友達〜俺とあいつと〜(『さくらキャンバス!』番外編)
「おれと友達になってくれ!」
(いや、違うな)
「おれと友達にならないか?」
(これも違う…)
「おれの友達になってくれたら嬉しい」
(ふぅん……。まあいいや。これで良いだろう。)
俺は山田太一。でも皆んな、俺のことは田中って呼んでくれ。何故って?そんなのは気にしちゃダメだぞ!
あれあれ、皆んな俺が何をしているか気になるのかい?そうだな、予行練習、だ。
何の〜?って思ったそこの君。そう、これは俺が学校生活を友達0人で生きるか、はたまた友達1人で生きるかの命運を分ける勝負、その練習だ。
俺は今、お風呂の鏡の前で予行練習をしている。だからその、できればこっちを見ないでほしい。だって俺、何も着てないから。ははは。
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そして迎えた今日。といっても、昨日の今日なんだが。俺は今日、友達を作ろうと思います。皆んな、応援してくれたらとても嬉しいぞ!
そんなこんなで、学校に来ちゃった。あれれ、そういえば俺、名前しか言ってない?
こんにちは、俺は小学2年生です。え、そんな風に見えないって?あぁ、まあよく言われます。大人っぽいって意味ですよね?そうですよね??
よし、あーだこーだ言ってたら、教室に着いちゃったぞ。さあ、あの子は来てるかな?
俺は、ガラリと扉を開けてキョロキョロと見渡した。
(いたっっ!)
その子は窓際の後ろから2番目の席。
昨日の練習の成果を今、発揮するときが来たぞ!!!
俺は、真っ直ぐその子の前まで歩いた。え、全然真っ直ぐじゃないって?ガチガチのフラフラだって?そんなの、気にしちゃ負けですよ。
(よし、その子はすぐ目の前だぞ……!!)
俺はすうっと最大限息を吸った。そして吐いた。そんでもって、またすうっと吸って
「おう、おれは山田太一だ。田中って呼んでくれ。」
(言えた……!!いや、これはまだ序の口。自己紹介しかしてないからな……!)
すると、その子はポカンと口を開けていた。
(え、失敗…?まさかの失敗だと??いや、そんなの気にするな。ここでやめたら、ただの自己紹介野郎になっちゃうぞ。)
「おい、佐藤。おれはあんまり友達がいない。だから、友達になってくれるととても喜ぶ。」
(言った…!!言ったぞ!!)
その子は一瞬間を空けて、こう言った。
「じゃあ、よろしく。た、田中?くん」
おれは嬉しくて、もうそれは嬉しすぎて、その場でぴょんぴょん飛び跳ねたかった。けど、不審者と思われるのも嫌だったから、我慢した。偉いだろ?
「田中で大丈夫だ。もっと自信を持って良いぞ。」
「は、はい!田中!」
(え、名前呼んでくれた…!!)
俺、もう飛び跳ねて良いかな?良いよな?
そういうわけで、俺に友達ができました。めでたしめでたし………。ごめんなさい、それじゃあ、あまりにも短すぎるって言われたので、ちょっとしたエピソードを話しますね。
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ここまでの話で、佐藤って誰だと思った方もいることでしょう。良いだろう!俺の『友達』の佐藤について軽く紹介しようではないか!ははは!
まず、本名は佐藤晴大。俺のクラスメイトで、いっつも難しそうな本を1人で読んでる。何だかきっと、頭が良いんだろうな。いっつも1人でいて全く話してるところ見たことないけど。そんでもって、なんかピーンと来たんだよな。俺、こいつと気が合う!って。
そんで俺、調子乗ってその日はずっと佐藤と話してた。そしたら、いくつか分かったことがある。
まずそいつ、すんごい絵が上手ってこと。何でも、物心ついた頃には既に絵を描いてたって言うから、びっくりだよな。
そんでもって、すっごく大事なことがある。そいつ、最新のゲーム機持ってる。マジで。俺がずっと欲しかったやつ。だけど高くて買ってもらえなかったやつ。持ってるんだって。金持ちだ!!
