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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
ルナティアの管理者サイド

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第78話:転移勇者計画の中止の中止

 ルナティアの管理者サイドは、大混乱になっていた。


「ミコト様が転移を決意されたー!」

  「やったー!」

    「急展開!!」


 歓喜の声が弾ける。

 だが、その直後に冷や水を浴びせるような声が響いた。


「……いや、転移勇者計画は中止になったのでは……?」

  「あっ!!」

    「そうでした……」

「なら、なぜ転移の承諾ができたのでしょう?」

  「確かに……」

    「……なぜに!?」


 青い発光体が幾つも浮かび、まるで水底に沈む廃墟のように薄暗い巨大空間。

 そこに、淡い光を放つクリオネのような姿をした“補佐職”と“幹部職”が次々に集まり、ざわめきが波紋のように広がっていく。


 ルナティアの管理棟空間の“大広間”は、まるで水面に映る月影のように揺らめいていた。

 その幻想的な光景の中で、混乱はなおも深まり、誰も出口を見いだせない。



 淡い光の姿たちが動き回り交錯し、光の粒が震える。

 補佐職の一人が首を傾げる。


「なぜ承諾が通ったのですか?」

「“承諾ボタン”の“無効化の作業”は、どうなっていたのでしょうか?」


 幹部の一人が光を揺らしながら、ぽつりと答える。


「“外界省アマノハラ局転移部開発課ダイアログ開発係UI調整分室”が担当だと認識します。」


「……階層深い……」

  「深いですね……」

    「……長い。」

「えぇっと……?」

  「??」

    「すみません……もう一度……」


 その呟きのさ中、外界省を担当する幹部が前に進み出て、つらつらと述べ始める。


「このたびは階層の深さについて、ご心配をお掛けしておりますこと、申し訳なく存じます。しかしながら、外界省アマノハラ局転移課は、“原初の世界アマノハラ”への接触という異世界史上初の崇高な試み、並びに“転移勇者計画”という偉大なる事業を成功裡に遂行するため、あらゆる角度からの検討を重ね、万全を期した態勢を整えてまいりました。その過程において、各部署の専門性を最大限に活かすべく、多層的な組織構造を採用した結果、現在のような階層に至ったものでございます。再編および効率化につきましては、今後の重要課題として鋭意検討を進めてまいる所存でございますので、宜しくお願い致します。」


 それに対し、補佐職の3名が返答する── こういった場合の返答は、ほぼ定型化されている。


「……はい。」

  「承知しました。」

    「宜しくお願いします。」


 ── “転移勇者計画”が中止、または転移が実行されれば、関連するそれらの部署はすぐに閉じられるので、問題ないなと考えながら。



 外界省を担当する幹部が、状況を説明する。


「……実は、“承諾ボタン”の無効化よりも、ミコト様との会話時間の延長を優先して実装しておりまして……そのため、無効化が後回しになり、間に合わなかったのです。」


「……なるほど!」

  「それは……仕方がないですね。」

    「延長は最重要事項ですしね!」

「ミコト様の急な心変わりは、誰も予想できませんでしたから。」

  「ええ……本当に急でしたね……」

    「ミコト様の転移辞退の決断には、強い意志を感じましたし……」

「私も、同じように感じてました。」


 誰もが納得したように光を揺らす。



 大広間の青い光は、波紋のように揺れながら、補佐職と幹部職たちのざわめきを映し続けている。

 補佐職の一人が首を傾げる。


「……“案内人スキル”への“転移中止の連絡”の方は、どうなったのでしょうか?」


 幹部の一人が光を揺らしながら、ぽつりと答える。


「“スキル省運用局ユニークスキル部案内人スキル課連絡係外界連絡分室アマノハラ連絡分隊”が担当だと認識します。」


「階層深い……」

  「深すぎる……」

    「えぇっと……?」

「すみません……もう一度……」

  「分室分隊……?」

    「……?」

「??」

  「分隊は初めて聞きました……」

    「そうか、“スキル省”の管轄か。」


 その呟きのさ中、スキル省を担当する幹部が前に進み出て、つらつらと述べ始める。


「このたびは階層の深さにつきまして、ご不便をおかけしておりますこと、まずは誠に申し訳なく存じます。もっとも、我々としては常に再編と効率化を念頭に置いておりますが、スキル省はルナティアにおいて最も古い省の一つであり、その歴史の深さが現在の階層構造に色濃く反映されております。各階層にはそれぞれ設置の理由と役割が存在しており、安易な統合はかえって不調や齟齬を招く恐れがございます。したがいまして、今後の再編につきましては十分な検討を重ね、慎重に進めてまいりたいと考えておりますので、引き続きご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。」


