第81話:従魔スキル『質量共鳴[種族固有]』
ミコトは腕を組み、従魔ウィンドウに浮かぶスキル欄を、無言のまま凝視していた。
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【スキル名】
質量共鳴[種族固有]
【効果】
目視可能な「動物・魔物」を対象に、質量を自身に共鳴させ、その質量の体格へと変化する。
【制約】
対象は「生きている」こと。
共鳴中に対象が死骸になった場合、変化は解除される。
上限は10トン。
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ミコトは説明に視線を落としたまま、揺れる前髪を指で払う。
「……質量共鳴、種族固有。」
「……共鳴って何だと思ったけど……身体の大きさを変えるスキルか……」
ミコトは、キング改め『ミカド』の、従魔スキルについて考える。
“なぜ、この従魔スキルなのか”には、一つ覚えがあったのだ。
(……この子は、同じ大きさならどんな生き物にも負けないって……家族でよく話してた。)
(身体能力の高さ、持久力の高さ、そして頭の良さにいつも驚かされてて、みんなで感心しながら。)
(だから、このスキルを……持って生まれたのかもしれない。)
視線がスキルの説明をなぞり、呟く声に懐かしさが滲む。
(従魔がどうやって誕生するのかは分からない。)
(けど、生前の姿や能力、記憶や想いが影響して生まれるような気がするな。)
ミコトは深く息を吐き、窓の先を仰いだ。
星々の瞬きが、彼の思索を見守るように輝いていた。
画面の中のミカドを見つめながら、ミコトは思索の深みに沈んでいく。
ミカドは、従魔ウィンドウの中で── 生前のままの“リスのような俊敏な動き”を見せていた。
視線が柔らかく揺れ、記憶の温もりが瞳に宿る。
(今の10倍の重さでも、昔のままの動きができるのは凄い……!)
(そして、“10トン”まで戦う相手の大きさに合わせて身体を大きくできる……これは、かなりの強スキル!)
だが、彼は眉をひそめる。
(でも、いくら何でも、10トンもの体重で、この動きができるはずがない……)
(重くなればなるほど、骨や筋肉、靭帯の強度が追いつかず、動きは鈍くなるはず。)
実際に、同じネズミ系の動物も── 大きく重いほど動作は鈍い。
その理屈を知るミコトの瞳に、確信が宿っていた。
ミコトはふと、考えを巡らせた。
(……10トンって、どんな大きさなんだろうな?)
そう思いながら、目の前のノートPCで簡単に調べる。
(アフリカゾウの“最大サイズ”が、それぐらいらしい……)
(でも、あまりイメージできない……)
(子供の頃に動物園で見たことはあるけど、よく覚えてないな。)
心に呟きが静かに響き、彼の眉間に皺を刻む。
(シャチの最大サイズも、10トンぐらいらしい……でも、やっぱりこちらもイメージしづらい……)
波間を泳ぐ巨体を思い浮かべるが、現実感は薄い。
(……現存しない生物なら……恐竜のティラノサウルスが10トンくらいか。)
(これは、あの映画で何となくイメージできるな……)
口元にかすかな笑みを浮かべ、記憶を辿る。
映画館のスクリーンに映し出された巨体が、脳裏に蘇る。
(“ティラノサウルス”ぐらいの敵と、互角に戦えるのか!)
(ファンタジーの定番の、序盤の脅威“オーク”や“オーガ”……)
(転移してすぐにそんなのが出てきても、切り抜けられそう。)
そして、普段なら慎重に熟考するミコトの思考は、この大事な考察の局面で、明後日の方向へと飛んでいく。
ミコトの瞳が輝き、思わず口元が緩む。
胸の奥で響く思考は、少年のような熱を帯びていた。
(……2.3kgってことは、抱っこできるじゃないか!)
(そして憧れの……!)
その憧れとは── かつて猫を飼っている人から聞いた“猫吸い”というもの。
つまり── “デグー吸い”だ。
(さすがに、手乗りサイズの頃はできなかったけど!)
(今回は……!)
しかし、ミコトはハッと気付いた。
もっと大事なことがあると。
(10トンまで大きくなれるってことは……)
(ノロい敵を相手にしてる時なら、背中に乗せてくれるんじゃないかな~~~!)
彼の脳裏には、ミカドの背に乗って草原を縦横無尽に駆け回る光景が鮮明に映し出されていた。
──
ミカドの柔らかな背に身を預け、四肢が地を蹴るたび、地面が震え、疾走の鼓動がミコトの身体に伝わる。
草原はどこまでも広がり、風に揺れる草の海が陽光を反射して煌めいていた。
空は澄み渡り、雲は流れ、風を切り地平線へと駆け抜けるその姿は、彼にとって自由と憧れそのものに変わっていった。
他方、案内人スキルは、従魔ウィンドウを凝視するミコトの姿を見ていた。
その熟考しているように見える彼に、また素晴らしい考察を巡らせているのだと、頼もしさを覚えていた。