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「なあ佐藤!近頃の小学生の間で、友達の家で遊ぶっていうのが流行ってるらしいぞ。俺の家は無理なんだが、佐藤の家はどうだ??」
俺は佐藤の席の前でそう言った。
「う…ん。多分ダメだと思う。きっとお母さんが怒るから……。」
「そっかー!そうだよな。最近の小学生は全く、他人の家にズカズカと入るなんて無礼だと思うぞ!」
「はは。そんなことは無いと思うよ。でもそうだね、色んなお家があるもんね。」
佐藤がそう言うと、近くにいた女子がびっくりして言った。
「え、佐藤くんが喋ってるーー!!」
そう言ったかと思うと鬼のスピードで俺の方を向いて言った。
「てか山田、わたしのお母さんは友達お家に呼んでも良いって言ってるもん!!無礼だなんて言う方が無礼だぁ!!」
「いや、山田じゃない。田中と呼ぶと良い。」
「何それ意味分かんな〜い!!山田は山田だもんね〜!!!」
「いや、田中だ!」
「山田〜〜」
「田中!」
そんな言い合いが何回か続いたところで、佐藤が「まあまあ」と間に入ってくれた。俺とその女子は、お互いにぷいっとそっぽを向いた。そんな様子を見て、佐藤がふふっと笑った。
「え、佐藤…」「佐藤くん…」
「「笑った!!??」」
佐藤は俺らの顔を交互に見て、今度はもっと大きな声で笑った。
(佐藤、笑うんだ……)
俺はとっても嬉しくなって、これまたぴょんぴょんと飛び跳ねたくなった。だけど、この女子にカッコ悪いと思われても癪なので、ここは敢えて我慢した。
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「おい佐藤〜!俺、そこの公園に行きたいんだ!あんまり人がいない隠れスポットだぞ!一緒に行かないか?」
放課後、ランドセルに教科書を詰めていた佐藤に、俺が声を掛けた。佐藤は小さくうんと頷いた。
俺は思わず笑みがこぼれて、うへへへと般若みたいな顔になってしまった。するとそれを見た佐藤が、またはははと笑った。
「佐藤、お前最近よく笑うよな。」
「…え?まあ確かにそうだね。久しぶりかも。」
「久しぶり?笑うのが?じゃあ俺がその久しぶりを生み出したということだな!?」
「何言ってんだよお前。最近おかしいよ!ははは!」
「俺がおかしいのはいつもの事だ!」
そう言って、俺と佐藤は近くの大きな公園に向かった。そこには、砂場やら滑り台、ブランコなど一通りのものが揃っていた。俺が公園内のベンチに座ると、佐藤も一緒に座った。
「公園に来たは良いけど、これから何するの?」
佐藤がそう聞く。俺はふふふん、と笑ってランドセルの中からポテトチップス1袋とコーラの缶2個を取り出した。
佐藤はそれを見ると驚いて、
「田中、そんなの学校に持ってきてたのか?」と聞いた。
「そうだ。俺は悪い奴なんだ。ほら、一緒に食べよう!」
俺はそう言って、コーラの缶を佐藤に渡した。そしてポテトチップスの袋を開けると、ほれ、と佐藤に差し出した。
「え、田中、これポテチ粉々……」
「えっ!!」
俺は慌てて袋の中を覗いた。すると、中には粉々になったポテトチップスが入っていた。
「お前、そりゃあランドセルに入れてたら割れるだろ〜!」
佐藤はそう言って笑い出す。俺は焦って、コーラを開けた。
「いや、コーラは大丈夫だから。」
そう言ってゴクリとコーラを飲む。ほら、こんなに喉越し爽やか…………
「って、あんま!!!」
「甘い?それも当たり前だよぉ〜!きっと炭酸が抜けたんだ。」
俺はシュンとなって縮こまった。あーあ、せっかく買ったのにな…と思いながら。すると、佐藤がポテトチップスをボリボリと食べ始めた。
「美味しいよ?割れても味は変わんないんだからね!」
「んん……。そうだな、だけどこっちの方はもう救いようがないぞ……。」
そう言って俺はコーラの缶を見つめる。すると佐藤がプシュッと音を立てて缶を開けた。そして一口飲む。
