38.依頼の準備あれこれ
ふと思いついて部屋を出る。コハクが付いて来た。ギルドに入るとノナさんがいた。
「セイは監査終わったの?」
「ちょうど少し前に終わったぞ」
「部屋に行っても大丈夫?」
「むしろ行ってやってくれ」
勝手知ったるギルマスの部屋に向かう。ドアをノックすると疲れ切った声が返って来た。
「カスミ」
と言えばすぐにドアが開く。ヒルガさんだ。
部屋に招き入れられて、ソファに座る。
「疲れた?」
応える代わりに隣に来てイナリごと抱きしめられた。
「補充…」
温もりか?イナリは温かいからな。
少しして落ち着くと体を離す。
「ごめん、用だったか?」
「用と言うほどではないんだが、これを渡そうと思って」
疲れてるならちょうどいいだろ。
紙でキャンディみたいに包んだものを取り出す。
紙を剥いて口元に差し出すと、そのまま齧った。もぐもぐしてから目を開いた。
また齧る。食べ終わると
「美味い!なんてなめらかでまろやかで甘いんだ。なのにサクサクで」
そう、シリアルバーのチョコがけ。作ったんだ。ドライフルーツも練り込んだからフルーティーさもある。
「他の味も…」
「食べる!」
被せたな。他にはハチミツ味とキャラメル味だ。シリアルは大麦と米、ハトムギで作り、ドライフルーツとフレーバーとなるチョコ、ハチミツ、キャラメルを混ぜて固めた。
取り出しすと手に取らず待っている。期待している目。仕方なく紙を剥いてまた口元に差し出す。嬉しそうに食べるセイ。
「違う味だ!さっきより濃厚な甘さだが、甘すぎなくてサクサクで美味い」
最後のキャラメル味。こちらはより濃厚だ。サクサクと音をさせて食べ切ると口元を拭い
「これはまたなんとも味わい深いな…」
満足したなら良かった。
「携帯食として作ったんだ!」
何故か頭を撫でられた。
「監査はどうだった?」
やっぱり落ち込んでるのかな。
「予想以上だ!」
なんで嬉しそうなんだろ。
「ふふっまぁ謹慎処分だがな」
「そっか、大変だね」
「そうでもないぞ!心配しなくて大丈夫だ。カスミのおかげで疲れが取れた。まだ仕事があるからな」
それならと追加のシリアルバーと凍らせたフルーツとコーヒー牛乳を差し入れして、凄く感謝されて部屋に戻った。
カスミが部屋を出て行った。
ヒルガを見る。手を出している。仕方ないな、カスミが置いていってくれた携帯食を小さく、なるべく小さく割る。俺の分が減るからな。3種類をヒルガに渡せば口に運んだ。
カッと目を開く。食べ終わると
「なんと美味な…」
「どうだ?」
「穀物ですな、それとチョコレートとハチミツにもう一つは分かりませんが食べたことのない味です」
チョコレートは数年前から貴族の間で話題になっている甘いお菓子だ。俺も食べたことがあるが、こんなになめらかで上品な甘さじゃなかった。
「やはりカスミは拾い物だったな」
「はい、非常に有能です。できれば学院に入る前に婚約者を決めた方が良いかと」
「そうなんだが、敢えて探さないと言うのもありかと。村人だからな、生粋の貴族は嫌がるだろう」
「しかし、彼の能力の高さは侮れません。当主が気がつけば、本人の意思など無視して迫ってくるでしょう」
確かになぁ。
後ろ盾は公爵家。ベルナ商会も付いている。
本人の能力もだが、アルパカやキツネがな。2年は自由を保障したし、対策を考えねば。
「坊ちゃまもですよ?」
「俺はカスミがいるからお役御免だ」
そろそろ結婚しろと言われていたが、1番は後継問題だ。俺自身は伯爵位を保有してるからな。
それがカスミを家族に迎えたことで解決した。なんせ、俺の弟であり、養子でもある。
完璧な作戦だ。
公爵家としても能力の高い、しかも色素の薄いカスミの存在は無駄じゃない。喜んで抱え込んだのだ。
俺が遊ばせている伯爵位も生きるってもんだ。
ベルナ商会との付き合いもいいが、この携帯食にしても美味すぎる。
自分で商会を興すのもいいかもな。ルキとロキの事も、専属護衛として抱えれば奴らも安泰だ。
よし、動くか。
ルーガイザには渡さないぞ!
ルキとロキにはちゃんと伝えたからな。頼んだぞ、俺のカスミを。
セイに会ってから部屋に戻り、眠った。白玉、イナリ、コハクが毛布に潜り込んでくる。相変わらずもふもふでふかふかだった。腕にはクリス。温かい。スコンと眠りに落ちた。
目が覚める。いや、覚めた…リクの顎が地味に重い。頭を撫でたらふかふかだ。
(チッ俺は安くないぞ!)
