表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
1日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/107

第102話:アンナの戦闘考察

 ミコトの視界にある『従魔ウィンドウ』の中では、ミカドが“ヘソ天”で無防備に眠っていた。

 真っ白な腹がふわふわと柔らかそうに揺れている。


(ミカドの戦闘力と、俺との役割分担……これは十分いける)


 そう考えながらも、ミコトの視線はついミカドの腹に吸い寄せられてしまう。

 そして目を輝かせる。


(……ふふふ……)

(俺は……その腹を狙っているぞ、ミカド……)

(必ず……モフモフしてやる! 必ずだ!)


 だが、ミコトは自分が脱線しかけていることに気づき、慌てて頭を振った。

 そして、思考を次の課題へと切り替える。


(次は──アンナだな)


 アンナは“案内人スキル”だ。

 それは、勇者を導くために存在する力。

 だが歴代勇者たちは、その真価を一切使ってこなかった。


(アンナの能力を最大限に引き出して、戦闘で使える形にする……)


 ミコトは頭の中で、アンナの持つ力を整理していく。

 アンナの能力で戦闘時に有用なのは──


 …周辺把握

 …他のスキルの使用

 …精密なスキル操作


(この三つが、戦闘で特に重要になるはず)



 ミコトは意識を切り替え、アンナへと“心話”を向けた。


(「アンナ、ちょっといい?」)


(「はい! 喜んで!」)


 まるで居酒屋のような元気な即答に、ミコトは思わず肩をすくめた。


(おっふぅ……)


 気を取り直し、ミコトは本題へ入る。


(「周辺把握って、どれくらいの範囲を見られるの?」)

(「あと、死角とかある?」)


(「周辺把握ですね!」)

(「把握できる範囲は──直径100メートルになります」)

(「死角はありません」)


(「おぉ……壁の向こう側とかも分かるってこと?」)


(「はい。遮蔽物があっても遮られません」)

(「地中も把握できます」)


(「それは凄いね!」)


 ミコトの声が思わず弾む。


(「高速思考スキルを使ってる間でも、周辺把握できる?」)


(「はい、可能です」)


(「ありがとう!」)


 短い言葉に、ミコトの素直な驚きと感謝が滲んだ。



 ミコトは目を見開いていた。

 アンナの能力の規模が、想像以上だったのだ。


(……とんでもなくない?)


 思わず心の中で呟く。

 歴代勇者がこの能力を“まったく使ってこなかった”という事実が信じられず、もはや謎だった。


(勿体ない……なんて勿体ない……)


 胸の奥で何度も繰り返す。


(野球場が丸ごと入る広さだぞ……)

(20階建てのビルだってすっぽりだ……)


 直径100メートルと聞くと一瞬狭く感じるが、冷静に考えれば“かなりの広さ”なのが分かる。

 しかも──死角なし。


(優秀すぎる……)


 朝の光が窓から差し込み、部屋の空気を柔らかく照らしている。

 その静けさの中で、ミコトの心だけが熱を帯びていく。

 アンナの能力の“本当の価値”が、ようやく見えてきた気がした。



 ミコトは座椅子の上で姿勢を正し、アンナの次の能力へと意識を向けた。


(他のスキルの使用……ここも確認しておきたいな)


 そう思いながら、アンナへ“心話”を送る。


(「収納スキルって、動いてるモノを収納できたりする?」)


(「いえ、通常はできません」)

(「収納は、対象が止まっていて……さらに身体で触れていることが条件になります」)


 アンナの声はいつも通り丁寧で、落ち着いている。


(「そっかぁ……でも、“通常”ってことは……?」)


 ミコトが続きを促すと、アンナは少しだけ声を弾ませた。


(「ですが、私なら──ミコトさんから少し離れているモノも収納できます」)

(「動いていても、ゆっくりであれば収納できます」)


 ミコトは思わず前のめりになる。


(「お役に立てそうですか?」)


(「もちろん!」)


 胸の奥で、ひとつの可能性が形になり始める。


(飛び道具への対策……これ、できるかもしれない)



 ミコトはふっと微笑み、冗談めかした軽い調子で“心話”を続けた。


(「アンナは超優秀だね。」)

(「色々と頼んじゃって、止まらなくなるかもね~」)


