107.選択科目
婚約者のくだり、修正してます。
明確には答えなかったとしました。
カスミは僕をじっと見ると
「グラスゴー侯爵家って商会してるよな?南の海産物だったか」
「うん!お母様の実家から仕入れてるんだ。グラスゴー商会だよ」
カスミは思案してから
「たしか、フルーツも有名だよな。あれは交易品なのか?」
「あぁ、パインとドランかな。そうだよ。試験的に栽培にも着手してるんだ」
僕をじっと見ると
「植物理論も取ったら良さそうだな、ミロは」
あ、確かに。4つ取ることもできる。うん、もう少し悩もう。
そろそろクラスメイトが揃うと、セイルール様が入って来た。そこで学院の年間行事や、必修科目と選択科目について話をされた。
さらに部活動についても、だ。
部活動は自由参加で、でも他の貴族家と懇意になりたい人がやったりする。
カスミは…しなさそう。僕もしないかな?
午前は休憩を挟みつつ、セイルール様がオリエンテーションをして終わった。
お昼だ。
ここの学院ではお昼ご飯は持ち込みか、または食堂で食べる。食堂の費用はツケ払い。学生証を見せれば買える。貴族ばかりの学院だから、高級料理店並みの料理。だから値段が張る。
なので、手軽にパンなどを買えるカフェもある。
さらに、王族は毒味が必要だから専属の料理人がやって来る。だから、王族と公爵家には専用の個室が与えられているのだ。
お昼になるとカスミは席を立った。
「食事はセイと個室で取る」
そう言って、セイルール様とさっさと教室を出た。やっぱりセイルール様のエスコートで。
僕はお母様から箱を持たされている。保温箱だ。それを持って歩き出すと、エルサダ様から声を掛けられた。
「食堂に行くなら一緒に行かないか?」
断る理由もないから頷いた。
個室ではなく、オープンテラスの方だ。エルサダ様に従者が寄って来て、温かな食事を配膳していった。さすが公爵家だ。
僕は保温箱から熱々の魚料理とパン、スープとサラダも取り出す。
「保温箱か?便利だな」
少しだけ上から目線な発言だ。自分たちには不要だと言いたいようだ。確かに、公爵家の嫡男には不要だろうが。商人にはなかなか必要やアイテムだ。
「はい、私はご存知の通りゆくゆくは商人になりますから」
と返しておいた。この保温箱を売り出したのはカミール商会。そう、パルシェン公爵家の商会だ。
エルサダ様は一見、丁寧でありながらどこか僕を下に見ているのが分かる。貴族だって商人を敵に回したら暮らしていけないのに。
なんとなくもやもやしながら、選択科目の話をする。
「剣術?それこそ商人には要らないだろ」
そう言われた。
カスミはそんな言い方をしなかった。またもやもやした。
ちなみにエルサダ様は魔法理論と魔術、魔道具を選択するようだ。たしかに、カスミと違ってひょろっとしているから体を使う系はダメなんだろう。
食事を終えて席を立つと、ちょうど個室からセイルール様とカスミが出て来た。相変わらずセイルール様はカスミをエスコートしている。カスミは迷惑そうなのに、その手を振り解いたりはしない。
そして、歩いてるだけで周りの女生徒たちがため息を吐いていた。分かる、かな。そこだけ空気感が違う。
僕もつい見惚れた。
「分かりやすく贔屓してるな」
とエルサダ様が言う。そんな風には見えないが?
「所詮はな、平民相手の野蛮なギルドのマスターだ」
やはり公爵家の嫡男となると貴族至上主義なんだろうか。そういえばエルサダ様のクラーク侯爵家は貴族派の筆頭だ。
大きく分けて、貴族には2つの派閥がある。貴族派と王族派。分かりやすく敵対はしていないが、貴族派は特に貴族の既得権益に敏感だ。それだけ貴族こそ素晴らしいという方向に傾倒している。
パルシェン公爵家は王族派で、僕の家は中立派だ。派閥ではなく単に中立なだけだ。
僕の実家の商会は主に平民向けの商いだ。貴族家との取引もあるけれど、食料が主な取り扱い品目だから自然と相手は平民、レストランなどの業者向けが多くなる。
カミール商会は卸し専門で、貴族であっても直接の販売はしていなかった筈だ。卸している商会も2つとごく少ない。手広くはやっていないが、堅実。それがカミール商会だ。カスミが手伝っているのか、聞いてみたいな。
午後もオリエンテーションの続きだ。
7日後に早速、新入生歓迎会が催される。それはパーティーだ。早速来たか。
その話が終わった後の休憩でカスミに話しかけた。
「カスミは、その…相手がいるのか?」
「パーティーのか?」
「うん、僕の婚約者は平民だからさ。その…カスミは婚約者は?」
「言いたくない」
遠くを見て言う。その横顔はどこか儚げでしてはいけない質問だったかと焦った。
「ごめん」
カスミは眉を顰めると
「なぜ謝る?」
と聞いた。怒ってない?
