7.薬草採取
そのままギルドに向かった。ちまちまと依頼をしつつ、広場で一味とか売るかね?調味料ならガゼル産って言えば大抵は大丈夫そうだ。
ギルドに着く。なかなか混んでいる。常設の依頼はいいとして、採取依頼だな。ちょうど張り出した。そばから眺める。
ふむふむ、全く分からん。そこはスキルの出番だ。
どれでも俺なら苦労せず集められる。
(特に難しくて残る依頼)
とは急ぎと書いてある。カスミ草が10束。あっちのカスミ草と同じかな。俺と同じ名前だし親近感がわく。
(似たような花が多くて紛らわしい)
なるほど。それでか。
ちょいちょいと袖を引かれた。横を見ると俺よりも幼いと思われる兄弟がいた。
「リンリン草の採取依頼ある?」
何で俺に聞くんだ?
(字が読めないから優しそうな人に聞いてる)
なかなか逞しいな。
「あるぞ。10束からだな。取るか?」
「お願い」
手を伸ばして俺が剥がす前にリクが口で剥がした。それを俺に渡す。いや、自分で取れたぞ?
「お兄ちゃんありがとう!」
走って行った。依頼を受ける窓口も混んでるからなぁ。
俺はカスミ草急ぎを手に取った。
登録窓口のおじさんが俺に気がつくと手招きした。
「薬草採取か?」
「うん」
「自分のランクの採取だけならここの窓口でもいいぞ!」
危険じゃないからか。
「カスミ草か、大丈夫か?」
肩の上の白玉が
「きゅっ」
と鳴いた。
「あぁ、角うさぎがいたな。なら大丈夫か。よし、気を付けてな」
「うん、行ってくるよ」
おじさんに見送られてギルドを出た。さて、どっちだ?白玉を見る。後ろ脚で立って耳を動かす。鼻も動いてるな。
「きゅっ」
(あっち)
昨日入った門とは逆側だな。ポクポクと歩く。門で冒険者カードを出すと
「気を付けてな」
声をかけられた。
「うん、行ってくる」
門を出た。こっちは冒険者より商人とかが多そうだ。
白玉の案内で途中、街道から逸れた。
鬱蒼とした森だ。うーん、なんかいそう。大丈夫か?俺の戦闘力はマイナスだぞ?
(ふん、弱虫が!俺がいるだろう)
リクが守ってくれるのか?その背中を撫でる。相変わらずふかふかだ。
(仕方ないからな!)
白玉は先導して進む。いや、かなり相当奥まで来たぞ?ヤバくない?
「ぎゃきゃー!」
ほら、何かいる。リクにしがみ付く。
バサバサッと音がして、出てきたのは緑の小人。ゴブリンか?リクの後ろに行こうとしたら鼻で押された。
えぇー。無理だろ?
(腰の武器は飾りか?)
もちろん飾りだ!
(ジョブを使え)
へっ?もうテンパっててあわあわしてしまう。取り敢えず、腰の剣を抜く。
えっとあれだな、焔の剣だ。で、斬撃?火を飛ばす。
ぐったりと木にもたれかかった。
はぁ、酷い目にあった。
リクたちは見てるだけで手伝ってくれなかった。2匹も居たんだぞ?
斬撃は飛んだけど避けられて、体当たりされて。それでも空気の膜を具現化してケガはしてないけど。
くそっ俺はこんなにも弱いのか。改めてわかって泣きそうになる。
いや、リアルで泣いた。怖かった。敵意剥き出しのゴブリンが。ぐしぐし…涙が止まらない。
結局、何の覚悟も出来てなかったんだ。情けなさと怖さで涙が止まらない。そもそも、まだ森の奥深く。泣いていられるのはリクたちがいるから。
1人じゃ何にも出来ないんだな、俺。涙を拭う。そばにはイナリとコハクがいて、お尻が俺の太ももにくっ付いている。しっぽがふぁさふぁさと太ももの上を揺れる。その背中をそっと撫でた。
(弱弱ー)
(弱いな)
貶しながらも、それでも寄り添って待ってくれてるであろう2匹。ありがとう。
その背中はもふもふだった。
白玉が跳んできた。口に何か咥えている。あれ、これは…。
(カスミ草)
10束はあるな、いや…30束は軽くある。
(持ってて損はない)
とは透視スキルだ。ならいいのか。
「白玉、ありがとう」
頭をぐりぐりして来た。
(頼りないからな!)
悪かったね。でもこれで達成だ。お昼ご飯食べて帰るか。
「ご飯食べよう!」
カラスの卵でオムライスを作った。みんなには串焼き。食べたら帰ろう。乱暴に頬を拭って立ち上がる。
帰りもゴブリンに会ったけど、少しは冷静に対応出来たかな。討伐証明の耳だけ切り取って、焼いた。誰が?もちろん、俺が。ジョブでな!具現化で火魔法の火だけを出した。
帰り道に筍を見つけた。ラッキー!
