122.海に沈む
僕たちは荒れる海の上、船で待機していた。カスミが危ないからと僕たちが潜ることを認めなかった。
カスミたちが潜ってすぐに、クリスがリーダーとギルマスを船に上げた。カスミは?
船がさらに大きく揺れる。ヘリに掴まって耐えていると、大きく船が揺れて…離れた先に大きな水柱が立った。
えっ、カスミ…?
大きなイカの口にカスミが咥えられていた。赤い色がカスミの体を染める。
なんでそんな所に?海に向かおうとした僕たちをみんなが押さえつける。
嫌だ、ダメ、もうどこにも連れて行かないで!
カスミ…戻っていや、嫌だ、カスミー!!
船は港に向かっている。海は穏やかだ。
まるで何もなかったみたいに、凪いでいた。耳につけたピアスを触る。カスミの髪の毛…カスミの魔力、カスミの…カスミの。
僕はこんなにもカスミで溢れているのに。
カスミがいない。どうして?
大きな化け物に咥えられてたカスミは、浮上してこなかった。ギリギリまで探した。でも見つかったのはカスミが装着していたファンとマスクだけ。
誰もが何も言わず、静かだった。
クリスたちも青ざめていた。
「繋がりが…主!?」
「カスミ、おい嘘だろ?」
「主…?なんで」
港に帰ってから、漁師の歓声に迎えられた。良くやった、助かったと。
漁業ギルドのギルマスは苦い顔で
「1人、行方不明だ」
その場がシンとした。
「あの坊主はどうした?」
「ああ、例の救世主」
「…」
そこで気が付いたみんなは気まずそうに下を向いた。
僕はロキとなんとか支え合って屋敷に帰ると、浄化で体をきれいにしてベッドに横たわった。
カスミの匂いがする。涙が溢れて止まらなかった。
カスミ…いやだ、嫌だよ…。
その後は滞在時間をギリギリまで伸ばして、みんなで毎日カスミを探したけど、結局、見つけられなかった。
僕たちは意気消沈してベルシティに戻った。
カスミのいない毎日。子供たちはお母様たちから戻って腕の中にいる。カスミと同じ色を持つ子も、持たない子も、等しくカスミの魔力を感じる。
コハクの子も同じ。
ただ、その子たちを慈しんで…毎日カスミ思う。帰らないカスミ、進んで行く季節。
そして、カスミのいない夏は終わり秋が来て、やがて冬になった。
ルーガスの海はもうすぐ凍る。もう、カスミは帰らないだろう。
僕とロキはルーガスに向かうことにした。この先もカスミ以外の人と親しくなることはない。僕たちはこれから、ただカスミのことだけを思いながら生きて行く。大切な忘形見を育てながら。
だからせめてお別れを…。
リーダーたちもギルマスもクリスたちも同行する。カスミのいない季節は空虚なのに、時間は止まることなく進む。なんて残酷なんだろう。
相変わらず快適な野営。リクは僕たちに寄り添っている。ふかふかの背中を撫でる。
僕が着ているローブは内側にリクの毛をふんだんに使ってある。カスミが作ってくれたもの。僕はまだこんなにもカスミで溢れてるのに。
そうしてカスミとの旅を振り返りながら、ようやくルーガスに着いた。
カスミと過ごしたあの部屋は、ロキが状態保存の魔法をかけた。匂いもそのまま。
懐かしい匂いに、涙が溢れ出した。子供たちも分かるのか
「父様」「匂い…」「どこにいるの?」
「会いたいよ、うえーん!」
涙の大合唱だ。
僕たちも泣いた。会いたいよ、僕たちも。
漁業ギルドのマスターは船を出すと言う。
カスミが消えたあの場所に。僕たちは花束を持って船に乗った。
波に揺られて思い出す。直ぐに酔うカスミはいつも僕の膝枕で、膝枕で…う、ぐすっ。ここにカスミがいない、涙が止まらなかった。
船が止まる。ここでカスミは…。
(…)
えっ?
(…キ)
カスミ?
僕を呼ぶ声…僕は海に飛び込んだ。
誰かが叫ぶ声が聞こえる。いいんだ、もう。カスミのいないここに未練はないから。
ロキ、ごめん。カスミ、今、会いに行く。
う、こぽり…苦し、い、カスミ…伸ばした手は水中を彷徨った。
*****
ん…ここは、ごほっ、ふぅ…僕はいったい?
「大丈夫か?」
えっ、顔を上げる。そこにはカスミにそっくりな顔の白い髪に水色の目の少年。
「君は…」
「カリュ」
えっ、カリュ?
