105.王立学院
王子の名前変更しました
レイナルド→レオハルト
僕はその日、緊張で朝早く目が覚めた。
今日は王立学院の入学式だ。
何故緊張するのか、それは今年がいわゆる当たり年だからだ。
何が当たりなのか、まず王族が二人も入学する。そう、同じ学年だ。
そして高位貴族が多い。これが二つ目。
公爵家から2人、侯爵家から5人、そのうち一人が僕。
まぁ王族の妊娠に合わせて頑張った成果だ。
僕はイルシティを納める侯爵家の5男だ。ほんと両親は良く頑張ったと思う。
子供は6男3女。それでも経済的に大丈夫なのは、母上の実家が南部の伯爵家で海に面した要所だからだ。
交易品が手に入るし、海産物は数年前に発売された保冷凍箱を使えば新鮮なまま運べる。
そのお陰で海産物の価値が上がり、僕たちも家の商会も順調だ。
そういえば、その保冷凍箱の販売をしている商会を持っている公爵家ご子息も同じ学年だ。
13才で準成人となった僕たちは、2年前から社交に顔を出している。基本はそこから社交がスタートするのだ。
でも、その彼は一度も社交の場に顔を出さなかった。まだ未成年とは言え、珍しい。
理由は分からない。でも貴族全員参加の社交を免除されるだけの理由があるみたいだ。
だから僕はその彼に会えるのを楽しみにしていた。
時間通りに馬車に乗って学院に向かった。
馬車の時間は決められている。爵位の低い子から登校するのが決まりだからだ。馬車寄せで混雑しないように考えられている。
僕は全体から見たら後の方。
そして到着した。僕は侯爵家の他の子息令嬢に挨拶をして講堂に向かった。
すると後ろからざわめきが聞こえた。振り返る。あの馬車の紋章はパルシェン公爵家だ。
中から降りてきたのは20代後半と思われる麗しき男性。長い髪を水色のリボンで結わえている。そして馬車の中に手を差し出す。
その人に導かれて馬車から降りたのは、ライトグレーの髪に水色の目をした少年だった。
見たことがない彼。ならば彼が公爵家の謎多き子息だ。
みんなの注目が集まる。誰もが彼の容姿に目を惹かれた。ほんの少し癖がある柔らかそうな髪は背中まで伸びていて紫のリボンで結わえている。
長い前髪からのぞく水色の目は薄くてガラスみたいにきれいだ。
白く艶やかな肌に洗練された所作。ほんの少し不機嫌そうな顔も相まって近寄りがたい。
それでもそんな不機嫌さをして余りある魅力的な見た目だった。
儚い、そんな言葉が似あう人だった。
僕も思わず見とれた。同性なのになんてきれいなんだろう。
麗しき人は公爵家のセイルール様だ。その人にエスコートされ講堂に向かう。
講堂でのあいさつの最中も、斜め前に座った彼から目が離せなかった。静かに椅子に座っているのに、圧倒的な存在感を醸し出す彼。
王族の挨拶にも感情が揺らぐことはなく、新しい臨時講師として紹介されたセイルール様を見たときに軽く反応したばかりだ。
講堂での全体挨拶が終わると、教室に移動した。
クラス分けは単純に高位貴族と下位貴族で分かれるので、必然的に下位貴族のクラスが多くなる。
僕はもちろん高位貴族のクラス。
王族2名と公爵家の子息2名、侯爵家の子息令嬢5名の9名だ。
クラスに入ると窓際に例の彼がポつんと座っていた。窓の外を見ている。
僕は勇気を出して話しかけた。
「は、初めまして。わ、私はグラスゴー侯爵家の五男でミルロスです。よろしくお願いします」
チラッと俺を見ると
「カスミだ」
それだけ言ってまた外を見た。
不思議と耳に心地よい声だ。声変わりした直後の、低くも高くない音。その余韻に浸っているとやがてほかの侯爵家令息令嬢と公爵家令息が部屋に入って来た。
カスミ様は振り返りもしなかった。
僕は彼らとは顔見知りだから挨拶をする。
そしてついに王子と王女が入って来た。みんな一斉に立ち上がった。鷹揚に頷く王子と王女。
第三王子のレオハルト様と第二王女のブランシェ様だ。
金髪に淡い緑の目の、まるで対となるお人形のようなお2人だった。
レオハルト殿下とブランシェ殿下は座ったままのカスミ様を見て眉を顰めた。ブランシェ殿下がカスミ様に近付くと
「挨拶もなしかしら?」
と腰に手を当ててカスミ様を見た。カスミ様はチラッと見るとため息を吐いて、立ち上がると優雅に
「おはようございます、殿下」
と礼をとってすぐ座ると、また窓の外を見た。
え、えっ?それだけ?不敬罪とかにならない?
