第63話:スキルを超える者たち
ミコトは、案内人スキルに、“スキルを超える者”について問いかけた。
「……ラシュアさんのように、スキルを超える者は……その後にも現れましたか?」
案内人スキルが、即座に応じる。
(「はい、その時代において、1〜2人といった頻度で、現れています。」)
その口調は冷静だったが、誇らしさが言葉の底に滲んでいた。
(「勇者ラシュア様の在り方に感銘を受けた者たちは、鍛錬によって“剣技++”などの武技スキルを超えていき、さらに、“破術”スキルを取得します。」)
ミコトの脳裏に、剣を振るう者たちの姿が浮かぶ。
(「その者たちは、“剣聖”、“槍聖”、“弓聖”と呼ばれ、総じて“武聖”と呼ばれています。」)
(「その後、勇者一行の構成において、“聖女”と同じく、“武聖”は特別枠として扱われるようになります。」)
ミコトは頷く。
(……勇者一行の構成が、変わったと……)
そして、案内人スキルは続ける。
(「9代目勇者までは、勇者と、異なる種族から1名ずつ。そこに“聖女”を加えた、計6名の編成でした。」)
(「そこに、“武聖”は、全員が参加することになりました。」)
(「たとえば、その時代に“剣聖”と“弓聖”がいれば、二人とも勇者一行に参加し、計8名の編成になります。」)
そのルールは、確かに“変化”を物語っていた。
一人の勇者の在り方が、周囲の在り方をも変えていく。
ミコトは、その流れを静かに受け止める。
しかし── 案内人スキルは、わずかにトーンを落として言葉を継いだ。
(「……ただし、弊害もありました。」)
その一言に、ミコトの意識が鋭く向く。
(……弊害?)
案内人スキルは、静かに語り始めた。
(「かつて、“善悪ステータス”が“レッド”や“ダーク”に堕ちた者たちは、生活スキル以外を使用できず、取るに足らない存在でした。」)
(「仮に自力で技術系スキルを身に付けたとしても、“剣技”や“隠密”といった無印か、せいぜい“+”までが限界だったからです。」)
案内人スキルは続ける。
(「SPを使用して技術系スキルを“+”にするのは、それほど困難ではありません。」)
(「そのため、地方の衛兵でも、十分に対処可能な相手だったのです。」)
だが、その語調に、わずかな緊張が混じる。
(「しかし、“スキルを超える者”が、レッドやダークに堕ちた場合……状況は一変します。」)
(「そういった者たちは、“剣災”、“槍災”などと呼ばれ、総じて“武災”と呼ばれています。」)
(「そして、“武災”の対処には、“武聖”の動員が必要となるのです。」)
(……なるほど……)
(「しかも、“武災”は必ずと言ってよいほど、盗賊などと徒党を組んでいます。」)
(「そのため、討伐には“武聖”を筆頭に、強力な攻撃術使いの編成が必要となります。」)
ミコトは、思わず呟いた。
「……まるで、魔王討伐ですね。」
案内人スキルは、静かに肯定する。
(「はい、実際に“武災討伐”と呼ばれています。」)
そして── 案内人スキルは、わずかに間を置いて、言葉を継いだ。
(「そして……先代の10代目勇者も……レッドで“スキルを超える者”になりました……」)
「……!」
ミコトは、驚きに目を見開いた。
(……えっ……先代の勇者が……!?)
(……いったい何が……?)
困惑と衝撃が、ミコトの思考を揺らす。
その胸に、静かに、しかし確かな緊張が走っていた。
案内人スキルが、穏やかに話し始めた。
(「では……10代目勇者について、お伝えします。」)
(「10代目勇者はヒトネの12歳の少年です。」)
ミコトは、かなり驚いた。
(……若いな!)
(……その歳に、勇者の重責を背負わせるのはちょっと……)
(「そして、その時代には、ヒトネの“剣聖”がいました。」)
(「そのため、勇者が“ヒトネ”、そこに“エルフ”、“ドワーフ”、“オビト”、“ポックル”の英雄が参加し、さらに、ヒトネの“聖女”と“剣聖”が加わり── 7名の勇者一行となります。」)
ミコトは、思考を巡らせる。
(ヒトネ……人間が3人か。)
(偶然か、狙ったか……でも、少年の勇者にとっては、心強い編成だね。)
彼は深く頷く。
(「9代目勇者ラシュア様は、“剣”に関わるスキルしか望まれず── SPは1000程度しか使用されませんでした。」)
(「それでも、歴代勇者の中でも際立った活躍をされ、魔王を単身で討伐した唯一の存在です。」)
(「そのため、次代の10代目勇者に与えられるSPも1000に設定されました。」)
「……なるほど……勇者の能力が下がれば、勇者と同じ力を持って生まれる魔王の力も、相対的に落ちる。」
「……そうすれば、勇者一行の英雄たちの力も生きてくる── といった考えでしょうか?」
案内人スキルが、肯定するように応じた。
(「はい、そのような意図が背景になります。」)
すると、ミコトは指摘する。
「……でも、9代目勇者の本質は、そこじゃないですよね?」
「魔王の強さの理由で一番厄介なのが、“術の行使が可能な、何らかのアビリティ”を持っていることだと思います。」
ミコトの声は、落ち着いた調子で沈んでいく。
「なので、ラシュアさんのように、武技で魔王を圧倒できて……その攻防のさ中でも、“破術”スキルを使える者。」
「それこそが、魔王対策になると思うんです。」
「……要は、“武聖”が魔王の“天敵”ということですね。」
ミコトは、静かに結論を述べた。
「だから、“武聖”を勇者に選ぶとか……」
「もしくは、単体最強の“武聖”に魔王を任せて── 勇者は高火力に振り切り、集団相手最強にするのが良いのかなと……」
その提案に、案内人スキルは、申し訳なさそうに応じた。
(「はい、ミコト様に“魔王の強さの推察”をしていただき……今では、そう理解しています。」)
(「しかし、当時は……8代目勇者まで同じ状況が続き、9代目勇者でようやく変化が訪れ、魔王の強さの理由も不明だったため……」)
(「何が取っ掛かりになるかを考えに考えて……使ったSPの少なさに、着目してしまったのです……」)
ミコトは、そっと目を伏せた。
(……あぁ……なるほど……)
その胸には、苦い想いが滲んでいた。
彼はふと気づく。
(なるほど……だから、俺に与えられたSPも1000なのか。)
そして、案内人スキルは、先代の“10代目勇者”の話を続けた。




