表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなジョブで転移無双  作者: 綾瀬 律


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/80

44.貴族の馬車

 私は護衛任務中の騎士のフリをしている。護衛対象はアナライズ・ルーガイザ伯爵令嬢。

 そう、私自身だ。


 豪華な馬車には私の侍女と護衛が乗っている。当の本人である私は騎士だ。もちろん、護衛は要るが馬車に乗る必要は無い。

 だから指揮をとりながら、歩いている。


 訓練の一環だと思えばいい。そして、私の命を助けてくれた人に再会した。名をカスミと言う。

 記憶の通り、まだ幼く小さい。しかし、淡いグレーの髪の毛と水色の目はとてもきれいだし、顔立ちも目立たないが整っている。

 大人になればキリッとした美男子になるのが予想できる顔だ。


 私は女だてらに騎士をしているから、キラキラしい男は苦手だ。私より小さくて細い彼が、解毒剤を飲ませた後に、アルパカに乗せて街まで戻ってくれたのだ。


 訓練の下見で迷ってしまい、ついお腹が減って美味しそうなきのこに手が伸びた。

 止めてくれたのに、私は自分が先に見つけたと主張してそのきのこに触り、倒れた。

 彼は解毒剤を飲ませてくれて、意識はそこで途切れた。優しい手が肩に触れたのを感じた。



 私は自分で言うのもなんだが、美人だ。背も高くてスタイルもいい。女性らしい曲線には恵まれなかったが、そこそこいけてると思う。

 王立学院では沢山追いかけられた。もちろん、婚約の打診も数多くあった。いまだに婚約者がいないのは、私の眼鏡に叶う人に出会えていないからだ。

 最低条件は私より強い男。


 カスミが強いのかと聞かれると分からない。分からないが、私を連れて森の奥の方から無事に生還した。しかも、小さな子を2人連れて。その子たちは熊に襲われていて、大ケガをしてた所を助けたんだとか。

