63.魚の討伐
俺は今、横になっている。ルキの膝枕中だ。別に船でいちゃついてる訳じゃない。酔ったのだ。船酔いだ。
三半規管は余り丈夫じゃない。更に子供だ。酔いまくって寝かされてる。ルキの膝に絶賛甘え中だ。
もっともその柔らかさを堪能する余裕はない。気持ち悪い…早く海に入りたい。
気持ち悪さがピークになる前に、リグに回帰させた。ふう、もう着くかなぁ。やっと甘える余裕が出来てすりすりする。
「カスミ、ダメ…」
撫で…あ、ヤバい。大人しくしていよう。
「着いたぞー!カスミ生きてるか?」
「うん…」
支えられて体を起こす。シリウスさんが俺を腕に抱えて外に出してくれる。船は止まってるから波でたゆんたゆんする。これも気持ち悪い。ぎゅっと抱き付いた。
「カスミ、ここで潜る」
「主、海の中で装着しましょう」
頷くとシリウスがそっとハシゴから海に降ろしてくれた。すかさずクリスがBCを投下。それを身に付けてレギュラーターを咥える。フィンを装着してマスクを嵌めたら完了だ。
順番に海に入ってくるみんなにも身に付けさせる。
BCの空気を抜いて海に潜った。ウエイトはBCに装着済み。
ゆっくりと潜っていく。途中で一度止まって耳抜きをする。予め伝えてある。ちなみにクリスはそのまま潜ってる。人間じゃないから大丈夫らしいぞ。
また潜っていく。透明度の高い海、魚が長閑に泳ぐ。
ふと遠くを見ると何やら魚が動いている。捕食されてるみたいだ。
よく見たらそれは鮫だ。マジか。人も襲うサメだなとはトーカだ。
みんなには水中銛を作って渡してある。見れば全方位に数匹いる。
(2人一組で!)
俺はセイと2人で組み、セイが追い込んだサメのムナビレに銛を突き立てた。もちろんクリスに追尾機能を持たせたからだ。俺の力では無理だからな。
他のみんなも討伐完了みたいだ。
…終わってなかった。一際大きな奴が猛然と俺に突っ込んでくる。何でだよ!1番小さいのに。あ、だからか。
避ける間も無く体当たりされた。食われなくて良かった…じゃなくて。体当たりされた直後にクリスが俺ごと転移させたようだ。具現化凄え。
なので、実際には少し当たられただけ。それでもかなりの衝撃だった。まだ頭がふらふらする。
転移したのは真上。頭を狙って銛で突く。クリス、雷撃の付与と威力大だ!
血が流れ出して、しばらく暴れて痙攣した後に重みが手に伝わった。軽量化して回収。ふう、危なかった。
クリスがパージしてくれる。レギュレーターのマウスが衝撃で吹っ飛んだからな。マウスをまた咥えてパージ。
クリスが有能だ。呼吸が落ち付いたら、双子が俺を海面にゆっくりと誘導してくれた。まだ頭がふらふらするから助かる。
そして無事に船に回収された。いや、ほんと回収だったぞ。クリスが俺からBCを外し、フィンも外してシリウスが片腕で俺の腰を抱き上げて船上へ。
そっと床に降ろされた。クリスが布を持って来て頭や顔を拭く。
(軽い脳震盪だな…頭を動かさないようにして横になれ)
クリスが俺の頭を抱えようとしたらロキが横からそっと俺を支えて膝枕してくれた。少し目を瞑る…サメか。
やっぱりフカヒレかなぁ、なんて考えていた。
カスミが目を閉じるとセイルさんが全身をくまなく触った。頭か、ぶつかられて揺すられた影響みたいだな。
「休めば治るが、頭はなるべく動かすな」
「ん、大丈夫。離さない」
ロキがカスミをしっかりと固定して、その頭を支えた。青白い顔のカスミの体温が、水中で下がった体に心地良い。そのおでこに手を当てる。
カスミに一際デカい魚が体当たりするのを止められなかった。あまりにも早くて。
その瞬間、胸がぎゅっと苦しくなった。嫌だ!そう思った。いつの間にか、カスミがそばにいることが当たり前になっていた事に気が付く。
クリスは僕たちを見て
「当たった直後に転移させたんです。私も判断が遅れてしまって。ただ、余り早く転移させると他に向かってしまうので。当たって油断させようと」
俯くクリス。
セイルさんが
「仕方ない、誰もまともに反応出来なかったからな。その、リグは回帰をしないのか?」
「…血管が切れるとか、生死に関わるならしますが…主の命令無しでは基本、動けません。自己判断するのは主の命が危うい時だけです。後は事前に命令された時…」
それで周りを見た。
それは事前にカスミから自己判断する状況を伝えられていると言う事。守るべき者の命を守る為に。
青白い顔を撫でた。自分も守って欲しいのに。
依頼は達成したので陸に戻った。カスミは目を瞑ったままだ。ギルマスが抱いて船を降りる。僕だって抱っこ出来る。もっと鍛えよう。
屋敷に入る前にスイが水で塩分を飛ばして乾かした。それから水着を脱がせて服を着せる。相変わらず細いその体は少し冷えていた。
僕もスイに体を洗って貰って水分を飛ばしてカスミの隣に潜り込んだ。ルキも入って来た。
早くあったまるといいな。
なんか柔らかくて温かい。コハクか?さわり…もふもふしてないな。撫で撫で…なんだ?
