23.夕食
しばらく待っていると、ギルマスが戻って来た。後ろからは白い帽子を被った男性。エプロンしてるね。料理が得意ってもうガチの料理人じゃ無いの?
後ろからアマランさんたちが入って来た。
「カスミ、落ち着いたか?」
俺がギルマスの胸で泣き落ちしたことだな、ここは堂々と
「大丈夫だ!」
「なかなか可愛らしかったぞ?ふふっ」
ぐっそう来たか。
「余りからかうな」
ウルグさんありがとう。
「いや、セイルさんのあんな顔なかなか見ないからな」
アマランさん、やめて…居た堪れない。
「はじめてよろしいですかな?お坊ちゃま」
お坊ちゃま?
ぐりんとギルマスを見る。名前も初だしだぞ?
「はじめてくれ。名乗って無かったか?俺はセイルール・ド・パルシェン。パルシェン公爵家の三男だ」
情報過多なんだけど。
ってか貴族なの?マジで…。固まっていると
「今はしがないギルドマスターだ」
ギルマスってギルドのトップだよね?しかもまだ若くてカッコイイ。お知り合いになりたく無かったかも。
ギルマスは困った顔をして
「そんな風に構えないでくれ。私は私だ」
それはそうだな。俺が異世界人ってだけで嫌な顔されたら悲しいもんな。
「そうだな、敬愛するギルマスだ」
と言えば、何故か顔を赤らめてしまった。変なこと言ったか?アマランさんを見ると何故かニコニコしていた。
(敬愛ってのは親愛よりも強い想いなんだぞ?またコハクに蹴られるからな)
トーカよ、人と比較してコハクが怒ることはないだろ?流石に。
あれ…なんか助走つけるみたいに姿勢を低くしてる。コハク?
ドカッ
ぐっ、顎直撃は痛いよ…。でもそのまま捕獲して抱っこだ。おぉ、もさもさだね。コハクを抱っこしてすりすり。あざまーす!これはご褒美だ。
耳ふかふかーしっぽもっさもさ。俺得だね。頭にちゅっちゅしとこ。ふふっ可愛いなぁもう。
腕の中で大人しくなったコハク。後日、とんでもないことになるんだが…その時はまだ知らなかった。
あれ、なんか視線が…?
あっとみんないたんだ。てへっ。
「カスミは大人びた感じだが、そういう仕草は年相応だな」
アマランさん、ありがとう。まぁ小学生だと考えたらおかしくもないんだろうが、中身はおっさんな訳で色々と居た堪れない。
「みなさん、お座りくださいませ」
いつの間にか人が増えてる!
パリっとしたスーツを着こなした執事風の男性が腕にナプキンをかけて立っていた。いや、いつ来たの?
ただのテーブルにはシミひとつ無い白いテーブルクロスが。その上には紺色のナプキンが広がり、お皿やカトラリーがきれいに整列していた。
ここは俺の部屋だよな?唖然とした。
何故かギルマスに手を取られて(あの下から指先をちょんとつまむやつな)椅子に誘導される。引かれて座るとスパッとはまった。お見事!
いや、じゃなかったフランス料理の高級レストランでふか、ここは。
ギルマスはサッと立体的に置かれていたナプキンを広げて胸に掛ける。様になる。見ていたら、立ち上がってナプキンを掛けてくれる。
アマランさんとウルグさんは適当に引っ掛けてる。ルキさんとロキさんは優雅に胸元に掛けた。
すぐにスープが出て来た。
お手拭きが無いのはやっぱり異世界か。そっと手を浄化して、スプーンで食べる。
おっ薄味だけど素材の旨みが出て美味しいな。調味料に頼るのもありだが、素材が美味ければ薄味で充分だ。
意外とルキとロキがきれいに食べてる。あのナプキンの使い方も気になる。
アマランさんは普通、ウルグさんは豪快に音を立てている。俺も普通かな。
食べ終わると次は前菜とサラダ。
色鮮やかな前菜はどうやらサーモンと生ハムにトマト。そしてサラダは生野菜のサラダ。ドレッシングではなくて軽く塩と酢かな。バルサミコ酢みたいな感じ。サッパリしててうまい。
どうやら各人に合わせた量みたいだ。ギルマス、アマランさん、ウルグさんは山盛り。ルキさんとロキさんは中盛り、俺は少な目だ。確かに沢山は食べないからな。
次は焼きたてのパン。小さくて丸い。しかも柔らかい。と言っても丸いフランスパンみたいだ。いわゆる堅パンは乾パンみたいだから、これでも柔らかい。
風味が良いから美味しいぞ。
で、次はお魚。今度は白身の魚だ。ヒラメとかかな?
