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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
異世界転移の案内
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第4話:派生世界の誕生

 ミコトは目の前のノートPCのメモを見つめ、考え込んでいた。


(……地球じゃない星が母星なら、一日の長さも一年の長さも違うんじゃないか?)


 彼は、当たり前のように思っていた時間の長さが、派生世界では根本的に異なることに気付く。


(自転の速さも公転の速さも違うなら……地球のリズムそのままってわけにはいかないよな…。)

(そういえば…地球は地軸が傾いているよな。)

(都合よく、地球と同じ角度で傾いている星が見つかるとは思えないし…。傾きが違えば昼夜の長さも変わるし、気候の違いも大きくなりそうだ。)


 ミコトは頷きながら、次の疑問へと思考を進める。


(この世界をコピーするといっても、地球をコピーするわけじゃない。)

(だとすれば、生命はどうやって生まれるのだろう?)

(地球の生物や人々を、他の星…その選んだ母星に、そのままコピーするのだろうか?)

(しかし、文明そのものを丸ごとコピーするのは無理がある……地理や気象情報など、人類が記録してきた情報が多すぎるから…。)


 文明が発展すればするほど、情報の蓄積は膨大になる。

 そして、異なる星にその情報を持ち込めば、環境との乖離が生じるのは避けられない。

 特に、地理的な違いが問題になるだろう。


 そこで、ミコトは一つの結論に至った。


(文明が未熟なほど、コピーしやすいよな……。)


 ふと、もう一つの可能性を考える。


(もしくは、現代の地球の生物や人類をそのままコピーしても、文明のない状態からスタートするとか?)



 ミコトは腕を組み考え込みそうになる。

 しかし、時間を無駄にするより、案内人スキルに直接聞いたほうが早いと悟り、案内人スキルに話しかけた。


「他の星からスタートとなると、現代の地球の文明を丸ごとコピーするのは無理がありそうですね。」


 ミコトの声に反応し、案内人スキルが朗々と答えた。


(「はい。では、母星をコピーした次の段階を説明させていただきます。」)

(「ミコト様のご認識の通り、文明の継承は容易ではありません。」)


 案内人スキルは一拍置いて続けた。


(「派生世界の母星は、地球に近い特性を持つ星が選ばれますが、そのままでは生命が生存するには厳しい環境であることが多いです。」)

(「そのため、原始的な生命を環境の検証に活用しながら、生命の繁栄に適した『生育環境』を整えていきます。」)


 案内人スキルは、更に一拍置いて続けた。


(「まず、大気を調整し、地球の生命に適した成分へと導きます。」)

(「さらに、水質の調整も重要です。派生世界の海水は、地球の標準的な成分に近づけるよう、調整が施されます。」)


 ミコトはメモを取りながら軽く頷いた。


「なるほど…」


(「そして、陸地の広さの最適化を行います。大陸や島の配置を整えることで、気候の安定を図り、海流や風の流れを調整します。」)

(「加えて、山脈や海底地形の調整も重要です。山脈は風の流れを決定し、降水量に影響を与えるため、適切な配置が必要になります。」)

(「海底の地形もまた、海流を安定させ、気候に影響を与えるため、細かく調整していきます。」)


(…壮大だな!)


 地形を自由に配置し、環境を整えながら文明を育む―― 星全体を最適な生態系へと導く作業がリアルに行われている。

 まさしく、生命が繁栄するための舞台設計が緻密に施されているのだ。


(…こんな惑星開拓のシミュレーションゲームが、どこかにありそうだなぁ…実際にやるとでは規模が全く違うけど……)

(そして…この調整を終えた後に、高度な生命体が産み出されるのか。)



 案内人スキルが説明を続ける。


(「まず、海や陸地に植物を産み出します。これによって、生態系の循環の基礎が構築されます。」)

(「続いて、虫類、魚類、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類を産み出していきます。」)

(「植物、虫類、鳥類、魚類、哺乳類―― これらは、『原初の世界アマノハラ』における≪地球の約1万年前の生命体≫のコピーになります。」)


 ミコトは驚いた。


(!!…1万年前の地球の生物か……。)


