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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
異世界転移の案内
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第5話:派生世界の種族

 ここまで口を挟まずに説明を聞いてくれたことに対し、案内人スキルが感謝の言葉を述べた。


(「ここまでご清聴いただきありがとうございました。」)

(「何かご不明な点がありましたら、お気軽にお聞かせください。」)


 ミコトはノートPCのメモを見つめながら考えた。

 地球の生命体をコピーしているのなら、自分が持っている知識が役立つはずだ。


(少なくとも、思いもよらない生物がいないなら対応できそうだ…。)



 そして一つの疑問が浮かび上がりメモを追加する。


(地球の1万年前の人類をコピーしてるなら……異世界には、エルフやドワーフなんかの亜人はいないのか…?)

(さっき見せてもらった映像にも、人間しか映ってなかったしなぁ……)


--------------------

『異世界の人類の種類は人間だけ?』:未済

--------------------


 ミコトは少し残念に感じた。

 ファンタジーの世界では当たり前のように存在する種族が、異世界には存在しないと思ったからだ。

 しかし、ふと言葉の使い方が気になった。


(でも、それなら『人間』って言えばいいんじゃない?なぜ『人類』って言ってるんだろう…。)


 そこで、ミコトは質問を投げかけた。


「派生世界の人類は、自分のような人間だけしかいないよね?」



 しかし、案内人スキルの答えは、ミコトの予想を大きく覆すものだった。

 案内人スキルは、穏やかな口調で語り始めた。


(「まず、ミコト様と同じ種族が存在します。ルナティアでは最も人口が多い種族で、他の種族からは『ヒトネ』と呼ばれています。」)


 ミコトはノートPCの画面を見つめながら、軽く眉をひそめた。


「ヒトネ…?」


 それはまるで「人ね」と似た響きを持っていた。


ヒトが入ってるのは分かりやすいな。でも、"他の種族"って…?)


 彼の思考が整理されるよりも早く、案内人スキルは続けた。


(「そして、派生世界には『ヒトネ』の他に、『エルフ』『ドワーフ』『オビト』『ポックル』といった種族が存在します。」)


 ミコトは、一瞬息をのんだ。


「!!…エルフやドワーフがいるの!?」


 驚きと喜びが同時に湧き上がる。

 ファンタジー作品で見慣れた種族が、実際に異世界に存在する―― その事実に胸が高鳴った。



 しかし、同時に新たな疑問も浮かび上がりミコトは問いかけた。


「えっと…地球の1万年前の人類のコピーですよね?それなのに、どうしてエルフやドワーフがいるのでしょう?」

「ご存じと思いますが、地球には人間しかいません。」


 その瞬間、彼の脳裏にある可能性がよぎる。


「もしかして、管理者さんが、種族を追加したの?」


 案内人スキルは穏やかな口調で答えた。


(「いいえ、管理者が何らかの介入をして種族を追加したわけではありません。」)

(「確かに管理者はそういった介入も可能ですが、今お伝えした『エルフ』『ドワーフ』『オビト』『ポックル』は自然に発生しています。」)


「…ええぇ……?」


 一拍置いて、案内人スキルは言葉を補足する。


(「コピーの時点では、オビトを除いて、それほど大きな違いがあったわけではないようです。」)

(「しかし、数千年の時間をかけ、それぞれの特徴が際立つようになりました。」)

(「この変化も、自然な環境適応によって生じたものと考えられており、特定の意図で管理者が操作したものではありません。」)

(「なお、これらの種族が存在することと、その変化は、どの派生世界でも共通していると認識されています。」)


 ミコトは軽く頷きながら、ノートPCの画面を見つめた。


「つまり…どの派生世界でも、エルフやドワーフ、オビトみたいな種族が生まれてくるんだね。」


(「はい、その通りです。」)


 ミコトは腕を組みながら考える。


(…進化?いや、数千年なんて短期間で劇的な進化はしないだろう。)

(もともと各種族は原人の種類が違っていて、それぞれの特徴が時間の流れとともに強まる進化―― ミクロ進化と言われるやつか…?)

(…つまり、異世界の種族は意図的に作られたのではなく、時間の流れの中で種族が確立されたと。)

(絶滅してしまっただけで、もしかしたら、エルフやドワーフ、オビト、ポックルの祖先にあたる原人が、地球にも存在していたのかも……?)



 ミコトはここまで思考を巡らせた後、案内人スキルの説明の中に、一つの気になる点を見つけた。


「ところで、オビトを除き…って所を、もう少し聞かせて欲しいです。」

「オビトって種族は、最初から他の種族と大きく違っていたのですか?」


 案内人スキルは変わらず穏やかに応じる。


(「オビトは、コピーの時点では四足歩行の名残を持っており、全身に濃い体毛があったと認識しています。」)

(「しかし、同じく数千年の時間を経て完全な二足歩行となり、体毛も他の種族と変わらなくなったようです。」)


(四足歩行から…?)

(そして、今はヒトネやエルフと大して変わらないと…?)


 案内人スキルは続けた。


(「ただし、オビトは四足歩行の哺乳類のような大きな耳と尻尾がそのまま残っています。これが他の種族と大きく異なる特徴です。」)


(大きな耳と尻尾…?)


