第2話③:ステータス画面
ミコトは、表示された『ステータス画面』をじっと見つめた。
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名前 :ヤマトノ ミコト
種族 :人間
年齢 :25歳
生命力:900
精神力:0(1600)
体格 :20
筋力 :15
持久力:10
意思力:20
敏捷力: 5(15)
知識 :20
思考力:30
発想力:30
集中力:20
貢献度:0
SP:1000
[スキル取得]
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生命力、精神力、体格、筋力―― 数値は並んでいるが、どれが高くてどれが低いのか、基準が分からない。
(……この数値って、どれくらいが平均なんだろう?)
一瞬、案内人スキルに基準を尋ねようかと考えたが、すぐに思い直した。
(……いや、やめておこう。)
自分が選ばれたということは、ある程度高い数値なのだろう。
それに、もし「とても高いですね!」と言われたとしても、それが本心なのか、転移をその気にさせるためのおだてなのか―― 判断がつかない。
興奮している自覚はあった。だが、頭のどこかでは冷静さを保っていた。
(舞い上がってる場合じゃない。こういう時こそ冷静に。)
ふと、ある項目に目が留まる。
『精神力:0(1600)』
(……この“0”って、こちらの世界には存在しないってことか?)
カッコの中の“1600”という数値が、転移先での値なのだろうとミコトは推測した。
(ルナティアって世界に行けば、精神力が“1600”になるってことだよな。)
(となると、これはスキルを使う時に消費するやつかな…。)
この世界では使えない力が、向こうでは発揮される―― そういうことなのだろう。
さらに、敏捷力の項目にも目が留まった。
『敏捷力:5(15)』
(……これは、たぶん俺の足のことだな。)
(事故の後遺症がない状態なら“15”で、今は“5”ってことか。)
ミコトは、自分の身体を見下ろす。
交通事故の後、完全には自由にならない足。それが数値に反映されているのだろう。
数値の中に、自分の過去と現在が静かに刻まれているような気がした。
ミコトは、ステータス画面の下部に目を移した。
そこには、先ほどの能力値とは別の情報が表示されている。
(……この“スキル取得”って、たぶんここから新しいスキルを選べるってことだよな。)
ミコトは、画面のその部分を意識する。
実際に“押す”ことはできないが、そこに触れるようなイメージで、心の中で念じてみた。
(……スキル取得、表示して。)
すると、ステータス画面の上に、少し右斜め下へずれるようにして、新たなウィンドウが開いた。
画面には、いくつかのスキル名が並んでいる。
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◇生活スキル
◇一般スキル
◇職業スキル
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(……ほんとに出た!)
ミコトは、思わず息を呑んだ。物語の中でしか見たことのなかった“スキル選択画面”が、今、自分の目の前にある。
試しに『一般スキル』を意識して押すイメージを念じると、『一般スキル』のリストが表示された。
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剣術(30)
弓術(30)
槍術(30)
体術(30)
馬術(30)
察知(30)
隠密(30)
・・・
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思考による操作にも、だいぶ慣れてきた―― ミコトはそう感じていた。
最初は戸惑いながら“念じる”ようにしていたが、今では画面の開閉も、意図した通りにできるようになってきている。
そこには、ずらりと並ぶスキル名と、それぞれに括弧付きで数値が添えられていた。
(なるほど……ここでスキルを取得するのか。)
(括弧の中の数字は、必要なSPってことかな?)
ミコトは、画面の情報を見ながら推測する。
もしこの仮説が正しいなら、今の自分にはSPが1000もある。
(……けっこう取れるじゃん。)
思わず、口元が緩む。未知の力を手に入れるという期待感が、胸の奥でふくらんでいく。
ミコトは、次に『職業スキル』に目を留めた。
(職業スキル……こっちは、もっと特殊なやつかも?)
そう思いながら、ミコトは『職業スキル』のリストを開く。
すると、新たなスキル一覧が表示された――
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収納(100)≪お勧め≫
鑑定(100)≪お勧め≫
翻訳(100)≪お勧め≫
聖術(100)
火術(100)
風術(100)
土術(100)
水術(100)
雷術(100)
・・・
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その先頭に並んでいたのは、見覚えのあるスキルたちだった。
(……『収納』『鑑定』『翻訳』……“異世界転移三点セット”ってやつだな。)
ミコトは思わず頷いた。
収納、鑑定、翻訳―― この三つは、異世界ファンタジーの物語で定番中の定番。
どれも一つだけでも物語が成立するほど便利で、人気の高いスキルだ。
(やっぱり、あるんだ……)
嬉しさがこみ上げる。中でも『収納』には、特別な憧れがあった。
アイテムボックス、インベントリ、収納―― 呼び方は作品によって違うが、持ち物を別空間にしまえる能力は、現実ではあり得ない夢の機能だ。
(この三つを取っても、まだ700ポイント残るのか……)
ミコトの胸が高鳴る。
まるでチート状態に突入するような感覚に、思わず気分が浮き立った。
だが同時に、どこか引っかかるものもあった。
(この三つが“お勧め”になってるのって……異世界ファンタジーの王道を知ってての釣りなのか?)
(それとも、純粋に転移に便利だから選ばれてるだけなのか……?)
ミコトの目が細くなる。
高揚しているときほど、頭のどこかが冷静に警鐘を鳴らし、問いかけてくる。
≪ちゃんと判断できてるか?≫
≪何かを見落としていないか?≫
ミコトは、意識を切り替えた。
(……誘ってる側が出してくる情報に目の色を変えている場合じゃない!)
(このまま、相手の提示する情報に流され続ければ、自分の意思を持たずに“転移”という選択へと進んでしまうぞ。)
ここからは、自分が気になっていることを、こちらから聞いていこう―― そう決めた。
「……お聞きしたいことがあります。」
ミコトは落ち着いた声で言った。
(「!!……はい。」)
(「かしこまりました。どうぞ、お尋ねくださいませ。」)
一瞬詰まった感じはしたものの、案内人スキルの声は相変わらず滑らかだった。
「まず、『原初の世界「アマノハラ」』と『派生世界』という言葉について、ご説明をお願いしたいです。」
(「承知いたしました。」)