65.魔力の暴走
僕たち双子は色々な呼び方をされている。
魅惑の双子、落ちない双子…そして爆食の双子。
まだ5才くらいの頃、誘拐されていやらしい事をされそうになって、魔力が暴走した。
風が渦巻いて暴れ回り、さまざまなものを切り刻んだ。もちろん、人も。
暴食は全てを喰らい尽くすという意味で、僕たちが作り出した風の事だ。
その風はどうやら僕たち双子の魔力が共に暴走して共鳴した時に起こる。
起きてしまえば制御は出来ない。
5才の時の暴走では、屋敷と周りの森が消滅した。もちろん、全く記憶はない。
突然渦巻いた風が様々なものを切り刻み、吹き上げ…そして消滅させた。暴走が終わると僕たちはその中心で手を繋いで倒れていたそうだ。
その時の話は父上も母上も教えてくれない。ただ、その話は公にされずに噂だけが残った。
それが暴食の双子。
渦巻く魔力を感じながら、どこか冷静にそんな事を考えている自分がいた。そして、カスミに嫌われたらどうしようと考えた。
それは凄く悲しい。でも、もう止められない。
ごめん、カスミ。取り止めのない思考に支配されながら、風を感じていた。
目を覚ます。あれ…ここは?
腕の中にはコハクかな。僕は何を…。そしてハッとした。そうだ、魔力暴走が。
ベッドにいるということは、終わったんだ。ホッとしたものの、怖くなった。どうしよう、カスミは大丈夫だった?リーダーやウル先輩は?
足音が聞こえる。ぎゅっと目を瞑った。髪の毛に触れる手を感じた。
「ロキ…?」
僕は答えられない。怖い…こんな奴だったのかと怖がられたらと思うと、怖くて顔を上げられない。
その手が離れた。寂しい、なのに怖い。
そっと僕の手に重なる小さな手、そして肩の上にトンッと温かな気配。
「ロキ、目が覚めてるよな?」
僕は答えない。動く気配がして手が離れた。追いかけようとしてやめた。
涙が溢れる。いかないで…カスミ。
ふと瞼に柔らかいものが触れた。優しく触れたそれは僕の涙を拭い瞼を温めてくれた。
顎にかかった手は僕の顔をおこす。斜め後ろから僕を目を見たカスミはそっとまた瞼に唇を寄せた。
「ぐすっ、僕…」
また涙が溢れる。僕を嫌わないで…。
「ありがとな、ロキ」
えっ…?
「心配かけてごめん。大丈夫か?」
怖くないの?僕が。
濡れた頬を温めるように顔を寄せるカスミ。
「凄かったぞ!風がぐるぐるして…カッコよかった」
カッコいい?あんまり驚いてカスミの目を見る。透ける虹彩まで見えるくらい近い。
「スッとしてて、ぐうんって。凄いな!守ってくれたんだよな…だからありがとう」
「怖く、ない?」
目をパチパチさせて
「全く。嬉しいだけだろ!」
僕はまた泣いた。慌てたカスミが僕の頬を拭い頭を抱き寄せる。だからその細い体に抱き付いた。
「暴走は怖いってみんなが。たくさん殺した…止まらない」
カスミはぎゅっと僕を抱きしめると
「大丈夫だ、ちゃんと止まったから。大丈夫だぞ」
僕は嫌われなくて、カスミを傷付けなかった事が嬉しくて泣いた。抱きしめてくれる腕が、寄り添う頬が優しくて。
俺は硬い床で頭が痛いなって思いながら眠ったみたいだ。起きたら喉が渇いて腹も減った。だから亜空間からラーメンを出して食った。作って巻き寿司に夢中で食べ損なってたからな。美味かった。ついでに果樹酒のソーダ割りも飲んで寝た。
そして何やら懐かしい魔力を感じて目を覚ました。魔力の渦が部屋を覆っていた。
ん、これはルキとロキの魔力か。なんか台風みたいだな。俺は簡単な防御はあるから大丈夫だが、目の前の女児とかどうなんだろう?なんとなく大丈夫そうだけど。
(双子が魔力暴走…風の刃が渦巻いている)
この子は?
(魔族だから問題ない)
他の人は?
(クリスが結界を張った)
なら大丈夫か。しかし、凛として立つルキとロキは凛々しくてカッコいい。なんていうか、ゾーンに入った感じ。
でも後々大変だし、収めるかな。ゆっくりと立ち上がるとルキとロキに向かう。2人は手を繋いでいるからその手に触れた。途端に吹き荒れていた風が止んだ。そして
糸が切れたみたいに崩れ落ちた。
アマランとウルグが受け止める。そして、俺の手にはとても大きな魔石があった。青と紫の魔石だ。即亜空間に仕舞う。
後のことはセイに任せて、と思ったらセイに抱えられた。そして屋敷に帰った。
こうしてルーガスの5日目が始まった。
ベッドに寝かせたルキとロキの手にそれぞれの魔石を握らせる。きっと魔力がかなり減ってるはず。こんなに大きな魔石が作れるんだからな。還元しないと。
ルキにはイナリが、ロキにはコハクが寄り添った。俺は俺でセイに付き添われて少し眠った。
起きて様子を見に行くと、ルキはまだ寝ていた。ロキを見たら、寝たフリをしていた。
そして泣かれた。どうやら魔力暴走を見られて嫌われると思ったらしい。大丈夫なのにな。
だからカッコよかった、ありがとうと言ったらさらに泣かれた。何故だ?
