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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
献身性の危うさ

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88/107

第86話:思いがけない進行

 テーブルに手をつき、前のめりになってノートPCの画面を見入るミコト。

 某匿名掲示板に彼が建てたスレッドは、いつもの雑音とは違い、一定の秩序を帯び始めていた。


--------------------

31:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

いつもの「異世界から書き込んでます」じゃないな


32:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

異世界に行く準備ってワリと珍しいな


33:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

>>31 それな


34:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

まぁ何を持って行けばいいか考えるのは面白そうではある


35:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

>>31

「異世界から帰ってきた」でもないなw


36:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

確かにどんな準備があるか気にはなる


37:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

どうせ「剣と魔法」だろw

厨二乙ww


38:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

ちゃんと考えるなら、やっぱ水と食料だろ、異世界でも腹は減る


39:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

異世界行くならまずWi-Fi持ってけwww


40:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

スレ主、わりと真面目に考えてるっぽいな

--------------------



 そして、さらに書き込みは続いていた。

 ノイズばかりだったスレッドに、少しずつ“議論”らしい流れが生まれていく。


--------------------

52:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

武器と防具と食料は必須だろ


53:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

スレ主、某大規模WikiをDLしてるのは分かる


54:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

>>53 でもあそこ正確じゃない内容もワリとあるぞ


56:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

>>54 よく修正合戦が起きてるしなw


58:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

正確な情報も必要だと思う


59:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

本は重いから重量制限があるなら無理だろ


60:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

電子書籍でいいじゃん


62:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

>>60

電子書籍は端末クラッシュするとアウト

バックアップあっても再認証必要だから異世界じゃアウト


63:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

>>58

電子辞書が良いよ。ネット不要で動くし、電池で動くのもある

電池は普通のと充電式のを両方持って行けば安心だ

実際、英和・和英・百科事典、その他色々と入ってるから、知識ベースとしては最強クラス

--------------------


 ここまで読み進めて、ミコトは思わず声を漏らした。


「おぉ!なるほど!」


 匿名の書き込みの中に、意外にも実用的な知恵が混じっている。

 彼は画面を見つめながら、感心せずにはいられなかった。



 ミコトは机に肘をつき、視線を落とした。


(電子辞書……そういえば、高校受験の時に買ってもらったやつがあったな。)


 思い出した瞬間、彼は立ち上がり、クローゼットへと歩み寄る。

 その奥の古びたカバンを引き出し、ファスナーを開けると── そこに眠っていた。


(……あった!)

(こんなに身近にあったのに、気づかなかったなんて……)


 久しぶりに電源を入れると、液晶に広がる膨大な辞書や図鑑の一覧。

 その情報量は圧倒的で、ミコトは思わず息を呑んだ。


(すごい……これだけの本が入っていたのか。)


 彼の瞳は驚きに見開かれ、次の画面へとボタンを押す。


(正確な内容で、ネットも不要……異世界に持って行くなら、“某大規模Wiki”と同レベルか?)

(いや、むしろこれだけでも十分なほどだ。)


 胸の奥に確信が芽生える。


(よし! この今持ってるのは、ルナティアでも持ち歩くことにしよう……)


 彼は電子辞書を手に取り、しっかりと握った。


(ルナティアでは、収納スキルが使えなくなることも……あるかもしれない。)

(そうなれば、この電子辞書が命綱だ。)


 そして、ミコトは再びノートPCへ向かい、ワイヤレスマウスに手を置いた。


(……最新の電子辞書も注文しておこう。)


 画面に映る“某家電ドットコム”のサイトで検索しながら、彼は呟く。


(壊れにくそうだし、あと2台あれば十分そう。)

(複数のメーカーから発売されているのか……)

(なら、メーカーを変えて購入すれば、それぞれの強みも生かせるし、予備にもなる。)


