5.ベルシティ
案内所にはきれいなお姉さんがいた。
「いらっしゃい。宿を探してるの?」
「うん、えっと色々と居るから」
「あら、アルパカね!うさぎと鳥とキツネ。くすっ豪華ね?一番安く泊まれるのは冒険者ギルド併設の宿よ。従一緒に部屋に入れるの。ただ、冒険者の登録が必須だけど」
それなんだよな。ジョブは非戦闘職。どちらかと言うと商人の方が向いてる。ただな、宿の問題が。
「冒険者ギルドの登録にはお金が必要だよね?」
「そうよ、2000リラ。宿泊は1泊3000リラ。街中だと最低でも5000リラで、厩舎を使うのにまたお金が取られるわ。それが500リラだから5500リラは最低でもかかるの。お金に余裕があるなら構わないけど」
無いな、めちゃくちゃ貧乏では無いかもしれないが、金に余裕はない。
「分かった。そのギルドの宿が空いてないとかは?」
「大丈夫よ?テイマーは少ないから」
俺はテイマーなのか?ま、それでも良いんだが。
「じゃあ冒険者ギルドに向かえばいいんだな」
「そうよ、紹介状を書くわ。受付で見せてね!」
「ありがとう」
紹介状を受け取って、ギルドの場所も聞いて案内所を出た。親切だな。教えてもらった冒険者ギルドに向かう。
ギルドはメインの通りにドンとあった。剣と盾の看板だ。緊張するな。
でも、リクは大きいから外で待機させたとこ。テイマーっぽいからうさぎとキツネは連れて行こう。
扉を開けるとガヤガヤと声が聞こえた。賑やかだな。受付って見回していると
「坊主、どうした?登録か?」
普通に声を掛けられた。振り向くとデカッ。大きなお兄さんが肩に斧を担いで立っていた。
「うわぁ…」
思わず声が出た。お兄さんは笑うと
「何だ?田舎から出て来たばっかりか?」
「うん、そうなんだ。宿の案内所で受付に出す紹介状を貰ったから」
「ならあそこだ!」
指を指して教えてくれた。カウンターにおじさんが座ってる。お礼を言ってカウンターに向かう。
「こんにちは!」
「こんにちは。登録かい?」
「うん、これ…」
紹介状を渡す。
「どれどれ、うむなるほど。じゃあこの紙に、字は書けるか?」
大丈夫な筈。頷くと紙とペンを渡される。
名前と職業と年齢。あ、いくつだ俺?じっと手を見る。
(12才)
そんなか…小学生じゃねーか。3分の1になったんだな。
名前はカスミ・ガゼル
このガゼルってのは出身の場所だ。ガゼル村のカスミだな。王都の場合はロイヤル、それ以外は村や街の名前だ。ベルシティの出身だと、カスミ・ベル。
貴族はもちろん違うぞ!
年は12、職業はテイマー。日本語を書くイメージで普通に書ける。これは転移者全員にある言語理解ってのらしい。
書き終わるとおじさんに渡す。
「カスミだな。また遠いところから来たんだな」
さっきも言われたけどどんだけなんだ?
(国の端)
ベルシティは王都周辺の街だ。シティとつくのは王都周辺のにある7つの街で、他は普通に街の名前だけ。
王都は国のほぼ真ん中だから、そら遠いわな。
「登録料が2000リラだな」
ポーチから取り出して渡す。
「ギルド併設の宿を希望だな、何泊する?」
ひとまず10日かな?
「10日」
追加で3万リラを払う。
おじさんはその間になにやら機械を操作してカードを作っていた。
「出来たぞ!これが登録した時のカードだ。Fランクだ。詳しい説明はいるか?」
聞きたい気もするけど、宿に入りたいな。
「ははっ、疲れてるよな。話は後からでも聞けるから、これが鍵だ。そこの通路を進んだ先で鍵を見せて、宿に入る。鍵はちゃんとかけろよ!」
お礼を言って進む。
棟続きみたいで、宿に入る手前に職員がいた。鍵を見せると
「1階の一番奥だ」
と教えてくれた。
「外にアルパカを待たせてるんだけど」
「宿の庭から回れば直接外に出られるぞ」
それは便利だ。早く回収しないとうるさそうだからな。
部屋に入ってから庭を回って外に出た。
あれ、リク…?
お姉さんに囲まれて機嫌良さそうだ。本当にリクか?目つきが違うし何やらデレてる。
(おい、ぼっとしてないで早く連れてけ!)