他にもとったらいいと言われた薬草とか花を採取した。何に使えるのか分からないが、まぁスキルは俺より格段に優秀だからな。
で、森を出るといつも通り
(おせーよ)
とリクに咥えられて背中に放り投げられた。相変わらず雑な扱いだ。それでもそばにいてくれるんだから、ツンデレなんだろう。
その足でギルドに向かう。まだ早い時間だからか、そこまで混んでなかった。依頼達成の窓口に並ぶ。きれいなお姉さんだった。なんか空いてたから並んだけど、顔が怖い。
「依頼達成したよ」
カードを出すと、もう片方手を出された。薬草出せって?
「何ぼけってしてんのよ!成果品だしなさい」
僕の周りは口の悪い子が多いな。一応、自分用に少し残して20束出す。
「はい」
それを見て少し驚いてから振り返って
「マーク、カスミ草で間違いない?」
似たのがあるんだよね、確か。まぁ優秀なスキルが見たから間違いないな。
(腐れ外道には分からんのだな、はっ!)
えっと…透視スキルって人格ないよな?
(あるわけ無いだろ、ボケカスが!)
…ですよね?これは自分自身を透視した回答だ。
どうやらお姉さんには鑑定する技術が無いと視たようだ。だからね、言い方。
「間違いないぞ!」
マークさんはまだ若い男性だ。
「運良く間違いないようね!依頼料は1000リラ、納品分は1束1000リラよ。合計で2万1000リラ」
「待て、これなら1束1200リラだな。鮮度が良くて丁寧に最初されている。しかも、草自体の状態が非常にいい」
白玉を見る。ドヤってるな。
「ふん、なら2万5千リラよ!」
確かにあるね。
「お兄さん、ありがとう」
「いいってことよ!急ぎだしな。依頼人が喜ぶ」
手を振って宿に向かう。
部屋に入るとベッドに腰掛けて白玉を撫でる。
「どうして場所が分かったんだ?」
(匂い…俺たちはカスミ草を食べるから)
へー?
(消化が良くなる)
なるほど。それは大事だな。調子に乗ってもふもふしてたらテシッとされた。
(気安いぞ!)
いや、目の前に白いもふがあるからな?手が勝手に。
そのまま少し横になって寝た。目を開ける。ん、白い。触るともふん。顔を上げたら目の前に白玉のお尻があった。ご褒美か?すりすり。
今日の夕飯はどうすっかなぁ。補充される食材で簡単に作るか。魚が食いたい。煮魚にしよう。
茹で野菜と煮魚、味噌汁にご飯、納豆キムチ。
美味いな。リクたちももしゃもしゃ食べてる。納豆を。食えんだな、納豆。
体を浄化して寝た。やっぱりまだ慣れない生活に体は疲れてるみたいだ。おやすみなさい。
その翌日も朝ごはんを食べに広場へ。串焼きはまだあるから、スープとパンを買った。
もぐもぐ、温かいものは美味しい。リクたちには昨日の串焼きだ。食べ終わる頃、昨日の店主がやって来た。
「やぁ、昨日はありがとう。その、あの調味料は売ってもらえないだろうか?」
一味か、売れなくは無いが量が無い。自分の分は確保したいしな。
「量がなくてな、売るにしても少ししか無理だ」
ガッカリしている。しかし、顔を挙げると
「少しでも」
にしてももう少し溜まらないと無理だな。依頼はもう少し続けて受けたい。その後、ここで店を出すか。
「3日後にここで昼前から店を出すから買いに来てくれ」
「分かった」
店主は店に戻って行った。
さて、ギルドに向かおう。
やっぱり混んでるなぁ。張り紙が掲示板に貼られる。俺はまた1番右側の依頼書を見る。
お金とかより急ぎの奴をこなすか。また薬草採取があるな。ロロ草。難しいのか?
(レ行草と言われるララ草、リリ草、ルル草、レレ草、ロロ草。中でもロロ草が1番見つけにくい、とか言われてるとか、そんなこと言う奴はアホだな)
でたよ、お口の悪いスキル。
実際にそう言われてるんだろう?
(ガケ下や谷底に生えてるだけ)
いやいや、難易度高いよ!
(キツネと烏骨鶏がいれば楽勝)
道中は?
(…)
答えろよ!
でも急ぎなんだよな。
このレ行草はどれも貴重な薬草。その価値はララ草が1番安くて、リリ草は2倍、ルル草は5倍、レレ草は6倍でロロのは実に10倍。ケガにも病気にも効く薬が作れるんだって。