「うわっ、これは甘すぎ…!!うん、救いようがないね。でも、捨てるのも勿体ないし……」
そう言って、佐藤はゴクリゴクリとコーラを喉に流し込んでいく。そして、ぷはっと言ってコーラを飲み干してしまった。
「嘘だろ……!?佐藤、死ぬなよ!?」
「はは、死なないよ。いつも飲んでるやつと成分は変わらないじゃないか。」
「そ、そうか……。お前頭良いな。」
「あは、そんなことないよ。」
「お前、絵も上手いと聞いたぞ??すげぇなぁ……。」
「うーん、うん。絵にはちょっと自信がある。ちょっとだけどね。今度、なんか描いてあげる」
佐藤はそう言うと、照れくさそうにポテトチップスを口に放り込んだ。
「ほんとか!?やったぁ!!」
佐藤はにっこりと笑っていた。俺は、コーラを一気に飲み干した。
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そうしているうちに、あっという間に俺たちは小学3年生になった。俺と佐藤は運良く、また同じクラスになった。
「なぁ佐藤!今日放課後遊べるか?」
俺はいつもの調子で佐藤に聞いた。すると佐藤は気まずそうな顔をして、「ごめん、今日は無理…」と言った。
また次の日の放課後。
「佐藤!遊ぼう!」
「ごめん、今日も無理…」
またまた次の日の放課後。
「佐藤!今日は…」「ごめん」
そんでもってまた次の日の放課後。
「さと…」「ごめん」
(む!最近全然佐藤が遊んでくれないぞ??何でだ!?)
「佐藤、最近走って家に帰ってるけど、何かあるのか?」
俺がそう聞くと、佐藤はお茶を濁すように答えた。
「そ、そんなことないよ〜。ちょっと、ね。」
(む……。教えてくれないだと…?)
「佐藤、俺と遊ぶのが楽しくないということか?」
俺は真面目な顔をして聞いた。
「そ、そういうわけじゃ無いよ!!ただ、ちょっとやることがあるんだ。」
そう言って、佐藤は扉の方へ歩いて行った。
(なんで、)
俺はそう思った途端に、次の言葉が勝手に出ていた。
「なんで隠し事するんだよ!?お前もやっぱり同類だったんだな!?」
佐藤がこちらを振り返る。俺はぜぇぜぇと言いながら続けざまにこう言った。
「本当の気持ち言わねえやつは、結局何考えてるか分かんねぇんだ!!!」
俺は、もう止められなかった。そして、言うな言うなという心のブレーキが壊れる音がした。
「お前なんか、嫌いだ!!!」
そう言ってしまったころには、もう遅い。
佐藤がこちらを悲しそうな目で見つめている。まだ教室に残っていた数名のクラスメイトも、俺のことを見ている。俺は、佐藤と顔を合わせないように、そして自分の顔を誰にも見られないように下を向きながら、早歩きで教室を後にした。
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その日の夜。俺は家族で食卓を囲んでいた。母親、山田幸太郎、そして俺の3人家族。だが、俺の家の食卓は、とても静かだ。狭い部屋の中には、コトリと食器の動く音だけが響き渡る。
…………俺の家族は、家族じゃない。
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それは、俺が保育園の年長になったばかりのとき。
その日は母親がパートの日で、家にいなかった。家には俺と、仕事が休みの父親だけ。俺は昼11時くらいまで寝ていて、今やっとこさ起きてきた。俺の部屋からリビングに行くまでに、母親と父親が一緒に寝ている部屋を通らなくてはいけない。するとその部屋から、何やら話し声が聞こえた。どうやら、誰かと電話をしているようだ。
「…ちゃん、……なんだよ〜!!ははは!それでさ……」
扉の外からじゃ、何を話しているかほとんど分からない。けど、これだけはハッキリと聞こえた。
「え?うちの家内?そんなの、何にもできないグズだよ」
(かない…?お母さんのこと…?)