やっぱりリクだ。何故かホッとしてしまった。駆け寄ると手綱を結んでいた柱からほどく。
すかさず襟元を咥えられてほぼ引き摺られながら庭の方に向かった。
「おい、なんで引き摺られてんだ?俺」
(ったく、ウザかった。愛想振り撒くのも面倒なんだぞ!)
あーなるほど。でも多分俺のために愛想振りまいてくれたんだな。ふふっ相変わらずツンデレだ。
庭から部屋に入るとリクに放り投げられた。ベッドにぽすん。
起き上がるとローブを脱いでブーツも脱いでベッドに転がった。はぁ、やっぱりベッドいいなぁ。
ゴフッ
痛いぞ…鳩尾に一発来た。
悠然と俺を見下ろすリク。
(腹減った)
あれ、あ…寝ちゃったから。水も出してないや。
「悪い悪い」
慌てて起きて桶や皿に水やエサを入れる。少し寝かせてくれたんだな、リク。相変わらず態度も口も悪いけど何気に優しいよな、コイツ。
ふかふかの背中を撫でる。睨まれたけど知らんよ?
そろそろ夕方か。今日は早めに飯食って寝るかな。
外食したいけど、リクたちと入れる店ないかな。困った時の広辞苑だ。
ベルシティの食堂を調べる。大型の従魔と入れる店。
おっあるんだ。なるほど、テラス席か。確かにそれならリクでも大丈夫だな。
価格は…安いっ。食べ放題で1500リラ。従魔連れは一律プラス500リラ。
宿泊費で3万リラ使っちゃったから、贅沢は出来ないが。今日くらいいいだろう。
「みんな、飯食いに行くぞ!」
(ふんっ)
(わーい)
(やったー)
(嬉しい)
(…♪)
反応はリク、カラス、白玉、イナリ、コハクの順だ。性格出るよな。
庭つたいで外に出る。道を歩いているけど、アルパカを見てもみんな驚きはしなかった。
そうそう、連れて歩くからとみんなは俺の連れだという登録を冒険者ギルドでした。首にリボンを巻いている。
そのリボンは買っていたクッキーに付いていたもの。それを具現化で色や太さ、長さをそれぞれに似合うよう出した。
リクは紺、カラスは赤、白玉はピンクでイナリが青、コハクが緑。英語でsweetとhappyと書いてある。オサレだぞ?
目指す店はもうすぐだ。
おっ、見えた!外にテラス席があって結構広そうな店だ。テラス席に近付くと、中から店員が出て来た。若い女性だ。
「いらっしゃい!その子たちも?」
「うん、大丈夫?」
「もちろん!料理とお酒以外は中にあるわ。ってお酒は無理ね。先にお金を貰うの。えっと2000リラね」
ポーチから金を出して渡した。
「はい、確かに。可愛いアルパカね。触っても?」
リクを見る。
(チッ少しだけだぞ!)
「少しなら大丈夫」
「わー凄い、ふかふか。ふふっありがとう!中にお皿があるからね」
リクの背中を撫でて
「偉いぞ、リク」
(ケッ)
相変わらずだ。背中をポンポンすると
「大人しくしてろよ」
声を掛けて中に入った。
「らっしゃい!」
威勢のいい声が迎えてくれる。俺はビュッフェ形式の手前にある皿を片手に料理を取って行く。こりゃ何往復かしないとな。
「手伝うわよ!アルパカたちも食べるんでしょ?」
むしろ俺より食う。
「うん、ありがとな」
何故か頭を撫でられた。
田舎から出て来て精一杯背伸びをしてる子供に見えてるんだろうか?いやなんだこれ、恥ずかしいぞ。
顔を赤くするとあら、なんて言われた。余計に居た堪れない。お姉さんは適当に皿にドンドン盛る。器用に腕にも皿を乗せ、山盛りで外に出た。俺は飲み物を取って続く。
足元にはカラスたち用の台が用意されてて、こんもりとした皿はそこに置かれた。
「ごゆっくり」
にっこり笑って去って行った。やっぱり村人B補正なのか?みんな優しい。
「食べよう!」
ちゃんと待ってたみんなに声を掛ける。口は悪いんだが行儀はいいんだよな、不思議だ。
パクッお、美味しい。シンプルだけど肉は程々に柔らかく、魚は皮がパリッとしてる。野菜も甘味があってなかなかだ。とはいえ、やっぱり日本食に比べると大味。海外の味付けだな。
でも異世界で飯まずじゃなくて良かった。舌の肥えた日本人としては辛すぎるからな。




