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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
ルナティアの管理者サイド

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第79話:最大の裏切り

 ルナティアの管理棟、大広間。

 青い発光体が漂い、淡い光を放つ部下たちが浮遊している。

 その夜の海のように幻想的な空間の中央頂上の辺り。


 管理者フィアナは、心を深い闇に沈めていた。


(……ミコト様がこの世を去った時に、世界リセットを行うと決めました……)


 フィアナは視線を落とし、流れる淡い光の粒を見つめる。


(ミコト様なら……多くの友人、家族、そして子孫を残されるでしょう。)

(そして……その時、必ず残していく人々を案じ、幸せを祈って逝かれるはず……)


 だが、ミコトが残した者たちは、その直後に世界リセットと共に消えてしまう。

 その想像は、彼女の胸を締め付ける。


 それは、ルナティアを想い、親身に貢献しようと転移を決意したミコトへの──


(……最大の裏切りです……)


 フィアナの精神は、薄氷の上に立つように危うく、今にも砕け散りそうだった。

 放つ光は、胸に重く響く苦痛により波打つ。


(……私は管理者……転移勇者を迎える者……その責任がある……)


 彼女は必死に気を強く保ち、崩れ落ちそうな心を支えていた。



 その時、取り巻きの数人が勢いよく泳ぎ始めた。

 淡い光の粒を散らしながら、声を重ねる。


「ミコト様が、魔族を滅ぼす!」

  「ミコト様ならやってくれる!!」

    「これで人類は救われる!」


 その声は弾けるように波紋となり、大広間に広がっていく。

 フィアナはハッとした。


(……そんなこと、まったく思いもしていなかった……)


 それほどまでに、魔族は異世界の管理者たちにとって強大な存在だった。

 どの異世界でも、まったく攻略できていない── レジスト『魔族』。


(……魔族の殲滅……?)

(そもそも、ルナティアの人類が魔族と互角の状況でも……転移勇者に求められる成果は“魔族の殲滅”ではない……)


 人類側を大きく有利にさせ、その後の数代の現地勇者で魔族殲滅を成せる道筋を作る── それが、転移勇者に求められる最大の成果だ。


 しかし、楽観論者たちの声はなおも響く。


「ミコト様なら……!」

  「必ず……!」


 フィアナの思考は揺れる。


(……そんなことがあり得るのか?)


 疑問が胸に広がり、淡い灯火のように消えずに残った。



 すると、他の大多数の取り巻きたちが泳ぐのをやめる。

 ゆらゆらと漂い、放つ光も弱々しくなっていく。


「いくらミコト様でも無理だろう……」

  「もう、そんな状況ではない……」

    「期待すると、ミコト様に負の感情を抱いてしまいかねない……」

「無責任に期待してはダメだ……」

  「そもそも、当初も魔族の殲滅までは求めていなかったはずだ……」


 悲観論が重く広がり、空間の光は沈むように揺らめいた。


 フィアナはその声に耳を傾け、視線を落とす。


(……まったく同感だ……)

(期待してはいけない……)


 彼女の胸に響くのは、冷たい現実だった。

 フィアナは小さく呟き、頭を振ってその思いを掻き消そうとした。


(好意で助けに来てくださるミコト様の、その行動を……素直に受け止められなくなってしまう……)

(失望が怒りに変わってしまう……だから、楽観論は振り払わなければ……)


 しかし、振り払おうとすればするほど、淡い灯火は心の奥に残ってしまう。

 心とは、そういうもの。


 フィアナは、自らの矛盾を抱きしめるように静かに漂った。



 弱々しい光が漂う中、補佐職の一名が静かに声を発した。

 その声は水面を震わせるように広がり、場の空気を変えていく。


「……転移勇者候補の選定で、案内人スキルには伏せていた条件があります。」

「転移が決まった以上、どこかのタイミングで伝えるべきではないでしょうか?」


 ── 案内人スキルに伝えられていた、転移勇者候補の選定条件は、四つ。


 ……善悪ステータスが“ライト”であること

 ……高い思考力を持つこと

 ……スキルへの理解が高いこと

 ……理不尽さに対して、感情に流されず、静かに呑み込めること


 ── これらはすでに、案内人スキルからミコトにも、伝えられている条件だ。


 フィアナは、意識をその補佐職に向けた。

 補佐職は言葉を続ける。


「……ただし、最も重要な条件が、もう一つあります。」

「それは── 異世界ルナティアに対する“献身性”です。」


 補佐職の声は、夜の海に沈むように重く響いた。

 どれほど親身にルナティアの問題に対処してくれるか、その度合い。


 それこそが最も重要な条件とされていた。

 だが、訳あって案内人スキルには伏せられていたのだ。



 取り巻きたちは、煌めきながら、勢いよく泳ぎ回り口々に声を上げた。


「圧倒的な第一候補のミコト様!」

  「飛び抜けた献身性のミコト様!」

    「絶対に裏切らない方!」

「歴代勇者と同じぐらい!」

  「いや、もっとかもしれない!」


 光の粒が弾けるように舞い、大広間は熱気に包まれていく。


 オーバーテクノロジーである『原初の世界アマノハラ』の地球の知識や技術を持ち込む転移者に対して、慎重になるのは当然だ。

 だからこそ── 自らの想いや欲望よりも、転移先の世界を優先してくれる人── 異世界側はその献身性を利用せざるを得ない。


 要は── 異世界側にとって、都合の良い人であるということ。


 そのため、転移勇者候補と直接交流する案内人スキルには、後ろめたい気持ちにならないよう、献身性のことは敢えて伏せられていたのだ。


 フィアナは静かに息を整え、視線を巡らせる。


「……これ以降の交流には、それを知っておく必要があります。」

「案内人スキルに、伝達してください」


 その言葉に、取り巻きたちは一斉に声を合わせた。


「フィアナ様の御心のままに!」


 煌めきが波のように広がる。

 こうして、転移勇者候補の選定条件のもう一つ── 最重要条件である「献身性」が、案内人スキルに伝えられることになった。


 しかし、“献身性は高ければ高いほど良い”というわけではない──

 ルナティアの管理者サイドは、その事実を、このあとすぐに思い知ることになる。

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