21.ベルシティに帰還
俺自身は昔から地味顔だ。不細工ではないが、目立たない。友達には
「良く見れば整った顔」
と言われた。印象に残らない顔、それが俺。だとすると顔はそこまで変わってないんだろう。触った感じも違和感がないし。顔立ちの濃い人が多いから、逆に目立つとか?
「色素が薄いというか、ルキとロキもだが髪も目も色味が薄いと目立つんだ。ほら俺やウルグは髪や目が濃いだろう?」
アマランさんは金髪で青の目、ウルグさんは茶色に青の目。俺から見ると金髪も青も薄い色なんだけど、淡い金髪や銀髪、ライトグレーや紫、水色が薄くて青は普通なんだとか。違いが分からない。
「特にカスミはまだ成長すると、かなり目立つ筈だ。早めに手元に置いておこうって考える貴族もいるからな!気を付けろよ」
「うん、でもどう気を付けたら?」
「後ろ盾を作る事だな」
んー難しい。
「大店の商会もいいぞ!」
それはそれで嫌なんだよな。
「商人は強いぞ?貴族も余り無茶を言えないからな」
なるほど。要検討だな。
「考えておくよ」
それから出発。まだやっぱり本調子じゃないからか、またうとうと。流石にウルグさんの膝枕は俺が気にするからと、隣にはクリスが座り、遠慮なくもたれた。
クリスは小さくて温かかった。ぐっすりと夕方まで眠った。
夜は手抜きで、ステーキアンドパスタ。パスタは普通にこちらでも食べられているから、そっちはペペロンチーノ風にして、ガーリックと鷹の爪で、シンプルに。でもオリーブオイルの香りでシンプルながら美味しかった。
「美味い!味も何も無いのかと思ったら激うまじゃ無いか!」
アマランさん。
「マジでこれは見た目に反した旨さだ」
ウルグさん。
「シンプルの勝利」
ルキさん。
そしてサムズアップのロキさん。そらね、天下のペペロンチーノですから。
お肉も好評だったよ。
「これが魔獣の肉とはなぁ」
「世界が変わるよな」
「本当に何食べても美味い…」
「もぐもぐ…」
夜の野営は俺はテントで、快適に寝た。そばには白玉にイナリ、コハクにクリスだ。ふかふかと子供体温で良き。彼らの毛を堪能したよ。スヤァ。
翌朝、リクのそばにまた何かが増えることもなく、ホッとしてワッフル風(クリスが作った型で)を作った。
チーズと果物でジャム(時間操作で促進)を作ったので、それをのせて。これがなかなか美味しい。
青い稲妻の面々は7枚食べた。食べ過ぎでは?
「美味いのが悪い」
よく分からない理屈だった。
そうして、俺はひたすら楽をさせてもらい、代わりに料理を作って振る舞って。順調に進んだ。
ギルドの馬車にはもちろん馬がいる。大きな馬車なので2頭だて。頑張って走ってくれる。だから、お礼に水と餌をあげたらガンガン進む。
そして、3日目の昼にはベルシティが見えた。早く無い?
「最高記録だな!」
「早かったな」
「当然。御者もカスミのご飯を食べたから」
「うんうん」
ギルド貸し出しの馬車には専属の御者がいた。携帯食ならいざ知らず、作ってるのに無視はね?だから一緒にと声を掛けた。
青い稲妻のみんなも頷いたし。
そしたらまぁ良く走る。馬には水と餌しかあげてないのに。まぁ茹で野菜は少しあげたけど。
トーカが
「まずな、水が違うだろ?あれは神力の宿った命の水だ。体の調子を整える。絶好調で当たり前だ!」
だとか。知らなかった。
「あとな、餌。あれも神様由来だからな!そこんとこ、ヨロシク!」
メンチ切られた。気を付けます。
って事で着いた!いや、帰って来たかな?
ベルシティだ。なんか色々あったなぁ。疲れた。しばらくダラダラしたい。
そのままギルドに向かう。依頼達成?の報告と、まぁ諸々だね。リクは厩舎でお留守番。
ギルドに入ると
「カスミ!無事だったか?…良かった。本当に…」
窓口のおじさんに力強く抱きしめられた。えっと?
アマランさんは報告に、俺たちは別の部屋に通された。
「カスミ、後でギルマスが詳しい話をするが本当に申し訳無かった…」
深々と頭を下げるおじさん。俺はオロオロして手を彷徨わせると
「ノナ、それくらいに…カスミが困ってる」
おじさんの名前はノナさん。初めて知った。
「あぁ、そうだな。改めて、俺はここのサブマスターでノナだ。ヨロシクな」
あれ、お偉いさんだった。ビックリ。
「サブマスターは2人いて、俺は窓口担当。もう1人は裏方だ」
なるほど。
バンッ
凄い勢いで扉が開いた。扉は大丈夫?
「カスミは無事だって?」
無事だったかは疑問だけど生きてはいるかな。
入って来たのは頬に傷のある背の高い男性。傷はあるけど凄い美形だ。淡い金髪に薄い水色の目。ほりが深くてクッキリとした二重が凛々しい。
そしてまだ若い。背が高くて肩幅がガッシリ、でも良く締った体だ。
ほけっと見ていると俺の体を抱き上げて…はい?
