出会い
美生がおすすめしてくれた店とは。
通っている大学の路線から1本ずれた駅にあるコンカフェの激戦区にあった。
コンカフェとは、コンセプトカフェの略であり、一般的なカフェとの違いとして、特定のテーマやコンセプトに基づいた飲食店のことである。
私がハマったコンカフェ、
『マリーガーネット』のコンセプトは「いろんな恋をあなたと」
その言葉通り、いろんなボーイたちが在籍しており、王子系・インテリ系・ヤクザ系・友達系・後輩系などのジャンルから好きな相手を選び、おしゃべりすることができる。オプションも各種用意されており、腕組み、抱きしめ、耳元で囁くなどといった疑似恋愛を楽しむことができるのだ。
恋愛経験に乏しい私を見かねて、美生が異性と話す練習になれば、と教えてくれたのだ。
私がそこで出会ったのは友達系担当のケイト。
黒髪のセンターパートで、目はぱっちりとした二重。形の良い眉毛。顎のラインもすっきりとしており、いわゆるイケメンだった。
「ケイトの顔が良すぎて直視できない…」
「なんだそれ、もっと気楽にしてよー」
私は思わず手で顔を隠して、指の間からケイトを覗き見た。
「友達系ってもっと親近感の湧く顔じゃないの…?」
「俺の顔気に入ってくれたんならよかった」
ケイトは賛辞など聞き慣れているのか、そのまま淀みなくメニュー表の説明をしてくれた。
「まずこの店の通貨はイェンだからな。っていっても1円=1イェンだけど」
チャージ+1ドリンク+1オプション 3000イェン
ランダムチェキ 800イェン
ピンチェキ 1000イェン
ツーショットチェキ 1500イェン
・
・
・
「で、次がオプションでー」
腕組み 500イェン
抱きしめ 800イェン
耳元で囁く 1000イェン
・
・
・
延々と説明が続き、頭の中に???が埋め尽くされていくところで
「最後、月ごとのランキングなー」
「…はっ!!」
「何、話長すぎて気を失ってた? まとめると、みんなが頑張ってくれたら俺がうれしいってこと」
ケイトは分厚いアルバムみたいになっているメニュー表をパタンと閉じて
「よし、説明は以上!ごめんな、初来店はメニューの説明しろって店から言われてるんだ。でも、こっからが…」
対面の座席から、ソファ席の私の横へ移ってくる。
「楽しい時間の始まりな!」
距離が近づいてなおさら顔すら見れない私を気遣って、ケイトからポンポンと話題を投げてくれた。
趣味の話から休日の過ごし方。
男性とあまり話したことない私。
ケイトの話に合わすのがやっとな状態。
でもこれでもお金かかってるからなんか喋らないと…!
ようやく意を決したところで、時間迫ってきたよとの案内があり。
1オプションついてるけど何する?と聞かれ、せっかくならと1番お得なツーショットチェキを選択。
「チェキ撮影お願いしまーす」
ケイトが他のボーイへ声をかけ、より私との距離を詰めてくるケイト。いままで申し訳程度に空いていた距離が、ゼロへ。
「ひぇ! な、なんでもっとくっつくの?」
「ひっつかないと画角に映らないだろ?ほら、カメラ向いて」
そうしてケイトは私の腰を抱き寄せ頭を撫でるポーズ。
「はいチーズ」
パシャリ。
「はい終わったよ!徐々に写真が浮かび上がってくるから楽しみにしててね!」
王子様系ボーイがキラッキラな笑顔を振り撒きながら去っていった。
「おーい、終わったよー。戻っておいでー」
ケイトが私の顔の前で手を振る。
そのあとは何を喋ったのか、何を聞いたのかも覚えていない。
帰宅後スマホを見ると、いつ交換したのか、
「今日はありがとねー出勤日とかあるから、次予約したい時ここに連絡してね!」
とケイトから連絡が来ていた。
顔面真っ白な私をしっかり抱きしめたケイトのツーショットチェキが、本当にカフェに行ったという証拠だった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
すこしでも続きが気になる!と言う方は評価、ブックマークなどよろしくお願いします!