18.危険な依頼2
ドサッ
意外と痛く無いな…みんな逃げろよ。
俺は不思議な夢を見ていた。異世界に転移する夢。
若くなって不思議なジョブとスキルで無双感漂う転移。そんなのラノベだろっ。
全く夢にまで見るなんてな、俺も年かな。35にもなって年甲斐もなく異世界?
はぁ、疲れたなぁ。ちょっとゆっくり休むか。ちょうど明日と明後日は休み。
少しのんびりするかね。
「あなたたちは選ばれました!」
なんだこれ…?また夢、の続き?
体を動かそうとして、痛い…頭が割れそうだ。
(実際問題、割れてるからな!)
はっ?誰だ今の。おれ?二重人格とか?ははっ、まさかな。
誰かの話は続く。
(クリス、回帰は使えないか?)
(それは主人にしか使えません。時空魔法を具現化することは可能です)
(ならそれを…)
(あっ、ダメです。回帰は個に作用しますが、時空魔法は全ての時間軸に作用します)
(つまり、怪我する前に戻しても…)
(また同じ状態になるだけかと)
(俺はこういう時に役に立たない)
(いえ、むしろトーカこそ応急措置の方法が分かりますね?主が目を覚ませば回帰が使えます)
(時間がない。このままだと後7分しかもたない)
(指示を)
(まずは…傷口の止血を…)
頭が割れそうに痛い。この会話はなんだ?回帰…個に作用、時間を戻す…どこまで?
時間がないとは?頭が痛い。
俺が俺である時間まで。
俺が、俺である、時間まで…頭が痛い、戻れ…回帰っ!
そこで意識が急速に遠のいた。
トンッ鳩尾に重みを感じた。
今日はやけに優しい目覚ましだな、リク。いつもはドンッなのにな。
ん?リク、いつも…いつもの朝。ふかふかの背中。リク!
目を開けた。鳩尾には変わらず重みとそして温もり。
そっと撫でる。やっぱりふかふかだ。リク、助かったんだね…良かった。ケガしてないか?無理しなかったか…?どこも悪くないか…??
(ケッあの程度でくたばる俺様じゃない!人のことより自分だろがっ弱弱のくせに…無理しやがって)
悪態も勢いがないな、リク。もしかして心配してくれたのか?ふかふかした頭は気持ちよくて、普段なら馴れ馴れしいとか言うのに…今日は優しく撫でられてる。
はぁ、夢、じゃなかったんだな…。
リクの温もりに安心してまた目を瞑った。もう少し、寝させて…。
ドンッ
ぐっ、痛いから…。俺頭割れてるんだよ?もう。頭、あれ…痛く無い。おでこに手をやる。つるんとしている。
禿げてるとかじゃなくてな、傷がない。頭割れてたんじゃ無いのか?
…えっと。混乱した状態で目を開ける。
どわっビックリした。目の前に白と黄金と白…良く見れば白玉とイナリ、コハクだった。
マジマジと見てると
(生きてる?)
(死んでない?)
(大丈夫か?)