ふふふっ俺の特権だ!背中も撫でたら
うがっ…だから鳩尾に顎はやめてくれ。クリスが体を起こしてくれる。ちびっ子は背中合わせで寝ていた。サッと落ち上がると服を着せてくれる。
お前は俺のジョブだよな?
朝食は和風だ。
魚の塩焼き、ご飯、味噌汁と漬物。日本人には落ち着く味だ。
伸びをする。今日は依頼を受けずにコヒの実を取りに行く。後はみんなの好きにしよう。
ご飯を食べ終えると、支度をして庭から外に出た。
雨が降りそうだ。あ、布を防水加工しなきゃ。
クリスは便利だが、人に聞かれると色々と困る。だからこちらにある材料を広辞苑で調べて、採取する事にした。普通にスライムだった。水色のスライム。
教えると防水加工してくれるって。広辞苑様々だな。トーカは人やものがないと真価が発揮できない。全く知らないことは広辞苑で下調べだ。
まずは例の草原でコヒの実を採取。
「主、この木を持って帰ればいいのでは?」
「リグ、木の実は回帰出来る?」
「植物の実は無限に回帰出来ます」
何かルールがあるみたいだ。
「クリス、5本くらい持って帰る」
「主の亜空間に植えます」
…なんでもありだな、任せるさ。
イナリとコハクは花や薬草を採取していた。白玉はそこら辺を飛び回っている。
リクは…ま、いっか。
走り回るリクに着いて山に入って、時々は魔獣と出会い剣を振り抜きながら進んだ。
そこで雨が降り出す。
洞窟で雨宿りしていると、ピチョンと音がした。振り返ると岩の影からスライムが俺を見ていた。
「おいで!」
手を伸ばすと近寄って来る。小さいな、ピンポン玉くらいだ。触手を伸ばして手をツンツンする。ひんやりした感触だ。
やがて手のひらに乗って来た。
「水みたいな感触だからな、スイだ」
(スイー!)
甲高い声が聞こえた。
「スイ?」
(はーい)
「おい、お前が触ったらハイスライムに進化したぞ!節操ないな」
何故そうなる!名前つけただけだろう。ま、いっか?
「スイ、この布を防水加工して欲しい。あ、防水ってのは水を弾くことだ」
(やってみるのー)
もごもご飲み込む?取り込む?でしばらくしてゆっくりと吐き出した。
「完璧な防水加工だな。布の柔らかさはそのまま」
byトーカ。素晴らしい。
「スイ、ありがとう!」
つるんとして気持ちいいスイを肩に乗せて座った。
水を飲む。
「トーカ、スライムってゴミとか食えんの?」
「溶かして魔力にする、食べるぞ!」
ポテトチップスの袋とかな、溜まってるから。取り出して見せると触手から取り込んだ。
スイはごみを取り込み、それを魔力に変換できるらしい。
雨を見ながら休んでいると気配を感じた。振り向くとそこにはピンクと緑のスライムがいた。
「ピンクスライムと緑スライム」
そのまんまだが、能力は?スイは水系だよな。
「ピンクスライムは火、緑スライムは植物全般」
トーカと話をしているうちにいなくなっていた。何だったんだ?まぁ欲しかった水色のスライムはゲットしたからいいか。
雨がやまないから雨除けの結界と、スイが作った防水布でクリスにみんなの雨合羽を作ってもらう。
俺はローブに防水仕様を施してあるから大丈夫。
足元のブーツもちろん防水加工済だ。
リクたちに雨合羽を着せかけて洞窟を出る。雨除けの結界だけでも問題ないが、旅ではおいそれと使えないから練習だ。
雨は止む気配がないから、昼は宿で食べるか。
山を出た草原でリクが
(腹減った。飯食わせろ)
街まではもたないか。仕方なくタープをたてた。その下なら雨合羽を脱げる。みんなは体をプルプルさせている。
濡れている合羽はスイが乾かしてくれた。瞬殺だ。
で、七輪に網を載せてステーキを焼いた。手抜きだ!
塩と胡椒をかけてミディアムレアで焼く。
リクからだな。順番に皿に載せると俺も食べる。
一枚で十分だな。横で4枚切りのパンを焼くと半分はステーキと食べ、残った半分にはバニラアイスクリームを載せてハチミツをかけて食べた。
最高だな。
アイスってこっちに売ってんだろうか。なけりゃ作るか。
魔道具でアイスクリームメーカー。魔石は俺の魔力で作れるし。
ま、依頼が無事に終わったら考えよう。




