43.街の散策
目が覚めた。ぬくぬくだ。腕の中にはコハク。伴侶だからな。もっさもさのしっぽを堪能。首元には白玉とスイ。あったかいのと冷たいのと。変な感じだ。
背中はすっぽりとあったかい。イナリにしては全身あったかいぞ?
手を伸ばしたら、あれ?振り返るとすぐそこに顔があった。
うわ、びっくりした。ロキだ。後ろから抱き枕状態だ。ヤローの抱っことか誰得だよ。
白い頬が少し赤くなっていて、まつ毛が長い。男だよな?風呂でナニが付いてんだから間違いない。
目を瞑っている顔だけみたらやっぱりきれいだから、女って言われても納得だ。
残念ながらぱいんはない。非常に残念だ。
ぼーとその顔を見ながらぱいんの事を考えていたら、瞬きをしてゆっくりと目が開いた。
「おはようカスミ」
囁くような声だ。ルキがまだ寝てるからな。
「おはようロキ」
俺も小さな声だ。
ふにゃっと笑うとぎゅうと抱きしめられた。寝ぼけてんな、コイツ。
ま、減るもんじゃないし背中のコハクも気持ちいいし何やらいい匂いもする。気にせず目を瞑った。
唇に何か柔らかいものが触れた気がしたが…気のせいか。
目を開けたら間近にカスミの水色の目があった。透ける虹彩がきれいだった。
朝の挨拶をして抱きしめる。小さくてあったかい。ほとんど無意識に唇を重ねて目を瞑った。
弟がいたらこんな感じなのかなって思いながら。背中のもふもふもいいし、カスミにくっつくと首元がふわふわだ。すりすりもふもふ。
抱き枕、柔らかくていい匂いがする抱き枕。良き…唇を寄せたまま眠った。
うん…なんかリクが厩舎から呼んでる。何で聞こえるんだよ!ここは部屋だぞ。しかも背中をコハクが蹴ってるな。
目を開けたらやっぱり目の前にロキの顔。ってかぼやけるほど近いな。
うわぁ、なんか柔らかいって思ったら頬にロキの唇が触れていた。
密着しすぎだろ。腕の中からゆっくりと…ゆっくりと…解けない。なんて力だ。細身のわりにがっちりホールドされている。
背中の蹴りは激しくなるし、そろそろ起きないとリクから怒られそうだ。
なのにロキの腕が緩まらない。
「もう空間転移したらいいだろ!」
トーカそれだ。
シュン、ふう抜け出せた。
急いでリクたちのご飯を用意して厩舎に向かう。ついでにベルのお馬さんたちにもエサを準備した。
寝坊したか?と思ったらトーカが6時前って教えてくれた。
良かった、寝坊ではない。リク、早いよ!
(ケッ、こっちは馬車に合わせてゆっくり歩いてんだぞ!疲れるんだよ)
そりゃそうか。はいはい、背中を拭いてやるぞ!
布を濡らして食べ終わったリクの口元を拭く。顔から首、背中としっぽ。最後にお腹と足元まで拭く。
浄化できれいになるがやっぱりあったかい布で拭くのは気持ちいいらしい。
カラスとスズメも拭く。ベルの馬たちもブラッシングして拭いてやった。気持ちいいのか頭を擦り付けてきた、可愛い。
部屋に戻るとイナリとコハクだ。可愛いな。もっさもさのしっぽを丁寧にブラッシングして拭いた。もちろん最後に顔からダイブだ。
暴れるコハクを抱きしめて頭にキスをする。やがて大人しくなった。ツンが取れてデレたな、もふもふ。
顔を上げたらロキが俺を見ていた。ちょっと恥ずかしい。そして俺に手を差し出す。なんだ?
「起こして…」
そう来るか。背中に手を回して起こせば伸びをした。流石に着替えは自分でしてくれ。
真似をしてルキまで俺に手を伸ばす。お世話係じゃないぞ、俺は。仕方ないから起こしてやる。
俺も着替えると、ロキとルキも支度を終えていたから食堂に向かう。
ベルとリノが食べていた。
「今日の出発はゆっくりなのに早いな」
俺は苦笑した。
「リクに飯を食わさないとだからな」
なるほどと頷いた。
朝食を食べると部屋に戻る。
「少し街を歩いてくる」
とルキとロキに言えば一緒に行くと言う。
「見に行くのは市場だぞ?」
「構わない」
「果物買う」
余程昨日のフルーツポンチ風ジュースが気に入ったらしい。宿で市場の場所を聞いて向かった。
ふう、買った。
でも俺以上に双子が買いまくった。果物なんて買い占めるじゃねってくらいだ。それを作らされるのは俺か?