 それに対し、補佐職の3名が返答する── こういった場合の返答は、ほぼ定型化されている。


「……はい。」

  「承知しました。」

    「宜しくお願いします。」


 ── “検討することはするかもしれないが、結局なにも変わらないだろうな”と悟りながら。



 スキル省を担当する幹部が、状況を説明する。


「……案内人スキルに連絡を取るには、“勇者省”の許可が必要です。」

「また、案内人スキルは現在、“原初の世界アマノハラ”側に接触している状況にございます。」

「そのため、連絡を取るには、さらに“外界省”の許可が必要です。」

「しかしながら、その権限申請はまだ許可されておりません。」


「……えっ?」

  「許可なら簡単に通るはずなのに?」

    「なぜ止まっているのです?」


 補佐職たちがざわめき、調べが進む。


「“スキル省運用局ユニークスキル部案内人スキル課連絡係外界連絡分室”で申請が止まっていました。」


「直上部署で……」

  「いきなり……」

    「誰も気付かなかった……?」

「直上部署の人員は……2名のようです。」

  「……少ない……」

    「それは……」

「……その状況の分室に、なぜ分隊が?」

  「……?」

    「??」

「分隊は初めて聞きました……」

  「……今後、分隊が増えて行くのでしょうか……?」

    「……………………」


 淡い光が飛び回り、困惑の声が重なる。


「その二名のうちの一名は、前回の会議の終わりに、“現地勇者選定”のヘルプに駆り出されていました。」

「もう一名は……前回の会議の終わり間際に、リフレッシュ休暇に入りました。」


「あー」

  「あぁ~……」

    「あれですか……」

「有無を言わせないやつ……」

  「うちでは強制休暇と呼んでいます……」

    「それっ」

「それです、それ。」

  「そんなに休んでいなかったのですね。」

    「お疲れ様です……」


 つぶやきが波紋のように広がる。

 混乱はなおも深まり、しかし誰もがその場の空気に呑まれていく。



 青い発光体が揺らめく大広間。

 ざわめきは渦のように広がっていた。


 しかし、管理者フィアナが一歩前に進み出ると、その瞬間に波は止み、空間は静寂に包まれた。


「人類滅亡までの正確な年数は、ミコト様に伝えられていません。」

「しかし、ミコト様も同様の認識をお持ちであると考えます。」

「そして── その上でのご決断でしょう。」


 淡い光が揺れ、取り巻きたちは息を呑む。

 フィアナの声は水底に響く鐘のように、静かに、しかし確かに広がっていった。


「私は、ミコト様のご決断を尊重したいと思います。」

「転移を── 決行します。」


 その言葉が落ちた瞬間、大広間の光が一斉に震えた。


「フィアナ様の御心のままに!」


 取り巻きたちの声は重なり合い、光の波紋となって広がる。

 その響きは、まるで水面に映る月明かりが幾重にも重なり、夜空を覆うような荘厳さを帯びていた。



 管理者フィアナは、部下たちが放つ輝きの中で、深く思索に沈む。


(ミコト様なら……ルナティアの人類滅亡までの年数を、自らの生きている間まで伸ばせるでしょう……)


 その確信は、月夜の雪のように胸に降り積もる。


(それは……長くても百年……それぐらいなら、地球の人類が滅びることはないでしょう……)

(ならば── ミコト様がこの世を去る時を、世界リセットの時とします!)


 こうして、“ミコトが生きている限り、世界のリセットは行われない”ことが決断された。

 それは── 上辺だけ見れば、ルナティアの人類や生命にとって状況の好転に思えた。


 しかし、フィアナだけが思い至れる“一つの可能性”に── その心の重さは、さらに大きくなっていた。

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