 だが、その言葉を受け取ったアンナは──


(「ありがとうございます! いくらでもご指示ください!」)


 と、期待を込めたような明るい声を返す。


(「お、おぅ……」)


 ミコトは思わずのけぞる。

 冗談のつもりが、想像以上の熱量で返ってきた。

 しかし、それは当然のことだった。


 初代勇者から十代目勇者まで──

 数千年という気の遠くなる刻を、ただ見守ることしかできなかった存在。


 虚しさと、無力感と、願いの行き場のない日々。


 だからこそ──

 ミコトの言葉ひとつ、頼みごとひとつが、アンナにとっては“役に立てる証明”になる。

 可能な限り何でもしたいと強く望むのは、当然のことだった。



 ミコトは腕を組み、天井を見上げた。

 実は“高速思考スキル”に、無視できない不安があるのだ。


(思考が速くても、身体が付いてこないところ……)

(これは最初から分かっていたからいい)

(けれど……)


 胸の奥に引っかかっていた懸念が、じわりと浮かび上がる。


(動体視力……それに、音の聞こえ方が問題だ……)

(この懸念事項は、ちゃんと共有しておかないとね)



 ミコトはスマホを手に取りながら、アンナへ“心話”を送った。


(「高速思考スキルってさ……“動体視力”と“音の聞こえ方”がネックなんだよね」)


(「???」)


 アンナはどうやら“高速思考”の使用感がまだ掴めていないらしい。


(「例えば……動きが速くて目が追いつかないモノは、思考速度が上がっても“見えないまま”だと思う」)


(「なるほどです」)


 アンナの声が、理解の色を帯びる。


(「あと耳は……」)


 ミコトはスマホの動画アプリを開き、適当な映像を再生した。

 そして、再生速度を“10%”──10分の1に変更する。


 そのスマホからの音は、ゆっくりと、そして不気味なほど低く響いた。

 まるで世界がスローモーションになったような感覚。


(「……このようになるのですね。理解しました」)


 アンナの声は、先ほどよりもずっと深い納得感を含んでいた。

 ミコトはスマホの音を止め、深く頷いた。


(……それでも、高速思考スキルは極めて有用なんだよな)


 弱点はある。

 それでも、動体視力については補う手段がある。


(「速くて見えないモノは……周辺把握でサポートを頼むと思う」)


(「承知しました。お任せください!」)


 アンナの返事は、迷いのない力強さに満ちていた。

 その声を聞くだけで、ミコトの胸の奥が少し軽くなる。



 ミコトとアンナが高速思考の弱点について話している、その裏で──

 アンナの部下の一体が、静かに動き始めていた。


 それは、音のサンプル作成──


 …過去の戦闘記録を高速で読み込み、

 …剣戟、衝撃音、術の炸裂、風切り音、

 …あらゆる“戦闘の音”を抽出していく。

 …そして、それらをすべて“10倍遅くした音”へ変換し、

 …次々にデータとして保存していった。


 同時に、もう一体の部下も動き出す。


 …なにも表示していない透明なウィンドウを生成し、

 …そこに戦闘映像を映し出して、

 …動きを“スローモーション”にして確認し始めた。


 音と映像。

 高速思考スキルの弱点を補うための“システム”を構築していく。


 しかし──

 アンナ本人は、そのことにまったく気付いていなかった。

 自分の後ろで、二体の部下が“自発的”に、全力で動いていることに。



 ミコトは窓の外に目を向けながら、静かに思考を巡らせた。


(アンナの周辺把握があるなら……奇襲はされない)


 まずはそこが大きい。

 戦う相手を“選べる”。


(先に見つけられるなら、戦える相手だけを選べる)

(そして、無理な相手だったら避ける……)

(地道に戦って、経験を積み、戦いの勘を育てよう)


 それがミコトの基本方針だった。


(そして……高速思考スキルを使いながらの立ち回りも、前もって身につけておきたい)


 思考と判断が先に走り、身体が遅れる感覚。

 音が低く、視界がゆっくりになる違和感。

 それらに慣れておく必要がある。


 ミコトは深く息を吸い、静かに決意を固めた。


 しかし、ミコト・アンナ・ミカドの一行は──

 ルナティアに転移したその日の夜、想定を遥かに上回る激闘へと突入することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