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チートなジョブで転移無双  作者: 綾瀬 律


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55.ルーガスに到着

 海だ、海だー!

 ルーガイザ伯爵領の主都であるルーガスに、俺たちは予定より1日半遅れの24日目午前に到着した。

 潮の香りがする。懐かしい香りだ。


 まずはルーガイザ伯爵邸に向かって、運んできた荷物を納品する。

 海を見渡す丘の上に白亜の塔があって、その塔が屋敷なんだとか。俺達には関係が無いから、丘を登った屋敷の中の裏手に回る。


 使用人たちが待ち構える中、令の隊長の号令で随行した騎士たちも手伝って荷が降ろされていく。

 隊長がベルに声を掛ける。

「少し中で話がしたい。みんなも別の部屋で待っていてくれ」

 俺は屋敷の中よりこの海が見える気持ちがいい庭園を散策したい。


 ベルは俺とリクを見て

「冒険者には荷が重いので、外で待機させてほしい」

 と伝えた。すると

「では使用人を付けよう」

 ということで、品のいいおじいさんと若い男性が残ってくれた。


 俺はリクの背中に手を当てて海を眺める。海だ、海に来たんだ。

 心地よい風が吹き抜ける。海の香りを運んでくる風は湿っていて、それすらも懐かしく感じる。

 ただ静かに俺はそこに佇んで海を眺めていた。


 横から手を握られた。そして後ろから抱きしめられた。双子だ。

 いつもは無遠慮なくせに、こんな時だけ静かなんてずるい。


 俺は込み上げるものを押しとどめるように、きつく唇を噛んで耐えた。

「海きれい…」

「キラキラ…」

(美味いもん食わせろ!)

 リク…そのふかふかの背中を撫でる。首に顔を埋めた。リクからは草原の匂いがした。


「よろしければお茶でもいかがかな?」

 声がかかる。そっと顔を上げるとガーデンテーブルにガーデンチェアが用意されていた。

 俺は軽く首を振るとリクにもたれたまま海を眺めていた。

 双子も俺から離れない。

「飲んでくればいい」

 そう言っても何故か離れなかった。

 だからって子ども扱いして頭撫でてんじゃねーよ!


 俺は黙って海を眺め続けた。

「カスミ、少しいいか?」

 ベルに呼ばれた。振り向くと少し困ったような顔で近づいて来る。

 嫌な予感がする。感傷を捨てて身構えると双子も寄り添う。


「あーそんなに構えないでくれ。私が間に入るから大丈夫だ」

 間に入る?怪訝な顔をすると

「貴族ダメ」

「カスミは渡さない」


 なぜか双子が警戒感マックスでベルを見る。ベルは両手を上げると

「だから私が間に入るから!調味料をな、買いたいと言われたんだ。あとな、例の防水布。俺が交渉するし、無理はさせない。私の為だと思って頼む」


 双子は俺を振り返った。

「貴族はダメ、取り込みにかかっている。間に商会が入ってもダメ」

 ロキが強めにそう言った。

「ベルドラ殿、その件は私が引き取ろう」

 その声に俺は驚いた、めちゃくちゃ驚いた。



「カスミ、私に任せろ」

 その声はいる筈のない人の声。

 双子の後ろからその姿が見えた。俺は思わず走り出す。そしてまるで小さな子供みたいに抱き上げられた。


「セイ!」

「カスミ、間に合った」

「何で?仕事は??謹慎大丈夫なの?任せろってどう言う意味??」

 矢継ぎ早に質問すると笑いながら

「カスミ、落ち着け。大丈夫だ。謹慎だからな、溜まっていた休暇を申請して本部にも了承された」

 そういって俺を抱きしめた。俺はその首に手を回してもたれる。


「商会を興してきた。ふふっ初仕事だな!」

 驚いてまじまじと見つめると俺の頬を指で撫でながら

「カスミを貴族のいいように使われないために、商会を作った。ベルナ商会との取引は続ければいいが、商品の取引はうちの商会がするぞ」


 それからセイがベルにその旨を話した。ベルとしても俺の商品を横流しにするような取引は積極的にしたくなかったようで、ホッとしていた。

 取引の現場に俺を連れて行くのはセイ曰くダメらしので、双子に俺を預けてセイはベルと屋敷に入っていった。


 俺の為にセイは商会を作って、馬で早駆けして追いかけてくれたようだ。

 あちらの世界に引きずられてちょっと後ろ向きだった俺を戻してくれたセイ。本当にありがたい。

 双子がなぜかドヤ顔だ。なんでそうなる?


