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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
1日目

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第99話:武器の考察

 静かな早朝の空気が、アパートの一室にゆっくりと沈んでいた。

 ミコトは座椅子の背にもたれ、淡い光を反射するノートPCの画面をじっと見つめている。

 異世界ルナティアへの転移を承諾してから、電子機器や現代知識、そして防具の準備は順調に進んだ。


(次は……武器だな。)

(……やっぱり、日本刀かな。)


 小さく呟きながら、ミコトは画面に視線を寄せる。

 その横顔には、少年の頃に抱いた憧れが微かに滲んでいた。


(家族と行った博物館で、日本刀の実物を始めて見た時は……衝撃だったな。)


 老若男女問わず、誰が見ても分かる“造形美”に惹き込まれたことを思い出す。


(使いこなせるかどうかは……まぁ、置いといて……)


 苦笑しつつも、胸の奥で静かに熱が灯る。

 特別なこだわりがあるわけではない。

 ただ、刀を手にするという行為そのものに、言葉にしづらい魅力があった。


(でも……一般人でも買えるのかな?)


 ミコトは検索窓に文字を打ち込む。

 画面が切り替わり、次々と情報が流れ込んでくる。


(……え、資格とかいらないの?)

(マジか……もしかしてどころか、普通に買える……?)


 瞳が輝き、鼓動がひとつ跳ねた。

 ミコトは座椅子から前のめりになり、画面に顔を近づける。


(えっと……)

(“銃砲刀剣類登録証”が必須。)

(なので、登録証が付いている刀なら手続きが楽。)

(……で、買ったら住所地の教育委員会に“所有者変更届(譲渡届)”を提出する、と。)


 購入手順を確認し終わると、ミコトは眉を上げた。


(……これだけ?)


 拍子抜けするほど簡単だった。

 もっと厳しい審査や資格が必要だと思っていたのに、意外なほど簡素な手続きで手に入る。


(いや……本当に買えるのか、俺でも。)


 心の底に静かな興奮が波紋のように広がる。



 ミコトは腕を組み考える。

 静かな部屋に、PCのファンが低く唸る音だけが漂っている。


(……次は、どんな刀にするか、だな。)


 刀はピンキリ──それは素人の彼でも知っている。


(安いのから高いのまで、幅が広すぎるんだよな……)


 そんなとき、ふと昔の記憶が蘇った。

 刀剣に詳しい友人が、よく熱く語っていた──


 …日本刀は二~三人斬ったら“すぐ脂で斬れなくなる”とかよく言われている。

 …すぐに刃こぼれするとか、すぐに曲がってしまうとかも。

 …それは、第二次世界大戦中に“粗悪に大量生産”された“量産軍刀”のせい。

 …それが日本刀の名を汚している。

 …軍刀にもマトモなのはあるんだけどね。


 ──その話は、詳しくないミコトも納得できた。


(じゃあ……時代の古い“本物の名刀”なら、話は別ってことだ。)


 ミコトは姿勢を正し、検索ワードを打ち込んだ。

 画面に並ぶ刀の名が、どれも歴史の重みを帯びている。


 その中で、ひとつの文字列が目に留まった。


(……長曾祢虎徹……寛文三年……?)


 息が止まる。


「……あった……!」


 思わず声が漏れ、ミコトは前のめりになる。


(虎徹……俺でも知ってる名前だ!)


 ──正宗、村正、備前一文字、長船景光、孫六兼元、虎徹

 名刀たちの名は、今も刀好きの心を掴んで離さない。


 それらは博物館のガラス越しに眺めるもの──ずっとそう思っていた。

 だが今、画面の向こうに“手が届く距離”で存在している。


(これを……俺が持つ?)

(……やば……テンション上がってきた……)


 想像した瞬間、指先がわずかに震える。

 異世界の風を切り、名刀を携えて駆ける姿が脳裏に浮かぶ。



 アンナから“心話”がふわりと響く。


(「……ずいぶんと細い剣ですが、実用に耐えるのでしょうか?」)


 ──アンナは、『案内人スキル』の任を担う、ルナティアの高位の存在だ。


(「そうだね、そう見えるよね。」)

(「でも、見た目より、ずっと丈夫なんだよ。」)


 ミコトは画面を指で示しながら話す。


(「横から力が加わっても折れにくいし、曲がりにくい。)

(「その上で、よく斬れるように作られてる。」)


(「……そのような加工が可能なのですね。」)


 アンナの声には、純粋な驚きが滲んでいた。

 異世界の存在が、日本刀の構造に感心しているという状況が、どこか不思議で面白い。


(「実物を入手したら見せるよ。解析してみる?」)


(「……よろしいのですか?」)


(「もちろん。アンナなら、刀の構造もすぐ理解できるよね。」)


(「ありがとうございます!」)


 心話の声が弾む。

 ルナティアの管理棟空間の静寂の中で、クリオネのような姿のアンナは、嬉しそうにふわふわと漂う。



 ミコトは、画面に映る『長曾祢虎徹』の説明文をじっくりと読み込んでいた。

 淡い光に照らされた文字列が、まるで刀身そのものの輝きのように見える。


(……これを手にできるのか!?)


