29.ギルドの宿
ギルドの宿に戻り、ため息を吐いた。
知らなかったよ、もう。コハクをもふりながらトーカを見る。
帰ったらコハクが飛びついて来て、何故か匂いを嗅がれて蹴られた。なんで?
(浮気者!)
(不潔!)
(最低ー)
何でだよ?
「主からはギルマスの匂いが全身からします。魔力が融合してますね…」
どゆこと?
「ギルマスと血族の儀式をしたんだろ!」
トーカ、詳しく。
「カミスを家族に迎えるに当たり、縁者じゃないから魔力が必要だったんだ。貴族とは血と魔力で決まるからな」
で?
「カスミを家族とするには、貴族の魔力が必要だったってこったな」
クリスに詳しく教えてもらうと、俺を守るためには単なる後ろ立てでは弱い。だから家族にしたということらしい。
で、家族として迎えるためには色々足りない。それを補うために俺に魔力を渡して、家族として迎える準備をしたと。
「俺は貴族になるのか?」
「成人したら…ですね」
「まだまだ先だな」
「3年後ですよ」
「成人って15才?若くね?」
「こちらの世界では常識なので」
マジか。
ま、後3年は好きにしていいんだよな?
その日は部屋でダラダラして、コハクをもふり倒した。なんかツンツンしてるからな。俺の伴侶なんだから、コハクは。機嫌取らないと。世の中の旦那さんの悲哀を見たよ、俺。今まさに体感中だ。
コハクの耳を撫でてキスをして、もふ毛に顔を埋める。最初は蹴っていたコハクもだんだんおとなしくなった。
可愛い奴だ。お腹にキスをすると、固まった。ふふふっもさもさだな、腹も。
そのまま食事中に片腕で抱っこだ。食べる時はあーんだぞ?ふふふっ。
コハクの機嫌も直った。その日はゆっくりして寝た。もちろん腕にはコハクだ。首元に白玉で背中にイナリ。安心して眠った。
ん?朝か、なんか怠い。夢を見たような気がする…覚えてないけど。さて、起きるか。目の前のコハクのしっぽを撫でる。顔にふぁさふぁさ。幸せな朝だね。
ゆっくりと体を起こす。もう大丈夫かな。
「リグ、戻して」
「はい、主」
ふわんとした感覚がして、スッキリした。
ふう、元に戻った。あれ、でもセイの魔力は?
「主、大丈夫です。体の調子だけを整えています」
良かった。せっかく守ってくれるからな!
さて、どうしよう。広場で売る予定だった木曜日はとっくに過ぎている。仕方ない。調味料を入れる瓶を買いに行こう。そうだ、商業ギルドに登録もしないと。ベルかリノに教えてもらうか。
起きて身支度を整える。
朝ごはんは、お粥の気分。鍋でおかゆを炊く。これはお米からだ。補充されるお米は毎日2Kg。有難いよな。
もうかなり溜まってる。袋があれば1回はリグが戻してくれる。
で、おかゆとお漬物。
リクたちには普通に肉と魚。野菜は白玉とカラス用。用意が出来たので、食べる。あふっ、美味しい。
和食はいいよな。沁みる…
食べ終わったらクリスが片付ける。僕のジョブなのに普通に執事もする。可愛い。
クリスと共に肩に白玉、左右にイナリとコハクを連れて外に出る。と、リクも付いて来た。
(弱いからな…)
確かに、リクがいれば安心だ。
そのふかふかの背中を撫でて外に出た。ベルのお店は歩いて20分ほどだ。
店に入るとリノが迎えてくれる。
「カスミ、良かった。なかなか連絡が取れなくて…ベルドラ様がお待ちだ」
えっと?でもあの怖い人いない?固まっていると
「奥様はおりませんので」
良かった、リノに付いて部屋に入る。すぐにベルがやって来た。
「良かった、探していたんだ」
首を傾げると
「あの調味料と黒砂糖は即完売したんだ」
そっちか、良かった。
「追加で卸して欲しくてな」
実は昨日、部屋にいたから追加で作ったんだ。
「うん、先週の木曜日は俺も店を出せなかったから…瓶を買いたいんだ」
すでに用意されていた。そこに作った粉山椒と黒糖パウダーを入れる。クリスも手伝ってくれた。
各50個だ。
「で、その…この間は母上が申し訳ない」
ベルが改めて謝る。うん、決めつけられるのは嫌だから、ちゃんと言っておこう。
「うん、俺の生き方を勝手に決められるのは嫌だ。でもベルもリノも悪くないから。俺はベルがいるこの商会とは取引を続ける。だからその話は終わりで。でも、あの人とは…ベルと一緒じゃなきゃ会いたくない」
ホッとした顔で
「カスミ、ありがとう。もちろん、会わせないようにするから」
そこでリノが淹れてくれた紅茶を飲む。
「あ、預けたクリームとかどう?」
リノに聞く。
「カスミ、私は男性用を試したんだ。肌がスッキリして気持ちがいい」
男性用はスッとするからか。頷く。リノを見れば肌はツヤツヤだ。ベルはサッパリスッキリ。
「私はあのオールインワン?という奴ですが、しっとりでした。脂っこくもなず、夜までサッパリもっちりで」
手で肌を叩く。
ベルが身を乗り出す。
「女性用もちょっとな…反響が」
売ってないのに?