フォークとナイフで切る。ソースは白っぽいからクリームソースか。
ん?違うなサワークリームか。これは食べやすい。パンもパクリ。
ギルマスを見るとお皿に残ったソースをパンにつけて食べてる。真似しとこ?うん、美味い。
そして、メインはドドンとステーキだ。
みんなのは分厚いステーキで、俺のはサイコロ状に切ってくれてる。助かる。あんな分厚いのは食えないからな。
ギルマスもアマランさんもウルグさんもモッシャモッシャ食べてる。ロキさんとルキさんも上品に素早く食べてる。ってかもうないの?俺はまだ半分も食べてないけど。
すかさず、おかわりが来た。凄え…。
ちょうどいい腹具合で食べ終わると、デザートだ。
どうやら焼き菓子。紅茶付き…。コーヒー派だが紅茶も嫌いじゃ無い。でもコーヒー飲みたいなと思ってコクコク飲んでると、アマランさんが
「カスミのあの黒い飲み物が飲みたい」
と言われた。あれってこっちではなんて言うんだ?
(コヒの実から作るから、コヒ)
トーカ、ありがとう。
「なんだ?それは」
ギルマスが聞く。
ウルグさん、ルキさんロキさんまで
「飲みたい!」
そんなに気に入ってたのか?
「植物の実から作った飲み物でコヒだよ。飲んでみる?」
ギルマスは驚いてから笑うと
「ぜひ!良ければタウロスとヒルガにも。タウロスは料理長でヒルガは俺専用の執事だ」
料理長なの?こんなところまで申し訳ない。
「タウロスさん、料理すごく美味しかった!ありがとう」
と言うと
「そう言って貰えて嬉しいぞ!私にもぜひ飲み物を」
「うん」
立ち上がるとポーチからコヒの実を取り出す。
「これだよ!」
タウロスさんは手に取って匂いを嗅ぐ。焙煎済みの豆だ。
「いい香りだ」
「このままだと味が出ないからね、こうして…挽くんだ」
ゴリゴリとミルで豆を削って粉にする。いい香りが漂う。
削り終わるとフィルターとジョーゴをカップにセットして、上からお湯を注ぐ。
ふわっと香りが漂う。泡立ってゆっくりとカップに落ちていく。俺はこの瞬間が好きだ。
人数分入れ終わるとテーブルに戻る。
「苦いから、苦手な人は牛乳とこっちは黒いお砂糖」
ギルマス、タウロスさん、ヒルガさんはそのまま一口。
「なんと…芳醇な香り」
「上品な苦味ですな…」
ギルマスはサッと席を立つと俺を抱きしめた。
なんで?
「カスミ、素晴らしい!」
だから近いって、顔が。心はおっさんでもその整った顔が間近にあると戸惑うのでやめてくれ。
そっと口の端にキスをされた。
ドンッ
コハクが膝に乗ってきた。口をペロンと舐める。対抗しなくてもね?コハク。耳にキスをして
「後でな」
コハクは大人しく膝で丸くなった。
この後でな、の意味をこの時のカスミはまだ知らない。
トーカとリグがクリスに近寄り
(また意味が分かってなくて言ってるよな?)
トーカ。
(煽ってるだけだな)
リグ。
(主ですから…まぁコハク殿と添い遂げるなら良いではありませんか)
クリス。
(後でなんで教えてくれなかったの?とか言いそうだぞ)
トーカ。
(教える前に散々やらかしてるような…無自覚に)
リグ。
(主ですから…)
そんな会話がされていた。
みなみに、ちゃんとリクたちにも違う料理が用意されてたりした。
「しかし、カスミはほんと多才だよなー」
しみじみとアマランさんが言う。
「なー俺さ、もうカスミ無しで生きていけないかも」
ウルグさん、やめて?
「分かる…カスミが欲しい」
ルキさん、誤解を生む言い方はやめて?
「僕も欲しい…」
ロキさんまで、ほんとやめてな。