俺はよく分からないまま、扉を開けた。
ガチャリ、その音を聞いた父親はびくっとしてこちらを振り返った。
「……。ごめんね、ちょっと切るね」
そう言って電話を切ると、父親は僕の方に近づいて来て、笑顔でこう言った。
「どうしたのかな?」
「お父さん……。お母さんのこと嫌いなの?」
俺が不安げに言うと、父親は俺の言葉に被せるように言った。
「そんなことないさ!何を言ってるんだ。ほら、きっと寝ぼけてるんだよ。」
そう言うと俺に昼ご飯を食べさせて、どこかへ行ってしまった。
父親がどこかへ行っている間に、母親が帰って来た。
「あれ、太一ちゃん、お父さんどこ行ったの?」
そう聞いてきたお母さんに、先ほどのことを一部始終話した。
母親はすんっと真顔になったかと思えば、急ににこりと笑い出して、「そのことは、忘れましょう?ね、美味しいおやつ買って来たのよ」と言って、持っていたエコバッグから俺の好きなおやつを何個も出した。
俺はそのことに気を取られて、その日のことなんてすっかり忘れていた。だけど、ずっと忘れていられる訳が無かった。
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それから3ヶ月ほど経ったある日。俺が部屋から起きてくると、何やらリビングの方で大きな声が聞こえてきた。何だろうと思い、リビングの方へ足を動かした。リビングの扉の透明なガラスから、中の様子を覗き込む。
すると、そこには何やら見たことの無い母親と父親の顔があった。
(怒ってる……??)
ずっと見ていると突然、父親が何か重たそうなものを母親に向けて投げた。どさっと落ちたそれを見ると、分厚い本だった。母親がいつも読んでいるものだ。
俺は思わず扉を開けて、「やめて!」と間に入って言った。
「お父さんやめてよ!お母さんをイジメないで!!」
俺は必死に母親を庇った。父親に睨みをきかせながら。すると父親は怒り狂ったようにこう言った。
「お前は母さんの味方するのか?お父さんのことが嫌いなんだな??」
「…え?」
いつものお父さんなら、そんなこと言わない。
「ずっと思ってたよ。お前は俺のこと父さんとして見てないなって。何かあれば、すぐお母さんお母さんって。」
(なんでそんなこと言うの…?)
そして父親は、テーブルに置いてあったペン立てをこちらに投げつけた。母親が俺を抱きしめてくれたから、それは俺には当たらなかった。だけど、どこか別のところが痛かった。
「お前らを食わせてやってんのはこの俺だ!もっと感謝されなきゃおかしいだろ!?」
そう言うと、父親は俺を見つめてこう言った。
「お前の太一って名前、考えたのは俺だぞ?そこにいるやつなんかより、ずっと俺の方がお前のこと考えてるんだ。」
そう言い残し、リビングを出て行った。
リビングには、俺と母親と、散乱した物たちが残されていた。
「ねぇ、お母さん…」
俺は母親の腕の中で、ポロポロと何かが頬を流れ落ちるのを感じた。
「ごめんね。本当に、ごめんね。太一ちゃん、ごめんね。」
母親はそれしか言わない。何があったのか、教えてもくれない。俺は言い表しようもない怒りと不安とで、グチャグチャになっていた。
――いつしかこの事件は、無かったことにされていた。
次の日、俺が起きてくると、母親と父親はいつも通りリビングにいた。
「さぁ、ご飯にしましょうね。」
母親がそう言うと、父親は無言で椅子に座った。
そして、何事も無かったかのように時間が過ぎていく。その状況に俺は、違和感とむず痒さを覚えた。
そして、父親と共にご飯を食べているこの状況に、無性に腹が立った。母親が何も無かったかのように笑顔で振る舞っているのに、嫌気が差した。
そして、俺を置いてけぼりにして、いつも通りに過ぎていくこの世界に、恐ろしさを感じた。
いつしか俺は、他人の事が怖くなった。裏では何を考えてるか分からない。笑っている奴も、本当は裏で泣いているかもしれない。怒っているかもしれない。
もう、何を信じて良いか分からなくなった。