 収録されているコンテンツを確認し、最も実用的なのを選び、カートに入れていく。

 しかし、一日に何度も注文してしまうことに、わずかな罪悪感が胸をよぎる。


(……わりと高価なものだから、大丈夫だよね……)


 彼は注文を終え、深く息を吐いた。

 その横顔には、準備を一歩進められた安堵が宿っていた。



 しかし、彼が建てたスレッドは──


--------------------

65:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

今は時期が良い


66:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

時期が良いおじさんキター!w


67:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

時期って異世界転移の?w


68:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

そう、7日後は時期が良い


69:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

www


70:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

ウケるw


71:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

根拠なくて草

--------------------


 と、“時期が良いおじさん”ネタの投下によって、実りのないネタスレ進行へと逸れていってしまった。


「あああぁぁ……」


 ミコトは低く呟く。


「あっははは」


 そして、すぐに乾いた笑いを漏らした。

 両手を頭に当て、天井を見上げる。


(このいつもの感じ……これもあと7日だけか。)

(でも、否定や煽りの進行じゃなくなったのはありがたいな……)


 感慨深げに目を細める彼の胸には、わずかな寂しさと感謝が入り混じっていた。



 その様子を見ていた“案内人スキル”のアンナが、心配して声をかける。


(「なにか良くないことでも?」)


 ミコトは心配させてしまったことに気まずさを覚え、視線を画面に戻す。


(「えっと、アンナさん、この画面見られま……」)


 そう言いかけて、言葉を飲み込む。


(「アンナ、この画面見られる?」)


 すぐに呼び方を変え、柔らかい口調で言い直す。

 その響きにアンナは──


(「はい! 拝見しても?」)


 と、嬉しそうな口調で応じる。


(「どーぞどーぞ。」)


 そう言いつつ、アンナが異世界の存在だったことを思い出し、“PC”、“ネット”、“某匿名掲示板”の説明を簡潔に添える。


 ── この箱は、知識や情報を自分で作り出し、蓄えておける道具だと。

 さらに、これを“ネット”という仕組みで“もっと大きな箱”へ繋げば、外の知識や情報を集めることができること。

 その“もっと大きな箱”には、大勢の人々が同じように繋がっていること。

 いま表示している“某匿名掲示板”は、そうした人々が互いに言葉や知恵をやり取りする場であることを伝えた。


 アンナは、その説明を静かに受け止め、理解しようと努めていた。



 続けてミコトは、画面をスクロールしながら、自分のスレッドを先頭から順に表示した。


(「…………」)

(「信用してもらえないのは辛いですね……」)


(「ん~そうでもないかな、予想はしていたし。」)

(「むしろ、乗ってくれる人がこんなにいるとは思わなかったぐらいだよ。」)


(「なぜ信じていないのに、案を出してくれるのでしょうか?」)


(「考えるのが好きなんだと思うよ。」)


(「こちらの世界は、知力を持て余している人が大勢いるのですね……」)


 アンナの声には、納得と驚きが混じっていた。


(「確かに、そんな人多いかもしれない。」)


(「なぜ時期が良いと分かるのでしょうか?」)


 アンナの問いに、ミコトは苦笑する。


(「いや、これは根拠なく言い放っているだけ。」)


(「なぜそのようなことを?」)


(「悪ふざけというか、遊びだよ。」)

(「流れを無視して放り込むのが、タイミングによっては面白いからね。」)


 彼は画面をトントンとつついた。


(「否定したり、煽ったり、色々と考えてくれたりするもの、全部遊びなんだよ。」)


(「なるほど……そういうものなのですね。」)


 納得できていなかったが、アンナはそう答えた。

 こちらの世界の文化を、いつか理解できるようになることを願いながら。


 そして──

 ずっと穏やかに接してくれるミコトに深い感謝を抱き、静かにその口調を受け止めていた。



 ~今回手配したもの~

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 ……CA社の電子辞書:1

 ……SH社の電子辞書:1

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