「もう、相変わらずなんだから!カスミ、つれないわ」
はい?相変わらず…とは。
「ブラン、まぁまぁ。いつもの事じゃないか」
「でも…レイ」
そこで教室の扉が開く。
そこには教師が2人いた。驚きの声が漏れる。
「席につきなさい」
声をかけたのは壮年の教師。有名な魔術師のカエサル様だ。クラス担当をするなんて珍しい。
「このクラスを担当するのは私と、こちら。パルシェン公爵家のセイルール殿だ」
隣のカスミ様は顔を壇上に向けていた。その透明な目は何を映しているんだろう。
ざわめいたのはもちろん、カエサル様が担任であることとセイルール様も補佐としてクラス担当となる事。
その麗しい見目は貴族の中でも抜けている。
「セイルール殿、挨拶を」
「紹介に預かったセイルール・ド・パルシェンだ。臨時だが、なるべく関わる予定だからな。よろしく」
快活に挨拶をした。ため息が漏れる。それほどセイルール様はおきれいだ。淡い金髪、水色の目、精悍な顔。
頬の傷さら色気を放つ。圧倒的な美丈夫だ。
セイルール様はみんなを見回すが、その目はカスミ様で止まった。なんとも言えないその表情は、慈しむような優しさに溢れていた。
その後は自己紹介だ。
第三王子のレオハルト様が最初だ。
「第三王子のレオハルト・シェ・グランディアだ。学友となるみんなとは切磋琢磨したいと思う。どうか節度を保ちつつも仲良くして欲しい」
素晴らしい挨拶だ。さすがは才媛と名高いレオハルト殿下だ。
「あ、学院の間だけはどうか名前で呼んでくれ」
あちこちからため息と驚きが漏れる。名前呼びなんて、いいんだろうか。
次に第二王女のブランシェ様だ。
「第二王女のブランシェ・リュ・グランディアですわ。よろしくお願いしますね。一緒に高め合いながら、成長していきたいと思います。よろしくね。私のこともどうかブランシェと」
華やかに微笑む様はとても美しかった。
ブランシェ様のその次がカスミだった。
「カスミ・ド・パルシェンだ」
それだけだった。あまりにも簡素な挨拶。さらには誰の顔も見なかった。
教室はシンとする。その儚げな見た目と、そしてそのそっけない挨拶。あのセイルール様と同じ公爵家。興味を持っていただろうみんなは肩透かしを食った。
しかしカエサル先生もセイルール様も何も言わない。
「次…クラーク公爵家の…エルサダ殿」
「はい、クラーク公爵家が第一子、エルサダです。凡その方は顔見知りですね、楽しい学生生活を送りたいと思います」
エルサダ様とはあまり話をしたことがないが、銀髪に青い目の一見すると冷たく見える美男子だ。
その次は筆頭侯爵家の息女、マリアージュ様。豪華な金髪の縦ロールが目印の、派手な美人だ。体付きもなかなかだ。キツい赤目で、性格もハッキリしている。
「マリアージュ・シノヴァスですわ。皆さんと仲良くしたいですわ、よろしくお願いします」
そして、次が僕。
「ミルロス・ド・グラスゴーです。よろしくお願いします」
軽く胸に手を当てる。隣のカスミ様が俺を見ていて何故か顔が赤くなった。吸い込まれそうな目だった。本当にごく僅かに口角が上がった。それだけでなんだか嬉しかった。
そして次はネーシアス侯爵家の双子だ。ナリウス様ととユリウス様。ナリウス様が少年でユリウス様が少女。
濃い金髪に薄いグレーの目。物憂げな印象の静かな2人だ。
「ナリウス・ド・ネーシアス。よろしくお願いします」
「ユリウス・ネーシアス。よろしくお願いします」
この双子も不思議ちゃんだ。
そして、このクラスには男女の双子が二組もいる。珍しい。
最後は
「ガイ・ド・パルミラージェだ。よろしく頼む」
彼も謎の多い人だ。明るい茶色の髪に緑の目。高位貴族には珍しい色だ。そして、体も大きくて鋭い目つき。騎士のような見た目だ。パルミラージュは軍属だから然もありなん。
そして、みんなが挨拶をして今日は解散だ。明日はガイダンス、そして全校集会。
授業が本格的に始まるのは少し先だ。
このクラスは王女の他、侯爵家令嬢が2人。カスミ様は分からないが、全員婚約者がいる。
侯爵家令嬢のマリアージュ様がカスミ様に
「カスミ様、初めまして!お会いしたかったんですの。こんなに素敵な殿方だとは思いませんでしたわ」
カスミ様に向かって話しかけた。当然、笑顔で返して貰えると思っている自信に満ちた話し方だ。
しかし、カスミは顔も上げず
「…」
返事すらしなかった。
「こら、カスミ。挨拶くらい返しなさい」
またブランシェ様が声を掛ける。
「俺にも話をする相手を選ぶ権利はある」
それだけ言うと立ち上がった。
まだ教室にいたセイルール様がカスミ様の頭を撫でた。
「帰るぞ!」
カスミ様の手を持って教室を出て行った。なんか色々と凄いな、そう思った。
ブランシェ様はと言うと
「ふん、相変わらずだわ、もう」
怒っていなかった。レオハルト殿下は笑って
「カスミだからな」
なんかよく分からないけど、どこか人を惹きつける魅力がある。学生生活は楽しそうだ。
マリアージュ様は、ワナワナと震えていたけど。
第2章始まり
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