 ミコトは案内人スキルにお礼を言うと、ノートPCの画面を見つめたまま目を細めた。

 脳裏には、獣のような特徴を持つ人の姿がはっきりと浮かんでいる。


(なるほど…完全に人間に近づいたわけじゃなく、動物的な特徴が残ってるんだ。)

(ファンタジー好きな人の中でも、人によってはエルフやドワーフより人気の、いわゆる獣人だね。)

(……実は、俺も獣人好きの中の一人なんだよな~)

(特にキツネ系が…。)



 ミコトは軽く頷きながら、質問を投げかけた。


「エルフやドワーフは何となく分かるけど……想像している特徴とは違うかもしれないし、それぞれの種族の具体的な特徴を教えてほしい。」


(「承知いたしました。」)


 案内人スキルは少し間を置いてから、説明を始めた。


(「それでは、ヒトネ、エルフ、ドワーフ、オビト、ポックルの特徴について説明させていただきます。」)


 案内人スキルは、ミコトの視界に映像を映しながら、それぞれの種族の特徴を分かりやすく説明した。


--------------------

 まず、地球でも馴染みのある、人間の老若男女の姿が映し出される。

『ヒトネ』

 ・ 現地の言葉で「人間」を意味する。

 ・ ほとんどの異世界で最も人口が多い種族。

 ・ 平均的な身体能力を持ち、文明の発展とともに農耕・工業を中心に社会を築いてきた。

 ・ 多様な思想を持ち、政治体制や文化が地域ごとに異なる傾向がある。


 次に、細身で長い耳を持つ、色白な老若男女の姿が映し出される。

『エルフ』

 ・ 長命であり、歴史を重視し、世界の記録者としての立場を得ている。

 ・ 深い森の中で狩猟を中心とした生活を送り、集落単位で社会を形成している。

 ・ 集落から離れると寿命が短くなると言われており、森から出る者は殆どいない。

 ・ 保守的で慎重な性格の者が多く閉鎖的に思われているが、他の種族に対してはとても友好的。


 続いて、背が低くがっしりとした体格を持つ、筋肉質な老若男女の姿が映し出される。

『ドワーフ』

 ・ 力強い腕を持ち、武器製造や機械技術の発展に貢献。

 ・ 金属加工や工芸技術に優れており、鉱山や洞穴を中心に社会を築く。

 ・ 無類の酒好きである。

 ・ 頑固で排他的だが誠実な者が多い。


 更に、獣の耳と尻尾を備え、日焼けした老若男女の姿が映し出される。

『オビト』

 ・ かつては四足歩行だったが、時代とともに完全な二足歩行に変化。

 ・ 鋭い嗅覚と聴力が発達しており、狩猟に適した身体能力を維持している。

 ・ 草原で狩猟を中心とした生活を送る。社会は部族制を基本とし、部族の集まりで社会を形成する。

 ・ とても短絡的で、動物的な性質が強く残る。


 最後に、小柄で丸みを帯びた体型の、親しみやすい雰囲気の老若男女の姿が映し出される。

『ポックル』

 ・ 食欲と好奇心が旺盛で、とてもフレンドリー。

 ・ 丘陵地帯を拠点に、独自のコミュニティを築いている。

 ・ 農耕を中心とした生活を送り、特に農業技術の発展に長けている。

 ・ 平和主義であり、揉め事を巧みに避けようとするが、必要とあれば戦う覚悟も持つ。

--------------------


(…なるほど、どれもしっかりイメージできるな。)

(エルフやドワーフは想像通りの種族のようだし、オビトも獣人の特徴そのもの。ポックルは王道の小柄な種族ってところか。)



 説明を聞きながらミコトの脳裏には、ゲームや物語で見たことのある種族が次々に浮かんでくる。

 そして、異世界の大きな町の『様々な種族が行き交う雑踏』の光景が広がる。


--------------------

 活気あふれる広場には、背の高いエルフが優雅な足取りで歩き、屈強なドワーフが金細工の露店を覗き込む。

 オビトたちは尾を揺らしながら、しなやかな動きで通りを行き交い、ポックルの小さな影が路地を素早く駆け抜ける。


 市場からはスパイスや焼き立てのパンの香りが漂い、異なる声色が交錯するざわめきが耳に心地よい。

 遠くでは吟遊詩人が竪琴を奏で、ヒトネの店主が静かに古着を並べる姿がある。


 それぞれの種族が独自の文化を持ちながら、この町で共に暮らし、交わっている。

--------------------


 まるで異世界そのものが息づいているような景色に―― 彼は心を躍らせた。

 どの種族も、ファンタジーの世界で馴染みのある存在だ。

 だが、それが異世界のみではなく、地球にも『それぞれの祖先になる、それぞれの原人』が存在していたと考えると、また違った感慨があった。


 そして、異世界の仕組みに色々と感心するうちに、ミコトは今回の異世界転移を、信用できるものとして受け入れ始めていた。



 ―― この時、ダイアログボックスの自動的に[拒否]になるまでの時間は、100分01秒になっていた。


『※あと100分01秒で自動的に[拒否]になります。』

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