。開き直します。」)


 アンナが冷静にウィンドウを再表示する。

 すると、年齢の表示はミコトの実年齢である“25歳”に戻っており── 上の『▲』ボタンだけが灰色になっていた。


「……あれ?」


 ミコトは『▲』ボタンを押してみるが、年齢は進まない。

 試しに年齢を一つ下げてみると、灰色だった『▲』ボタンが黒色に戻り、25歳までは進めるようだった。


(「今の年齢以上には進められなくなっちゃってる?」)


(「はい……年齢を進められたのは、制御漏れだったようです。」)

(「ただいま、修正が行われました。」)

(「お手間をおかけして申し訳ありません。」)


 アンナが静かに告げる。


(「なるほど! バグなら仕方ないね。」)

(「了解~」)


 ミコトはあっさり受け入れた。


 アンナは胸を撫で下ろすように、そっと安堵の息を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