だけど、俺が小学2年生になって皆んなが新しいクラスで友達を作ろうと騒いでいたその日。
1人だけ、窓の外を眺めて静かにそこに座っていた人間がいた。
(あ……。)
俺はその瞬間、何かを感じた。何か、俺と同じ何かを持っている。そんな気がした。その日から俺は、そいつと友達になりたい、なんて考えるようになった。
そいつと友達になってからは、すっごく楽しいことばかりだった。
―――――――――――――――――――――――
それなのに……。俺は何てことを言ってしまったんだ。馬鹿だ。
そんな風に考えながら、学校に向かった。その日、佐藤は学校に来なかった。放課後、俺はトボトボと帰り道を歩いた。すると、あの公園が目に入った。
(あ…。)
俺は人のいない公園の中に入り、ベンチに座った。
はぁ、と一息ついていると、突然後ろから「おい」と声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。
「え、」
俺は後ろを振り返ると、佐藤がそこに立っていた。だが何やら、片手に何かを持っている。
「佐藤、お前何しに来たんだよ…」
俺はそっぽを向いて言った。内心、ほっとして。
「ふふふ。本当はサプライズのつもりだったんだけど。」
そう言って、手に持っていた物を俺に見せた。
それは、綺麗な桜の絵だった。
「これ、お前が描いたのか…?」
佐藤は恥ずかしそうにこくりと頷く。
「これまだ完成してないんだ。でも、誤解されたくないし。」
そう言って俺にその絵を渡した。その絵は、分厚い画用紙に絵の具で描かれていた。
白色にうっすらと桜の淡い色が重ねられていて、丁寧で繊細、だけど全体で見ると目を引く大胆な。そんな絵だった。
「これ、描いてたのか…?」
「そうだよ。ほら、前に約束してただろ?」
そう言うと、佐藤はにこりと笑った。何だか俺は、申し訳なくなって俯いた。
「俺、嫌いなんて言ってごめん。本当は嫌いじゃない。本当だ。」
そう言うと、後ろからはははと笑い声が聞こえた。そして、佐藤は前に来て、俺の隣に座った。
「おい田中。別に嫌いでも良いんだよ?」
俺は一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「田中が僕を嫌いと思うなら、僕もお前のこと嫌い。」
そう言った。佐藤は確かにそう言った。俺はポカンとして、(あ、終わった)と思った。
「あ、ごめん佐藤、俺、本当にすまないと思って…」
無駄だと思いながら、そう言う。
「良いんだよ!!そんなの。僕は田中のこと嫌い。だけど、それを上回るくらい、お前の良いところも知ってる。」
俺は、終始ポカンとしていた。きっと、間抜けな顔だったのだろう。佐藤はふふふと笑いながら言った。
「その人の全部を好きでいるなんて不可能だろ?絶対に、こいつ嫌いってなるときはあると思うよ。」
そして佐藤はニコリと笑って言った。
「でも、嫌いって思う事があっても、何だかんだ一緒にいる。だってその人の良いところは、その人にしか無いものだから。」
佐藤は「そういうもんだろ?」と聞いてきた。
俺は決まりの悪そうに「そ、そうだな…」と言った。
「じゃあ佐藤、これからも友達でいてくれるか?」
佐藤は一言こう言った。
「当たり前だろ!!」
―――――――――――――――――――――――
月日は流れ、中3の卒業式。佐藤と俺は、違う高校に進学する。佐藤は少し遠い高校に行き、俺は家から歩きで通える高校に行くことになった。
「お前、電車通学になるんだろ?」
俺が公園のベンチに座りながら、佐藤に聞いた。
「うん、そうだな。忙しくなると思うけど、高校行ってもまた遊ぼうな」
佐藤は卒業証書の入った筒を片手に俺に拳を見せた。
桜が咲いていた。満開ではないけれど、それでも見応えのあるものだった。桜の下、俺は佐藤に拳をぶつけた。
「あったり前だ!!」
田中について書きたいと、ずっと思ってました。ようやく書けた…!!
『さくらキャンバス!』番外編短編作品です。今後とも、よろしくお願いします!!