全身触った。待って…何してるの?
ノナさんを見ると諦め顔。首を振られた。
「血が足りて無いから貧血気味だが、ケガはないな」
どゆこと?
「あー、マスターのスキルだな。触診って言ってな…触ると体の状態が分かる」
なるほど。分かれば納得だけどびっくりした。全身くまなく触られたから。もちろん股も。
「誰もが一度はそんな顔をする。女性でもお構いなしだからな!知らずに頬を叩かれたことは何度もあるぞ。頬の傷は体を触られた女性に引っ掻かれた傷だ」
えっとそんな理由なの…?
とおでこを合わせ、至近距離で見つめられる。その後、鼻の頭にキスされて
「これで少しは楽になる」
「あーそれも触診の派生スキルでな、簡易な祝福だな…。それで惚れられていつでも追いかけ回されてるんだわ」
分かるもかも。俺は男だし、中身がおっさんだからときめかないけどな。弱ってる時にこの美貌でこれをされたらコロリといくだろう。
「あの、そろそろ降ろして…」
と言えばキリッとした顔で
「却下だ!」
キリっとした顔で言うこと?えっとなんで?
「こんなに小さくて柔らかくて可愛い…けほん、調子の悪い子を放っておけないからな」
小さくて柔らかくて可愛いっていいました?男性に言われてもね…誰徳だよ。
そんなこんなで体を固くしていると、寄りかかっていいぞ?と言われる。
まだ本調子じゃないのも確かだし、もうここは言われたとおりにしておこう。
そっと体の力を抜いてもたれると、ギルマスが上を向いて震えている。どうしたんだ?
「気にしなくていいぞ?面倒見が良くてな」
とノナさん。まいっか。
その後は超至近距離で見つめられ、なぜか頬を撫でられながら
「職員の失態だ。本当に、本当に申し訳ない…」
改めて頭を下げられた。あの、髪の毛当たってるんですけど。柔らかくていい匂いがした。いやいや、男の髪の毛の匂いかいでもね?
頭を上げると今度は頬を触れ合わせて、痛かったろ…苦しかったよな。こんなことしかしてやれないけど…泣いていいぞ?いつだって私の胸を貸すからな。
ぎゅっと抱きしめられて、心臓の音が耳に聞こえた。トクン、トクン…
その音にとても安心して、そしてそうか死ぬところだったんだと改めて思って怖くなった。
ほとんど覚えていないんだけど、ものすごく頭が痛かったことは覚えている。
そっか、俺、死ぬところだったんだ。ふるっと震えが来た。だから思わずその逞しい胸に縋った。
何の悪戯か、異世界に転移させられて…簡単に死ぬなんて嫌だ。
ふと気がつくと頭を優しく撫でられていた。あれ、俺は…。そうか、泣いていたのか。ぐすっ…痛かったことは覚えていても、幸か不幸か…襲われたそのことは覚えていない。ケガをした瞬間を知らないのは幸せなんだろう。
殺意を覚えていたら、怖くて外に出られないかも知れない。良くはないが、幸だった。
小さな子供みたいに大人に縋って泣いた。恥ずかしさより怖さが優ったみたいだ。
どれほどか、落ち着いた。そして、優しく撫でるその手に心地良くなり、寝てしまった。
私は腕の中で体を縮めるように眠った少年を見る。まだ子供だ。小さな体、あどけない顔。涙の跡が残るその頬を親指で撫でる。
この子はガゼルからの村人で、アルパカを与えられていた。話し方はきれいだし、粗野な感じはしない。大切に育てられたんだろう。村としても仕方なく手放したか。
そんな子を、アルパカを持たされるような子を…死なすところだったなんて。
辺境に限らず、村にはアルパカが数頭いる。大切に育て、交配させて。
村にとっては大切な収入源であり、財産でもある。それを渡す…大きな決断の筈だ。
ふっと息を吐く。取り敢えず、死ななくて良かった。ギルドとしては彼の成長を全面的にバックアップしなければ。その柔らかい髪の毛を撫でる。
そして、ふと思いついた事があり…まぁ慌てなくていいか。この色味は目立つ。やがて成長すれば、すれ違う人が振り返る程度には目立つだろう。
優しげな顔立ちは冒険者と言うには、その差があってより心を惹かれそうだ。
アマランを見て
「守るぞ!」
「おう!」
「だな」
「うん」
「うんうん」
あの人嫌いの双子が認めるなら尚更だろう。守り方を考えないとな。
ノナに聞けば、ギルド併設の宿に泊まっているとと言う。ならば守りやすい。
厩舎にいたアルパカや、私が抱きしめている間、足元でウロウロしていたキツネとうさぎも連れて、ノナの案内で宿に向かった。部屋の鍵は一度ギルドに預けてあったから、開けてもらってベッドに寝かした。私から無意識か、離れたがらず服を握っている。
そのまま私も添い寝しようとしてノナに頭を叩かれた。
「仕事があるでしょ!」
そうだ、今回の件の後始末があるんだ。
仕方なくカスミの手をそっと解いてベッドに寝かし、仕事へ戻ることにした。
「大丈夫、聖獣さまもいる」
そうだな、しっぽが多いキツネは聖獣だからな。私は後ろ髪を引かれながらギルドに戻った。




