表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
1日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/107

第100話:攻防一体、遠近両用

 日本刀について調べ終わると、ミコトは一つ息を吐き、日が昇り切った窓の外へ視線を向けた。

 座椅子の前のローテーブルの上には、ノートPC、マグカップ、スマホ、個包装の“のど飴”数個が置かれている。


(「日本刀だけじゃ足りないよな……」)


 異世界ルナティアで魔物や魔族と戦う未来を思えば、野山を駆け回る状況はいくらでも想像できる。

 そんな世界に、取り回しの良い刃物なしで挑むのは危険すぎる。


(ナイフはどんなのがいいか……?)

(できるだけ丈夫で、メンテナンスが楽なやつ……)


 ミコトは座椅子にもたれ、天井を見上げた。


(現地にはステンレス積層鋼なんて無いよね……)

(ステンレス積層鋼は、現地の鉄より“硬さ”も“耐久性”も“錆びにくさ”も全部上だろう。)


 思考が熱を帯びるにつれ、記憶の扉が静かに開く。

 近所の商店街にある高級刃物店に、父と二人で立ち寄った日の光景が、鮮やかに蘇る。


 ガラスケースにずらりと並んでいた大小の山刀──

 光を受けて揺らめくステンレス積層鋼のダマスカス模様は、子どもの自分にはまるで“魔法の紋様”だった。


(……綺麗だったな。)


 値札を見た瞬間、さらに息を呑んだ。

 十万円近い価格に、幼い心は二度驚いた。


 だが──


(あんなのを持って行きたい……!)


 胸の奥に、あの日と同じ熱が灯る。

 異世界での戦いを思えば、ロマンではなく実用としても十分すぎる一本だ。



 ミコトは、日本刀や山刀を手にした未来を想像してみる。


(……でも、刃物で戦うのって、素人には無理じゃないか?)


 当てるだけなら、“高速思考スキル”があれば間合いは何とかなる気がする。

 だが──


(問題はそこじゃないんだよな……)

(握り方も刃の向きも、手首の角度すら分からない。)

(刺すにしても斬るにしても、どこで力を入れて抜くのか……まったく想像がつかない。)

(野球をやってたから、棒状のもので殴るのは……まあ、できそうだけど。)


 ミコトは腕を組み、目を閉じる。

 脳裏に浮かぶのは、平和な世界での“刃物を持った揉め事”のイメージ。

 あれはただの威嚇だ。

 本気で命を奪うための動きとは、まるで別物だ。


(戦場じゃ、常に致命傷を狙わなきゃいけない……)

(魔物とはいえ、姿形は生き物に近い……そんな相手に、俺は刃物を振り下ろせるのか?)


 胃のあたりがざわつく。


(……もし、それができたとして……どんな感触が残るんだろうな……)


 想像だけで、手のひらにじんわり汗が滲んだ。



 ノートPCの前で頬杖を突き、ミコトは新しい武器の可能性を模索する。


(高速思考があっても……もっとリスクを減らしたい。)

(そういえば……武器の相談、してたよな。)


 ミコトはマウスを手に取り、某匿名掲示板の自分のスレッドを開く。

 書き込んでから時間が経っているので、スレッドには新しいレスがいくつも付いていた。

 すると──


--------------------


 251:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 スタンガンってどうなん?


--------------------


(……スタンガン?)


 スクロールする指先が止まる。

 画面に映るその単語に、ミコトの眉がわずかに動く。


(雷術……)


 歴代勇者の戦いを思い返すと、雷の魔法で敵を痺れさせ、動きを封じる──

 そんな場面が何度もあった。


(雷術が効くなら……スタンガンも効くはずだよな……?)