(「そして、人類も産み出されます。―― こちらも、『原初の世界アマノハラ』における≪地球の約1万年前の人類≫がコピーされます。」)

(「当然文明と呼べるものはありません。簡素な言語は存在しますが、文字はまだ発明されていません。」)



 ミコトはキーボードを滑らかに打ちながら目を輝かせた。


(人類も地球の1万年前…つまり、原始的な社会からスタートするってわけか……面白いな。)


 案内人スキルは、ここで一旦説明を終えた。


(「ここまでが、生命と人類の誕生に関する説明となります。」)


 ミコトは脱線しないよう、疑問が湧いても口を挟まず、メモを書き足しながら静かに聞いていた。


「詳しく説明してくれてありがとうございます。」

「全体の流れが整理できました。」


--------------------

『こちらの世界のコピーなら、生命の母星は地球のはず』: 済

 ⇒全く別の星。銀河も異なる。


『気候や1日、1年の長さは、こちらの世界の地球と同じはず』: 済

 ⇒選んだ星の自転と公転の周期による。気候は地軸の傾きと気流・海流によって左右される。


『ルナティアの気候や1日、1年の長さは?』: 未済


『こちらの世界の地球と生態系は同じはず』: 済

 ⇒地球の1万年前の生体系と同じ。ただし、人間が品種改良した生物は存在せず、逆に地球ではすでに絶滅した生物マンモスなどが残っている可能性がある。


『文明水準はこちらの世界の現代と同程度なのか?』: 済

 ⇒地球の1万年前の人類。文明と呼べるものはなし。言葉はあっても文字はない。

--------------------


 そして、彼はすぐに内容を飲み込んだ。


(派生世界は、環境を整えた後は、地球の1万年前の生命体の状態からスタートする……)

(そして、『生命に寄与する何らかの要素』が追加された状態で、文明は発展していく。)

(それによって、地球とは異なる文明が形成されていくのだろう。)

(きっと、地球とは異なる魅力を持った、素晴らしい文明が生まれているんだろうな…。)



 案内人スキルは、ミコトの視界の隅に新たなダイアログボックスを表示させた。


(「よろしければ、こちらをご覧ください。」)


「……おぉ!!」


 そのダイアログボックスには、色々な生命が生まれていく動画が映っていた。


--------------------

 まず、大地に緑が芽吹き、コケ類やシダ植物がゆっくりと根を張っていく。

 海にも植物プランクトンや海藻が広がっていく。

 やがて、より大型の樹木が育ち、広葉樹や針葉樹が森を形成し始める。


 植物が広がるとともに、虫たちが姿を現す。

 花の周りでは蝶が舞い、ミツバチがせわしなく飛び回りながら受粉を助ける。

 森の奥ではカブトムシやクワガタが樹皮に潜み、葉の間にはバッタが隠れている。

 土の中ではミミズや微細な虫たちが腐葉土を分解し、大地を豊かにしていた。


 水の中では、魚たちが自由に泳ぎ回っていた。

 水面近くでは小さな魚が光を反射させながら泳ぎ、深海には巨大な生物が静かに動きながら、広大な海を支配するかのように漂っている。


 沼地ではカエルが静かに息づいている。

 岸辺にはカメがゆっくりと歩みを進め、湿地にはワニが潜み、鋭い眼で周囲をうかがっている。

 木々の間ではヘビが音もなく枝を伝い、陽の光を浴びながらじっと獲物をうかがっていた。


 大空には鳥たちが飛び立ち、潮が引いた干潟に水鳥が集まり、泥の中の生き物をついばむ。森の奥から小さな囀りが響くのが感じられる。

 猛禽類は大きく翼を広げ、獲物を探しながら悠然と旋回している。


 そして、陸上の生命が姿を現した。


 小型の草食動物が穏やかな丘を駆け回り、肉食獣はじっと獲物を狙いながら、その環境のバランスを保っている。

 人類は、地球の1万年前の原人の姿がそのまま再現され、彼らは新たな大地に立った。

 未開の世界において、彼らは『原初の世界アマノハラ』では得ることのできなかった未知の力を授かり、新たな歴史を刻み始めるのだ。

--------------------


 壮大な生命の誕生。ミコトはその世界の姿に、引き込まれていくような感じがした。

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