ロキが落ち着いたからルキの様子を見に行くとやっぱり泣いていた。だから頭を抱いてやるとさらに泣いた。なんでだよ…
ようやくルキも落ち着いたから朝ごはんだ。こんな時はお粥に限る。海鮮がゆだ。
カラスの卵もたっぷりだぞ!
ルキもロキもお椀を前に動かない。チラチラと俺を見る。これはあれか、甘えてるのか?試しによそってふーふーしてから口元にから口元にスプーンを持って行くとパクんと食べた。マジか。
双子に食べさせながら、自分も食べた。美味かった。
「体はどうだ?」
もちろん、魔力について聞いたのだ。するとなにやらもじもじした。ん?
「その…」「あの…」
なんだ?チラッと俺を見て顔を赤くした。熱でもあるのかとおでこに手を当てたら変な顔をされた。
その後、もう少し横になるという双子をベッドまで見送ると押し倒された。
危なかった、セイが迎えに来てくれて良かったぞ。夜に体はどうだ?と言うのはいわゆる誘い文句らしい。知るかよ!それじゃ俺が愛を育もうって言ったみたいじゃねーか。
(まさに言ったんだぞ!その気になってたけどな)
先に教えてくれ。
(教える前にカスミが言ったんだろうが…)
ですよねー。口は災いの元。身に沁みたぞ。
セイが部屋で仕事をしてて、俺はベッドでゴロゴロしていた。
そこにベルが訪ねてきた。
「カスミ、なんか…大変そうだな」
「あぁ、少しな。仕入れは出来たか?」
「食料以外はな」
海の街だけあって、お土産は色々あるらしい。ヤシの実の人形とか皿とか。ヤシの実のスプーンもあるし、確か幹もフォークとか木べらになるはず。
「スプーンとかもあるのか?」
と聞くと驚いている。海岸沿いにヤシの木が植ってたよな。
「カスミそれは?」
ちょうどテラスにもヤシの実が落ちていたから、クリスに取ってきて貰う。
実の殻をナイフで加工して(具現化も使いながら)スプーンとフォークを作る。ベルもセイも驚いたようだ。枝も回収して大きめのスプーンとフォークも作った。とりわけ用のだな。ベルは
「凄い!これはお土産になるよ」
油を含むから丈夫で水にも強い。見た目にも可愛いらしい小物だ。実用的だし、材料は安価で手に入る。
そのままベルに商業ギルドに連行された。セイも付き添ってくれる。
そこでなんと、あの女児にまた会った。
「「あっ!」」
お互いに見つめあって動きを止めた。
走ってきた女児と2人の男性はズザーッと目の前で跪くと頭を下げた。スライディング土下座だ。
「申し訳なかったのじゃ!」
男性は女児に頭を押さえられている。
「「申し訳ありません!」」
周りに見られたので、奥の部屋に入る。
そこで話を聞いた。
女児は魔国という別の大陸から来た商人で、帰る少し前に食べた料理が美味しくて帰りたくないと駄々を捏ねたらしい。そうは言っても帰る予定は変えられない。仕方なく、袋詰めにして運ぶ最中に俺と鉢合わせた。
騒がれても面倒だからと連れ帰って放置した。
彼らに悪気はなく、魔族は体がとても丈夫だから数日食べなくても平気なのだ。しかも硬い床でも平気で眠れる。その感覚でカスミを放置した。
それに気が付いた女児が慌てて様子を見に行った所でセイたちが俺を救出に来たと。
俺を害したと勘違いした双子が問答無用で襲いかかり、魔力暴走したということだ。まぁ拉致されて放置されたんだからあながち間違いでもない。
ちなみに、魔族は力も強く魔力も多い。だから双子の暴走でも慌てなかった。
で、商人だから商業ギルドに呼び出されて事の顛末を話し、散々怒られて俺への賠償金の支払いやらで打ち合わせをしていたと。
俺はカミール商会の副会長で、調味料は登録申請してある。商業ギルドにとってもなかなかにお得意様なのだ。何と言っても後援はパルシェン公爵家だからな。
偶然、ギルドで会ったから先ほどの謝罪となったようだ。俺はまぁ頭が痛かったし腹も痛かったが、問題ない。むしろ双子に謝ってほしい。
そう伝えると
「もちろんなのじゃ!」
屋敷に来るというのをセイが止めた。双子が嫌がるからと。で、迎えをやってギルドに来た。女児を見て構えたが、オレがとりなして席に座った。