 まるで今、刀を握っているかのように、手に汗が滲む。


(「……“弐ッ胴裁断”と“花押”とは何でしょうか?」)


(「弐ッ胴裁断はね……人の胴体二人分を切断できる斬れ味って意味らしい。」)


(「……ふ、二人分……?」)


(「で、花押は……それを試した人のサイン、みたいなものだよ。」)


(「試したとは……? まさか、人の身体で……!?」)


 驚きがそのまま言葉になっていた。


(「いや……人の胴体に見立てた、竹という植物に藁を巻いたので試すんだよ。」)


(「……よかったです……」)


 安堵の息が心話越しに伝わってくる。


(……まぁ、大昔は“罪人の亡骸”で試してたって話もあるけど……)

(人から聞いた話で不確かだし……それを調べる気もないし……)

(わざわざ言わなくていいよね。)


 胸の内でそっと呟く。


(「ミコトさん?」)


(「ううん、なんでもないよ。」)


 ミコトは微笑んで誤魔化した。



 画面に映る日本刀の説明を、ミコトが読み進めていると──


(「……そのように鋭利で斬ることを目的とした剣は、ルナティアには存在しません。」)


 その言葉に、ミコトは思わず視線を上げた。


(「え、そうなの?」)

(「ルナティアの剣って、どんなのが一般的なの?」)


 それに、アンナは丁寧に説明する。


(「長剣が主流です。叩き切ることを目的としています。」)


 ミコトは画面から視線を外し、アンナの説明を頭の中で組み立てる。


(「耐久性を重視すると、どうしても幅広で厚い形状になります。」)

(「そのため、斬るというより“打撃と切断の中間”のような性質になります。」)


(そっか……まだ鋼に届いていないのかな……?)

(鉄を熱して叩くだけじゃ“ただの鉄”のままなんだよな。)

(炭素を含ませて、その量を調整して、焼き入れて……そうして初めて鋼になるって聞いたっけ。)


 アンナは続ける。


(「他には、オビトが好んで使う短めの双剣があります。」)


 ──オビトとは、ルナティアに存在する種族『獣人』のこと。


(「双剣……両手持ちか、オビトに似合いそうだね。」)


(「はい。こちらは長剣より鋭利ですが、“斬る”というよりは“裂く”ことを目的とした形状です。」)


 ミコトは思わず頷いた。


(「あー……なんとなく分かる。」)


(「はい。魔物、魔族の外皮は硬いものが多いため、破壊を重視した武器が発達しています。」)


 ルナティアの戦闘事情が、少しずつ輪郭を帯びていく。

 ミコトは画面に映る日本刀へ視線を戻し、静かに呟いた。


(「……じゃあ、この日本刀を持って行けば……新しい武器の形になりそうだね。」)


(「はい! 魔族にどれだけ有効か、とても興味があります。」)


 アンナの声が、はっきりと弾んだ。

 ミコトはその反応に小さく笑い、画面に映る刀身を見つめた。



 画面をスクロールしていたミコトは、ふと指を止めた。


(……ん?)


 彼でも知っている“古き伝統の名刀”──『長曾祢虎徹』

 その隣に見慣れない文字の“現代刀”──『今虎徹』


(今虎徹……?)


 眉を寄せ、説明文を読み込む。


(えっと……“昭和の大業物と呼ばれた作”……?)


 胸の奥がざわりと揺れた。


(“現代最高峰”の一振り。)

(古刀に匹敵し、時にはそれ以上と評される斬れ味、か。)

(現代でも……名刀って作れるんだ。)


 驚きと興奮が同時に込み上げる。

 さらに調べると、現代刀匠にも名人が存在し、その技術は古刀に迫るどころか凌駕することもあると知った。


「……今虎徹か。カッコいいな……」


 思わず呟きが漏れる。

 画面には、刀剣試斬大会で名刀虎徹の切れ味を破って『日本一』の称号を得たという記述があった。


(……マジか! 古刀の虎徹を超えたってこと……?)


 ──『虎徹』は分類上は“新刀”に属するが、一般には古の名刀として語られることが多い。


 時代を隔てた二つの『虎徹』。

 古き伝統の名刀と、現代刀の最高峰。

 まるで呼応するかのように、二振りが画面上で静かに並び立っていた。


(……これ、偶然か?)


 ミコトは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 その二つの『虎徹』に導かれるように、決意が形を成していく。


(……よし! 二振りとも持って行こう。)


 狭い室内の空気が微かに震える。

 異世界の戦場に、細身の日本刀がどんな軌跡を描くのか──

 その想像だけで、ミコトの内側で何かがそっと目を覚ます。



 ~今回入手を決めたもの~

 …古き伝統の名刀『長曾祢虎徹』:1

 …現代刀の最高峰『今虎徹』:1

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