クリスに頑張ってもらうか。
俺は調味料やハト麦、玄米と売っていたチーズを買った。小麦粉各種も大人買い。
嬉しかったのは片栗粉があったこと。こちらでは芋粉と言う。唐揚げやあんかけが作れるな。
満足のいく買い物をして宿に戻る。そろそろ出発か?
荷物はバッグに入っているから忘れ物がないか確認をしたら部屋を出た。
ロビーで少し待つとベル、リノそしてアマランとウルグ、白竜のメンバーもやって来た。
「行くか」
厩舎から馬を出して馬車と繋げる。俺はリクとカラス、スズメを出して手綱を引く。実際には引くフリだけどな。
こうして7時過ぎに街を出発し、3日目の依頼が始まった。
今日も今日とて雨が降っている。けっこうざぁざぁと。俺はもう遠慮せずに自分たちの周りに雨除けの結界をしている。
その中にはリクを始めとした従魔とクリスにトーカとリグも入っている。
トーカとリグはそもそも見えないし、俺の頭の付近にいるからな。
クリスも俺の少し後ろを歩き、リクは少し前。白玉は肩でイナリとコハクは左右。
雨除けの結界に気が付いたらしいルキがさりげなく俺に寄って来た。護衛をしているからあからさまに隣には来れないが。
結界の端っこにしっかりと陣取った。さすがは双子、賢者じゃなくとも魔法の感知能力が高い。
こうして凄く早く進んだ。昨日までは何だったんだと思ったぞ。
そしたらトーカが
「お前が水とエサを馬に与えて体を拭いたからだ」
と言われた。何で?リクの隣にいたからベルに確認してお世話しただけだ。
「お前の水は女神の命の水、エサはリクのだろ?」
あ、そうだった。神様由来だからってだいぶ前にトーカが言っていたな。
「体が軽くてすごく楽って思ってるぞ」
まぁベルんとこの馬だし有りだろ。
体が濡れるのはかわいそうだと思って、頭と首からお尻までを覆う防水布をかけてやった。
「濡れないのが気持ちいいー!だとさ」
あれれ?まぁいいよな。いいことにしよう。
「馬…」
スッと近寄って来たルキが呟く。ギクッ。
「元気…カスミ何かした?」
目が泳いだのは気のせいだと思ってくれ。
一度休憩を挟んでガンガン進み、12時の昼休憩だ。
「カスミ。火を使って大丈夫だ」
ベルよ、火を使った料理が食べたいってことだよな。
うーん、このあいだリクが取って来た鳥胸肉でタンドーリ風チキンを作るか。
下ごしらえをぱぱっとしてヨーグルト(クリス作)につけて時間促進。
スパイスに浸けて七輪に網をセットして焼く。どんどん焼く。俺の警報が鳴りっぱなしだ。奴らは絶対にたくさん食う。
目の前にはまたルキとロキ。背後からも視線を感じるが無視だ!
小麦粉を伸ばして薄く焼いてあったパンはクリスが隣で炙る。野菜をちぎってトマトとバジルで簡単なディップを作っておく。
焼けた肉を皿に盛ってまずはリクに。
テーブルの中央にドンと置いてパンとディップにコンソメスープを盛る。
「匂いが堪らない」
ルキとロキは涎を垂らす勢いだ。ベルとリノが食べ始めたのを確認してみんなの手が鶏肉に伸びる。
俺も自分の皿に取ってかぶりついた。美味い!焼く前に卵と小麦粉でコーティングをしているから、胸肉なのにパサつかずジューシーだ。
みんなもパクパク食べる。
あっという間になくなった。早いな、相変わらず。
「本当に美味いな。雨なのに雨に濡れないし食事は温かくて美味しいし。いや、旅のお供にカスミだな」
こらこら、道具みたいに言うなよベル。
リノも頷くな。まったく、俺は便利な道具じゃないからな。
食べ終わった後には定番のコーヒーだ。
なんだかんだと定着したな。たくさん収穫しておいて良かった。
亜空間では毎日採取している。しかし採取量より消費量が上回っている。どこかで採取したいな。
しっかりと休憩をして出発。まだ雨は止まない。
そういや貴族の馬車を追い越してないな。あいつら遅いくせに出発も遅かったのか。
午後も雨は止まない。洪水とか起きてないといいな。降り過ぎだろ。リクも濡れるのを嫌がるからな。そろそろ晴れて欲しいぞ。
とはいえ、俺の雨除けのお陰でリクは機嫌がいい。時々は雨除けから出て走り回っている。大きなカエルと蛇が亜空間に増えるんだが?雨で気温が低いからかな。
雨でも快適な俺たちは、重し(貴族の馬車)がなくなった事で快調に飛ばした。そして午後3時には次の街に着いた。笑ってしまった。ベルも苦笑だ。
「明日は6時に出発して、お昼過ぎには街に着こう」
「そうだな、ゆっくり休める」
と言う事で部屋に入った。