 思考の中で、ひとつの線が繋がる感覚があった。



 ミコトはマウスを握り直し、画面をスクロールする。

 薄い光が指先に反射し、静かな部屋に情報のざわめきが広がっていく。


(……でも、俺の知ってるスタンガンって、ナイフよりも短いやつなんだよな~)


 記憶の中にあるのは、手のひらに収まるコンパクトなタイプ。

 もう一つ、棒状のタイプ──バトン型と呼ばれるもの──も思い浮かぶ。


(あれって……結局、先端を押し当てないと意味ないんだよな……)

(近づく必要があるってことは……技術がいるってことだ。)


 画面を眺めながら、ミコトは眉を寄せた。

 匿名掲示板のレスが次々と目に飛び込んでくる。


--------------------


 252:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 >>251

 あれも“当てる”必要あるから刃物と変わらん

 素人じゃ無理ゲー


 254:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 >>251

 飛び掛かってくる獣相手に先端押し当てるとか死ぬぞ


 257:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 スタンガンは密着されたら自分も危ないからな

 それにドラマみたいに一発で失神とか絶対ない


 259:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 >>257

 あれは演出だよな

 現実は“痛がるだけ”

 止まらん、普通に動く


 260:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 獣系は毛皮で効きづらい


--------------------


(……まあ、そうだよな)


 現実はドラマのように都合よくはいかない。

 さらに、スタンガンを“当てる”という行為そのものが、すでにリスクだ。

 そう思っていると──


--------------------


 265:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 いや、盾タイプのスタンガンってのがある

 待ち構えて受け止めるだけだから攻防一体


 268:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 >>265

 それマジで素人向け

 押し当てるんじゃなくて“ぶつかってきた相手が勝手に痺れる”タイプ


 270:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 盾スタンガンは割とガチ

 獣の突進止められるかは知らんけど、近接武器よりは安全


--------------------


(……盾タイプ?)


 ミコトの目がわずかに見開かれる。


(受け止めて流すだけ……?)

(相手が勝手に痺れる……攻防一体……!?)

(それなら、俺でも扱える!)


 心臓がひとつ跳ねた。

 ブラウザを開き、すぐに検索をかける。


(一般人でも買える……!)


 ページを開いた瞬間、ミコトの表情が明るくなる。


(これだ。これなら戦える。)


 そのまま購入ボタンを押す。

 クリック音が、静かな部屋に小さく響いた。



 盾スタンガンの購入を終えたミコトは、次の問題に視線を落とした。


(……で、盾を持ってない方の手はどうしよう?)


 空いている方の手を遊ばせておくことはできない。

 遠距離攻撃が理想だが──


(片手で撃てるもの……あったっけ?)


 ミコトは顎に手を当て、しばらく考え込む。


(スリングショットを盾に固定して……片手で撃つ?)

(いや、こういう素人の急ごしらえって、絶対うまくいかないんだよな……)


 大事な場面で固定部が外れたり、狙いがブレたり──

 そんな未来が容易に想像できてしまう。


(……そういえば、俺ピッチャーだったじゃん。)


 胸の奥で、ひとつの記憶が弾ける。

 ボールを握り、全身で投げ込んだあの感覚。


(石でも投げる?)


 自分で考えておいて、思わず苦笑する。

 だが、ピッチャーだった自分なら、案外バカにできない武器かもしれない。


 匿名掲示板を先に進めると、武器議論の続きに、また気になるレスが目に入った。


--------------------


 273:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 あと、高光度の懐中電灯は普通に強い

 視界奪えるからな


 275:名無しさん@お腹いっぱい。:・・・

 >>273

 タクティカルライトな

 あれはマジで“文明の暴力”

 素人でも扱えるし、遠距離牽制にもなる

 頑丈なやつは殴るのにも使えるぞ


--------------------


(……なるほど、目くらましか!)


 ミコトの目が輝く。


(視界を奪うのは、戦場では勝ちに等しい。)

(これなら遠距離攻撃にもなるし、扱いも簡単だ!)


 しかも──


(殴るのにも使えるって……これ、俺にぴったりじゃないか!)


 頭の中で、戦術のピースがカチリと噛み合う。


 ミコトはすぐに検索をかけ、条件を絞り込んだ。


(光度は高いほどいい……)

(握っても二十センチ以上リーチが残る、先端が太めのゴツいやつ……)


 画面に表示された一本に、ミコトの視線が止まる。


(……これだ!)


 これも迷いなく購入ボタンを押した。



 武器の準備が整い、ミコトの胸には小さな自信が灯り始めていた。

 だが、戦いは装備だけで完結しない。


 どう立ち回るのか。

 どこで踏み込み、どこで退くのか。


 ミコトは、アンナ、ミカドと共にどう戦うか──その未来へと意識を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