 いかに私が軽いとはいえ、子供2人もいた。魔獣を警戒しなければならないし、大変だった筈。


 だから彼はきっと強いか、とても運がいい。アルパカは3人も背中に乗せて街まで戻ったと言う。興味を惹かれる。だから会いたいと伝えたが、叶わなかった。

 しかし、領地に帰る必要が出た事が転機になる。


 護衛を頼みたいが、私には専属の護衛がいる。ならばとたくさんの品を買い、商会に馬車を出させる事にした。商会の護衛では足りないくらい品を買えばいい。

 そして、まんまと指名依頼を出した。

 条件はつけられたが、受けて貰えて嬉しかった。条件もごく普通のもので、なんら問題はなかったしな。


 当日、門のところに行けば、一際小さな姿。カスミだ。あぁ、薄いグレーの髪は陽に照らされてキラキラと輝いていた。

 挨拶に行けば、ごく普通に対応してくれる。新鮮だ。私の顔色を伺うでもなく、媚を売るでもなく普通に話をする。


 その姿が新鮮だった。若い隊員が迅る気持ちで剣を振ったが、華麗に避けた。

 そして、全く怒っていなかった。まだ幼いと言ってもいいくらいなのに、堂々とした物言い。何故か心惹かれた。

 強く握った手は意外としっかりしていて、離し難くずっと握っていたらそっと外された。


 年はまだ10より少し上くらいか。思ったより年下だが、あの年頃はすぐに成長する。貴族なら許容範囲か。

 私は結婚すれば騎士爵を賜る。婿として迎えることは可能だろうか。そんな事を考えながら、旅は始まった。


 初日は特に問題もなく、と思ったが歩き慣れない装備に苦戦して速度が出ない騎士たちに、旅慣れない馬車の馬たちが言う事を聞かず行軍は遅れた。

 雨が降り出して止まったのも痛かった。着けるはずの街には辿り着かず、森の入り口で野営となった。


 雨の為の用意は最低限しかしておらず…濡れながらテントを張り食事を作る。

 快適さとは程遠い1日目は、そうして終わった。


 雨で体が濡れて気持ち悪い。

 床も濡れてよく眠れず、翌日は予定時間を大幅に過ぎて出発となった。

 遅れを取り戻す為、やむなく昼の休憩は早く切り上げて進む。


 ふと気になってカスミを見る。平気そうな顔で歩いていた。それが何故か嬉しくて、なんとか頑張って街に着いた。宿に入るとへとへとだった。


 ベルナ商会のベルドラ殿に、商会の馬車にしては遅くてかえって馬が疲弊する。先に行かせて欲しいと言われた。むっ仕方ない。

 街に泊まれるのは5日目まで。なので、その街で落ち合う事にした。

 その日は素早く夕食を食べると侍女に風呂を頼んで、早々に寝た。


 翌朝、起きたら7時だった。部屋に食事が用意されており食べてから出発する。それでも支度に時間がかかり、出発出来たのは8時半だった。


 商会の荷馬車を気にせずに進む。つもりが、速度が上がらない。まだ雨は降っていて馬が歩くのを嫌がる。宥めながら進むも、早くはならず、雨も止まない。

 昼の休憩もそこそこに出発した。


 ようやく街が見えたのはもう夜の8時を過ぎた時間。門は貴族の特権を使っても9時までしか入れない。

 街の灯りは遠く、急いだが間に合わなかった。遠目に門番が見えなくなる。


 馬車の中から侍女のエルサが

「お嬢様…どう致しましょう」

 どうもしようがない。

「仕方ない、近くで野営だ」

 近くには森など雨を凌ぐ場所もない。我々は雨に濡れながらテントを張り、携帯食を齧った。


 見通しが甘かったか。普段は馬車ではなく馬だから、見誤った。

 疲れが取れないまま、寒さに震えて眠った。


 旅に出て3日目、今朝も雨。

 寒さで早く目が覚め、嫌がる馬を宥めて街に入った。ひとまず宿に落ち着かなくては。

 宿に入ってから朝食を食べ、風呂に入る。

 生き返った。しかし、ゆっくりしている間もない。馬の世話は宿に任せたから、他の騎士も少しは休めただろう。


 慌ただしく出発した。

 流石に疲労が抜けず、馬車に乗る事にした。他の騎士たちはそのまま歩きだ。なんとか次の街に着いて遅れを取り戻したいものだ。




 …結論から言うと全く取り戻せなかった。

 馬が動かない。

 連日雨の中歩かされて、疲労が溜まっているみたいだ。水もエサもあまり食べず、動きが悪い。途中でついに止まってしまった。

 困り果てていると、たまたま同じ方向に向かっていた冒険者パーティーの1人が話しかけて来た。


「騎士様、差し出がましいがな、この馬たちはもう歩く気がないぞ」

「何故分かる?」

 と聞けば

「俺はテイマーなんだ。なんとなく考えてることが分かる。やってらんねぇって思ってるぜ」


 他の騎士が気色ばんだ。

「勝手な事を言うな!」

 肩をすくめると

「ゆっくりとしか進んで無いじゃないか。あちらは美味しいものを食べてるのにって思ってるぜ」


 ん、待て。あちらとはどちらだ?その疑問が顔に出ていたのか

「あちらがどちらかは知らねえけどな…そう考えてる。不貞腐れてるんだ。あっちがいいってな」

 副官を見れば、思い当たる節があるのか

「あちらは多分、カスミ殿のアルパカでは無いかと」

「何!?」


「雨でも元気に歩いてましたし、雨にも濡れてる様子が有りませんでした。美味しそうなご飯も沢山食べていて、毛艶も良く。何より楽しそうに歩いて来ました」

 馬車を引いてないからでは?


「馬車を引いてるかどうかは関係ありません。ベルナ商会の馬たちも元気でした。アルパカと共にカスミ殿が世話をしていましたし。カスミ殿もテイマーです。考えていることが分かるのでは?」

 それを聞いたテイマーの男が頷く。


「有り得ますな。ふんわりとですが気持ちが分かる。疲れたとか、体が濡れて気持ち悪いとか。ブラッシングをして体を拭いて、清潔な場所を用意。新鮮な水とエサ。細やかな手入れをすれば馬は良く走る。それと比較して拗ねてるんでやすな」


 男はそれだけ話をするとパーティーを追いかけて去って行った。連れている猫型の魔獣は楽しそうに走っていた。


 私は切実にカスミに会いたいと思った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