77.双子の帰還
リクがスイスイ泳いで俺の襟を咥えると背中に放り投げた。凄え、楽しい!
手を振ったらアマランとウルグが腹を抱えて笑っていた。
リクはびっくりするくらいスムースに泳ぐ。器用だなぁ。リクによる自ら遊覧を楽しんで、陸に上がった。
「ここは誰かの領地なのか?」
「ん?城壁外だから誰のもんでもないな」
「ここに家とか建てたり出来るのかな…」
「住みたくなったか?」
「魚取り放題、薬草もきのこも豊富」
「あははっまぁそうかもな。カスミは街に居たくないのか?」
「そうじゃないけど、自然に囲まれた場所が好きだから」
「変わってんな、やっぱり村を思い出すのか?」
「そうだね…懐かしいよ」
「ルキたちと話をしろ。ただな、守るのには街の方がいいんだ」
「分かってる!別荘みたいにしたいなって」
「それはいいな」
「連れてきてくれんだろ?」
「もちろん!ちゃんと働いてよ」
「任せろ」
もう少しお金が貯まったら考えよう。秘密基地みたいで楽しそう。結界盛り盛り付けたら誰も入れない。
お昼にお魚とお肉のバーベキューをして、沢山食べた。と言っても僕はそんなに食べられない。
ひたすら途中からは焼くかかり。リクは泳いだから腹が減ったのかやたらと食った。まぁ、食材はかなりの部分、リクたちが取ってるからな。
昼飯を食べて少し昼寝して、近くにアマランとウルグの気配を感じながら過ごした。
多分、離れないようにしてくれてる。
うん、確かに俺は恵まれている。
こうして、依頼という名の休みは終わった。
「しかし、リクがいたら湖の魚の捕獲なんてほんと瞬殺だよな…」
カポカポ歩くリクの背中はやっぱりふかふかだった。
門に着いて、ギルドカードを出す。中に入ると
「「カスミ!」」
双子が俺に抱き付いた。驚いたのでつい2人の手を払ってしまう。アマランが双子を宥め、ウルグが俺を庇う。
「ルキとロキ、宿に帰るぞ」
2人は俯きながら歩く。申し訳なくて、でもまだちょっと無理だ。
冒険者ギルドへ依頼達成の報告をアマランがしてくれて、ウルグが双子を連れて行った。俺は庭からリクたちと部屋に入る。
せっかく1週間ぶりに会えたのに、申し訳ない。
ベットに転ぶ。気持ちとは関係なく拒否反応が起きてしまう。心的外傷ストレスだったかな、いわゆるトラウマだ。
いやまぁ男だし、積極的に触れたいわけではないが、触れられないというのは不便だ。参ったな。これはもうパインにだいぶするしかないのか?
ああいう店は子供でもいけるんだろうか。パイン…ちょっともにもにしたくなった。
しばらくすると、青い稲妻のみんながやって来た。
「どうぞ」
クリスがドアを開ける。双子の目が赤い。ごく自然にそばに寄る。体を硬くする双子。自分からだとまぁまぁ大丈夫だって分かったから、そっと瞼に触れる。
「泣いたのか?」
紫の目が潤む。
「カスミが…」「遠くて」
俺より高い位置にある頭を抱き寄せる。
「自分からとか、分かってれば大丈夫なんだ。急だと反射的に、な」
「触れても?」「いい?」
「そっとなら大丈夫だぞ!」
本当にそっと背中に触れた。その手はとても温かかった。
「ほらな?」
「「うん…」」
また泣かせた。こればかりは仕方ない、俺にもどうすることも出来ないから。
「キスしても?」「キスしたい…」
子供か?!