「僕たちも商会に入る」

「カスミを守る」

「冒険者は?」

「もちろん続ける。青い稲妻は商会の専属護衛と冒険者を兼任する」

「カスミがいればすなわちそれが護衛」

 良く分からないが、みんなが一緒にいてくれるなら嬉しい。


 商談を終えたらしいセイは海が見える庭園にやってきて

「いい眺めだな、カスミ」

「うん!海がキラキラ」

 一緒に眺めた。


 後で話を聞くと、商会を作ったと言ってもセイにそのノウハウはない。だからベルにオブザーバーのような形での契約を申し出て了承されたそうだ。

 それから、商会の事務所やら倉庫やらも必要で、経理や事務などの人員も必要だ。


 その人員に関してはパルシェン公爵家とルキたちのシュプラール侯爵家から人を派遣してもらえるらしい。

 ルキやロキ、セイは年頃の女性がそばにいるのはダメだから。俺もだって。なぜか分らん。

 パインが拝めないのは残念だが、後々面倒なことになるくらいなら封印だな。まだ俺の体は無反応だし。


 それから宿に向かう。といってもセイがあらかじめ押さえていた一軒家だという。ベルたちは馴染みの宿へと向かった。次に会うのは帰る日の前日だ。

 セイに案内されて進む。

 丘を降りて海沿いに進んで少し先にその一軒家はあった。


 …いや、家じゃないだろこれ。屋敷だ。立派な屋敷だ。中からはヒルガさんが出てきた。何で?

 セイが自慢げに

「先に現地入りさせていた」

 だそうだ。凄えな、公爵家って。


「滞在費は?」

 と聞けば

「気にしなくていいぞ!」

 アマランを見ると

「後で話をする」

 だそうだ。まぁ、滞在費は本来ベルナ商会長持ちだからな。


 屋敷に入って大きなリビングに入る。凄い!海が見える。そのままテラスに出た。海の風を感じる。眼下には砂浜。泳げるような季節じゃないし、そもそも安全かもわからないが嬉しい。


 テラスから海岸に降りる階段があった。セイを振り返ると風になびく俺の髪の毛を整えてくれる。

「降りるか?」

 頷いてセイに手を引かれて階段を降りた。海だ!

 砂浜に入る前にブーツを脱ぎ捨てて、海に向かって走った。砂はサラサラで足の裏に心地良い。


 ズボンの裾を捲ってそっと足をつける。冷たい!でもそれが気持ちいい。

 膝下まで入ると、セイが慌てたように

「危ないから戻れ!」

 と叫んだ。なんでだ?


 足元を見る。あ、クラゲだ。触手に触れると腫れたりするからな。棘に毒があるんだ。眺めていたらピリッとした。触っちゃったみたいだ。

 背後から来たセイに抱え上げられた。

「カスミ、気をつけろ!」

 クラゲだし大丈夫だけどな。冷やして棘を抜けばいい。


 それに…な。

 離れた場所でセイの膝に座らされる。

「やっぱり、刺されたか」

「大丈夫だ」

「ダメだ!」

 俺はリグを呼んだ。

「リグ、戻して」

「はい、主」


 腫れは引いた。戻したからな。唖然とするセイ。

「俺のもう一つのジョブだ」

 驚いた後、俺の髪の毛を掻き回し

「心配させるな」

「ごめん。懐かしくてな…つい」

「ガゼルは海に近いらしいからな。みんなそんな感じの反応をすると聞いた」


 そりゃな、海に囲まれた島国だったから。

「言ってくれないと心配するだろ?」

 近くで双子もあたふたと俺を見ていた。

「ごめん…堪えられなかった」

 その後、青い稲妻のみんなに揉みくちゃにされた。



 屋敷の中に入る。海を臨む広いリビング、部屋の中は白で統一されていてとても気持ちがいい。

 2階に上がると寝室があった。海に向かって広いバルコニーが付いている。


「凄え…」

 セイが隣に並ぶ。

「気に入ってもらえたかな?」

「あぁ、ありがとな!最高だ」

 その海をしばらく眺めていた。ほんの少し、感傷に浸ったのは内緒だ。




セイの想いにほろりとしたカスミでした…

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