「広場で売っただろ?」
頷く。
「奇跡の水って呼ばれてるぞ」
マジで?…そんな事に。
「奥様の肌を見て、問い合わせが殺到してな」
そんなに?
首を傾げると
「そんなに、なんだ…!女性とは美に対して並々ならぬ執着があるようでな…」
ベルが苦笑する。
「瓶を買えたら少し卸すよ」
そちらも昨日、かなり作った。作りは単純だからな。
詰め替え作業はクリスと分担した。化粧水、美容液、男性用化粧水、オールインワン、髪の毛用のオイル、それぞれ50個だ。
値段は化粧水、美容液、男性用化粧水が2500リラ、オールインワンが3500リラ、オイルは6000リラだ。
俺より少し高い値段。
調味料と違ってこっちは商会が販売する分、高値。俺は普通の値段で売っていいって。
それぞれの品物を卸してお金をもらう。買取なんだって。ベルが真剣な顔で
「カスミ、その…やはりこれだけの品が卸せるなら商業ギルドに登録した方がカスミのためになる。嫌かもしれないが、考えてみないか?」
セイも守って貰えって言ってたよな。
「冒険者ギルドのギルマスに言われた。商業ギルドに守って貰えって。ギルマスに紹介状を書いてもらったんだ。登録、しようと思う。どうしたらいい?」
ベルはパッと顔を輝かせると
「なら私が同行しよう!父にも紹介状を書いて貰おう」
「うん、よろしく」
リノが退出してベルと雑談をする。
子供を助けたのに蹴られて大けがをしたと言えば泣きそうな顔で隣にやって来て
「体は大丈夫なのか?」
そっと背中に手を当てる。頷くとホッとした。
「パルシェン公爵家が後ろ盾なら安心だな。我々の商会も、商業ギルドもカスミを守るぞ!」
「うん、なんかね…勝手に部屋に入られたら怖いからね」
意味が分かったらしいベルはそっと俺の頭を撫でた。こそばゆい。中年のおっさんには恥ずかしすぎるだろ。
リノが戻ったので、ベルと一緒に商業ギルドへ登録に向かう。
冒険者ギルドと違って洗練された印象のすっきりとした建物だ。
天秤のマークが目印なんだって。
扉を入ると入り口で壮年の男性が頭を下げた。
「いらっしゃいませ、ご用件を伺います」
うわぁ雰囲気も全く違う。どことなく上品な感じ。制服もパリッとしている。
「ベルナ商会のベルドラだ。この子の登録に来たんだ。紹介状を2通持っている。奥でいいかい?」
男性は少しだけ眉を上げると頷いて
「ご案内します」と歩き出した。
ベルさんに背中を押されて付いていく。端の扉を開けるとこじんまりとした個室だった。
俺は2通の紹介状を渡す。男性は軽く宛名を見ると「お預かりします」と伝えて部屋を出た。
なんか冒険者ギルドと違い過ぎて緊張する。
ベルさんと商業ギルドは冒険者ギルドと違ってきれいだと話をしながら待つこと数分。
そっとドアがノックされ人が入って来た。二人だ。
しかも二人とも女性。
ベルさんと立ち上がる。
女の人は手で制して席に座る。
「良い、対等であるのだからな。紹介状を確認した。私がこの商業ギルドのマスターでマライアという。よろしくな、カスミ」
「私はサブマスターのレイアスよ。よろしくね、カスミさん」
俺は普通の口調で
「カスミだ。作法は勘弁してほしい。よろしくお願いする」