「今はダメ…」「後で」
なんか声が聞こえる。あったかくて気持ちいい。温もりに寄り添ってまた寝た。
…意識が浮上した。あれ?
目を開ける。瞬きをすると目の前にロキの顔があった。ん?どんな状況だ…。
(脳震盪で船に回収されて、ここは屋敷です。しばらく眠っていました。もうすぐお昼ですね)
クリスの声が聞こえた。
で、なんで双子に挟まれてんだ?
(心配した双子が体を温めてます)
ただの脳震盪だろ?
(水中にいて体が冷えてたのを心配したようです)
なるほどな、知らないとそうなもんか。
ぬくぬくでまぁ役得か?
ロキの目が開く。
「触っちゃダメ。押し倒すよ」
んと、なにが?マジマジと見る。撫でっ…あ、ヤバい。急いで手を離す。コハクと間違えてロキの腰を撫で回したらしい。なんか、ごめん。
「むう、して欲しいのかと…」
「違うわ!」
脳震盪してんだぞ、こっちは。
「コハクかと思って撫で回したみたいだ。悪いな」
「残念…」
腹減った。フカヒレは無理だけど、なんか麺類が食いたいな。ラーメンは…無理か。確か小麦粉にカンスイとかだったか、を入れるんだよな。
作らないとなると、俺の袋麺ストックしかない。ダメだ。
クリスなら作れるのか?
「クリス、ラーメンの麺作れるか?」
「主が分かるのならもちろん作れます」
「こんな感じなんだが、伝わるか?」
「はい、その麺ですね」
「スープも欲しい」
「粉状のものなら大丈夫です」
あちらから持って来た袋麺のスープだな。
「それでいい」
「亜空間に入れました」
「食いたい…」
「作りましょう。鍋にたくさん…」
「ダメ、伸びるから。麺だけ茹でて、スープは鍋に。食べる前に煮込んで…」
「承知しました。主だけにして、他の人は魚にしますか?」
「寿司作る…」
ロキに起こして貰う。
「手伝う」「婚約者だから手伝う」
双子がやけに可愛いぞ?
ご飯の炊き方(クリス作の炊飯器風魔道具)を双子にクリスが教えて、ポチッとボタンを押した。
「具の用意だな。これをこんな風に切って」
短冊に切って貰う。刺身と卵、きゅうり、シソ。マグロは茹でてオイルに漬けていたからそれも用意。
中落ちの皮付近に付いた身はスプーンでこそげ取る。ネギと合わせてネギトロだ。
漬物を刻んでトロタク。サケのトロも作る。
細々と双子に振りながら準備。
あら汁は双子に作らせた。簡単だからな!恐々と包丁を握っているから、手を添えて切り方を教える。
と言ってもぶつ切りでいいから簡単だ。そちらが終わるとご飯が炊けた。
クリス指導の元、広げて粗熱をとる。
「少し冷ますんだ」
風魔法で仰がせた。便利だよな。
サーモンとマグロの中落ちの表面は炙らせた。塩を少し振る。
冷めたご飯に酢や砂糖を入れて酢飯にする。満遍なく混ぜるんだぞって言ったら風魔法で優しく混ぜていた。美味いな。
冷めたら板海苔に薄く広げて具を乗せる。好きな組み合わせでな。ご飯は端まで載せないことと、中身を盛りすぎないことを伝えて、好きにさせた。
俺は意外とシンプルに、ネギトロ、トロタク、ネギサーモンとサーモン炙りとシソ、中落ち炙りときゅうりとシソとサーモン、イカとシソ、ハマチとマグロの赤身。
こんなもんか、いい感じだ。
そして最後にしっかりと巻く。巻き簾でぎゅっとな。双子は言ったのに盛りすぎて豪快にはみ出していた。
泣きそうな顔で俺を見る。具を中央にまとめてなんとか形にした。
「切るんだぞ?このままじゃ食いにくい」
本当なら醤油に付けて食べるんだが、勿体無いのでしょうゆをジュレ風にして、中に入れ込んだ。塩味とかも付けたからそのまま食える。
当然みたいな顔でリクが口を開けている。端っこの方を放り込んだ。もぐもぐしてる。また口を開ける。面白がってルキとロキも口に放り込んだ。
白玉、イナリ、コハクにも食べさせる。こんな時のコハクは普通に可愛い。
双子がお椀にあら汁をよそい、俺は皿に巻き寿司を並べた。自分の分はちゃんと取っておく。どうせ残らないし。
ルキとロキも山盛りにしていた。俺が作ったのもしっかり皿に載せている。作ったもんの特権だ。
アマランとウルグ、セイが食堂に来た。
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