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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
異世界転移の案内
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第3話:原初の世界「アマノハラ」

 案内人スキルは、特有の落ち着いた口調で語り始めた。


(「ミコト様がおられる世界以外にも、世界は多数存在すると認識しております。」)

(「それらの世界は、ミコト様がおられる世界を基盤として生成されるため、『派生世界』と呼ばれます。」)

(「そのため全ての『派生世界』から、最初の世界として尊ばれているのが、『原初の世界アマノハラ』でございます。」)


「アマノハラ……つまり、この世界のことですね?」


(「はい。ご認識の通りです。」)

(「ミコト様が転移する可能性のある世界―― 『派生世界ルナティア』も、こちらの世界を『原初の世界アマノハラ』とお呼びしている中の一つでございます。」)


(!!…この世界が基盤になって異世界が作られ、異世界の人々はここを原初の世界として尊ぶ・・・まるで神話の世界みたいだな…。)


「…つまり、派生世界にとって、私たちの世界は『親』のようなもの?」


(「はい、そのご認識で相違ございません。」)



 ミコトは座椅子の背にもたれかかり、ゆっくりと天井を見上げた。


(この世界が基盤…異世界はここをコピーして作られる…のかな……)

(思ったより大きな話になってきたぞ…理解すべきことが多そうだ。)

(情報の整理が必要だな。)


 ミコトは静かに腕を組み、思考を巡らせる。

 目を閉じ眉間にしわを寄せる厳しい表情のため、それは長く続きそうに思えた。

 しかし、ミコトはすぐに唇の端をわずかに緩めた。


(少なくとも、案内人スキルさんとの対話は快適だな。)



 ミコトは少し考えた後、静かに口を開いた。


「異世界…派生世界には、何か目的があるのでしょうか?」


 ふとした疑問だった。

 異世界がただ存在するのではなく、何らかの目標を持って作られているのか―― それを知りたいと思ったのだ。


(「はい。派生世界であるすべての異世界は、生命に寄与する要素を追加して、『原初の世界アマノハラ』より生命が繁栄しやすい環境を作ることを目的としております。」)


 案内人スキルの声は変わらず穏やかだった。


(「『原初の世界アマノハラ』は、物理法則のみを基にして構成された、最も安定した世界です。」)

(「しかし、その分、生命にとっては厳しい環境でもございます。」)


(なるほど……異世界は、生命がより生きやすい環境を目指して作られるのか。)


 ミコトは軽く息をついた。


「つまり、すべての異世界は生命に優しい世界を目指しているということですね。」


(「はい、そのご認識で相違ございません。」)


 案内人スキルは滑らかに答えた。


 ミコトは視線を落として考えた。

 原初の世界は『最も安定した世界』だが、それは生命にとって必ずしも理想的な環境ではない…だからこそ、原初の世界をベースにして異世界が産み出され、そこには新たな要素が追加されていく。


(……異世界は進化の一環なのかもしれないな。生命体と同じように世界も……)



 彼の頭は思考を疎かにすることがなく、すぐに新たな疑問が浮かんできた。


「……異世界がどのように発展するかは、管理者さんの考えに委ねられているのですか?」


(「はい、派生世界であるすべての異世界の発展は、管理者が定めた追加要素によって決まります。」)

(「管理者は生命の繁栄を目的としており、世界の仕組みを調整する役割を持っています。」)


 ミコトは腕を組み直し、慎重に考えた。


(管理者…彼らはどんな基準で世界の調整を行っているのだろう。)

(どう監視し、どう判断し、どんな調整…介入を行っているのか……)

(この疑問は、いずれ掘り下げる必要がありそうだな。)



 ミコトは目の前のノートPCを素早く操作してテキストエディタを開いた。


(異世界は『原初の世界をコピーして作られる派生世界』と言われたが…)

(その追加される要素とは、具体的に何なのだろう?)


 派生世界ルナティアは、何を加えたのか―― 本当なら、そこを掘り下げたい。

 しかし、彼は情報を断片的に得るのではなく、体系的に整理するべきだと考えた。


(順を追っていこう…)


 そう思い直し、簡単なメモを作り始める。


--------------------

『派生世界ルナティアの追加要素』: 未済

--------------------


 さらに、気になる点を整理する。


--------------------

『こちら世界のコピーなら、生命の母星は地球のはず』: 未済

『気候や1日、1年の長さは、この世界の地球と同じはず』: 未済

『時間の流れの速さは、この世界と一致するのか?』: 未済

『この世界の地球と生態系は同じはず』: 未済

『文明水準はこの世界の現代と同程度なのか?』: 未済

--------------------



 ミコトは手を止め、しばらく考え込んだ。


(まずは原初の世界をベースにする過程から聞いてみよう。)

(原初の世界と異なる部分に焦点を当てて…)


 そう決め、案内人スキルに話しかける―― つもりだった。

 だが、思わず口をついて出たのは、まったく別の言葉だった。


「しかし、宇宙を丸ごとコピーするのでしょうか? すごい仕組みですね。」


 すると、案内人スキルから、思いがけない返答が返ってくる。


(「いえ、宇宙の全てをコピーしているわけではございません。」)


(えぇ?……)



 案内人スキルは、穏やかな声で冷静に続ける。


(「派生世界を新たに作る時は、地球が存在する銀河以外から、他の派生世界が選んでいない銀河を選びます。」)

(「そこで、地球に似た星を母星とし、その母星と公転の中心となる恒星など、母星に大きな影響を与える天体のみを派生世界にコピーして実体化させます。」)


 ミコトは目を瞬かせた。


(母星と公転の中心となる恒星しか存在しない…他の星は存在しない…となると……)


「…じゃあ、派生世界の母星の夜空には、星は何も見えない?」


 ミコトは、すかさず問いかけた。


(「いいえ。実体化していない天体は、『原初の世界アマノハラ』の同じ場所の天体の映像を映しております。」)

(「そのため、夜空には無数の星々が煌めいています。」)


 ミコトは息をのんだ。

 実体以外は、原初の世界の天体の投影―― つまり、派生世界の母星の夜空に浮かぶ星々は単なるイメージだ。


(派生世界は膨大な宇宙を再現しているのではなく、必要最低限の限られた部分だけで構成されているのか……)

(それなら、無駄なリソースを使わずに済む。)


「なるほど……」



 ミコトはふと疑問を口にした。


「派生世界の生命体が、実体化していない天体に到達したら、そこには何もないのかな?それとも実体化するの?」


 案内人スキルは、穏やかな声で答えた。


(「! ……素晴らしい洞察力です、ミコト様。驚きました。そこまでご推察されるとは…。」)

(「その通りです。生命体が到達する瞬間に、その天体は実体化されます。」)


「う~む…興味深いな…」


 宇宙全てをコピーしていると言われるより、妙な説得力―― 現実味があった。



 ―― そして、ダイアログボックスの自動的に[拒否]になるまでの時間は、106分45秒になっていた。


『※あと106分45秒で自動的に[拒否]になります。』

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