まだ混乱したまま固まっていると
「覚えていませんか?主。朦朧としながらもご自身で回帰を発動していましたよ」
そうなのか?覚えていない…。
「俺、生きてるのか?」
「生きてますよ、主。正直、危なかったです」
「応急措置をしている途中で、回帰が発動した。カスミにしか発動できないからな…自ら回帰したんだろう」
そう、なのか。まぁ生きてるならいいか。
「で、ここは?」
「モスシティにある冒険者ギルドの医務室です」
そうか。
「みんな無事か?ケガは??」
「大丈夫です。逃げたのはリクとカラス、イナリとコハク。白玉とトーカと私はご主人のそばにいました」
えっ?白玉はリクの背中に置いたはずなのに。
「何で白玉が?」
(当たり前だよ!ご主人なんだから)
白玉…
(美味しいご飯が食べられなくなる)
そっちかよ。
ま、なんにせよみんな無事ならいい。安心したらまた眠くなった。目を瞑る。
うとうとしているとドアが開く音がした。
「まだ目が覚めないか…」
「カスミ…」
ん、俺の名前?目を開ける。
「目が覚めたかい?」
誰?ぼんやり見ていると
「カスミ?カスミ…あぁ良かった。俺が分かるか?」
「アマラン、さん…」
目に涙を溜めて俺をそっと抱きしめた。
「良かった…良かった…。ごめんな、怖かったろ。こんなことになるなんて…」
その後、神官のお兄さんに体の調子はと聞かれ、ボーッとすると答えた。難しい顔をして考えてから
「まだしばらく安静に」
そっとおでこに手を当てられて目を瞑ると眠った。
じっと眠った俺を神官のお兄さんが見てるとは知らずに。
時間は少し遡る…
リクの背中に乗ってアマランは走る。走らせる、では無い。手綱は握っているが、それは振り落とされないため。勝手に走るカピバラの背中揺られるだけだ。
とにかく早い。余り揺れないのに早い。
まるで行き先が分かっているみたいだ。
どれほどの走ったか、ここはモスシティか?カピバラは門を通り越して塀沿いに走る。
(跳ぶぞ、しっかり掴まれ)
と助走をつけて跳んだ。はっ…?慌てて体勢を低くしてしがみ付く。
トンッと軽く着地した。おいおい、どんだけ塀が高いと思ってんだよ?
疲れも見せず走るカピバラ。街の端にある家の扉は吹き飛んだ。そのまま地下に降りると、そこには血まみれのカスミと、その手前で倒れる男。
カピバラが座り込む。血溜まりの中のカスミは目を閉じている。慌てて駆け寄って口の前に手をかざせば息がある。ひとまず安心した。顔は血まみれで、服ももちろん。体を確認すると、ケガは見当たらない。
しかし、何があった?
明らかにカスミのものと思われる血。なのにケガは無い。
「主のジョブです」
いつぞやのチビっ子執事がどこからか出て来て伝える。
いや、いつ?
「詳しい事は言えませんが、死にかけました」
「そ、それは…。この男は?」
「仲間割れを…」
ケガをしているが、死んではいない。とにかく、縄で縛る。
まずはカスミを神官に診てもらわなくては。
「冒険者ギルドに行くぞ」
頷くとおとなしく着いてくるチビっ子執事。
カスミを抱き上げて、血だらけになりながら冒険者ギルドを目指す。
ギルドに着いてからは大変だった。なんせ血だらけの子供を抱えてるんだからな。後にはカピバラ、キツネ。
「な、何が」
慌てる職員に
「ギルマスを!俺はベルシティから来た青い稲妻のアマランだ」
職員がバタバタと走って行く。
奥からドタドタと足音がして、俺とカスミを見ると
「医務室へ運べ、神官を呼べ」
慌ただしく人が動く。
その後はギルマスに縛って置いてきた男のことを頼み、着替えろと言われてやっと自分の状況がわかった。血だらけだ。
予備の服に着替え、カスミが寝かされた部屋に向かう。
到着した神官がカスミの体を確認していた。下着だけのカスミは細くて壊れそうに見えた。
神官は俺を見ると
「この子は、大きなケガをしていたはずです。あなたが?」
首を振る。
「詳しくは言えない。コイツのジョブに関わる」
「ふむ、そうですか。魔力の状況を見る限り、死にかけていたと思われます。血も全く足りていない」
全身の確認を終えると服を着せた。
「この子が目を覚ましたら、詳しく聞かなければなりません。もし、彼にそういう癒しの力があるのなら…私には報告の義務がありますから」
そう言ってカスミの体に毛布をかけて出て行った。
神官に目をつけられるなんて…もし、カスミが治癒系のジョブなら。教会に取り込まれるだろう。
なぁ、お前はいったん何者なんだ?カスミ。