「まだ親しくないのに…」
「構わない。話の流れだ。俺にパーティーの相手はいるが、相手のいない知り合いならいる。紹介するか?」
「うん!」
婚約者がいるかいないかハッキリとは答えなかったけど、少なくとも学院にはいないのが分かった。
「別に相手がミロでも俺は構わないんだが…やめた方がいい」
なんで?マジまじと見ると
「悪目立ちするぞ」
あ、確かに。カスミはきれいだ。婚約者がいないかもしれないなら、それはもういい的だ。なるほど、悪目立ちね。
「なら紹介して貰うよ」
「一応、男なんだが構わないか?」
「うん。寧ろその方がいいかな」
またオリエンテーションが始まって会話は中断した。僕たちの会話を聞いていたマリアージュ様が嬉しそうだったのに僕は気が付いてしまって、ちょっとゲンナリした。カスミ目当てか。無愛想だけど、顔も家柄もいいからな。
今日の話は終えて、カスミは僕に声を掛けた。
「少しいいか?紹介する」
立ち上がった僕たちにマリアージュ様が近付く。
「カスミ様、婚約者がいらっしゃらないんですのね。こんなに素敵ですのに。私も、今の婚約者とは…その、上手くいっておりませんの。仲良くなれそうですわね」
何をとち狂ったか、そんな事を言った。
婚約者がいないとは言ってないと思うけど。
カスミは
「婚約者に失礼だろ。礼儀はつくせ。それと馴れ馴れしく名前を呼ぶな。話しかけるな、以上だ」
つれなく返すと僕の手を引いて外に出た。カスミの言うことは尤もだ。異性の場合、名前呼びは適切じゃない。
パルシェン公爵令息様と話しかけるべきだ。同性だと少し緩くて、相手が嫌がらなければ名前呼びも大丈夫だ。ただ、僕たち高位貴族の間だけ。
下位貴族だとそれが許されないのだ。
カスミは僕の手を離すと
「なっ?ああいうのが寄ってくるから、パーティーだと俺の相手はしない方がいい」
納得してしまった。
下位貴族のクラスに来た。ここは伯爵家のクラスだ。教室を覗くと、中から雰囲気のある少年がかけて来た。
「主!」
大きな水色の目にライトグレーの髪、小柄でほっそりとした可愛らしい少年だ。
「クリス、少しいいか?」
「はい!」
主?従者か?
少し移動して、個室に入った。公爵家にはこういう個室が与えられている。
椅子に座ると
「ミロだ。クリスの相手にどうかと」
クリスと呼ばれた少年は驚いて僕を見ると
「主は口下手でして。私はクリス・リュクサールと申します。主の執事を務めています。以外、お見知り置きを。グラスゴー侯爵令息様」
胸に手を当てて優雅に挨拶をした。流れるような所作だ。
「よ、よろしく。リュクサール伯爵令息。カスミには話をしたが、私の婚約者は平民でね。パーティーの相手がいなくて困っていたんだ。クリス様と呼んでもいいかな?」
「どうぞ、呼び捨てで。学院でのお相手がいらっしゃらないのは存じております。私でよろしければぜひ!」
ニコニコと承諾してくれた。
「決まりだな。クリス、頼んだぞ」
「畏まりました、主」
クリスはカスミをじっと見る。カスミはクリスの柔らかそうな髪の毛を掻き回した。何だろう、犬みたいだ。
こうして、歓迎会という名のパーティーという名のお披露目の相手が無事に決まったのだった。
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