「海で溺れそうになってたから、助けた」
「ここは?」
「海の底」
海の底?でも息が。
カリュは僕に手を差し出す。その手を握ると僕をどこかに連れて行く。
そこには水球に閉じ込められたカスミがいた。
「カスミ!」
「眠ってるだけだ」
「何が?」
カリュは説明してくれた。
あの日、カスミの異変に気が付いたリュカが水中を転移してカスミを救出した。でも、カスミはもう虫の息で…だから水球に閉じ込めて治癒をした。水球は治癒の水で満たされている。
本当なら、カスミの意識がなくてもリグが回帰させる筈だった。でも、リグは人になりカスミから遠く離れてしまった。だからリグの回帰はカスミに施せなかった。
人にならなければ、リグが回帰を発動出来た。でも人になった代償は大きかった。
リュカが瀕死のカスミを水球で治癒したけど、直ぐには全快させるのはやっぱり無理で、かなりの距離を転移してからの治癒だったからリュカも力を使い果たし、眠りに着いた。
後のことをリュクスとカリュに任せて。
治癒の水球は魔力を閉じ込めて循環させる。だからクリスたちとの繋がりが絶たれた。
リュクスとカリュはもうある程度成長したから、水龍の姿だ。
だから水から出られずに僕たちにも連絡を取れなかった。僕たちはレナン湖に向かわなかったから。
そしたら、今度は僕が落ちて来たから助けてくれた。で、やっとカスミの事を伝えられた。今はレナン湖をリュクスが守ってカリュがリュカとカスミを守っていたんだって。
「時が満ちる…お母さんがそろそろ目覚めるよ」
「なら、カスミも?」
「うん、お父さんも目覚める」
ただまだ1ヶ月はかかるって。
カリュはここでは人型だ。リュカは水球の下、貝殻のベッドで眠っている。やっぱり人型だ。
「水中だと力が使えるから、人の姿になれる。水から出るとまだ無理」
もう少し成長しないとダメなんだって。
「ありがとう、カスミを助けてくれて」
「僕たちのお父さんだからね」
そう言えばそうだった。
リュカにもっと早く頼れば良かった。水、淡水と海水の違いはあれど、水だ。水と共に生きる水龍。どうして気が付かなかったんだろう。きっと余りのショックに考えもしなかったんだ。
誰もがそれほどカスミの不在を嘆いていた。
それから僕はみんなにカスミの事を伝えるために船に戻る事にした。そして、リグをここに連れて来よう。
カリュは頷くと僕に掴まってと言って水龍の姿になった。僕はその鱗に掴まって水面に向かう。カリュに触れていると苦しくない。どうやら水膜で僕ごと覆ってくれてる。
そして水面近くで強く僕を離した。カリュは水中で待つ。
僕は水面に浮上すると、直ぐに抱えられて船にあがる。僕はリグを見て
「リグ!」
リグは僕が何か言う前に海に飛び込んだ。クリスもトーカも直ぐに飛び込み、ロキも僕の手を取って海に入った。なんの躊躇いもなく。
すかさずカリュがみんなをその背中に載せてくれる。そしてまた水中に向かった。
底に着くと、リグがカスミに近寄り
「っ主、回帰!リュカ様も回帰!!」
泣きながら叫んで、ふわんと貝殻のベッドの上、リュカ様の隣にぽすんと落ちたカスミに抱き付いた。
「主!ごめんなさい…ごめんなさい」
クリスもカスミに抱きついて
「主、申し訳有りません…私が、私が!」
「カスミ、良かった…」
トーカさえもカスミに縋って泣いた。
カリュから聞いたけど、カスミは水圧で体の全部が壊れていて…だから全身を治さないといけなくて。より治癒の魔力を伝える為に水球の中で裸だった。
その細くて白い体はもう何処にも傷が無かった。
ロキも泣きながら
「カスミ、ぐすっ…もう、うわぁん…」
カスミに縋って声を上げて泣いていた。僕もカスミに触れる。温かい。柔らかい髪の毛に触れて…やっと安心した。
ロキと2人でキスをすると、カスミは目を覚ました。
目をパチパチさせてから、自分に縋って泣くリグとクリス、トーカを見て困惑した。
そして僕とロキを見てやっぱり困惑した。
「えっと、俺はなんかしたか?その…は、裸なんだが」
頬を染めてそう言った。
もう、カスミってば。目を覚まして言うのがそれ?
リグの頭を撫でて涙を拭っている。
「リグ、もしかして…なんかしたのか、俺は。ごめんな…」
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