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7日後に異世界転移するそうです  作者: ひつま武士
異世界転移の案内
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第1話:異世界転移の案内

 静かな午後、陽光がカーテン越しに穏やかに差し込むアパートの一室。

 その部屋の主、大和之ヤマトノ ミコトは、高身長で筋肉質な体躯を座椅子に深く預け、何気ないひと時を過ごしていた。

 目の前のテーブルには、半分ほど空になったペットボトルと、食べかけのお菓子の袋。

 そして、開いているノートPCの画面には、色々なソフトが表示されている。



 (「ピロリロリン♪」)


 突然、頭の中で柔らかいチャイム音が響いた。


「えっ?」


 ミコトは目を見開き、驚きで体を硬直させる。

 次の瞬間、彼の視界の片隅に、半透明で馴染みのあるゲームのダイアログボックスのようなものがふわりと現れる。


「!!」


 ミコトは更に大きく驚き、座っていたのに器用にも尻もちをついた。


「なんだこれ……?」


 尻もちをついたまま、ミコトは半透明のダイアログボックスを呆然と見つめた。

 その涼しげな眼もとの整った顔立ちが、不安にわずかに歪み、静かな影を帯びている。


「え、なにこれ…バグ?いや、幻覚?…いやいやいや、怖い怖い!?」


 ミコトは、清潔感のあるサラサラの黒髪を指先で軽く触れながら、ダイアログボックスに視線を落とした。

 すると視界の片隅にあったそれは、意識すると視界の中央に移動する。

 息を整える間もなく、ミコトの心には恐れと興味が入り混じった不思議な感覚が広がった。



 ミコトは深く息を吸い込むと、右手の人差し指を慎重にダイアログボックスへと伸ばした。


(そ~っと………)


 彼の心の中でそう呟くようにして。

 しかし、その指はダイアログボックスに触れることなく、すり抜けてしまった。


「ん?」


 不思議に思ったミコトはさらに手を軽く撫でるように動かしてみる。

 透明なスクリーンに触れることを期待したが、その感触はどこにもない。

 焦り混じりの好奇心で、手をさらに大きくパタパタと振り動かしてみる。

 だが、何度試しても結果は同じだった。

 まったく触れることができない。

 意識を向けると位置を変えられるが、どうやら直接触れることはできないらしい。


「……えぇぇ…、どういう仕組みだコレ?」


 ミコトはため息をつきながらも、頭の中にあり得ない考えがふと浮かんだ。


(PCのやり過ぎで残像が見えている?)


 日頃からスマホやPCを使いすぎているのを気にしていたため、見当違いのことをつい考えてしまう。

 しかし、すぐにその思考は現実感の欠如に気付いて取り消された。



 よく分からないままではあったが、ミコトはダイアログボックスの内容に意識を集中させることにした。

 ダイアログボックスのタイトルには


『異世界転移のご案内』


 との文字。

 そして、その下には


≪手紙の封筒のようなマーク≫


 が表示されている。

 更にその下には、


『7日後に異世界転移します。よろしいですか?[承諾/拒否]』

『※あと119分45秒で自動的に[拒否]になります。』


 と、大胆な選択を促す言葉が並んでいる。


 胸の奥で小さな鼓動が早鐘のように響いている。


(こんなことがあり得るのか……)


 目の前の光景は現実のものとは思えないほど鮮明で、まるで映画のワンシーンのようだ。

 それでも尚、これは夢ではないかという疑念が心の奥底から湧き上がる。

 信じられない気持ちと、目の前のダイアログボックスの存在感が交錯する。


「よし…!…覚悟を決めるしかないか……」


 彼の独り言が静かな部屋に溶け込むように響く。



 封筒のマークへ意識を集中させると、周囲の音がまるで遠ざかるように感じられた。

 その瞬間、薄明るい光がマークの周辺にさざ波のように広がる。


(選択できた?……)


 ダイアログボックスは、頭の中の意識に応じて動くような感覚があった。

 ミコトは一度静かに目を閉じ、深く息を吸い込み吐き出した。

 その後、封筒のマークへ再び意識を向ける。

 先ほどの手探りで手応えがなかった焦燥感が胸の中を掠めるが、彼は心を落ち着けるように自分に言い聞かせる。


(開け……)


 心の中でその言葉を強く念じた。

 その瞬間、封筒のマークが軽やかに弾けるような輝きを放った。

 そして、ミコトの目の前で新たなダイアログボックスが開かれる。



 そこには、これまでの奇妙な体験を超える、更なるメッセージが堂々と表示されていた。


--------------------

 親愛なる選ばれし方へ


 突然のご連絡、失礼をお許しください。

 そして、この手紙を強制的に開かせてしまったことに対して、深くお詫び申し上げます。

 それでもこの手紙の内容に目を通していただければ幸いです。


 私はルナティアと呼ばれる世界の管理者、フィアナと申します。

 この手紙を送らせていただいたのは、原初の世界「アマノハラ」にいるあなたに、ぜひ私の世界にお越しいただきたいと願ったからです。


 ルナティアは、そちらの世界で言えば約1000年前―― まだ剣が意味を持つ文明で、今、混沌と秩序の狭間で揺れております。

 あなたの英知と誠実さが、我が世界の希望となるでしょう。


 異世界転移という未知なる挑戦を前に、ご不安な点も多いかと存じます。

 詳細な説明や準備のサポートについては、一時的にあなたに付与させていただく「案内人スキル」がお手伝いします。


 また、転移をご決断された場合、準備のための7日間を設けさせていただきます。

 短い期間で恐縮ではございますが、世界の境界を安定して保てる時間には限りがあり、この猶予が精一杯となります。

 なお、この期間中も、案内人スキルを引き続き付与させていただきます。


 ただし、誠に申し訳ないことではございますが、一度ルナティアに転移された後は、元の世界に戻ることはできません。

 この重要な事実をご理解いただき、慎重にご検討いただければ幸いです。


 どうか案内人スキルとのやり取りを通じて、ご自身のお心でご決断いただければ幸いです。

 不安なく新たな旅立ちの日を迎えられるよう、案内人スキルが全力であなたを支えます。


 あなたの大いなる決断に期待を抱きつつ、心より感謝と敬意を込めて。


 派生世界ルナティアの管理者 フィアナ

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こんにちは!読ませていただきました! 異世界転生物はよく読んでいましたが、準備期間を設けている作品には初めて出会いました。とても面白いと思います! 身振り手振りの描写がとてもわかりやすいです、参考にし…
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