「ダメ」
「「えぇ…」」
口を尖らせる。笑いながら
「自分からなら大丈夫だぞ!」
と言えば目を閉じた。なんかほんと子供みたいだ。そっと頬にキスをすると不満そうな顔をされた。
「こっち」「ここ…」
唇を指しやがった。仕方ない、これはパインのあるお姉さんだ。自己暗示は大切。唇の端にそっとキスをした。
そしてまた泣かせた。マジか…
「ぐすっ」「カスミ…」
「「ぎゅって抱きしめていい?」」
なんかもう、笑えた。本当に小さな子供じゃないか。
「特別に、許す」
「「カスミ…ぐすっ」」
泣きながら抱き付いて来た。仕方ないな、もう。その髪の毛を梳くと
「キス」「する」
泣きながら鼻水まで垂らして…ティッシュをクリスが取り出して俺に渡すから、鼻を噛んでやった。
「もう大丈夫だ。急に後ろからとかじゃなければ…普段通りでいい」
ぎゅっと抱きしめたら両側からキスされた。ってかお前らもキスしてんじゃねーかよ。
「お前らでしたら?」
双子は顔を見合わせて
「「やだ!」」
子供か!と突っ込んだ。
ルキとロキが泣き腫らした顔で俺から離れないから、クリスが俺の亜空間から秘蔵のシチューを取り出して、柔らかいパンも出して食べた。
秘蔵のシチューは完売した。マジかよ…残念無念。また作っておこう。
流石にまだ風呂は無理だから、双子はアマランたちに任せた。
俺は後でリクたちとゆっくり入った。
そしてリクに包まれて寝た。ふかふか最高!
その後2日ほどはルキとロキとまったりした。ゆっくり距離を詰めている所だ。
そこにセイがやって来た。ヒルガさんもいる。
「カスミ、ルカとロキも話、いいか?」
頷くと例の変態兄弟についてだった。ルキとロキが提出した薬の成分が分かる衣服は、研究機関で分析され間違いなく禁制薬であると判明した。
ルキとロキだけでなく、過去にも使われた形跡があり、今回の俺のこともあった。
そして、その薬を使ったと思われる魔術師の女も掴まった。侯爵家が匿っていたようだ。そして組織的に密売していたことが分かり、侯爵家は取り潰し。一族郎党全て処分されたそうだ。
極刑だったのは侯爵とその妻、双子は「悪さをするもの」を切り取られ、鉱山送り。兄弟たちも肉体労働に回されたみたいだ。いわゆる鉱山奴隷で、終身刑だから生きてそこから出ることは無い。ちなみに給料は全て被害者への賠償などに充てられる。
侯爵家の財産は確認できた被害者にある程度は分配。残りは基金として積み立て、薬の被害者救済に使われる。ちなみに、その提案はセイがした。
金を貰ってもな?と俺が言ったから。とは言え、迷惑料は貰っておけと言われた。思いの外、生活に支障をきたしたからな。
ルキとロキも金を貰ったそうだ。
そして、セシア兄様が会いたいと言うのでセイと何故か双子立ち合いの元、会うことにした。
オランジュもいる。
冒険者ギルドの会議室で、俺は両側をルキとロキに、そして何故か後ろにはリク。膝の上にはイナリとコハクで、肩の上には白玉とあんこにスイ。頭の上にカラスとスズメだ。勢揃いだ。なんか心づよい。
部屋にセシア兄様とオランジュが入って来た。俺はびくりと肩を揺らす。
オランジュの行動をじっと見る。これは身体がそう反応してしまうのだ。
「カスミ、時間を取ってくれてありがとう」
「…セシア兄様は、悪く無い」
驚いてからくしゃりと笑った。
「そんなに震えているのに…カスミ、ありがとう。そして本当に申し訳なかった」
頭を下げた。
「セシア兄様…顔を上げて。俺が養子にならなければ起こらなかった事。だから…」
「それは違う!違うんだよ、カスミ。君の能力も人柄も本当に素晴らしいんだ。それが理解出来ない、いや、しようとしなかった子供たちにこそ、非がある」
「でもまだ子供だ」
「カスミだって子供だ」
中身はおっさんなんだ。
「申し訳無い!」
突然立ち上がって大きな声を出したオランジュに俺は驚いて体を硬くする。
スパンッとオランジュに風が当たる。
えっ、クリス?
「嫌がらせですか?人が怖くて仕方ないカスミに、大きな声で大きな動き。しないように言われていたのに。わざとですか?私たちはあなた1人くらい簡単に殺せる。わざとですか?」
オランジュは吹き飛ばされて、尻もちを付いた。目の前に立つクリスに驚いて
「いや、違う…つい」
ドカッ
今度はビンタだ。これはイナリのしっぽか。
『俺の主を傷付けた罰だ。全ての祝福から遠ざけてやる』
俺は慌ててコハクを掴む。
「そばにいて欲しいんだ、コハク」
耳元で囁けば大人しくなった。危ない、コハクまで参戦したらオランジュが死ぬぞ、本当に。
しかし、全く空気を読まない奴が…マジか。
バリバリッ
あぁオランジュが痙攣して倒れた。




